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2012.07.06.00.39

『ほぼ日刊イトイ新聞』で『21世紀の「仕事!」論』。 12 メカニック篇』を読む

ぼくの記憶に間違いがなければ、『銀河鉄道999 (Galaxy Express 999)』 [松本零士 (Matsumoto Leiji) 作 1977~1981少年キング連載] のなかに次の様な台詞が、あったと憶う。

「メカに憧れないものは、男じゃあない」

もしかすると「憧れない」ではなくて、正しくは「興味をもたない」かもしれない。だけれども、言い表したい事はさして、変わらない。
いずれにしても、ここだけ抜き出してしまうと、とても差別的なニュアンスを含ませてしまうけれども、無論、そうではない。

遥か未来の時代の恒星間旅行 (Interstellar Travel) を描く物語でありながら、しかもその上に、その時代の粋を集めた最新の技術で設計構築されている上に、人工知能 (Artificial Intelligence)を搭載した無人操縦の恒星間航行機 (Starship) でありながら、銀河鉄道と呼ばれるその列車の外観は、20世紀中葉に日本で活躍したC62形蒸気機関車 (The Japanese National Railways Class C62) なのだ。
そんな世界観を呈示せしめている、その思想の一部が、この発言に表出しているのである。

そして、『ほぼ日刊イトイ新聞』[以下『ほぼ日』と略] で3回に渡って連載された『21世紀の「仕事!」論。 12 メカニック』 [以下『12 メカニック』と略] は、まさにそんな世界観に満ちた話なのである。

なお、本文中に登場する人物は総て敬称略とします。ご了承願います。

主役は、ウィリー・ヤンセン (Willy Janssen)。スイス (Helvetia) のルツェルン (Luzern) 在住の84歳。
既に50年前に、なくなってしまったオートバイのメーカー、ユニバーサル (Universal Motorcycles) を修理する、世界にたった独りしかいない"メカニック (Mechanic / Mechaniker)"だ [そのまま日本語にすると整備士となる"メカニック (Mechanic / Mechaniker)"ということば自体に関しては、『第3回 メカニックの誇り』でウィリー・ヤンセン (Willy Janssen) 自身のことばで説明されている]。

彼自らが語る様々なモノ、彼と同席している息子パオロ・ヤンセン (Paul Janssen) が語る様々なモノ、そこで語られるいくつものエピソード以前に、掲載されている写真がとても美しい。

完成したユニバーサル (Universal Motorcycles) のバイク。組み立てられるのを待ち構えているかの様な面構えの、磨き挙げられたユニバーサル (Universal Motorcycles) の部品達。そして、いつの日にか、そんな往時の美しさが再現されるのを待ち望む、損壊し摩耗し錆び付いてしまっているユニバーサル (Universal Motorcycles) の部品群。
整備されていようと、未だ手つかずであろうと、おおきかろうとちいさかろうと、そんな些事はおかまいなく、美しく輝いているのである。
それこそ、ボルト1本、ナット1本、総てがそうなのだ。

そして、そんな機種や機材を光り輝かせてみせるのは、ウィリー・ヤンセン (Willy Janssen) が語る物語とそれを彩るいくつもの印象深いことばの数々である。
だけれども、それらをいちいち抜き書きしてみせるのは、野暮と言うものだろう。
掲載されている写真を凝視め、ただ只管に、彼の発言に息を呑み、時折、嘆息をつけば、それでいいのだから。

だからここでは、別の視点から眺めてみる事にする。

この連載が掲載されている期間、『ほぼ日』では、糸井重里 (Shigesato Itoi) とテド (Technology Entertainment Design) のパトリック・ニューウェル (Patrick Newell) との対論『日本の人たちの、いいところ。 パトリック・ニュウエルさんと話した「これからの価値観」と「学び」の話。』 [以下『日本の人たちの、いいところ。』と略] が掲載されていて、7月4日掲載の『第4回 ぼくらが本当に望んでいる方向って。』で、次の様な発言が飛び出してくる。

糸井重里 (Shigesato Itoi)「『クリエイティブ』だって言われるのは、この形のスケッチ、つまり設計図の部分だけで、実際に彫ったり擦ったりカーブをつくっていくのは、クリエイティブとは別の作業のように言われてた。でも、一人の人が全部をやって、この器が思ったようなカーブになるっていうのはまったく『低い』仕事じゃないんですよね。」

対談の場にある器のカーヴを指し示しながら、語られるそのことばは、なるほど、とは想わせるものの、だからと言って、納得や得心以上のモノは得られない。
だけれども、その発言が掲載された同日の『12 メカニック』の『第2回 オートバイは、必ず動く。』のこの発言を並べてみると、どうだろうか。

ウィリー・ヤンセン (Willy Janssen)「それまで動いていたものが壊れて動かなくなっても、きちんと見てあげれば、動かないはずはない。 落ち着いて時間をかけてあげれば必ず、動くようになる。」

この発言だけを取り出してみても、やっぱり、印象は変わらないかもしれない。ウィリー・ヤンセン (Willy Janssen) のインタヴュアー、『ほぼ日奥野武範の発言にある様に「文字にしたら『ごく当たり前のこと』というか『基本中の基本』みたい」 [『第2回』より] でしか、ないかもしれない。
でも、その発言の認識に至るエピソードを噛み締めながら、ウィリー・ヤンセン (Willy Janssen) が放ったことば、「オートバイは、必ず動く」 [『第2回』より] を読めば、遥か彼方で、先の糸井重里 (Shigesato Itoi) のことばが力強く残響するのだ。

と、同時に、その7月4日の『ほぼ日』には、『東北の仕事論。セキュリテ被災地応援ファンド1周年記念シンポジウム篇』の『第3回 丸光食品の熊谷敬子さん、客席から登場。』では、次の様な発言が飛び出してくる。

石渡商店 石渡久師「みなさんにふだんから食べていただけるフカヒレ、それってどんな商品なんだろうとお聞きしながら開発していけたら」
丸光食品 熊谷敬子「出資者してくれたみなさんがいつか丸光のお客さまになってくれるかもしれない、と思うことが、嬉しいんです」

そして、これらの発言を同日の『日本の人たちの、いいところ。』の『第4回 ぼくらが本当に望んでいる方向って。』で、糸井重里 (Shigesato Itoi) が見事に回収しているのである。

糸井重里 (Shigesato Itoi)「ぼくは今、東北の人たちといっしょに思い出しているところなんですよね。そういう、まだ評価されていない『見えない価値』の部分にみんなが喜びを感じられるような仕事の仕方ができるんじゃないかなって」

だから恐らく、『12 メカニック』と『日本の人たちの、いいところ。』と『東北の仕事論。セキュリテ被災地応援ファンド1周年記念シンポジウム篇』と、このみっつの記事は相互に補完しあっていると同時に、お互いの存在を際立たせる様な、独特の役割を担っているのだろう。
例えば、さんすくみという言葉はあるけれども、これは、三者間だけにある緊張感であって、しかも内向きのちからしか派生していない。だけれども、このみっつの記事はその全く逆の存在の仕方、外向きに、それぞれがそれぞれを補い主張させている様に観えるのだ [ちなみに、三権分立 (Separation des pouvoirs) でも三位一体 (Trinitas) でも三頭政治 (Triumviratus) でもない、とも想う]。

で、もちろん、このみっつの記事で主張されている様々なことばが、『ほぼ日』で制作販売されているいくつもの商品の主張でありメッセージでありポリシーであるのだ。
例え、その言葉がウィリー・ヤンセン (Willy Janssen) やパトリック・ニューウェル (Patrick Newell) や石渡久師熊谷敬子から発せられたモノであっても。総ては、糸井重里 (Shigesato Itoi) 経由で吸収され回収されて、商品そのものに反映されているのに違いない。

ただ、そんな視点で『12 メカニック』を読み始めてしまうと、少しばかりの喰い足りなさを感じてしまうのも事実なのである。
と、言うのは「メカに憧れないものは、男じゃあない」ということばに象徴される様な、メカそのものへの熱い視線や欲望が、充分に満たしてもらえないのだ。
もっと観たいし、もっと詳しく知りたい、そんな欲求に苛まされてしまうのは、ぼくだけぢゃあないだろう。
ウィリー・ヤンセン (Willy Janssen) の仕事場は「ホームページもなければ広告を出してるわけでもない」[『第1回 世界で、たったひとり。』より] とある様にネットで捜しても当然、出てくる訳もなく、そこで整備されて完成品として流通しているかもしれないユニバーサル (Universal Motorcycles) のバイクでさえも、そう気安く姿を顕わしてはくれないのだ。

しかし、そこは流石に『ほぼ日』であって、『12 メカニック』の連載と入れ替わる様にして、『とんでもない鉄道模型とすごいテレビ電話の話。』が再録されているのである。
そこではウィリー・ヤンセン (Willy Janssen) の息子パオロ・ヤンセン (Paul Janssen) の立ち位置の様な役回りを引き受けている原丈人 (George Hara) の姿が描き出されている。彼の父は原信太郎と言って、鉄道模型 (Rail Transport Modelling) の第一人者なのだ。
[4年前の記事再録の理由は、原丈人 (George Hara) の原鉄道模型博物館の副館長就任記念とされているけれども、決してそれだけが理由ぢゃあない筈なのだ。]
ウィリー・ヤンセン (Willy Janssen)・パオロ・ヤンセン (Paul Janssen) 父子が"メカニック (Mechanic / Mechaniker)" として行っている格闘と全く同じ格闘を、原信太郎原丈人 (George Hara) 父子が鉄道模型 (Rail Transport Modelling) というフィールドで行っているのである。
4年前の記事を再読して、ほんの少しだけ、溜飲が下がった次第なのである。

そしてこれこそが、ぼくがこの拙文冒頭で『銀河鉄道999 (Galaxy Express 999)』 [松本零士 (Matsumoto Leiji) 作 1977~1981少年キング連載] を引用した所以なのだ。

附記 1.:
12 メカニック』の取材者である『ほぼ日奥野武範は、どうやってウィリー・ヤンセン (Willy Janssen) に辿り着いたのだろうか。
この連載を読み始めた当初、ぼくはてっきり、ユニバーサル (Universal Motorcycles) は、マニアには御馴染みのブランドであり、マニアには御馴染みの名物"メカニック (Mechanic / Mechaniker)"がいるのだと誤解したのだ。しかし、実際には次の発言がある [『第1回』より]。
ウィリー・ヤンセン (Willy Janssen)「おそらく、日本ではほとんど知られていないのではないでしょうか」
パオロ・ヤンセン (Paul Janssen)「日本から問い合わせが来たことなども、たぶん、ないです」
様々な産業のどんな部分にも"メカニック (Mechanic / Mechaniker)"と呼ばれる業種が必要な筈だから、『21世紀の「仕事!」論』というコンテンツがある限り、いずれかはどこかの誰かが"メカニック (Mechanic / Mechaniker)"の名の下に、登場するのは間違いない。だが、その"メカニック (Mechanic / Mechaniker)" という業種の代表として、ウィリー・ヤンセン (Willy Janssen) という人物を尋ねるその道筋は、誰がどうやって案内したのだろうか。
そんな経緯をきちんと紹介する事が出来れば、もしかしたらこのシリーズ企画『21世紀の「仕事!」論』で『編集者』という連載記事が成立するかもしれないし、他の媒体であるならば秀逸なメイキング記事が出来そうだ。

附記 2. :
なんとなく見過ごしてしまいそうなので、備忘録として書いておく。
それは、ウィリー・ヤンセン (Willy Janssen) は、"生涯一ユニバーサル (Universal Motorcycles)"の"メカニック (Mechanic / Mechaniker)"ではない、という事だ [『第1回』で語られている]。
65歳の時に生業からリタイアした後になって初めて、ユニバーサル (Universal Motorcycles) の修理を始めた事。
そしてその遥か遠くのきっかけはユニバーサル (Universal Motorcycles) で体験した13歳の時の感動にあるという事。

附記 3. :
ぼくの記憶に間違いがなければ、これまでの『21世紀の「仕事!」論』に登場してきた人物達は、現場の最前線にいるヒトビトばかりだった様に思う。ウィリー・ヤンセン (Willy Janssen) の様な第二の人生を歩んでいるヒトが登場するのは初めてではないか。
と、なると、『21世紀の「仕事!」論』自体の間口も切り口もこの先、随分と拡がる可能性がある。

附記 4. :
記事の最後の最後になってみせた、ウィリー・ヤンセン (Willy Janssen) の笑顔がなんと言っても印象的なのだ。
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