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2012.01.08.14.58

これもまた悪い夢の続き 39.

こんな夢をみた。

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The poster for the movie "Kitchen" directed by Yoshimitsu Morita, adapted from the novel "Kitchen" written by Banana Yoshimoto.

初夢でもないのは勿論、昨夜観た夢でもない。
実際に体験した旧い記憶の再現かもしれず、今夜観る筈のものかもしれない。

ぼくは独り、ちいさな試写室にいる。真っ暗なその室内は、狭く息苦しい。身体を小さく屈めなければ坐れない様な、黴臭い椅子が10脚程ある。前に4脚、後ろに6脚、都合10脚の椅子がその室内の殆どを占めている。
その中のひとつ、後列にぼくは坐ってじっと待っている。

しばらくすると目の前の小さなスクリーンに映像が映し出される。真っ白い光の羅列とそれを遮るフィルムの雨がしばらく続く。なにも写されていないそれは無音で、ぼくの後ろにある映写機の、フィルムを送るリールの音だけが大きく響く。

なにも写されていないそれは眩しくて、いつまでもそれを観ているのはいたたまれない。いつまで続くのだろう。
後ろにいる筈の映写技師に声をかけようと思ったら、ようやく光と雨の羅列とは違うものが映し出されている。

それは蒼ざめてセピア調の階調で撮影されたある台所だ。
画面正面にはいくつもの小孔が整然と並んでいて、そのいくつかに銀色の鉤が挿してあり、それぞれの鉤には鍋や釜や菜箸やお玉杓子といった台所用品がぶら下がっている。一見、整理整頓されている様で、実はその配置は、酷く雑然とした印象を受ける。
画面右端に湯沸かし器がはみ出ていて、そこから蛇口が一本伸びている。その蛇口の位置から、画面の下端が流し台にある筈だけれども、それは伺う事は出来ない。
そして恐らく、映されていない右側は明り取りの小窓でもあるのだろう。画面全体は、右からの光を受けて、薄白く光っている。

昭和の時代の、集合団地か文化住宅にある台所によく似ている。当時はかなりモダンで最新式の調度なのかもしれない。でも、現在の視点で観れば、そこは狭く薄汚れていて、とても不衛生にしか感じられない。
ぼくが10代まで棲み暮していた場所にあるものと、どこもかしこも共通点だらけだ。だが、今、映し出されている映像を得る為には、本来ならある筈の壁をぶち向く必要がある。イメージの中では御馴染みのアングルなのだけれども、それを実際の生活空間から得る事は出来ない。
やはり、撮影用にしつらえたセットなのだ。

やがて、その台所に有名なコメディアン集団のメンバーがひとりひとり代わる代わるに、登場する。
朝の出勤前の身支度と言う想定なのだろうか。あるモノは歯を磨き、あるモノは水を呑み、あるモノは持参したタオルで顔を拭い、あるモノは炊飯器からご飯をよそって退散する。
ひとりひとりの所作と登場時間は短いものの、必ずどこかで笑いを引き出し、自身の存在とそのキャラクター設定をアピールしている。
つまり、台所という舞台装置で、共同生活をしている筈の彼らの物語のその始まりで、個々のメンバーの人物紹介の様なシーンなのである。そして、その役割は他の映画やTV番組やステージで、ぼく達にも御馴染みのものである。だから、彼ら自身のパブリック・イメージを充分に引き受けて、それを解りやすく再現している様に観える。

この映像が映し出されてる間に、ぼくは見知らぬ土地を彷徨っていたり、数多くの知人に囲まれた宴席にいたり、別の夢を観ている。

でもいつのまにかまた、この狭い試写室に連れ戻されて、先程と同じ様に、同じ映像を観続ける羽目にある。
黴臭い椅子のひとつに押し込められて、無音の光とその続きを観る事になる。
その映像が再現される度に、そこに映し出されるコメディアンの一挙手一投足は、寸分も変わりがないものだ。

映画のフィルムの中の出来事だから当然だろう。
でも、これは夢なのだ。

いつもでたってもぼくは、その台所のシーンのその先を観る事も出来ずに、映写室とは無関係の場所で、異なる出来事に遭遇している。

そんな繰り返しが永遠に続くのか。

ふと、気がつくとぼくは寒さに凍えながら、夜の街にいる。見上げると観えるそのデコラクティヴなビルは都庁かもしれない。
それならば、今、ぼくがいるその先には、公園の暗い闇が広がっている筈なのだ。碧の樹々の薄ら寒いざわめきが聴こえ、水のとまった噴水には冷たい氷がはり始めているかもしれない。

でも、ぼくの向かう先はそうではない。どこまで往っても、ビルの連なりはいつまでも途切れる事はなく、人通りの途絶えた通りをビル風ばかりが吹き抜ける。

吐く息は白い。両の手はかじかんで、ポケットの中にあってもその凍えは強まるばかりだ。

ぼくは夜の街を歩き続けながら、ふと、溜息をつく。
これが夢ならばいいのに、と。

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The illustration of "The Little Match Girl" drawn by Harry Clarke from the short story "Den lille Pige med Svovlstikkerne" written by Hans Christian Andersen.
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