2012.09.04.16.20
『金星樹
』は、佐藤史生 (Shio Sato) が1978年に発表した短編漫画。それを収めた同名の短編集は永い間、絶版の憂き目にあったが、つい最近、復刊ドットコムの『佐藤史生コレクション』シリーズ第2弾として読める様になった。
ぼくは、その同名の短編集『金星樹
』によって、ほぼリアルタイムでその作品に出逢えたのかと思う。そして佐藤史生 (Shio Sato) という漫画家も、この作品によって知る事になったのだ。
物語の粗筋はこうだ。
金星探査 (Explorations Of Venus) に向かった探査船が帰還した際、宇宙港到達の際に不慮の事故によって、金星に自生する金星樹アリエル (Ariel) が開花してしまう。
アリエル (Ariel) は、己の周囲の時間に影響を与え、そこでは通常とは異なる、恐ろしく緩慢な時間が支配する事になる。その結果、アリエル (Ariel) の支配する時間に囚われた宇宙飛行士は、極端に遅く進む時間に支配され、通常の時間に活きる我々の眼から観れば、総てが硬直した彫像と化したかの様にも、観えてしまう。
そして、その姿を観てとった女性が一人、己の婚約者を棄てて彼の許へと、奔るのである。彼と同じ時間を活きる為に、アリエル (Ariel) の支配する時間の中へと身を投じるのだ。
事件の数十年後、かつての婚約者が見守る中、宇宙飛行士とその恋人は抱き合ったままだ。
我々の時間の、数十年を経て、彼らはようやく共に触れあい、そして、これから数十年かけて、我々の許へと向かうだろう。
ふたりの恋人達は、事故当日のままの容姿であり、それをずっと見守り続けている元婚約者は既に、老境の域にある。
SFに慣れ親しんだヒトビトがこの作品を読めば、所謂ウラシマ効果 (Time Dilation) のヴァリエーションのひとつに過ぎないと、すぐに気づくだろう。
異なる時間軸を活きるふたりが、それぞれの視点で一方が他方を眺めてみれば、永遠の若さを得た人物と急速に老い衰える人物を見出さざるを得ず、そこからいくつもの悲劇、哀しみや孤独を味わう事になる。

だが、この作品にはそれだけでは語り尽くせないモノが潜んでいるのだ。
それは例えば、永遠と瞬間は全く同一のモノである、という様な、奇妙な感慨なのである [掲載画像はこちらから]。
そしてまた、智慧を得たアダムとイヴ (Adam And Eve) が楽園を追われた代わりに、アリエル (Ariel) の支配する時間に我が身を投じたふたりは、新たな楽園の庇護下にある様にも観える。ふたりを見守り続ける事しか出来ない元婚約者[『創世記 (Liber Genesis)』での誘惑者、蛇 (Serpent) の役割と解釈すべきか] の歪んだ感情を知らぬまま、ふたりは至福の中にあり続けるのだ。
次回は「ゆ」。
ぼくは、その同名の短編集『金星樹
物語の粗筋はこうだ。
金星探査 (Explorations Of Venus) に向かった探査船が帰還した際、宇宙港到達の際に不慮の事故によって、金星に自生する金星樹アリエル (Ariel) が開花してしまう。
アリエル (Ariel) は、己の周囲の時間に影響を与え、そこでは通常とは異なる、恐ろしく緩慢な時間が支配する事になる。その結果、アリエル (Ariel) の支配する時間に囚われた宇宙飛行士は、極端に遅く進む時間に支配され、通常の時間に活きる我々の眼から観れば、総てが硬直した彫像と化したかの様にも、観えてしまう。
そして、その姿を観てとった女性が一人、己の婚約者を棄てて彼の許へと、奔るのである。彼と同じ時間を活きる為に、アリエル (Ariel) の支配する時間の中へと身を投じるのだ。
事件の数十年後、かつての婚約者が見守る中、宇宙飛行士とその恋人は抱き合ったままだ。
我々の時間の、数十年を経て、彼らはようやく共に触れあい、そして、これから数十年かけて、我々の許へと向かうだろう。
ふたりの恋人達は、事故当日のままの容姿であり、それをずっと見守り続けている元婚約者は既に、老境の域にある。
SFに慣れ親しんだヒトビトがこの作品を読めば、所謂ウラシマ効果 (Time Dilation) のヴァリエーションのひとつに過ぎないと、すぐに気づくだろう。
異なる時間軸を活きるふたりが、それぞれの視点で一方が他方を眺めてみれば、永遠の若さを得た人物と急速に老い衰える人物を見出さざるを得ず、そこからいくつもの悲劇、哀しみや孤独を味わう事になる。

だが、この作品にはそれだけでは語り尽くせないモノが潜んでいるのだ。
それは例えば、永遠と瞬間は全く同一のモノである、という様な、奇妙な感慨なのである [掲載画像はこちらから]。
そしてまた、智慧を得たアダムとイヴ (Adam And Eve) が楽園を追われた代わりに、アリエル (Ariel) の支配する時間に我が身を投じたふたりは、新たな楽園の庇護下にある様にも観える。ふたりを見守り続ける事しか出来ない元婚約者[『創世記 (Liber Genesis)』での誘惑者、蛇 (Serpent) の役割と解釈すべきか] の歪んだ感情を知らぬまま、ふたりは至福の中にあり続けるのだ。
次回は「ゆ」。
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