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2012.01.12.17.53

『ほぼ日刊イトイ新聞』で、"特別掲載 短編『新宿鮫』" 大沢在昌『霊園の男』を読む

正月休みもあけて間もないこの6日から、『ほぼ日刊イトイ新聞』に大沢在昌の短編小説『霊園の男』が掲載されている。
それを遅まきながら読んでみた。

作品そのものは、『宝石 ザ・ミステリー』で初出されたものであって、今回の掲載は短編集『鮫島の貌 新宿鮫短編集』の発売にあわせてのものだと言う。

これから書くのは、その"読後感想文"である。出来るだけネタバレしない様に、また、ネタバレさせても未読の方の興味を削がない様な書き方を試みるが、やはりそこは短編なのである。物語の大筋にコミットせずに"読後感想文"を書くのはかなりの難題だ。

だから、未読の方は、こちらからアクセスして本編を堪能した後に、これ以降を読んで欲しい。

読切りの短編なのだから。

物語は、タイトルにある様に、都営小平霊園が舞台となる。
ほぼ日刊イトイ新聞』で初めて『新宿鮫』シリーズを知り、そこで『絆回廊 新宿鮫Ⅹ』を読んだぼくとしては、その続編かと読み誤ってしまう。
なにせ、その作品では新宿鮫こと鮫島は、己にとって大事なモノを喪ってしまうからだ。
だから、その人物への墓参が、この短編で語られるものと思ってしまったのだ。

しかし、その理解は、物語冒頭で都営小平霊園の描写が語られ終わると同時に、明らかな読み誤りであると気づかされる。

鮫島が出向いたのは、間野総治なる人物の墓所なのである。
そこに間野総治の息子を名乗る矢吹という人物が顕われる。
そして、矢吹と鮫島との対話から、間野総治という人物と彼の死が照射されていくのである。

この物語が語られている間、常にふたつのものが対比対立させられて語られていく。
相対している矢吹と鮫島は勿論のこと、間野と彼が殺害しようとした警視庁幹部香田、間野と鮫島、そして間野を巡るふたりの女。
否、登場人物だけではない。ふたつの対立すべき犯罪者組織や、警察組織のあり方、そして男と女の交錯する恋愛感情。
そういったいくつもの要素が絡みもつれたその結果が、間野の死であり、矢吹と鮫島がここに対立している所以なのである。

そんな様々な対立軸の間を回遊しながら、物語の主題である、ふたつの謎が次第に解明されていくのである。
ふたつの謎、それはとりもなおさず、間野のダイイング・メッセージ (Dying Message) と、矢吹が鮫島の眼前に顕われた理由である。

それらは物語最終局面において、そのダイイング・メッセージ (Dying Message) の矢吹なりの解釈が発せられた時点で、明らかになる。

何故、己の目的を遂げる為に間野は鮫島を殺害しようとしなかったのか。
その答えでもあると同時に、己に課した目的を果たさずにこのまま、この霊園を去る、矢吹の理由でもあるのだ。

ところで、先程、いくつもの対立軸があると書いた。
だが、この対立軸のそれぞれは、一方が他方のあるべき姿として存在している。否、あるべき姿というのは不十分な綺麗事の表現かもしれない。
身代わり、そう言い換えるべきなのだろう。
この物語に登場するいくつもの人物達は、己が遂げられないモノを他のナニモノかに託している。しかも、それはその当事者達にとっては、やりきれない想いをかかえさせられるモノなのだ。
矢吹もナニかの身代わりである様に、鮫島も誰かの身代わりなのだ。

だが、鮫島の身代わりとなる人物は、少なくとも、ここにはいない。
だから、読後遺るのは、やるせない虚無感ばかりなのである。

いっそ、これが純粋に短編として完結されるよりも、永い長編の開幕を告げる挿話であって欲しい。
そう思うのは、ぼくだけだろうか。

附記:
一方が他方の身代わりであると言う事は、裏を返せば、この物語の総ての存在は両義的である。
だから、ふたりの会話の端々に登場する、印象深い発言も常に、幾重にも重なられたイメージをもって顕われてくる。
結果、ふと、ふたつの意味のその一方しか解していなかったり、読み取るべき重要なモノを見逃してしまいそうになる。
物語が非常にソリッドな骨子しかないので、読み誤る危険性が常にあるのだ。
これがぼくが掲載日初日に投稿せずに、今頃になってこの"読後感想文"を発表した理由であるのだけれども、それはぼくの読解力のなさに起因するモノばかりとは限らない、と思う。
つまり、あえて誤読を誘発させる様な語り方をしていると、思うのです。
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