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2011.08.23.21.18

やわら

参議院議員 (The Member Of The House Of Councillors) の谷亮子 (Ryoko Tani) は、かつては世界有数のトップ・アスリート。オリンピック (Judo At The Summer Olympics) で2度、世界選手権 (World Judo Championships) で7度、金メダルを獲得した女子柔道 (Women Judo) の選手である。段位は4段 (Fourth Dan)。
そして、彼女の現役時代のニックネームがヤワラちゃん (Yawara-chan) である。

なお、この文章は、その彼女のニックネームである"やわら"のオリジンを求めて、源流へと遡るつもりだから、谷亮子 (Ryoko Tani) 議員の出番はここまでである。
検索エンジンかなにかでここに辿り着いてしまった方々には申し訳ない。小沢一郎 (Ichiro Ozawa) 派の民主党 (The Democratic Party Of Japan) 新人議員としての活動や、「ママでも金」や「谷亮子でも金」や「ようやく初恋の人に出会えた」という様な現役選手時代のエピソードに触れたい方は、他を当たって下さい。

さてと、彼女がヤワラちゃん (Yawara-chan) と呼ばれるのは、彼女が柔道 (Judo) 界に顕われた頃に、女子柔道 (Women Judo) をテーマとした漫画『YAWARA! [ヤワラ] (Yawara! A Fashionable Judo Girl)』 [浦沢直樹 (Naoki Urasawa) 作 ビッグコミックスピリッツ 19861993年連載] が連載されていたからである。同名のアニメ作品『YAWARA! [ヤワラ] (Yawara! A Fashionable Judo Girl)』 [よみうりテレビ系列 19891992年放映] もあれば、その映画化作品『YAWARA! それゆけ腰ぬけキッズ!!』 [ときたひろこ (Hiroko Tokita) 監督作品 1992年制作] もある。
その映画化作品が公開された年である1992年2月には、結婚前の当時、田村亮子 (Ryoko Tamura) を名乗っていた彼女は、グランプリ・デュッセルドルフ [当時:ドイツ国際柔道大会] (IJF Grand Prix Dusseldorf [IJF Grand Prix Germany]) でオール一本勝ち (Ippon) で優勝、また、同年7月のバルセロナオリンピック (The Games of the XXV Olympiad) では銀メダルを獲得している。

この一連の『YAWARA! [ヤワラ] (Yawara! A Fashionable Judo Girl)』作品とその主人公である猪熊柔 (Yawara Inokuma) をもじって、彼女の事をヤワラちゃん (Yawara-chan) と呼び習わしている訳だけれども、肝心要の、猪熊柔 (Yawara Inokuma) と田村亮子 (Ryoko Tamura) との共通点は意外に少ない。
ついでに、念を押す意味でも書いておくけれども、漫画『YAWARA! [ヤワラ] (Yawara! A Fashionable Judo Girl)』 [浦沢直樹 (Naoki Urasawa) 作 ビッグコミックスピリッツ 19861993年連載] には実写版映画『YAWARA! [ヤワラ]』 [吉田一夫監督作品 1989年制作] もあるのだけれども、そこで猪熊柔 (Yawara Inokuma) を演じた浅香唯 (Yui Asaka) と田村亮子 (Ryoko Tamura) との共通点もあまりない、と思う [双方共に著名人だけれども、そこはそれ、両者共に女性だから曖昧な表現にすべきだと思うんだ]。

話題がそれてしまいそうだから、慌てて軌道修正する。

猪熊柔 (Yawara Inokuma) と [当時の] 田村亮子 (Ryoko Tamura) には、柔道 (Judo) に無茶苦茶強い十代の女の子というところだけが共鳴しているだけで、それ以外の物語上の設定とパブリック・イメージは、むしろ、正反対とも呼ぶべきあらぬ方向を目指しているのだ。

例えば、田村亮子 (Ryoko Tamura) には「柔道のことを忘れた日は一日も無かった」という様な、柔道 (Judo) への一途な想いを顕わした発言は、枚挙に暇はない。

しかしその一方で彼女のニックネームの由来である猪熊柔 (Yawara Inokuma) には、柔道 (Judo) よりももっともっと重要なものが一杯あったのである。それは十代の少女が抱いたり望んだりする、極当たり前のモノモノである。にも関わらずに、それらを諦めて [もしくはそれをダシにされて] 柔道 (Judo) に向かわざるを得ない状況に次から次へと猪熊柔 (Yawara Inokuma) が追い込まれて行く、これがこの漫画『YAWARA! [ヤワラ] (Yawara! A Fashionable Judo Girl)』 [浦沢直樹 (Naoki Urasawa) 作 ビッグコミックスピリッツ 19861993年連載] の面白さなのである。
それを知ってか知らずか「 [呼び名は] ヤワラちゃんでいいです」という発言を田村亮子 (Ryoko Tamura) はしているのだが、本人はどこまでそれを意識していたのだろうか。
つまり、彼女の発言を真正面に捉えれば、自身としてはヤワラちゃん (Yawara-chan) と呼ばれるのは不服であるとも、「谷でも金」という発言が後に登場する遥か以前に、猪熊柔 (Yawara Inokuma) が望んでるモノは既に手に入れたとも聴こえるからなのだ。

その猪熊柔 (Yawara Inokuma) に天性の柔道 (Judo) 家としての素質を見抜き、彼女に英才教育を施したのが、彼女の祖父である猪熊滋悟郎 (Jigoro Inokuma) である。
そして彼の愛唱歌が『柔 (Yawara)』 [作詞:関沢新一 (Shinichi Sekizawa) 作曲:古賀政男 (Masao Koga)]。孫娘の名前もここからとられたんぢゃあなかったっけ?
1964年に美空ひばり (Hibari Misora) の歌唱によって大ヒットした。美空ひばり (Hibari Misora) のシングルとしては、最高の売り上げ記録を誇り、発売翌年には第7回日本レコード大賞 (Japan Record Award) を受賞した。彼女を代表する楽曲のひとつである。

それだけにこの『柔 (Yawara)』 [作詞:関沢新一 (Shinichi Sekizawa) 作曲:古賀政男 (Masao Koga)] という曲の出自は、半ば忘れられている感がある。ぼくも知らなかった。
TVドラマ『』 [日本テレビ系列 1964年放映] の主題歌だと言うのである。発見した資料によれば、講道館 (The Kodokan Judo Institute) の創設者嘉納治五郎 (Kano Jigoro) に材を得た物語で、原作が富田常雄の同名小説『』 [1964年発表]。
と、言う事は、同じ小説家のあの物語、もうひとつの『姿三四郎』 [1942年発表] なのだろうか。

姿三四郎』 [1942年発表] までこの文章の矛先を延ばしていいのだとしたら、ぼくがこの物語を知ったのはみなもと太郎による漫画化作品『姿三四郎』 [ 週刊少年マガジン 1972年連載] だし、そのイメージに引きずられて観た再放送に違和感を持て余したのが、竹脇無我が主演のTVドラマ『姿三四郎』 [日本テレビ系列 1970年放映] だし、それよりもそんな事よりも黒澤明 (Akira Kurosawa) 初監督作品の『姿三四郎 (Sanshiro Sugata)』 [1943年制作] を忘れる訳にはいかないのだ。

しかし、流石に、そこまで関わずらっては面倒だ。
だから、ここでもと来た道を引き返してみようと思う。

嘉納治五郎 (Kano Jigoro) が講道館 (The Kodokan Judo Institute) を興し、全国に諸派諸流が存在していた柔術を統合して柔道 (Judo) と称した。1882年の事である。
歴史教科書的には、自由民権運動 (Freedom And People's Rights Movement) が激化して「板垣死すとも自由は死せず」を産んだ岐阜事件が起きたのもこの年だし、海外に眼を転ずれば植民地再編の動きが加速して、独墺伊三国同盟 (Dreibund / La Triplice alleanza) が出来たのも英埃戦争 (Anglo-Egyptian War) が起きたのもこの年だ。そんな海外の動きに揺さぶられて、翌1883年には鹿鳴館 (Rokumeikan) が落成する。不平等条約 (Unequal treaty) 撤廃を目指す欧化政策がはじまるのである。断髪令 [1871年] が出され、"文明開化の音がする"と言われて10年の後の事である。
日本的な旧来のものを否定して欧米のものに関心がむく風潮を受けて、柔術を始めとする武道を習得しようとするモノは減少していた。その一方で、国内外の政情不安を受けて、護身術的なモノや格闘術的なモノの需要は確実にあった。それは反体制側にも体制側にもだ。
嘉納治五郎 (Kano Jigoro) の柔道 (Judo) は、そんな風潮を受けてスタートした。
柔道 (Judo) を学びに彼の許に訪れたのは、開化や欧化の風潮に叛を唱えて国士を気取るバンカラな青年達だろうし、その一方で、そんな彼らを取り締まる側である警視庁 (Metropolitan Police Department) の必修科のひとつとしても柔道 (Judo) は選ばれていくのだ。
だから、日本的な旧来的なモノのいくつかを取捨し、と同時に遺すべきものは遺し、さらに欧米でも通用する様な近代的な概念を導入する必要があったのである。

その過程に於いて、どうしても遺さねばならないもののひとつが"やわら"というイデアであったのだろう。

柔 (Yawara)』 [作詞:関沢新一 (Shinichi Sekizawa) 作曲:古賀政男 (Masao Koga)] という歌が産まれ大ヒットしたのは、柔道 (Judo) がオリンピック (Judo At The Summer Olympics) 競技として正式に導入された東京オリンピック (The Games of the XVIII Olympiad) が開催された1964年だった。
そこで行われたのは男子のみの四階級であった。体重別の三階級では日本選手が金メダルを獲得したが、"柔能克剛 [柔よく剛を制す] (To a hard anvil, a feather hammer.)"筈の無差別級 (The Open Weight Division) ではアントン・ヘーシンク (Anton Geesink) のものとなった。
当時の関係者は忸怩たる思いがあったに違いなく、ぼくの記憶に間違いがなければ、その後に創られる柔道 (Judo) をテーマにしたドラマや漫画はみな、ここでの遺恨がモチベーションとなって、登場人物達は皆、オリンピック (Judo At The Summer Olympics) を目指していた様な気がする。
しかし、逆に観れば、ここでの敗北があったが故に、柔道 (Judo) は世界スポーツへと到達したとも言えるのではないだろうか。

漫画『YAWARA! [ヤワラ] (Yawara! A Fashionable Judo Girl)』 [浦沢直樹 (Naoki Urasawa) 作 ビッグコミックスピリッツ 19861993年連載] にしても同じ事。
祖父である猪熊滋悟郎 (Jigoro Inokuma) のモットーが「一本取る柔道」でありポイント制や判定制での勝利は、彼の眼中にはない。彼の理想の柔道 (Judo) とは、当時の潮流であるスポーツとしての柔道 (Judo) とは、全く逆の方向を目指していのである。
しかし、己の理想の柔道 (Judo) を体現させるべき孫の猪熊柔 (Yawara Inokuma) は、女子選手である。
彼が執着している金メダルと国民栄誉賞 (People's Honour Award) を彼女に強要させるそのバルセロナオリンピック (The Games of the XXV Olympiad) は、女子柔道 (Women Judo) が正式種目となった最初の大会なのである。
"やわら"的なるものを達成するには、非"やわら"的な舞台で活躍するしかないのだ。

どうやら、国際化や一般化や普及化やスポーツ化がすすむ毎に、それに異を唱えるかの様に、武道としてのアイデンティティである"やわら"が登場する様なのである。

そう言えば、現参議院議員 (The Member Of The House Of Councillors) の谷亮子 (Ryoko Tani) が現役時代の田村亮子 (Ryoko Tamura) であった頃に論議を呼んだのが、国際試合での青い道着 (Blue Judogi) の着用であった。日本柔道界としては受け入れ難いこの青い道着 (Blue Judogi) を着用して、田村亮子 (Ryoko Tamura) は金メダルを目指したのである。
ちなみにこの青い道着の推進者はかのアントン・ヘーシンク (Anton Geesink)。彼はここでも"やわら"の前に立ちはだかっているのだ。

好悪は別にして、他のスポーツの傾向をみれば、いずれは国別やチーム別で異なる道着の着用が行われたり、ホームとアウェイで道着を使い分けたりする、そんな提案や時代が来るかもしれない。
それをどうするのかは武道とスポーツの狭間に立つモノが考えるべき事だし、それによって"やわら"がどう変質してゆくか否かという問題なのだと思う。

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そしてその時になって、再び"やわら"のイデアが憶い起こされて、それを体現したかの様な、新しいヤワラちゃん (Yawara-chan) が登場するのではないだろうか。
そんな時にまた、谷亮子 (Ryoko Tani) は発言するのに違いない。既に猪熊滋悟郎 (Jigoro Inokuma) の年齢に達していたとしても。
「ヤワラちゃんでいいです」、と。

次回は「」。
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2011.08.31.08.07 |from 歌の上達法【完全歌唱】

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