2012.12.02.09.12
死のうとした夜のお終り 第2話:The End Of Nights We Tried To Die episode 2.
半ば放り出される様にそこから解放されたのは、午過ぎだった。
それまで薄暗闇の中に抛擲されていたから、眩しすぎて、辺りを見回す事も出来ない。額からどっと汗が迸る。もう既に猛暑日なのだろう。目の前の大通りを歩くヒトの気配は一向にせず、クルマの排気ガスだけが、ここ周辺を覆っている。
最寄り駅までの道筋は、先程、既に聴いている。クルマの流れの途切れるのを待って、反対側の歩道へと渡る。狭い日陰は、そちらにしかないのだから。
もう一度、ポケットの中をまさぐってみても、小銭しかない。自動販売機で一本、買ってしまったら、それでお仕舞いだ。
しかも、携帯の電池は既に切れていて、黒い画面しか伺う事は出来ない。
歯医者、ファストフード店、不動産屋、コンビニエンス・ストア ...。
ぼくの横を通り過ぎる雑居ビルには、馴染みのモノばかりが居並んでいるが、どれも実際は赤の他人だ。確かに、さっきから、どこかで観た光景が延々と続いているのだけれども、一切はぼくの見知らぬモノ達ばかりなのである。
ゆるやかなカーブを描いた坂道を登って行くと、突然、目の前が大きく開く。
駅前なのだ。
線路は、ぼくが登って来たちいさな丘陵を抉る様にして、半地下をはしり、白い駅舎はそれを跨いでいる。
やたらと騒がしいのは、先程から何人も何人も、少女達がぼくを追い越しているからで、彼女達の殆どが、駅舎内に吸い込まれてゆく。きっと、学校が退けたばかりなのだろう。紺地のスカートの上にある、白いシャツはどれもが皆、輝いて観える。
ぼくの視界の左手の向こうに、一群の高層ビルが観え、そこから離れた奥にはそれらよりも一際おおきな高層建築を望む事が出来る。
手前にある交番に尋ねるまでも、その入口にあるおおきな地図を観るまでも、ない。
ぼくが向かうべき方向は、その景観で自ずと知れる。
線路を跨ぐ陸橋を渡り、そこから折れて、線路沿いに進む。
橋を渡る間、足許にあるホームから、先程来の少女の一群が見え隠れする。駅のアナウンスよりも大きく、彼女達の声が響き渡る。
ふた種類の声を遮る様にして、列車が到着し、列車は発車する。
引っ切りなしに顕われるそれらは総て、悲鳴の様な軋みを立てながら、ぼくの脚許を横断してゆく。
解放されてから、かなり歩いた。そして、その間、ながい時間が過ぎた筈なのに、夏の太陽はまだ中天に居座ったままだ。
陸橋の下の線路をなぞる様にしてはしる高圧線の、白い碍子にふと眼を奪われたぼくは、そこで立ちすくむ。
汗は額を流れる様に流れ、ぼくは謂れのない寒さに、襲われるのだ。
それまで薄暗闇の中に抛擲されていたから、眩しすぎて、辺りを見回す事も出来ない。額からどっと汗が迸る。もう既に猛暑日なのだろう。目の前の大通りを歩くヒトの気配は一向にせず、クルマの排気ガスだけが、ここ周辺を覆っている。
最寄り駅までの道筋は、先程、既に聴いている。クルマの流れの途切れるのを待って、反対側の歩道へと渡る。狭い日陰は、そちらにしかないのだから。
もう一度、ポケットの中をまさぐってみても、小銭しかない。自動販売機で一本、買ってしまったら、それでお仕舞いだ。
しかも、携帯の電池は既に切れていて、黒い画面しか伺う事は出来ない。
歯医者、ファストフード店、不動産屋、コンビニエンス・ストア ...。
ぼくの横を通り過ぎる雑居ビルには、馴染みのモノばかりが居並んでいるが、どれも実際は赤の他人だ。確かに、さっきから、どこかで観た光景が延々と続いているのだけれども、一切はぼくの見知らぬモノ達ばかりなのである。
ゆるやかなカーブを描いた坂道を登って行くと、突然、目の前が大きく開く。
駅前なのだ。
線路は、ぼくが登って来たちいさな丘陵を抉る様にして、半地下をはしり、白い駅舎はそれを跨いでいる。
やたらと騒がしいのは、先程から何人も何人も、少女達がぼくを追い越しているからで、彼女達の殆どが、駅舎内に吸い込まれてゆく。きっと、学校が退けたばかりなのだろう。紺地のスカートの上にある、白いシャツはどれもが皆、輝いて観える。
ぼくの視界の左手の向こうに、一群の高層ビルが観え、そこから離れた奥にはそれらよりも一際おおきな高層建築を望む事が出来る。
手前にある交番に尋ねるまでも、その入口にあるおおきな地図を観るまでも、ない。
ぼくが向かうべき方向は、その景観で自ずと知れる。
線路を跨ぐ陸橋を渡り、そこから折れて、線路沿いに進む。
橋を渡る間、足許にあるホームから、先程来の少女の一群が見え隠れする。駅のアナウンスよりも大きく、彼女達の声が響き渡る。
ふた種類の声を遮る様にして、列車が到着し、列車は発車する。
引っ切りなしに顕われるそれらは総て、悲鳴の様な軋みを立てながら、ぼくの脚許を横断してゆく。
解放されてから、かなり歩いた。そして、その間、ながい時間が過ぎた筈なのに、夏の太陽はまだ中天に居座ったままだ。
陸橋の下の線路をなぞる様にしてはしる高圧線の、白い碍子にふと眼を奪われたぼくは、そこで立ちすくむ。
汗は額を流れる様に流れ、ぼくは謂れのない寒さに、襲われるのだ。
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