2012.11.18.10.45
『ギター・ソロ (GUITAR SOLOS)』 by フレッド・フリス (FRED FRITH)

このアーティストの存在を最初に知ったのが、本体であるヘンリー・カウ (Henry Cow) からなのか、それともそれをそれぞれの方向へと先鋭化させた先のユニット、アート・ベアーズ (Art Bears) からなのかマサカー (Massacre) からなのか、八木康夫 (Yasuo Yagi) からなのか、"ユーロ・ロック・マガジン (Euro Rock Magazine)"時代の雑誌『フールズ・メイト(Fool's Mate)』からなのか、雑誌『ロッキング・オン (Rockin' On)』での竹場元彦の記事からなのか、記憶はとっても曖昧なのだ。
もしかしたら、彼の初来日コンサートという情報からかも知れない。
ただ解っている事はフレッド・フリス (Fred Frith) というギタリストの存在は、そんな縺れあった情報から、幾筋も伸びている触手の様なモノがぼくへと伸びて来て、ぼくがそれにすっかりと絡み採られた、という事なのである。
だから、最初に入手したのは、彼の本作なのである。この国内廉価盤は、ビクター音楽産業株式会社 [当時] から発売された『第3期ヴァージン・オリジナル・シリーズ』の中の一枚であって、その時、ぼくは、本作品とともにスラップ・ハッピー (Slapp Happy) / ヘンリー・カウ (Henry Cow) の連名作品の『悲しみのヨーロッパ (Desperate Straights)
当時のぼくには、プリペアド・ピアノ (Prepared Piano) という概念は、付け焼き刃の様な知識としては既にあった。
だけれども、その"楽器"から奏でられる音楽も、その"楽器"自体から発せられる音そのものも、聴いた事はなかった筈なのである。
例えば、"ギター・ソロ (Guitar Solo)"という言葉からイメージされるモノは、当時のぼくにとっては、ジミー・ペイジ (Jimmy Page) やリッチー・ブラックモア (Ritchie Blackmore) の"それ"であり、ブライアン・メイ (Brian May) やエディ・ヴァンヘイレン (Edward Van Halen) のトリッキーな奏法が話題を呼んでいた時季の事なのである。
つい数ヶ月前は、ようやくに入手したジェフ・ベック (Jeff Beck) の『ギター殺人者の凱旋 (Blow By Blow)
そんな理由で、この作品に初めて向かった時は、本当に、己の理解出来る範囲の埒外にあったのである。
例えば『ガラス c/w スティール (Glass c/w Steel)』という曲がある。どうやったらこんなサウンドを奏でる事が出来るのだろうか。と、訝しがるその前に、タイトルの意味が不明である。
そう思いながら、LPジャケットをひっくり返せば、立ち所に、その題名の意図しているモノが解る。

つまり、こおゆうかたち。
プリペアド・ピアノ (Prepared Piano) ならぬプリペアド・ギター (Prepared Guitar) で演奏しているのである。
そして、この写真を観て、なんだか空恐ろしくなった記憶があるのだ。
奏でられる曲が恐ろしいのではない。
ギターの弦を金属製のクリップで挟み、ガラスの破片をギター・ピック代わりにして演奏する、そこへと至る思想と思考が恐ろしいのだ。
解った様な口吻で語れば、ギターの可能性をとことんまで追求しているとも言えるのだろうけれども、逆から観れば、そこまで追いつめられてしまったと、言えなくもない。
何れにしろ当時、この写真から受けた感銘は、合理的な解釈とか学理的な追求とかとは無縁な、業とか性とか呼べる、モチヴェーションの得体の知れなさなのであった。
尤も、作品そのものは、そんな正体不明の恐怖や不安とは無縁のモノなのである。
今でこそ、環境音楽的にさらりと聴き流してしまえる程になっているが、当時は果たしてぼくはどの様な感興を持って、この作品を聴いていたのだろうか。
憶えているのは、ひたすら、待っていたという事なのである。どの曲のどの部分とは明確に指摘出来ないけれども、そして、もしかしたら、待っていたのは、いつも同じ場所とは限らないのだけれども、ぼくは待っていた。
聴きたい音がある、聴きたい瞬間がある。その音を、その時を、この作品を聴きながら、待っていた様な気がするのだ。
それは本当に刹那的なモノなのかもしれないのだけれども、その音 / その時は、ある意味で、永遠なモノに思えるのだ。
果たしてこんな聴き方、こんな音楽への対峙の仕方は、正しいのだろうかとも思ったのだけれども、後にフレッド・フリス (Fred Frith) とクリス・カトラー (Chris Cutler) のデュオ作『モスクワ、プラハ、ワシントン (Live In Moscow, Prague And Washington)
附記 1. :
ところで、ぼくがこの作品に出逢った当時、フレッド・フリス (Fred Frith) は既に異なる地平を旅していた様に思える。毎月の様に、彼が関わった作品がリリースされていたし、トム・コラ (Tom Cora) とのユニットであるスケルトン・クルー (Skeleton Crew) の演奏光景はさながら大道芸人そのままの風情だし、なにしろ、『グラヴィティ (Gravity)
まるで、本作品冒頭の『ハロー・ミュージック (Hello Music)』での調子外れの賑やかな出立ちをそのまま拡大解釈したかの様だ。
附記 2. :
いつもこのジャケットを観る度に、奇妙な感慨に囚われてしまうのだけれども、それはぼくだけなのだろうか。どこかバランスを欠いている様で、奇妙な浮遊感をも奇怪な不安感をも感じてしまう。構図的には、あるべきところにあるべき素材があるようにしか観えないのだけれども。
そうやってまじまじとジャケットを見据えてみると、画面左端にちいさく、椅子らしきモノに腰掛けた人物をひとり発見してしまう [ここでの掲載画像では観えないかもしれない]。そして、そのちいささから、この撮影現場が、ぼくが思っている以上に広大な場所だというのが解る。
きっと、パースペクティヴが、その実際と、この写真を観た時の印象とで、おおきな誤差があって、その誤差が、不可思議な感覚を与えているのかもしれない。
ものづくし(click in the world!)122. :
『ギター・ソロ (GUITAR SOLOS)』 by フレッド・フリス (FRED FRITH)

『ギター・ソロ (GUITAR SOLOS)
Side one
1. ハロー・ミュージック (1:30)
Hello Music
2. ガラス c/w スティール (8:41)
Glass c/w Steel
3. ゴースツ (6:38)
Ghosts
4. アウト・オブ・ゼア・ヘッズ (1:39)
Out of thier heads (on Locoweed)
Side two
5. ノット・フォーゴトゥン (1:51)
Not forgotten
6. ホロウ・ミュージック (2:37)
Hollow Music
7. ヒート c/w モーメント (1:39)
Heat c/w Moment
8 ノー・バーズ (12:41)
No Birds
All compositions by Fred Frith
Engineering : David Vorhaus
Cryptic comments : Jack Balchin
Sleeve photos and design : Ray Smith
This is a record of unaccompaied guitar solos. It was made in four days at Kaleidophon Studios, London with David Vorhaus engineering. All the pieces were improvised, some completely and some to a roughly preconceived idea. No overdubs were used; the music is heard as it was played except for No Birds, which was made in two parts, and Not Forgotten, from which we removed two notes. The only the fuzz-box used on tracks 4, 7 and 8, and echo delay used on track 8.
The Extraneous noises heard on Heat c/w Moment are those made by my breath and feet while I was playing. The middle part of No Birds was played on two guitars simultaneously.
ぼくが所有している日本盤は、『第3期ヴァージン・オリジナル・シリーズ - (2)』としてビクター音楽産業株式会社 [当時] から発売されたモノで、その日本語ライナー・ノーツは、100% PROJECTの中村直也が担当している。
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