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2012.11.06.08.23

りょうかんさま

曹洞宗 (Soto-zen) の僧良寛 (Ryokan) は、俗名を山本栄蔵または文孝、号は大愚という。だから、本来ならば、大愚良寛もしくは良寛大愚 (Taigu Ryokan or Ryokan Taigu) と呼ぶべき処を、誰もその様な呼称で呼んだ試しはない。
親しみを込めて、良寛さま (Ryokan-sama)、もしくは、それをさらに己等の側に引き寄せて、良寛さん (Ryokan-san)、と呼ぶ。

ぼく自身も、他の固有名詞の様に、良寛 (Ryokan) と呼び捨てにするのは半ば意識的だったり意図的だったりする場合であって、無意識に発話する場合は、殆どが良寛さん (Ryokan-san) であるかと想う [タイトルが『りょうかんさん』ではなくて『りょうかんさま』なのは、この連載のルール上、致し方ないモノ故なのだ]。

ところで、この良寛さん (Ryokan-san)、皆が皆、親しみと尊敬の念を抱いている人物であるのにも関わらず、ナニを成した人物かと問われると、途端に、怪しくなってしまうのだ。

勿論、知識としては、歌人であり漢詩人であり書家である事は解っている。その遺された作品は、どこかで観たかも知れないし、どこかで読んだ [もしくは詠んだ] かも知れない。
また、伝えられている、己の弟子の貞心尼との老いらくの恋を、デリケートでナイーヴな逸話として、噛み締めている方々も、いるかも知れない。

でも、ぼく達の知っている良寛さん (Ryokan-san) は、決して、その様なモノとは、どこか一線を引いたところにいる人物の様に思えるのだ。

例えば、ぼく個人の記憶を相照らしてみると、初めてぼくの処に顕われた良寛さん (Ryokan-san) は、次の様な人物だ。

縁の下に生えて来た (Bamboo Shoot) の為に、床下を抜き、さらに成長を遂げる (Bamboo Shoot) の為に、軒下までも外してしまう [詳しくはこちらを]。
子供達と隠れん坊 (Hide-and-seek) を興じていると、時が過ぎ夕刻になって、子供達がひとりまたひとりと帰宅するなか、自身だけは独り取り遺され、しかもそれに気づかず、いつまでも遊びに内ち興じてしまう [詳しくはこちらを]。
己の墨染めの袂のなかには子供達と交わる為にいつも (Temari) があり [詳しくはこちらを]、彼らが揚げる凧 (Kite) の為に、その名蹟を惜しげもなく振るってしまう [詳しくはこちらを]。

images
こんな微笑ましいエピソードの蓄積を、ぼく達は、どの様に解釈すればいいのだろう [上記掲載画像は、その凧 (Kite) のエピソードをもつ良寛 (Ryokan) の書『天上大風』]。

例えば、児童向けの伝記には、後の偉人賢人達の幼い頃の挿話は随所に盛り込まれているが、それらとは、どこか違う。彼らの一生を物語る中に挿入されたそれらは、彼らのナニかを語りたくて騙りたくて、居ても立ってもいられないという風情がある。
桜の樹 ( Cherry Blossoms) を斬ってしまったジョージ・ワシントン (George Washington) や、囲炉裏 (Irori) に落ちて左掌に火傷 (Burn) を負ってしまった野口英世 (Hideyo Noguchi) や、学校での授業について行く事の出来なかったトーマス・エジソン (Thomas Edison) や、尾張の大うつけ (Owari no Outsuke : The Fool Of Owari) と呼ばれる程に奇行に奔っていた織田信長 (Oda Nobunaga) ...、挙げて行けばきりがないけれども、何れにしても、彼らのそれらは、後の彼らのその後に、おおきな影を遺すモノなのだ。
しかし、だからと言って、良寛さん (Ryokan-san) の、数々のエピソードに、いくら耳を傾けたとしても、その様な、声高な主張は、決して聴こえて来る謂れはない。

良寛さん (Ryokan-san) のエピソードには、功利主義的な視点や人格形成観的なものは、欠落している様に想えてならない。むしろ、全国各地に伝わる、頓知話や笑い話、人情譚や人生訓に近いモノの方が、逆に透けて観える。

だからと言って、ここで一休さん (Ikkyu-san) こと一休宗純 (Ikkyu) を引き合いに出してしまっても、ふたりの違いに気づかされるばかりなのだ。
所謂『一休頓知咄』は、その殆どが架空のモノで、実際の一休宗純 (Ikkyu) とは無縁のモノだ。しかし、何故だか、年少時代の一休宗純 (Ikkyu) を主人公に据えて語られる物語群は、成長した一休宗純 (Ikkyu) をも、大いに物語っているのである。
例えば、有名な『門松は冥途の旅の一里塚めでたくもありめでたくもなし (The New Year's decorative pine trees are a milestone on the journey toward death; they are both happy and unhappy.)』の歌とそれを巡る挿話で語られる一休宗純 (Ikkyu) の少年時代ならば、さもあり得そうな物語群が『一休頓知咄』なのである [TVアニメ『一休さん (Ikkyu-san)』 [19751982テレビ朝日放映] の最終回『母よ、友よ、安国寺よ、さようなら』は、それを逆手にとったと観てよい]。
つまり、虚構の中の一休さん (Ikkyu-san) と一休宗純 (Ikkyu) のその実像とは、意外と、手に手をとった、相身互いの構図を成している様に思えるのだ。

そして、それと同様の構造を、良寛さん (Ryokan-san) は果たして描いているのだろうか。
この点に関しては、少し、慎重に考えるべき要素もある様に思える。
だが、『一休頓知咄』が、あくまでも、一休宗純 (Ikkyu) の幼少期の挿話として語られている点は、看過する訳にはいかない。何故ならば、先に挙げた、偉人賢人の挿話のその殆どが幼少期のモノであるからなのだ。もしかしたら、『一休頓知咄』は彼らの挿話と同様の役割を担っているかもしれないからなのだ。
一休頓知咄』も含めて、彼らの挿話のその殆どが幼少期のモノであるのに対し、良寛さん (Ryokan-san) のエピソードは総て、成長した後の事、否、老成した時代のものばかりなのである。

では、良寛さん (Ryokan-san) のエピソードに笑いがほの隠れているからと言って、良寛さん (Ryokan-san) が一休さん (Ikkyu-san) にやり込められる側の人物、つまり、オトナ達に帰属しているかと問えば、誰から観ても、それは違うと即座に断言出来るだろう。

良寛さん (Ryokan-san) は、どう観ても、オトナであるよりもコドモである方が、多い様に思われるし、それをそのまま敷衍して観ると、一休さん (Ikkyu-san) は、コドモであるよりもオトナである方が、多い様に思われてしまうのである。
まるで一枚の鏡をふたりの僧侶の間に立てた様に、良寛さん (Ryokan-san) の鏡像 (Mirror Image) として一休宗純 (Ikkyu) が、一休宗純 (Ikkyu) の鏡像 (Mirror Image) として良寛さん (Ryokan-san) が、存在している様に観えて来てしまうのである。

そおゆえば、良寛 (Ryokan) が曹洞宗 (Soto-zen) であるのに対し、一休宗純 (Ikkyu) は同じ禅宗 (Zen) でも、宗派は臨済宗 (Rinzai-zen) だったのだ。

次回は「」。

附記 1:
良寛さん (Ryokan-san) のもうひとつの鏡像 (Mirror Image) として、空海 (Kukai) と彼から産み出された弘法大師伝説もある様な気がするのだけれども、これに関しては、いずれどこかでまた。三筆 (Sanpitsu) のひとりとしての空海 (Kukai) をも踏まえて考えなければならないからだ。

附記 2:
そして曹洞宗 (Soto-zen)臨済宗 (Rinzai-zen) を包括しての禅宗 (Zen) の開祖、達磨大師 (Bodhidharma) に関しても、想いを巡らせる必要はあるのだろうか。あのおきあがりこぼしの達磨 (Daruma Doll) を観れば解る様に、宗旨や大祖をあそこまでカリカチュアさせる事を許した宗教を、ぼくは寡聞にして知らない。そのカリカチュアライズの果てに、一休さん (Ikkyu-san) や良寛さん (Ryokan-san) が居るとしたら??
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