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2012.10.23.13.11

くわいがわまーち

別名『戦場にかける橋のテーマ』とも呼ばれる『クワイ河マーチ (The River Kwai March)』は、その別名の通り映画『戦場にかける橋 (The Bridge On The River Kwai)』 [デヴィッド・リーン (David Lean) 監督作品 1957年制作] で主題曲として演奏され、映画ともども大ヒットとなった。
ぼく自身も、映画を観るそれ以前に、何度も耳にし、何度も演奏されるその場に遭遇したと想う。曖昧な記憶だけれども、運動会や体育祭で、鼓笛隊やブラスバンドが演奏もしたのではなかったか。否、ぼく達の同級生が例え演奏しなくとも、その場の入場行進曲やなにかとして、煩雑に、流れていたと想うのだ。

この曲は、映画冒頭に既に聴く事が出来る。第十六捕虜収容所 (Japanese Prison Camp) に収容される事になった、英軍捕虜 (Prisoner Of War) が、その行進曲として口ずさんでいるという設定だ。
彼らは毅然とした態度で、あたかも、新しい戦場に着任したかの様に、気鋭に満ちている。
捕虜 (Prisoner Of War) なのに、というか、その部隊を率いる敗軍の将、ニコルスン英陸軍大佐(Lt. Colonel Nicholson) [演:アレック・ギネス (Alec Guinness)] としては、捕虜 (Prisoner Of War) だからこそという意気込みかもしれない。闘いに敗け、武装解除 (Disarmament) をされ、中には傷病兵も決して少なくはないと言うのに、捕囚の辱さは、一向だに見出せない。
それはそのまま、第十六捕虜収容所 (Japanese Prison Camp) を管理統括する斉藤大佐 (Colonel Saito) [演:早川雪舟 (Sessue Hayakawa)] との対立をもたらせる。
彼らにとっては捕虜 (Prisoner Of War) としては先輩格にあたるシアーズ米海軍"中佐" (United States Navy "Commander" Shears) [演:ウィリアム・ホールデン (William Holden)] の"捕虜 (Prisoner Of War) ずれ"した行動規範とは、大いに違うのものなのだ。

つまり、この冒頭の行進シーンを観るだけで、ニコルスン英陸軍大佐(Lt. Colonel Nicholson) [演:アレック・ギネス (Alec Guinness)] とシアーズ米海軍"中佐" (United States Navy "Commander" Shears) [演:ウィリアム・ホールデン (William Holden)] の、あらゆる面での違いを描写し、と同時に、物語総てを牽引するふたりの主張や立場や生き様の違いを明らかにしているのだ。
そんな、物語総ての伏線に関わる情景描写の任を、『クワイ河マーチ (The River Kwai March)』が担っているのである。

images
[余談だけれども、どうしても片方の側に日本人俳優である早川雪舟 (Sessue Hayakawa) が居る為に、物語前半の、泰緬鉄道 (The Burma Railway) の橋梁敷設を巡る、ニコルスン英陸軍大佐(Lt. Colonel Nicholson) [演:アレック・ギネス (Alec Guinness)] と斉藤大佐 (Colonel Saito) [演:早川雪舟 (Sessue Hayakawa)] との敵味方を超えた友情譚として、この映画を観てしまうのだけれども、それは誤りなのだ。あくまでも、物語は日英軍人の物語ではなくて、英米軍人の物語なのである。そして、それは戦場での捕虜 (Prisoner Of War) の在り方の物語であり、その狂言廻しとして登場するのが、ニコルスン英陸軍大佐(Lt. Colonel Nicholson) [演:アレック・ギネス (Alec Guinness)] が斉藤大佐 (Colonel Saito) [演:早川雪舟 (Sessue Hayakawa)] に対して、常に引き合いに出すジュネーブ協定 (The Geneva Conventions)、すなわち捕虜の待遇に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約 (Geneva Convention relative to the Treatment of Prisoners of War of August 12, 1949) なのである。] [掲載画像はこちらから。]

そして、それと同じ様な効果 / 設定を、主題曲が担う例がある。
やっぱり捕虜 (Prisoner Of War) 達が主役となる映画『大脱走 (The Great Escape)』 [ジョン・スタージェス (John Sturges) 監督作品 1963年制作] でも観てとる事が出来るのだ。
映画冒頭、やはり主題曲である『大脱走マーチ (The Great Escape March)』[作曲:エルマー・バーンスタイン (Elmer Bernstein)』 が流れる中、一糸乱れぬ独軍が、ルフト第3空軍捕虜収容所 (Stalag Luft III:Stammlager Luft) へと陸続と入所する。と、同時に、そこに連行されて来た連合国捕虜 (Prisoner Of War) の [一見] だらけきった素振りとの対比が、そこに見受けられるのである。
物語は、文字通りに、鉄の戒律を誇る独軍が支配する、蟻の這い出る隙間もない程の厳重な警備を、如何に、この [一見] 烏合の衆にしか観えない連合国捕虜 (Prisoner Of War) 達が成し遂げられるか、という方向へと、集約していく。従って、映画冒頭から既に、脱走への助走が、始っているのである。
つまり、外見のだらしなさと内面の意気込みとの落差を、明確に演出する為の、冒頭のシーンであり、その役割を、あの有名な軽妙洒脱なメイン・テーマの前に勇壮果敢なファンファーレで始る、『大脱走マーチ (The Great Escape March)』[作曲:エルマー・バーンスタイン (Elmer Bernstein)』 が引き受けているのである。

さて、再び映画『戦場にかける橋 (The Bridge On The River Kwai)』 [デヴィッド・リーン (David Lean) 監督作品 1957年制作] とその主題曲『クワイ河マーチ (The River Kwai March)』に戻ってみよう。

すると、ウィキペディア日本語版 (Japanese Wikipedia) にあたってみると、不思議な一文に遭遇する。

「クワイ河マーチ(クワイがわマーチ)とは、マルコム・アーノルド (Malcolm Arnold) が、『ボギー大佐』を映画『戦場にかける橋』(1957年)のテーマ音楽として編作曲した行進曲」 [ 『クワイ河マーチ』の項より]

個人的には、意外な気もする。
映画の中でこの曲を演奏するミッチ・ミラー (Mitch Miller) がオリジネイターでないばかりか、映画の為にマルコム・アーノルド (Malcol Marnold) が創作したモノでもないのだ。
クワイ河マーチ (The River Kwai March)』という名称といい、『戦場にかける橋のテーマ』という別名といい、なんとなく、映画『戦場にかける橋 (The Bridge On The River Kwai)』 [デヴィッド・リーン (David Lean) 監督作品 1957年制作] の為に創られたオリジナル楽曲という印象が、いつからどことなく、形作られていたモノが、上の記述で軽く、一蹴されてしまったのだ。

まぁ、ここはいい。
大したモノではない。
単なる、自分自身にとってだけ、都合の良い、勘違いでしかない。
原曲は『ボギー大佐 (Colonel Bogey)』と言うのだ。

しかし、問題はその下の関連項目にある記載である。
ヒトラーのキンタマ #諸メディアにおけるヒトラーのキンタマ

これは一体、なんだろうか。

面倒がらずに、ここまで読んで来た個々人が、実際にその先を調べればすぐに解る事だけれども、それを期待して、このまま放置しておく訳にはいかない。
取り急ぎ、ざっくりと整理する。

ヒトラーのキンタマ (Hitler Has Only Got One Ball)』とは、先述の『ボギー大佐 (Colonel Bogey)』のメロディで唄われる替え歌の事である。
ドランクドラゴン (Drunk Dragon) の塚地武雅の一発ギャグに『猿 ゴリラ 一般人』がある様に、第二次世界大戦 (World War II) の英軍には、同じメロディで『ヒトラーのキンタマ (Hitler Has Only Got One Ball)』というネタがあったのである。

だから、この替え歌を知っているモノが、映画『戦場にかける橋 (The Bridge On The River Kwai)』 [デヴィッド・リーン (David Lean) 監督作品 1957年制作] 冒頭で流れる『クワイ河マーチ (The River Kwai March)』を聴いたとしたら、ここまでぼくが書いて来た様なモノとは、全く異なる印象を抱くのに違いないのだ。
永い戦争が終わって約10年。当時、この映画を観るモノの殆どは戦争体験者であるし、実際に『クワイ河マーチ (The River Kwai March)』の原曲である『ボギー大佐 (Colonel Bogey)』のメロディで『ヒトラーのキンタマ (Hitler Has Only Got One Ball)』を放歌したモノも多くいたのに違いないのだ。

と、言う様な事を考えながら、映画冒頭を観てみると、ニコルスン英陸軍大佐(Lt. Colonel Nicholson) [演:アレック・ギネス (Alec Guinness)] のユーモアというモノにも、必然的に、想いを馳せざるを得ないのである。
単なる生真面目一本槍の軍人気質の固まりの様な人物とは、違うのではないだろうか、と。

次回は「」。

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