this night wounds time, "NEVERMIND" by NIRVANA
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2011.05.15.15.43

"NEVERMIND" by NIRVANA

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東京で秋だった。だがその夏の暑さにそのまんま引き連られている様な、明るい陽が射していた様な記憶がある。その年の夏が暑かったのかどうか、そんな事は憶えていない。渋谷の街の至る所に大型のレコード店舗がひしめき合っていて、その陳列棚は今よりももっと眩しくて明るく客を呼び込んでいた。手書のポップの文字が小躍りし、蛍光色で飾られ、読みにくい文字はさらに読みにくくなっていたけれども、その読みにくさがCDを手に取らせるのだ。
1991年の事だ。

決してアルバムの評価は芳しいものではなかった。尤も、それはぼくの周辺に限っての事だけれども。

「とりあえず聴いてみたけどさ」
「まぁ、あんなもんかな」

シアトル (Seattle) とかグランジ (Grunge) とか、もてはやされて、話題になってブームになったかどうかは、問題ではなかった。すくなくともぼく達の間では。
ニルヴァーナ (Nirvana) というバンドは、その二年前にサブ・ポップ (Sub Pop Records) からアルバム『ブリーチ (Bleach)』一枚を発表したばかりのワン・オヴ・ゼム (One Of Them) であって、むしろ問題なのは、彼らがゲフィン (The David Geffen Company) からメジャー・デヴュー出来た事の方がいぶかしいばかりであった。
バンド自身よりも、ブッチ・ヴィグ (Butch Vig) とアンディ・ウォレス (Andy Wallace) のコンビネーションの方が、商品としての可能性を予感させていた。

彼らに先駆ける形で、ゲフィン (The David Geffen Company) からメジャー・デヴューしたソニック・ユース (Sonic Youth) からの推挙があったという噂が流れていたのだけれども、逆にそれはぼく達の疑念が増すばかりであった。彼らならば、というかそんなおせっかいをするのはサーストン・ムーア (Thurston Moore) かキム・ゴードン (Kim Gordon) のどちらかだろうけれども、もっと他のバンドを挙げていてもおかしくはなかった。
そう思ったぼく達の考えは、半分はあたっていて半分は間違えていた。

ソニック・ユース (Sonic Youth) 云々という言説の信憑性はともかく、『ネヴァーマインド (Nevermind)』はヒットした。ヒットどころか大ブレイクだ。

どこでどう間違えて、というのもお門違いだけれども、レコード会社とそれに追従する媒体の戦略と戦術とその励行で、『ネヴァーマインド (Nevermind)』は売れに売れて、ニルヴァーナ (Nirvana) は次代を担うバンドと化して、カート・コバーン (Kurt Cobain) は時代の寵児となった。

客入れ中のあるイヴェントで『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット (Smells Like Teen Spirit)』が鳴るや、フロアは異様な高潮感に包まれた、そんな記憶がある。
一方のぼくは、記憶の隅をつっつきながら、誰の曲で誰の演奏なのか必死で憶い起こそうとしていたのだけれども。何故ならば、このリフとこのメロディは、既にどこかで聴いていた馴染みのある曲だったからだ。
つまりぼくにとっては、聴き流しの聴き捨てのアルバムの一枚であって、にも関わらずに、その楽曲は既視感を伴う程に、印象深かったのだろう。

当時は聴き流しの聴き捨てだった『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット (Smells Like Teen Spirit)』は、今現在の方が良く聴く。ほんとに想い出した様にだが。
でも、それは虚無に包まれた「ハロー・ハロー (Hollo, How Low)」があるからではない。オープニングのギター・カッティングが小気味いいからだ。あれを聴きたいが為に、想い出す。
だって、「ハロー・ハロー (Hollo, How Low)」と唄った当の本人は、とっくの昔に死んでしまったぢゃあないか。

彼らの初来日時 [1992年] と、それを伝える音楽誌に掲載された、パジャマ姿のカート・コバーン (Kurt Cobain) の異様な立ち居には、ぎょっとしたものだ。ぼさぼさの髪と無精髭、しまりのない唇許と虚ろな瞳。
でも、彼のパブリック・イメージと言えば、それだろう。いつも彼は消耗し憔悴し疲労困憊の装いだったぢゃあないか。それは自己演出もあるに違いないのだ。
そんな認識で、『ネヴァーマインド (Nevermind)』のブックレットを開くと、蒼い澄んだ瞳と衒いのない微笑みのカート・コバーン (Kurt Cobain) の写真が掲載されていて、その変貌振りに吃驚してしまう。

1991年の当時、既に古典的で典型的な物謂いでしかなかった『勝手にしやがれ (Never Mind)』というタイトルの中で、水中に漂う幼児の眼の前に、針に掛かった一弗札 ($1 United States Bill) を観せられる。
総てはあらかじめ仕組まれていて、解りきった結果だけを追い求めている。
幼児はなにをすべきか、一弗札 ($1 United States Bill) の主はなにをすべきか、その選択肢はあまりに少ない。

だが、今更の様にそれに気づいた幼児は、大慌てで羊水で満たされた場所 [『イン・ユーテロ (In Utero)』 [1993年] へと還ってしまう。
己の産まれた場所に還ってしまったのならば、還ってしまったなりに、いくらでも考えるべき術も行うべき術もあったのかもしれないが、幼児はそこで最終決断を下してしまったのだ。

なぜ、こんな解りやすい図式に追い込まれてしまったのだろう。

彼はアクセル・ローズ (W. Axl Rose) の様に生き延びる事が出来たのかも知れないけれども、彼自身はアクセル・ローズ (W. Axl Rose) が大嫌いだった。
そして、一方のアクセル・ローズ (W. Axl Rose) は彼を歯牙にもかけなかったんぢゃあないだろうか。
そんな気がする。

附記:
彼の死については、個人個人それぞれによって、相当な認識と感慨の落差があると思う。尤も、それは彼の死に限らず、誰のいかなる死に対しても、当然の断りなのだ。
だから、断罪はしない。
とは言うものの、彼の死ともしかしたらあり得たかも知れない彼の生と、そしてその音楽の可能性を悼む程、ぼくはナィーヴぢゃあないのだ。

ものづくし(click in the world!)104. :
"NEVERMIND" by NIRVANA




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"NEVERMIND" by NIRVANA

1. Smells Like Teen Spirit
2. In Bloom
3. Come As You Are
4. Breed
5. Lithium
6. Polly
7. Territorial Pissings
8. Drain You
9. Lounge Act
10. Stay Away
11. On A Plain
12. Something In The Way


Kurt Cobain : Vocals / guitars
David Grohl : Drums / Vocals
Chris Novoselic : Bass / Vocals

Kirk Canning : Cello on "Something In The Way"

Produced and Engineered by Butch Vig and Nirvana
Mixed by Andy Wallace
Recorded and Mixed at Sound City, Van Nuys, CA /
Assistant Engineer : Jeff Sheehan ; Devonshire, N. Hollywood, CA /
Assistant Engineer : James Johnson
Mastered at TThe Mastering Lab, Hollywood, CA
Management : Danny Goldberg and John Silva
for Gold Mountain Entertainment
Legal Affairs : Alan Mintz / Ziffren, Brittenham & Branca
A & R : Gary Gersh

Art Direction / Design : Robert Fisher
Photos : Michael Lavine
Monkey Photo : Kurbt Kobain
Cover Photo : Kirk Weddle

Nirvana :
4739 University Way NE Suite 1606 Seattle, WA 98105

All Songs Lyrics by Kurt Cobain / Music by Nirvana
Published (C) 1991 Virgin Songs, Inc. / The End Of Music
All Rights Controlled and Adm. by Virgin Songs, Inc. BMI.

International Copyright Secured.
Lyrics Reprinted by Permission.
All Rights Reserved.

Produced by special arrangement with Sub Pop Records

Made in U.S.A.
(C) 1991 The David Geffen Company
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