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2011.05.31.21.21

なすたーしゃきんすきー

「おまえに娘が産まれたら、きっとナスターシャ・キンスキー (Nastassja Kinski) の様な美人になるに違いない」
と、ぼくに嫌らし気に囁いたのは、Mくんだった。

彼は当時、公開されたばかりの映画『テス (Tess)』 [ロマン・ポランスキー (Roman Polanski) 監督作品 1979年制作] でタイトル・ロールを演じたナスターシャ・キンスキー (Nastassja Kinski) [当時18歳] にぞっこんだった。その映画が如何に素晴らしいのか、そして主役を演じた彼女が如何に素晴らしいのかをこの後、延々と聴かされる羽目にぼくは陥るのだが、冒頭に掲げた彼の発言の主旨は、そこにはない。
彼が言いたかったのは、彼女が怪優クラウス・キンスキー (Klaus Kinski) の娘である事が驚きであると同時に、ぼくの容姿が彼にそっくりだとあげつらいたかっただけなのである。

彼の自信満々のその発言はしかしながら、ナスターシャ・キンスキー (Nastassja Kinski) の母親であるルース・ブリギッテ・トツキ (Ruth Brigitte Tocki) の様な容姿の女性とは、ぼくは未だに縁がないので、残念な事に彼の預言 (Prophecy) は未だに成就されていない。

恐らく預言者 (Prophet) であるところのMくんは、当の昔に己の下した審判 (Judgement) なぞ、とっくに忘れてしまっているのかも知れないけれども、預言 (Prophecy) された方の当事者は、これこの通り、いつまでも憶えているものなのである。
例え、その預言 (Prophecy) が陳腐で凡庸で採るに足らないものであっても、だ。
預言者 (Prophet) はいかなる時でも都合良く己の預言 (Prophecy) を忘れる。
しかし、その預言 (Prophecy) された方の当事者は、その預言 (Prophecy) が成就されるか否か、永遠にその審判 (Judgement) が下されるその行く末を待っているものなのだ。
だから、似非であろうと真性であろうと、預言 (Prophecy) を司ろうとするモノは、その事だけは忘れない方がいい。
確かにきみは預言者 (Prophet) として悲劇的な末路へと向かうであろう。
しかし、それを演出し、己の生命を危うくするのは、決して無辜の罪でも無実の罪でも冤罪でもないのだ。
過去、かつて己が発した預言 (Prophecy) の、それ自体への審判 (Judgement) が下される時が来たと憶えたが良かろう。

と、言う様な戯言はさておき、ナスターシャ・キンスキー (Nastassja Kinski) である。

[数十年前の] Mくんにとっては、それはナニを隠そう、包み隠さずに『テス (Tess Of The D'Urbervilles)』 [トマス・ハーディ (Thomas Hardy) 原作 1891年発表] なのだろうけれども、ぼくにとっては熊の着ぐるみ (Bear Custume) に己の肢体を隠したスージー・ザ・ベア (Susie The Bear) なのである。
つまり、映画『ホテル・ニューハンプシャー (The Hotel New Hampshire)』 [トニー・リチャードソン (Tony Richardson) 監督作品 1984年制作] に出演した彼女なのである。

どうせ、似非ファー素材に身を包んだ彼女を挙げるのであるならば、その映画と同じ年の、背中がざっくりとあいたショッキング・パープルの悩まし気な方が、お気に入りでなおかつそちらの彼女をお薦めしたい、そんな方もいるかもしれない。
しかし、映画『パリ、テキサス (Paris, Texas)』 [ヴィム・ヴェンダース (Wim Wenders) 監督作品 1984年制作] をぼくが体験するのは、もう少し後の事になる。映画公開時にリアル・タイムでは観ていないのだ。

申し訳ない。

だから、映画『ホテル・ニューハンプシャー (The Hotel New Hampshire)』 [トニー・リチャードソン (Tony Richardson) 監督作品 1984年制作] でのナスターシャ・キンスキー (Nastassja Kinski) [当時23歳] にお付き合い願いたい。

彼女が演じたスージー・ザ・ベア (Susie The Bear) は、過去のある事件がトラウマ (Trauma) となって、己の肢体を人前に曝す事が出来なくなった女性である。だから、スージー・ザ・ベア (Susie The Bear) はその名が示す通りに、常に熊の着ぐるみ (Bear Custume) を着て、物語に登場する。
つまり、映画が上映されている間ずっとスージー・ザ・ベア (Susie The Bear) に扮するナスターシャ・キンスキー (Nastassja Kinski) はその殆どで、熊の着ぐるみ (Bear Custume) を着た姿で、顕われるのである。
しかし、性差を奪う筈の熊の着ぐるみ (Bear Custume) が、妙に艶かしくいやらしい。
熊のマスクを剥いだ彼女の全身を覆い隠す、もこもことした、文字通りのフェイク・ファー (Fake Fur) と、その上にのっかる彼女の美貌との落差がそうさせるのか。それとも、着ぐるみを着ている結果の汗で、ざんばらんの髪のうねりと汗まみれの顔が、隠された肢体の美しさを想起させるのか。

映画に登場する人物達の誰もが皆、こころに大きな傷をもっている。
ナスターシャ・キンスキー (Nastassja Kinski) 扮するスージー・ザ・ベア (Susie The Bear) は、その傷を隠す為に熊の着ぐるみ (Bear Custume) を着て、その結果、その傷の大きさが誰にでも解ってしまう。つまり、隠す事は曝す事であり、曝す事は隠す事でもあるのだ。
そして、彼女とは大同小異なこころの傷を抱えた多種多彩の登場人物達の、その傷と傷が触れあい擦れあいながら、物語は進展していく。その触れあい擦れあいが、もしも現実の世界に起こりえたのならば、誰でも大きなダメージとなって現実世界に復帰出来ない様な、そんなエピソードばかりが、物語の舞台であるホテル・ニューハンプシャー (The Hotel New Hampshire) で繰り広げられる。
しかし、少なくともこの映画の中では、その辛く哀しいエピソードがあっけらかんと、哀しくも可笑しい人間喜劇 (La Comedie humaine) を装いながらも、愉し気に綴られて行くのである。

それは、映画の原作である同名の小説『ホテル・ニューハンプシャー (The Hotel New Hampshire)』 [1981年発表] の世界をそのまま受け継いだものであり、その世界は作者ジョン・アーヴィング (John Irving) ならではのものだから、である。

そのジョン・アーヴィング (John Irving) と言えば、彼の小説の中には熊が良く登場するのだけれども [そもそもがデヴュー作が『熊を放つ (Setting Free The Bears)』 [1968年発表] ]、熊の着ぐるみ (Bear Custume) に己の肢体を隠し続ける女性、スージー・ザ・ベア (Susie The Bear) という発想は一体、どこから顕われて来たのだろうか。

と、いうのは、小説『ホテル・ニューハンプシャー (The Hotel New Hampshire)』 [ジョン・アーヴィング (John Irving) 原作 1981年発表] が世に出た年と同じ年に、ナスターシャ・キンスキー (Nastassja Kinski) [当時20歳] は映画『キャット・ピープル (Cat People)』 [ポール・シュレイダー (Paul Schrader) 監督作品 1981年制作] で主演して、黒豹 (Black Panther) と化しているからなのだった。
映画『キャット・ピープル (Cat People)』 [ポール・シュレイダー (Paul Schrader) 監督作品 1981年制作] で黒豹 (Black Panther) 化する女性を観たジョン・アーヴィング (John Irving) が熊化する女性を思いついて小説の登場人物に仕立て上げ、それを映画の制作者がそのまま映画的に引用 (citations de films) して、黒豹 (Black Panther) 化した女優に今度は、 (Bear) 化した女性の役を宛てがう ... 。

単純に時系列だけで振り当てた、当てずっぽうのデタラメにしか想えないかも知れない。
けれども、黒豹 (Black Panther) 化するのも (Bear) 化するのも、その発端はどちらもセックスなのだから .... 。

と、ここで黒豹 (Black Panther) だ (Bear) だと、ネコ科 (Felidae) とクマ科 (Ursidae) の差異を争って一ネタ設けようと思っていたら、耳許に囁くこんな声が聴こえた。
「そもそもナスターシャ・キンスキー (Nastassja Kinski) は、 (Serpent) で"化けた"んぢゃあなかったっけ?」

images
ナスターシャ・キンスキーと蛇 (Nastassja Kinski And The Serpent)』 photo by リチャード・アヴェドン (Richard Avedon) [ヴォーグ (Vogue) 誌 1981年撮影]

次回は「」。
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