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2012.11.12.18.52

死のうとした夜のお終り 第1話:The End Of Nights We Tried To Die episode 1.

去年のハロウィンのことだから一廻りを終えて通り過ぎた事になる。その夜、ぼくはひとり、バスタブに身を潜めていた。

湯をおとしたそこは、ひんやりとしてうすら寒く、そして、何故だかとても、よそよそしい。電燈は落としているものの、白々と明るい。窓から街の灯が射しているのだ。

その場でまた、今日の、その日一日を反芻する。

家賃は、朝方、払い込んだ。
口座には、一万円ばかり遺っているが、恐らく、月末の引落しで残金は零になる。それとも、金額不足で、そのまま遺っているのか。
財布にあった僅かばかりの現金は、数時間前のコンビニで使い果たした。それも、今は総て、肚の中に収まっている。

もう少しすれば、日付も変わる。
それ以外も変わるのだろうか。
なにかが変わってくれるのだろうか。

とりっくはとりーと、とりっくはとりーと。
おかし。さもないと、悪戯しちゃうぞ。

人気のないファストフード店に乗り込んで、そう叫んでみようか。
厨房に入り込んで、米櫃でも抱え込もうか。
目出し帽ならば、月初めに手に入れてあるのだ。

そんな度胸も意気地もないぼくは、だから、湯気もたたないバスタブの中にしゃがんでいる。
右掌には、キッチンにあった包丁がある。

そうして。
一ヶ月、それとも数ヶ月、もしかすると半年先か。
あてのない、だけれども、決して遠くない日々を夢観ている。

でも、その為には、いま、ここで、ことを起こさなければならない。

他の手段は思いつかない。
縄もなければ、それをかける桟もない。
拳銃が手に入る謂れもないし、屋上への非常口には鍵がかかっている。
クルマがあれば石油はあるだろう、寒冷地ならば灯油もあるだろう。
でも、練炭を買うのすら今や、骨なのだ。
富士の樹海か東尋坊へ赴く算段もしたけれども、歩いていくしかない。行けば、何日かかるんだろうか。
それまで、いまのきもちを維持出来るのか。どこかで挫けてしまわないだろうか。

でも、いまのぼくにとっては、それはそれでありかもしれない。

そんな逡巡をしていたら、いつのまにか、ここにへたり込んでいる。
唯一と言えるかもしれない凶器は、刃先が欠けて、すこし錆び付いている様だ。

じっと刃を観る。薄暗がりでよく観えない。

そして、もう一度、始めから考え直す。
そんな事を、陽が暮れてからずっとやっている。
腹もへってきた。

なんど、刃先を己に向けてみただろうか。肚がいいのだろうか。喉がいいのだろうか。それとも、胸なんだろうか。

ここ数日の報道を憶い出してみる。そこを読むと、さして難しい事ではないらしい。

そうしてようやくに、未だ連絡をとっていない何人かを憶い出して、バスタブから這い出す決心がつく。

さっきまで佩いていたトランクスはその場で脱ぐしかない。底の水で、じっぽりと濡れてしまっているのだ。
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