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2007.11.23.19.36

エリック・ドルフィー・アット・ザ・ファイブ・スポット Vol.1(ERIC DOLPHY AT THE FIVE SPOT VOL.1 WITH BOOKER LITTLE AND MAL WALDRON,RICHARD DAVIS,EDDIE BLACKWELL)


最初に聴いたエリック・ドルフィーEric Dolphy)は『アウト・トゥ・ランチ(Out To Lunch)』で、スイング・ジャーナル誌の増刊号かなんかのCDお薦めアルバムかなんかが、きっかけだったと思う。
静鎰で抽象的で、情緒を排除したクールな質感が、結構、気に入ってヘヴィー・ローテーション化しかけた頃に、当時の先輩N氏から「エリック・ドルフィーEric Dolphy)ならば、『エリック・ドルフィー・アット・ザ・ファイブ・スポット Vol.1(Eric Dolphy At The Five Spot Vol.1 With Booker Little And Mal Waldron,Richard Davis,Eddie Blackwell)』を聴かなきゃあ」の一言に乗せられて購入したところ、そこには、『アウト・トゥ・ランチ(Out To Lunch)』とは全く異なるエリック・ドルフィーEric Dolphy)がいた。

エリック・ドルフィーEric Dolphy)は、すぐにどこかにいなくなってしまうという趣旨の発言をしたのは、チャールズ・ミンガスCharles Mingus)だけれども、これはエリック・ドルフィーEric Dolphy)の音楽性を評しての言葉ではなくて、己のコンボを入脱退を繰り返している彼への愛情たっぷりの苦言。もちろん、その裏には、ミンガス・ミュージックの一翼を担う重要人物としての評価もあってのものです。
まるで出戻り女房を口説く様な愛情に満ちた楽曲に「So Long Eric」があって、「So Long Eric(またな、エリック)」と言いながらもエリック・ドルフィーEric Dolphy)自身も演奏に参加しています。

ただ、チャールズ・ミンガスCharles Mingus)曰くの「エリック・ドルフィーEric Dolphy)はすぐにいなくなってしまう」というのは、あまりにも適切に、彼の音楽を言い表わしているものだと、僕は思う。

映画『真夏の夜のジャズJazz On A Summer's Day)』のチコ・ハミルトン(Chico Hamilton)・クィンテットの演奏で、フルートを演奏しているエリック・ドルフィーEric Dolphy)を観る事は出来るけれども、"動く"エリック・ドルフィーEric Dolphy)を観たという情動は感じない。"動いている"のは専ら、リーダーのチコ・ハミルトン(Chico Hamilton)や金韻と鳴り響く印象的なギター・フレーズを響かせるジョン・ピサーノ(John Pisano)だったりする。ここに登場するエリック・ドルフィーEric Dolphy)は、彼らが演奏する名曲「Blue Sands(オリジナル・スタジオ・ヴァージョンは、ブルー・サンズ(The Original: Complete Studio Recordings)に収録)」のパーツでしかない。

この映画では、未だジャズ・シーンに頭角を現す以前の作品だから、と言うよりもむしろ、チコ・ハミルトン(Chico Hamilton)・カルテットで知名度を一気に挙げたのだから、エリック・ドルフィーEric Dolphy)の若き日々の記録と記しても善いのかもしれないのだが。

その一方で、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)に抜擢されて双頭コンボを結成し、時代の寵児と躍り出るかと思いきや、あまりに早すぎた音楽の急進性からか、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)を売りたいレコード会社インパルス!レコード(Impulse Records)の意向からか、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)との共演作(例『アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード (The Complete 1961 Village Vanguard Recordings)』)での彼の演奏の殆どは、カットされてしまう。だから、こんな二人の共演映像「Impressions」があるなんて驚きだ。
勿論、現在ではオリジナルに戻されて聴く事も出来る。だからと言って、レコード会社インパルス!レコード(Impulse Records)が彼の演奏をカットしなければならない程に、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)の演奏を疎外したり逸脱している訳でもない。あくまでも、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)の音楽的冒険の範疇もしくはその延長線上で、飛翔するエリック・ドルフィーEric Dolphy)を見い出すだけだ。

ぢゃあ、例の、その名も『フリー・ジャズ(Free Jazz : A Collective Improvisation)』というアルバムではどうだろう。この作品では、左チャンネルにオーネット・コールマン(Ornette Coleman)・カルテット、右チャンネルにエリック・ドルフィーEric Dolphy)・カルテットによる演奏が収められている訳だけれども? しかし、この作品もまた、コンセプトも楽曲のイニシアティブもオーネット・コールマン(Ornette Coleman)の指揮下にあるもの。もし、このふたつのカルテットが左右のチャンネルに振り分けられる事なく、8名による集団即興(a collective improvisation)だったら如何なものになったのだろうか?

エリック・ドルフィーEric Dolphy)のリーダー・アルバムでは、彼の自己主張はきちんと表出されているのだろうか?
一作一作、丹念に聴いて行くと、今度は、彼のあまりに多様な音楽性とあまりに豊穰な表出に、目の前がくらくらしてしまう。
あの曲もこの曲もエリック・ドルフィーEric Dolphy)だけれども、それらを掻き集めたとしても、ひとつの音像ひとつの人物に結びつかない。
[例えば、マイルス・デイヴィスMiles Davis)もまた別の意味で「すぐにいなくなってしまう」人物だけれども、彼の場合は、そのすくない出現時においても自己存在の証明の刻印はきちんとされている]。
そうなのだ、自身が完全にイニシアティヴを握る作品でもまた、エリック・ドルフィーEric Dolphy)というアーティストの有り様を把握する事が困難なのだ。

チャールズ・ミンガスCharles Mingus)曰く「エリック・ドルフィーEric Dolphy)はすぐにいなくなってしまう」

だから、『アウト・トゥ・ランチ(Out To Lunch)』は、その場その時のエリック・ドルフィーEric Dolphy)の"やっている事"がかなり明瞭に遺された作品であると言える。しかしながら、だからと言って、必ずしもこの作品が彼が"やりたかった事"とは断言出来ない様な気がする。

むしろ、エリック・ドルフィーEric Dolphy)の音楽性は本人自身による演奏よりも、彼にインスパイアされた、後に続く者達の音楽に色濃く現れているのではないのだろうか?
例えばフランク・ザッパ(Frank Zappa)やビル・ラズウェルBill Laswell)の様な。

彼の遺作『ラスト・デイト(Last Date)』に遺された、あまりに有名な彼の発言「"When you hear music, after it's over, it's gone in the air. You can never capture it again. " (音楽を聴き、終った後、それは空中に消えてしまい、二度と捕まえることはできない)」、これは音楽に対しての発言とするよりも、エリック・ドルフィーEric Dolphy)自身を指しての発言に想えてならない。

この『エリック・ドルフィー・アット・ザ・ファイブ・スポット Vol.1(Eric Dolphy At The Five Spot Vol.1 With Booker Little And Mal Waldron,Richard Davis,Eddie Blackwell)』は、ハード・バップ(Hard Bop)というフォーマットに則って、ブッカ-・リトル(Booker Little)と共に激しく熱く燃え上がった一瞬の記録。世評では捻じ曲った三拍子を聴かせる1曲目の「ファイア-・ワルツ(Fire Waltz)」が高い評価を得ている様だけれども、個人的にはスタンダードなフォーマットに則った2曲目「ビー・バンプ(Bee Vamp)」の疾走感が好みです。

蛇足ながら、このコンボもまた、相棒のブッカ-・リトル(Booker Little)の夭折により短命に終ってしまったものです。歴史に「たら」や「れば」は不要だけれども、彼の側にもう少し永く、ブッカ-・リトル(Booker Little)がいてくれたら、どうだったのだろう? 双頭コンボとしての充実と発展はあり得たかも知れないけれども、少なくとも、ここで紹介したジャズ・ジャイアンツとの邂逅はなかったかもしれない。

ものづくし(click in the world!)62.:
エリック・ドルフィー・アット・ザ・ファイブ・スポット Vol.1
(ERIC DOLPHY AT THE FIVE SPOT VOL.1
WITH BOOKER LITTLE AND MAL WALDRON,RICHARD DAVIS,EDDIE BLACKWELL)


images
ERIC DOLPHY AT THE FIVE SPOT with BOOKER LITTLE,Mal Waldron,Richard Davis,Eddie Blackwell
エリック・ドルフィー・アット・ザ・ファイブ・スポット Vol.1(ERIC DOLPHY AT THE FIVE SPOT VOL.1 WITH BOOKER LITTLE AND MAL WALDRON,RICHARD DAVIS,EDDIE BLACKWELL)

1.ファイア-・ワルツ 13:44
 FIRE WALTZ(Mal Waldron)
2.ビー・バンプ 12:30
 BEE VAMP(Booker Little)
3.ザ・プロフェット 21:22
 THE PROPHET(Eric Dolphy)

1961年 7月16日録音
Recorded July 16,1961,New York

FROM MASTER RECORDING OWNED BY FANTASY RECORDS.INC.,U.S.A.

エリック・ドルフィー ERIC DOLPHY,alto sax and bass clarinet
ブッカ-・リトル BOOKER LITTLE,trumpet
マル・ウォルドロン MAL WALDRON,piano
リチャード・デイビス RICHARD DAVIS,bass
エド・ブラックウェル ED BLACKWELL,drums

Dolphy plays bass clarinet on "BEE VAMP"
Recorded in performance at the FIVE SPOT,New York,July 16,1961

Original recordings produced by Esmond Edwards
Original recordings engineered by Rudy Van Gelder

Digital transferred from the original analog 1960's source material by Joe Gastwit at JVC Cutting Center,Sunset Blvd.,Los Angels,Ca.,1985 using JVC/DAS-900 DIGITAL AUDIO MASTERING SYSTEM.

Production co-cordination by Takashi Misu / JVC Musical Industries

NOISE INFORMATION :
This recording is taken from the original analog aource material and therefore contains inherent tape flaws,such as hiss,distortion,and analog dropoults.
These tape flaws become more evident on low level passages and on most fades.

僕が所有している日本盤CDは、『プレスティッジ / リバーサイド CDマスターピース・シリーズ』中の作品として発売されました。同シリーズに寄せた、『CD化されたハード・バップの黄金時代』 by 油井正一と、『ジャズ・ファンにとってかけがえのない喜び』 by 岡崎正通の寄稿と、 悠雅彦の本作品への解説が掲載されています。
ちなみに1985年6月21日、ビクター音楽産業(株)から¥3,200.-で発売されていました。
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