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2012.01.31.17.13

しょうがやきていしょく

ぼくが4年間通っていた大学は、多摩の山奥 (Tama Hills) にあって、通っていたぼく達は隔離病棟 (Isolation Ward) なぞと自嘲的に呼び倣わしていた程に、周囲には山と緑と多摩動物公園 (Tama Zoological Park) と多摩テック (Tama Tech) があるばかりだった。

そんなところへぼく達を押し込めた親達や、都心の学校に通う事になった旧友達は自然に囲まれた素晴らしい環境とも、勉強に打ち込むには相応しい環境とも、言ってくれたが、その内心は実際にはどうだったのか。
と、いうのも、"自然に囲まれた素晴らしい環境"であって"勉強に打ち込むには相応しい環境"で講義を行う教授達自身に、講義の合間には、「学生は勉強するだけではいかん、せめて、大学の周囲くらい雀荘や喫茶店や居酒屋に囲まれているべきなのだ、大学は誘致活動すべきぢゃあないだろうか」と言わせた程なのである。
しかし元来それは元から無理な話であって、この地区は市街化調整区域 (Urban Growth Boundary) として開発が制限されている場所であって、大学と言う名の公共機関であり教育現場だからこそ、例外的に建築が許された場所なのである。
だからどんなに雀荘や喫茶店や居酒屋にビジネス・チャンスがこの地にあったとしても、その招致や建設が許される事は決してないのである。

そんな自然の要害に周囲を取り囲まれた施設なだけに、食堂だけはとても充実していた。ビル4階建てのその容姿は、隣に並ぶ約190万冊の蔵書を誇る図書館と同じ大きさで、1階と2階に大学生協 (National Federation Of University Co-operative Association In Japan) が運営する所謂学食が入り、その上の3階と4階には、外部委託の業者が運営する店舗が4軒入居していた。
そのうちの一軒は当時全盛を極めていたイタリアン料理チェーンのイタリアン・トマト (Italian Tomato) であって、街中にある通常店舗の通常価格の半値以下でこの"名店"の食事を堪能出来た。勿論、このイタリアン・トマト (Italian Tomato) も含め全フロア総てセルフ・サービスで、食券を購入した後に各自、厨房の窓口に並んで自身のオーダーを賄うシステムだったから、味はともかく、その雰囲気は都心にある通常店とは比べ物にならない程の、オシャレ感覚皆無な店内であったのである。

さて、その学食のメニューのひとつにしょうが焼き定食 (Pork Shogayaki) と言うモノがある。
ぼくの記憶に間違いがなければ、イタリアン・トマト (Italian Tomato) と喫茶店としての機能しかない樹林 (Coffee House Jurin) [京王プラザホテル (Keio Plaza Hotel Tokyo) 内の喫茶店と何故か同名の] 以外の店舗に、メニューとしてあった。いや、恐らく今でもあるだろう。
価格は今から数十年前の当時400円で、他の定食が押し並べて300円台であったのに対し、最高の価格であり、他の単品メニューにもこれに匹敵するものはない。

ぼく達にとってはこの100円台の価格の壁は、何故だか相当厚く高く感じられていて、300円台で食べられるチキンカツ定食 (Chicken Cutlet) やトンカツ定食 (Pork Cutlet) と比べても、とても豪華な気がしたものだった。
だから、一緒に食事を採る事になった仲間のひとりがしょうが焼き定食 (Pork Shogayaki) を選ぼうものならば、臨時収入があったのか、それとも、個人的にいい事 [男子学生の考えそうな] があったのかと、やっかんだりさせるメニューなのである。

これはぼく達が貧乏学生だからというばかりではない、経済的に恵まれた学生や自宅通学する学生は、意外と質素に、山菜そばとかナポリタン (Naporitan) とかカレーライス (Japanese Curry) なんかで手際よくすませていたりするものなのだ。
腹が減ってしかたない大食漢は、ヴォリューム感のある揚げ物系の定食にはしるか、追加メニューの大盛りライスをオーダーするか、さもなければ牛丼 (Gyudon) にサイド・デッシュとして一品二品を加える筈なのだ。
ある意味で、中途半端に豪勢で、中途半端に満腹感を得られないもので、その上に、オーダーが入ってから調理するから待たされるメニューなのである [他の定食系メニューは、あらかじめ調理済みのモノを配膳すれば事足りる]。
そういう点も含めて、割高で贅沢なメニューであったのかもしれない。

だから、ちょっと気の利いた独り住まいの学生の大概は、己の数少ない自炊メニューのひとつにしょうが焼き (Pork Shogayaki) があるのである。

焼き肉のたれにあらかじめ漬け置きしなければならない手間も閑も必要としないから、食べたい時にすぐに造れる。
お米を磨いで、水に浸している間に、近所のスーパーに出向いて必要な食材を購入すれば、いい。財布の中身が許す限りの豚肉 (Pork) を食べたいだけ買ってくればいいのだ。肝心要の生姜 (Ginger) も既に当時からおろしたての生姜 (Ginger) をチューブ詰めにした本生生しょうがが出回っていたから、生の生姜 (Ginger) を擂る必要も斬り刻む必要もない。
食材の買い出しから還ってきたら炊飯器のスイッチをつけて、炊きあがった頃に、おもむろに焼き始めればいい。
それだけの事だ。

フライパンが暖まったら、油を敷いて豚肉 (Pork) を焼き始める。色がつき始めた頃を見計らって、本生生しょうがのチューブから捻り出した生姜 (Ginger) やその他のスパイスを適当に振りかけて、最期にざっと醤油 (Soy Sauce) をかけて出来上がりだ。
ちょっと火が通り過ぎて焦げたり難くなってしまっても、なぁに気にしない。肉汁がたっぷり出てれば、それだけでごはんのおかわりも出来るだろう。

そんな大雑把な自炊を、閑で閑で仕様がない休日にやっているから尚更に、4年間通っていた大学4階立ての一角であえてしょうが焼き定食 (Pork Shogayaki) を食べるのは、だからやっぱり贅沢なのだ。
他の揚げ物はそうはいかない。大量に必要としてその大部分が遺る油を始め、独り住まいが天麩羅 (Tempura) やフライ (Frying) を調理するのは、コスト・パフォーマンスが悪すぎるのである。

あぁ、はらがへってきた。

images
上記掲載画像は、『だってしょうがないじゃない』のシングル・カヴァー
作詞:川村真澄・作曲:馬飼野康二 ・歌唱:和田アキ子 (Akiko "Akko" Wada)。1988年の作品である。

肉もないんだけどね。

次回は「」。
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