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2011.12.26.00.10

これもまた悪い夢の続き 38.

こんな夢をみた。

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"Geopoliticus Child Watching The Birth Of The New Man" by Salvador Dali

左掌には、ピンポン球程の大きさの卵がある。それはなんなのかと確かめようと顔のそばまでもっていく。少しちからを加えたらすぐに潰れる。
そして、中から黄土色のどろりとした固まりが流れ出て来る。肌に触れた瞬間に嫌な感じがして唾を呑込む。ぐしゃぐしゃになった殻から溢れ出すそれの形状は決して観ていて気持ちのいいものではないが、何故か、その流れ逝く様から視線を逸らす事は出来ない。
卵が割れた際に、その破片が傷つけたのだろうか。いつしか掌から血が噴き出している。痛みはない。夢だから当たり前か。白い殻から流れ出している黄土色の固まりは、掌から吹き出す血の紅と混じって赤黒く鈍く光る。遂には、掌におさまりきれない程にそれらは溢れ出して、手頸を伝い、ぼくの左腕を汚して流れて滴り墜ちる。

ぼくがいるそこは薄暗いレストランで、冷え冷えとした剥き出しのコンクリートの壁に囲まれて、黒い卓がいくつも並んでいる。その殆どは客達によって思い思いに占められていたが、なぜだか彼らは無言で卓に並ぶモノを貪り喰らっている。
誰もぼくに起こった出来事等、眼中にない様だ。

汚れてしまった左腕の始末をつけようと、同席のモノに一瞥して席を離れる。
彼なのか彼女なのか、その人物の身体はレストランの薄闇にまぎれ、誰だかぼくには検討もつかない。そのヒトも他の席の客達と同様に、ぼくには一切の関心も好奇心も払わない。

店のモノに案内を乞い手洗いの場所を聴くと同時に、ぼくの席の後始末を頼む。もう、食事どころではないからだ。
ぼくの席は黄土色と血の紅で薄汚く汚れ、そしてぼくの後を追う様に、薄汚い飛沫が、席からここまで続いている。

がらんとした館内を右往左往して目的の場所に着く。扉を開けてなかに入ると、そこは手洗いとは思えない程の広さだった。
否、高さと言い直すべきだろう。
ぼくがいる場所は、ほんの小さな踊り場になっていて、そこから下へと狭い階段が伸びている。吹抜けになっていると言えばいいのだろうか。扉を開けて中に入ったぼくは、建物の二階部分にあたる程の高さにある。
階段を下りた先の左側に鏡と洗面台が並び、その反対側の手前側が小用で奥の側に個室が並ぶ。その気があって背を伸ばせば、四方はともかく上方には無防備な個室の、その中も覗けるかもしれない。

すえた様な腐った様な匂いに満ちている。しかも、個室のどこかでは、吐き気に襲われている様だ。
と、同時に宥める様な叱りつける様な声もする。きっと、件の人物の連れかなにかだろう。うんざりしながらも、彼の介抱をしているのに違いない。

とてもあの狭い階段を降りていって己の汚れを落とす気にはなれない。さっきまで溢れ出していた黄土色と赤の混濁の流れはとっくに停まり、薄汚い瘡蓋となっている。
ふと観ると、ぼくのいる踊り場の隅に、清掃用具の置き場がある。扉を開けてみると、案の定、用具を洗う流し場が備え付けてある。
ぼくは、そこで水を流して腕を洗う事にする。
目の前の棚に、未使用のタオルを発見したので、それで濡れた患部とその周辺をぬぐってしまう。血の汚れはきれいさっぱりだが、黄土色の残滓はそこかしこにこびりついている。水だけでは落ちない様だ。

腕の汚れをすべて洗い流したいのはやまやまだが、すえた様な腐った様な匂いにはもう堪えられそうにもない。あきらめて、腕の汚れと水気を吸って襤褸雑巾様になってしまったタオルを打ち捨てて、ここを離れる事にする。

下では、まだ吐き気がおさまらない様だ。

待たせている連れに合流しようとして、足早で先程のレストランに戻ると様相が一変している。

先程の盛況振りから一転して、殆ど誰もいない。そして、僅かばかりに遺った客は皆、卓に突っ伏していたり椅子から転げ落ちたりしている。
ぼくの連れである筈の同席のモノもまた、行方をくらませている。
なにがあったのだろうか。
ただ、解るのは先程の手洗いと同じ様な、すえた様な腐った様な匂いに満ちている事だ。

そして、ふと己の左腕を観ると、黄土色と血の赤が混じって汚れているぼくの掌には、ピンポン球程の大きさの卵が握られているのだ。

恐らく、この卵を再び、ぼくは握り潰さなければならないのだろう。

気がつくと薄闇の中に身を横臥えている。頭からすっぽりと布団を被り、海老の様に身体を小さく丸め蹲っている。
夢だったのだろうか。
だが、夢の中の出来事にしては、まだ、あのすえた様な腐った匂いが鼻について仕方がない。左腕をみると全くの無傷で、勿論、ピンポン玉も卵もない。

あちらこちらで音がする。時計の音だ。柱時計の音、卓上時計の音、この部屋にあるいくつもの時計の音が、互いに反響しあい干渉しあい、不思議な音の連なりとなって聴こえてくる。それぞれの音は、同じ大きさで同じ尺度で一定の時を刻んでいる筈だ。しかし、今のぼくの耳には、顕われては消える不思議な音響となって聴こえる。ひとつの音に注視すれば、他の音はその一瞬は背後に廻るものの、いずれは次第にその存在を主張して来る。アンビエントな環境音楽の手法に従っている様にも聴こえるが、ひとつひとつの音は、一度耳についたら忘れられない、時を刻む無表情な機械音だ。

その音の不思議に囚われたぼくは、身動きすら出来ずに、黙って聴き入っている。

いつまでそこで聴き続けているのだろう。朝が来るまでか。否、朝と言うものが一体、ここに来るのだろうか。

己の居場所がおぼつかない上に、ここにこうしている己自身の有り処の不確かさに襲われて、なにをする事も出来ない。ただこうやって、布団の中にすっぽりとくるまれて、身を固くしたまま、聴こえる音に耳を澄ませている。
それで精一杯なのだ。

目覚ましの鳴るちいさな音がする。

己の尻にある携帯が鳴っているのかと思ってまさぐってみたら、そうではない。横一列に敷き詰められている寝床の向こうの方で、それは鳴っている。
ぼくの寝床は最端にあってぼくの左側にずうっと布団が並べられている。並べられた布団の列はどこまでも続き、果てしがない様に思える。勿論、そのひとつひとつの布団には、誰かがくるまれて寝入っている筈なのだ。
先刻来、聴こえているいくつもの時計の音は、その彼らのヒトリヒトリの持ち物なのかもしれない。

その布団の数軒先で目覚ましが鳴っている。
目覚ましの主はようやくその音に気づいて、居ずまいを正し始める。
母だった。
鳴り続ける目覚ましを慌てて止めて、先刻来の音が誰も起こしはしなかったかと辺りを伺っている。何も事態に変わりがないのを知り、次の行動へと移る。

母は無言で白い寝間着のまま、向こうの方へと駆けていく。

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The poster for the movie "The Sailor Who Fell From Grace With The Sea" directed by Lewis John Carlino, adapted from the novel "The Sailor Who Fell From Grace With The Sea" written by Yukio Mishima.
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