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2012.08.28.17.00

つぁらとぅすとらはかくかたりき

百貨店の屋上 (Top The Roof Of The Department)、と語り始めるだけで、ある世代の方々には昭和の薫り (Nostalgia For Showa Period) が感じられるかもしれないが、その様なモノとしてこの百貨店の屋上 (Top The Roof Of The Department) という語句はどこまで流通可能なのだろうか。そもそも、百貨店 (Department Store) という代物自体が既に前世紀の遺物の様な佇まいなのだから。

つまり、それだけ昔々の話になってしまうのだけれども、幼い頃の日曜日は、よく家族連れ立って、その百貨店 (Department Store) へ出かけたモノなのである。そして、その屋上は、今で言う処のアミューズメント・パーク (Amusement Park)、ちいさな遊園地 (Rooftop Amusement Park) となっていたのである。

そこになにがあり、そこでぼくがどの様に愉しんだのかは、本題ではない。
そこへ出かければ観かける事の出来る、奇妙な光景とそれを観たぼくの奇妙な感覚に関して、記しておきたいのだ。

エレヴェーター (Elevator) で、屋上に昇りつめると、すぐ脇に階段がある。その踊り場から、階段の手摺に掴まりながら、下を覗くと、ある不思議なヴィジョンを得られるのだ。
最上階のここから一階を通り過ぎて地下の食品売場 (Depachika) までへと辿る、階段とその手摺が綾なす、いびつな螺旋構造 (Helix) だ。
己の足許から十数階もの下方へと延びるそれを観ると、不思議な浮遊感と同時に、妙な息苦しさを感じるのである。

しかも、不思議な事に、地下の食品売場 (Depachika) から始っている最下層から最上階を観上げても、そんな感覚に陥る事は、ついぞ、ない。同じ様ないびつな螺旋構造 (Helix) を観ている筈なのに、ぼくの眼に映るのは、単なるフィジカルな幾何学的な図形でしかないのだ。

フリードリヒ・ニーチェ (Friedrich Nietzsche) の永劫回帰 (Ewige Wiederkunft) という概念を学んだ時に、ふと、憶い出したのが、いびつな螺旋構造 (Helix) をのぞき観下ろした際の感覚なのである。と、同時にこの感覚は、同じ頃に学んだDNAの構造 (Nucleic Acid Double Helix) にも通じる様にも憶えるのだけれども、そこまで話題を拡げてしまうと、拾集がつかなくなってしまう。
とりあえず、本稿では、表題に掲げた方の話題に終始してみる事にする。
つまり、フリードリヒ・ニーチェ (Friedrich Nietzsche) の永劫回帰 (Ewige Wiederkunft) に関してだ。

きちんとした学際的な概念として、学んだのは、高校での倫理社会 (Ethics) の授業なのだけれども、実はそれ以前に、ぼく達には馴染みのあるモノなのである [と、言っても、同世代のヒトビトは勿論、ぼくの同級生達ですら、その事実をすっかり忘れてしまっているのだろうけれども]。

ぼく達が小学校の高学年にある時、あのねのねが大ブームとなった。清水国明原田伸郎の二人組だ。
当時の音楽シーンの主流のひとつであった、四畳半フォークのかたちを模倣しながら、ナンセンス・ソングやノベルティー・ソングを唄うその有様は、ぼく達にも、充分に理解しやすく、充分に笑えるモノだった。実際は、というか、演っている当の本人としては、スタンダップ・コメディアンを装ったフォーク・デュオなのかもしれないが、ぼく達の眼には、残念ながらそうは映らない。
どう観ても、お笑い芸人だ。でも、只のお笑い芸人でない。
その証拠としては、このふたりを鳥羽口とすれば、吉田拓郎 (Takuro Yoshida) や井上陽水 (Yosui Inoue) や南こうせつ (Kosetsu Minami) 等の音楽に覚醒める事も出来るし [ぼくは覚醒めようとは思わなかったけれども]、このふたりが唄う性的なモノを笑い飛ばすその歌は、ぼく達にとっての大事なヰタ・セクスアリス (vita sexualis) [ぼくの性に関する教師 (Sex Education) は違ったけれども] にもなり得たのである。
と、言う様に、実は同世代的には重要なフォーク・デュオなのだけれども、それを語り出すと、また、本題が疎かになる。

あのねのねのデヴュー曲にして最大のヒット曲に『赤とんぼの唄』 [1973年発表] がある。赤蜻蛉 (Darters or Meadowhawks) が蚜虫 (Cockroach) となり、その蚜虫 (Cockroach) が柿の種 (Kaki No Tane) となり、今度は、柿の種 (Kaki No Tane) が蚜虫 (Cockroach) となりその蚜虫 (Cockroach) が赤蜻蛉 (Darters or Meadowhawks) となる [歌詞はこちら]。
表層に備わるモノを単に上滑りして眺めて、変異生成させて面白がるという、単純なナンセンス・ソングである。
ただ、あのねのねのふたりに言わしめれば、この曲こそフリードリヒ・ニーチェ (Friedrich Nietzsche) の永劫回帰 (Ewige Wiederkunft) の思想をモチーフにしたモノと言うのである。
その事は、当時の彼らが発表した単行本『あのねのね〜いつまでもあると思うな人気と仕事』 [1974年発表] で記されていた。この単行本は当時の大ベストセラーであって、ぼく達もクラスの数名が購入し、小学校に持って来ては廻し読みしていた程のモノなのである。それは、授業中や休み時間でのたわいのない笑い話を発する為のネタ本でもあったし、そこに掲載されている歌詞を大声で唄って、教師や父兄に顰蹙を買う為のモノでもあった。

尤も、あのねのねがどこまで真面目に『赤とんぼの唄』 [1973年発表] =永劫回帰 (Ewige Wiederkunft) 説を主張していたのかは、解らない。多分に冗談でしかなく、取材かなにかで質問された結果の、後付けの言い逃れの様なモノなのだろう。
ただし、その単行本に収められている、あのねのねの1/2である清水国明のエッセイには、何度となくフリードリヒ・ニーチェ (Friedrich Nietzsche) への言及があった筈だから、全くもっての無関係極まりないモノでもないのかもしれない。
ただ、これを読んだぼくは、お笑い芸人とは言え、大学生 [彼は京都産業大学 (Kyoto Sangyo University) 卒] ともなれば、難しい勉強をしているんだな、と感心するばかりなのであった。
その癖、実際に大学受験生の身分になれば、京都産業大学 (Kyoto Sangyo University) とはあのねのねを輩出した大学と、まるでバカボンのパパの出身校、バカ田大学 (Bakada University) を観る様な観方をしてしまっているのだが [それぞれの大学の、在学生、卒業生及び関係者の皆さん、すいません]。

しかも、この様なかたちでのフリードリヒ・ニーチェ (Friedrich Nietzsche) の永劫回帰 (Ewige Wiederkunft) との出逢いは、それだけに留まらない。

もうひとつは、表題に掲げた『ツァラトゥストラはかく語りき (Also sprach Zarathustra)』 [18831885年執筆] である。フリードリヒ・ニーチェ (Friedrich Nietzsche) の哲学の集大成であると同時に、永劫回帰 (Ewige Wiederkunft) とその先にある超人思想 (Ubermensch)、そしてなんと言っても魅力的な『神は死んだ (Gott ist tot! ! Gott bleibt tot! Und wir haben ihn getotet.)』が説かれている書物だ。
勿論、ここで説かれている事にインスパイアされて作曲された同題の交響詩 (Sinfonische Dichtung)『ツァラトゥストラはかく語りき 作品30 (Also sprach Zarathustra Op. 30)』 [リヒャルト・シュトラウス (Richard Strauss) 1896年初演] も忘れてはならない。
ただ、ぼく達世代のモノがこの曲に出逢う際は、やはり、いささかのバイアスが罹っているのだ。
多くのヒトビトにとっては、この曲は映画『2001年宇宙の旅 (2001: A Space Odyssey)』 [スタンリー・キューブリック (Stanley Kubrick) 監督作品 1968年制作] の主題曲であって、壮大なモノや神聖なモノや厳粛なモノに遭遇する際に、流れるべき楽想だと想う [尤も、そのイメージを逆手にとって、それとは全く逆のシチュエーションを描くパロディー的手法も無きにしも非ずだけれども]。
だがしかし、ぼく達は、その様な楽想を持った曲としては、出逢えていない。その映画に接するのは、もう少し後だ。
恐らく、ぼく達が初めてこの曲に接した時の紹介は、エルヴィス・プレスリー (Elvis Presley) のテーマ、というモノだったと想うのだ。
当時、エルヴィス・プレスリー (Elvis Presley) はまだ、存命だった。当時も今も、ぼく達の両親達にとっては、甘酸っぱくも懐かしいモノなのだと想う。
しかし、ザ・ビートルズ (The Beatles) 解散後に彼らの存在を知り、後追いで彼らの音楽を追いかけていったぼく達の視線から観れば、エルヴィス・プレスリー (Elvis Presley) はザ・ビートルズ (The Beatles) に多大な影響を及ぼしたと知ってはいても、やはり、前世代のヒトとしか観えない。
しかも、偶々TV等で接する、彼の物真似をする芸人達の、大仰な素振りは、彼の前世紀の遺物の様な佇まいを増長する事はあっても、彼の音楽的評価を高める様な事は、当然の事ながら、あり得ない。丁度、晩年のマイケル・ジャクソン (Michael Jackson) が、その音楽的な評価とは別の次元で、物笑いの種になっていたのと、同じ様なモノなのだ。
従って、彼のテーマ・ソングとされている交響詩 (Sinfonische Dichtung)『ツァラトゥストラはかく語りき 作品30 (Also sprach Zarathustra Op. 30)』 [リヒャルト・シュトラウス (Richard Strauss) 1896年初演] も、同じ宿命の許に準ずる他は無く、その曲の核心的な部分は忘れ去られている。しかもそればかりか、その曲のもっている肥大な部分をことさらに強調されて、大仰にも鳴り響くばかりであった。
つまり、その原典を観る前に"全く逆のシチュエーションを描くパロディー的手法"を観せられ続けた様なモノなのである。

つまり、ぼく達は、あのねのねにしろ、エルヴィス・プレスリー (Elvis Presley) にしろ、フリードリヒ・ニーチェ (Friedrich Nietzsche) の思考の殆どが蕩尽され消費された結果のモノとして、遭遇するばかりで、稚拙な劣化した言説を通じて、それに出逢うしかなかったのである。
ある意味では、ルネ・デカルト (Rene Descartes) とイマヌエル・カント (Immanuel Kant) と アルトゥル・ショーペンハウアー (Arthur Schopenhauer) とが並んで、讃えられ貶められた『デカンショ節 (A Song For Rene, Arthur And Immanuel)』の遥かな延長線のその先に、ぼく達はいたのかもしれない。
否、ぼく達がそこに辿り着く前に、既に、野坂昭如 (Akiyuki Nosaka)が、ソクラテス (Socrates) やプラトン (Plato) やジャン=ポール・サルトル (Jean-Paul Sartre) 達と、フリードリヒ・ニーチェ (Friedrich Nietzsche) と連れ立って呑んだ暮れていた訳ではあるのだが。そこで彼らは次の様に、放歌高唱していたのである。
みんな悩んで大きくなった♪と。

だからと言って、それを嘆かわしいモノとも蔑むべきモノとも、ぼくは思わないのだ。
何故ならば、『ツァラトゥストラはかく語りき (Also sprach Zarathustra)』 [18831885年執筆] の主人公、ツァラトゥストラ (Zarathustra) が何度も何度も、その修行の地から降りて来た結果だからだ。そして、その結果を卑下するでもなく、否定するでもなく、永遠に繰り返されるモノとして、自明し、肯定する事が、この思想の根本なのだから。

本来ならば、難解で高邁な思想であるのにも関わらずに、人口に膾炙されているのは、何故なのだろうか。
本来ならば、絶望的な救い様もないヴィジョンが説かれているのにも関わらずに、下卑たパロディすらも受けいれて、道化の様に振る舞えるのは、何故だろうか。
そんな受容を許す、この思想の在り方を、もう一度、考えるべきなのかもしれない。

そして、いびつな螺旋構造 (Helix) に畏怖を感じた幼いぼくは、この螺旋構造 (Helix) が何故、ここで途切れているのかを、考えるべきだったのかもしれない。

その約十年後に、竹山道雄 (Takeyama Michio)の翻訳による、旧字体が恐ろしくも異様なヴィジュアルで迫って来る、新潮文庫版の『ツァラトゥストラかく語りき』に、目眩と閉塞感を感じながらもを読み耽ける事になる、ぼくであるのならば。

images
掲載画像は映画『めまい (Vertigo)』 [アルフレッド・ヒッチコック (Alfred Hitchcock) 監督作品 1958年制作] より、めまいショット [ドリー・ズーム] (Dolly Zoom aka The Vertigo Effect) のシーン。

次回は「」。

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