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2007.11.04.21.06

枯葉 Autumn leaves Les feuilles mortes


ライヴ冒頭、ヴァオリニストを従えてステージ下手から登場した椎名林檎が唄うのは「枯葉(原題:Les feuilles mortes 英題:Autumn leaves」。そこから怒濤のごとく「歌舞伎町の女王」に突入していく訳だけれども、そこから先は別の話。
ここでは、彼女が取り上げた「枯葉(原題:Les feuilles mortes 英題:Autumn leaves」の様々なミュージシャンによる様々な変奏を捜してみたいと思います。

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本来ならば、この曲を一躍スタンダード・ナンバーに昇華させた張本人、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)による名演をお聞かせすべきかもしれませんが、案の定と言うか、予定調和と言うか、この曲を演奏する"動くマイルス・デイヴィス(Miles Davis)"は発見出来ません。御興味のある方は、キャノンボール・アダレイ(Julian Edwin "Cannonball" Adderley)の『サムシン・エルスSomethin' Else)』に収録されています。そちらををお聴き下さい。
また、何故、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)の名演が、彼のこの作品に収録されているのかという疑問をお持ちの方は、こちらをお読みになるか、中山康樹の『マイルスを聴け!』をお読み下さい。



と、言う訳で、出鼻を挫かれた形でよろけた素振りをしながら、先ずは王道のジャズ・ピアノ・トリオの変奏を2ヴァージョンお聴き下さい。画面左がビル・エヴァンス(Bill Evans Trio)で、画面右がキース・ジャレット(Keith Jarrett Trio)です。
前者が、有名楽曲を素材にしてピアノ・トリオというフォーマットで、どこまで飛翔出来るのかという"実験"を始めたユニットであるのに対し、後者は様々な音楽的キャリアを積んだ三者が、如何に古典的なピアノ・トリオというフォーマットに準拠しながらも、新しい血を注げるのかという"実験"です。言い換えれば、現在のジャズ・ピアノ・トリオというフォーマットを産み出したのが前者であり、そのフォーマットが定型化し形式化した現在において、あえてジャズ・ピアノ・トリオに還って来たのが、後者です。この間、約数十年。ふたつの「枯葉(原題:Les feuilles mortes 英題:Autumn leaves」の間に横たわる歴史に思いを巡らさざるを得ません。


同じ様な事は、ギターにも言えて、生真面目なジョー・パス(Joe Pass)に対して、飄々とした面持ちなゴンチチ(Gontiti)のデュオとか。


スクエアなバーニー・ケッセル(Barney Kessel)に対して、アクロバティックな演奏を繰り広げるスタンリー・ジョーダン(Stanley Jordan)とか。
同じギターという楽器を題材にしながらも、ソロ・パフォーマンスやデュオ、アコースティックに対してエレクトリックと、ひとつの楽曲をキーワードにして、様々な演奏形態を楽しめる訳です。
また、その一方で、名称こそ一括りの一派絡げてギターとしていますが、音響に関する考え方(アコースティックとかエレクトリックとか)や、奏法が異なる以上、既に別の楽器となってしまったのではないかと思います。


閑話休題(あだしごとはともかく)。
勿論、ギターに限らず、スタン・ゲッツStan Getz)のテナー・サックスによるエモーショナルな演奏や、再結成コンサートでの情感漂うJ.J.ジョンソンJ.J. Johnson ) & カイ・ウィンディング(Kai Winding)[と言うか、ここではJ.J.ジョンソンJ.J. Johnson )のソロ・パフォーマンスだけれども]のトロンボーン・ソロとか、 ゲイリー・バートンGary Burton)のヴァイヴをフィーチャーしたアーマッド・ジャマル(Ahmad Jamal)カルテットの端正な演奏等、枚挙に暇がありません。


しかしながら、元々はこの楽曲はヴォーカル・ナンバーなので、ここでは男声ヴォーカルを2ヴァージョン紹介しましょう。
個人的には、画面左の小粋で小洒落たナット・キング・コールNat King Cole)は許容範囲だけれども、 画面右のフランク・シナトラFrank Sinatra)の華麗にして豪華なバックの演奏はトゥー・マッチな印象を持ってしまいます。


だから、トゥー・マッチ次いでに、画面左のオーケストラ編成のレス・バクスターLes Baxter's Orchestra)も聴いてみましょう。ここまで来ると、元曲本来の歌詞のメッセージにそぐわない印象を持ってしまいますが、これも有名になりスタンダード化した曲の運命でしょう。だからこそ、画面右のJATP(Jazz at the Philharmonic)を名乗る彼らの演奏の様に、セッション的なアプローチでソロを廻す為の動機(モチーフ)としても機能します。



なので、拡大解釈されて半ば誇張化・肥大化されてしまった楽曲のイメージを修正する為に、この曲が誕生した国、フランスではどの様に唄われていうのか、聴いてみましょう。
この男声女声各々で唄われるヴァージョンを念頭に、これまで聴いて来たヴァージョンを振り返ってみると、各々の編曲者(演奏者)の頭の片隅に、この曲がフランス生れのシャンソン(Chanson)・ナンバーであるという無意識な認識がある事が解ります。これまでの幾つものヴァージョン各々に潜む、異国情緒(エキゾチズム)は、そこから派生しているのではないか、と思います。
Les feuilles mortes」という仏語が「Autumn leaves」と翻訳された時点で失われてしまった微妙なニュアンス、これに自覚的な編曲・演奏は、なんとかして、この微妙なニュアンスを再獲得しようと格闘している様に、この母国語で唄われるふたつのヴァージョンを聴くと感じられます。
ちなみに男声がイヴ・モンタン(Yves Montand)、勿論、この曲のオリジナル・シンガー。
女声はジュリエット・グレコJuliette Greco)、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)の滞仏時代には恋愛関係が噂されたのが彼女です。下世話を承知で書くと、イヴ・モンタン(Yves Montand)のオリジナル・ヴァージョンのヒットを受けて、その楽曲をマイルス・デイヴィス(Miles Davis)に伝授したのがジュリエット・グレコJuliette Greco)だったりして?


ヴォーカル・ヴァージョンと言いながら、先程は、男声ヴァージョンのみを紹介しました、と、言うのは、女声ヴァージョンでは面白い試みを行っているものがあるのです。そちらをここでは紹介します。
画面右のサラ・ヴォーンSarah Vaughn)のものでは、ヴォーカル・ナンバーと言いながら、歌詞を唄うのは冒頭のほんの数フレーズで、あとは、スキャットScat)のみ。しかも原曲のメロディの存在感は微塵もなく、殆ど全く新しいナンバーとしてアプローチしています。尤も、ここでは共演のウィントン・マルサリス(Wynton Marsalis)のトランペット・ソロを意識した器楽的なアプローチとも解釈出来ますが、この共演の後ここでのアプローチをさらに押し進めた、彼女自身のアルバム『枯葉Crazy and Mixed Up)』で、全く新しい「枯葉(原題:Les feuilles mortes 英題:Autumn leaves」を聞かせてくれます。
そして、もう一人はエヴァ・キャシディEva Cassidy)。彼女はアコースティック・ギター弾き語りというアプローチで、サラ・ヴォーンSarah Vaughn)同様に新しい「枯葉(原題:Les feuilles mortes 英題:Autumn leaves」を紡ぎだしています。しかも、サラ・ヴォーンSarah Vaughn)の場合は、彼女自身の声質と声量と音楽的センスによった彼女自身でなければ生み出せないパフォーマンスで他の追随を許さないのに対して、エヴァ・キャシディEva Cassidy)の場合は、彼女が産み出した新しいメロディ・ラインに則って唄うシンガー達が数多く登場しているのです(Youtubeで、「Eva Cassidy Autumn leaves」で検索してみて下さい)。もしかしたら、新しいスタンダード・ナンバー「Autumn leaves by Eva Cassidy Style」の誕生かも知れません。


さて、紙幅が尽きつつあります。
個人的なベスト・トラックをここで紹介してこの拙論を終える事にしましょう。
コールドカット(Coldcut)のヴァージョンです。しかも、画面左で聴く事の出来るヴォーカル・ヴァージョンではなくて、画面右のナレーションやら台詞やらの彼方で、映像を邪魔しない様に鳴り響いているインストルメンタル・ヴァージョンの方です。どうやら映画『エターナル・サンシャイン( Eternal Sunshine of the Spotless Mind)』で使用されたサウンドトラックらしいのですが、あの有名なメロディが分解されて粉砕されて細分化されて原型も殆ど留めていないのにも関わらず、そこにはあの楽曲の持つ独特のモードが抽出化されて濃密なアトモスフィアを醸し出しています。
もしかしたら、最も正確に丁寧にこの楽曲を理解したアプローチなのかもしれません。

耳を澄ませて聴いてみて下さい。それが、この曲の正しい聴き方かも知れませんから...
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comments for this entry


>シマゾウさん

はじめまして。ご丁寧なコメントありがとうございます。
最初はYoutube画像で、この曲を検索してみたら(スタンダードとはいえ)、
思いもよらぬ程、名演・名唱が発見出来たので、まとめてみました。

各々のアーティストの様々な解釈は、検索している最中は、楽しかったです。

2007.11.28.19.04. |from たいとしはるfeat.=OyO=| URL


はじめまして。シマゾウと申します。写真系ブログをやっております。
今回は「枯葉」と「ビル・エヴァンス」と「キース・ジャレット」つながりで拝見させていただきました。
たいとしはる+feat.=OyO=さまの素晴らしいご解説を拙ブログにてご紹介させていただきました。
どちらも久しぶりにアルバムで聞きたくなりました。
他の楽曲も是非聴いてみたいと思います。
ありがとうございます。

2007.11.28.05.41. |from シマゾウ| URL [edit]


>minさん

>椎名林檎のこのLIVE、dvdにならないんでしょうかね
EMI / Virgin のディスコグラフィも観てみましたが、なかったですね。
当初は、TVオンエア用として収録されても、後々、折をみて発売される可能性も
全くないとは限りませんけど。

>Janin IanのLove is Blindも大好きなのですがこのliveで歌われたかしら
同じLiveからの映像かどうか解りませんけれども、ここで観る事が出来る様です。
http://jp.youtube.com/watch?v=dwW0JRyrEQc

2007.11.11.19.10. |from たいとしはる+feat.=OyO=| URL


椎名林檎のこのLIVE、dvdにならないんでしょうかね
amazonで検索してみたのですがまだなっていないみたいで。。
U-tube見ただけで即買いたくなっちゃいました
 彼女の洋楽のカバーではJanin IanのLove is Blindも大好き
なのですがこのliveで歌われたかしら・・

2007.11.11.14.59. |from min| URL [edit]

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