this night wounds time, くもだんしゃく
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2011.05.17.21.29

くもだんしゃく

夜の蜘蛛は悪魔の使いとして恐れられています。今夜は、闇の中から突然、姿を現してヒトを襲う蜘蛛の物語です。

深夜の灯台を舞台にした蜘蛛の怪異譚と、石坂浩二 (Koji Ishizaka) のこのナレーションと共に、その物語は幕を開ける。
ウルトラQ (Ultra Q)』 [TBS系列 1966年放映] の第九話『クモ男爵 (The Spider Baron)』 [ 監督:円谷一 脚本:金城哲夫 特技監督:小泉一] である。

この番組の全28作品 [初回に実際に放映されたのは27作品] が総て、撮影の終了した後に放映する順番が決定されたからなのだろうか。
[相次ぐ"現実の"航空機事故による"自粛"に継ぐ"自粛"によって放送が三度も見合わされた第十四話『東京氷河期 (Tokyo Ice Age)』 [ 監督:野長瀬三摩地 脚本:山田正弘 (Masahiro Yamada) 特技監督:川上景司] のエピソードは、これとは別の次元の話だ。そして別の次元と言えば、その航空機事故で物語が始る第二十七話『206便消滅す (Flight 206 Disappears)』 [ 監督:梶田興治 脚本:山浦弘靖金城哲夫 特技監督:川上景司] が初回放送時のラスト・エピソードとなるのだ。]
28作品の指向性は、ハードSFもあれば純粋な意味でのファンタジーもあり、怪獣特撮映画の王道もあればヒトのこころの闇の奥に光をあてたものもある。非常に、バランスのとれた作品群と観て取れる。

しかし、それは現在の視点から全作品を俯瞰した結果の事であって、ひとつひとつの作品を観てみれば、その中には"異端"と呼ぶ訳には行かないが、極めて異様に、ある方向性に突出した作品もあるのである。

第十五話『カネゴンの繭 (Kanegon's Cocoon)』 [ 監督:中川晴之助 脚本:山田正弘 (Masahiro Yamada) 特技監督:的場徹] は、主要レギュラー・トリオが一切登場しない。そしてそれ故に、純粋に子供達の世界を子供達の視点で追い続ける [にしても、その世界観は苦く暗くそしてエンディングも決して救われない]。
その対局に位置するのが、第九話『クモ男爵 (The Spider Baron)』 [ 監督:円谷一 脚本:金城哲夫 特技監督:小泉一] なのである。

特撮番組の定跡としてのSF風味を一応は盛られているのだけれども、他の人気TVドラマの、夏場の納涼怪談特集の一篇に編まれても不思議ではない作品だ。
例えば、当時人気絶頂を誇っていたドラマ『七人の刑事』 [TBS系列 1961~1969年放映] やドラマ『ザ・ガードマン』 [TBS系列 1965~1971年放映] の中で、逃亡する犯罪者一味とそれを追う追跡者が、この物語の舞台に登場したとしても一向に不思議ではないのだ。
つまり、この作品は純粋なホラー・ムーヴィーとして生成されているのである。

物語は、霧の闇に包まれた洋館とそこに彷徨い込んだ6人の男女の体験が綴られるだけで、そこで興る怪異の、原因や発端もそこから至る経緯もなにものも明らかにされずに怪異は燃え尽きて、結末へと至る。つまり、謎は謎のまま再び、霧深い闇の中に閉ざされてしまうばかりなのである。
確かに物語の中では、SF作家気取りの万城目淳 (Jun Manjoume) [演:佐原健二 (Kenji Sahara)] が90年前にあったとされる『クモ男爵』のエピソードを語るが、江戸川由利子 (Yuriko Edogawa) [演:桜井浩子 (Hiroko Sakurai)] が指摘する様に、それは単に周囲を怖がらせる為の、とっさにその場で編み出した物語を騙っているだけかも知れぬ。
彼ら6人が辿り着いたこの館が、果たして万城目淳 (Jun Manjoume) [演:佐原健二 (Kenji Sahara)] の語る『クモ男爵』の館か否か、それは総て類推や憶測や推理の域を出ない。
彼ら6人も、物語を観る我々も、その屋敷が『クモ男爵』の館と想像されるばかりであり、それを検証する術を誰も持ちえていないのだ。

6人を襲う二匹の蜘蛛は何も語らないし、何も明らかにしない。
彼らが霧にまぎれて路を誤って辿り着かなければ、未だにその洋館は沼の畔にあり、二匹の蜘蛛は、他の誰かを待ち続けていたのかもしれないのだ。

総ては霧深い闇に呑まれ、底知れぬ沼に消え失せる。
炎に包まれる洋館と共に、二匹は絶命していくのみなのである。

不気味な沼の畔にたつこの洋館を、訪なうモノが路を見失って辿り着く未知の6人の男女でなく、あらかじめ招かれた旧知の人物がたった独りで顕われたのならば。
そして。
この館の主が、二匹の巨大な蜘蛛ではなくて、遺伝的な疾病に悩む兄と瀕死のその妹であったのならば。

images
つまり、敢て指摘するまでもない。
エドガー・アラン・ポー (Edgar Allan Poe) の『アッシャー家の崩壊 (The Fall Of The House Of Usher)』の翻案なのである。
[上記掲載作品は、ハリー・クラーク (Harry Clarke) 描く『アッシャー家の崩壊 (The Fall Of The House Of Usher, 1923)』]

だからと言って、翻案である事は、称賛されこそすれ決して非難に値するものではない。と思う。

ここで描写される世界は、エドガー・アラン・ポー (Edgar Allan Poe) の短編に材を得た、三話からなるオムニバス映画『世にも怪奇な物語 (Histoires extraordinaires aka Tre Passi Nel Delirio)』 [1968年制作] のそれに匹敵する。
幻想美が薄くて、個人的には評価の低い第二話『影を殺した男 (William Wilson)』 [ルイ・マル (Louis Malle) 監督作品] と差し替えてもいいくらいだ。
[ルイ・マル (Louis Malle) 監督の名誉の為に書いておくけど、その作品はブリジット・バルドー (Brigitte Bardot) の蒸せかえる様なエロティシズムを堪能すべき作品なのだ。即ち、白刃を突きつけられた彼女の胸元の。]
それとも、第二話と差し替えなんかせずに、他の物語の一挿話に徹すべきなのかもしれない。

例えば、第一話『黒馬の哭く館 (Metzengerstein)』 [ロジェ・ヴァディム (Roger Vadim) 監督作品] に登場するジェーンピーターの姉弟 (Jane Fonda and Peter Fonda) が蜘蛛化したっていいし、第三話『悪魔の首飾り (Toby Dammit)』 [フェデリコ・フェリーニ (Federico Fellini) 監督作品] のトビー・ダミット (Toby Dammit) [演:テレンス・スタンプ (Terence Stamp)] が暴走の果てに、あの洋館に彷徨い込んだっていいのだ。

こんな事を考えるているのは、果たして、ぼくだけだろうか。

次回も「」。

附記1:
洋館に辿り着く6人の構成は、男4人女2人。所謂ドリカム状態 [って言い方も旧いのだけれども、いきものががり状態という表現は未だに定着していない] である主要レギュラー・トリオにもう一組の所謂マイラヴァ状態 [って言い方も旧いのだけれども、ガルネク状態という表現は未だに定着していない] の三人が加わる 3 × 2 で安定してるからなのか、6人は皆無事に逃げおおせる。
これが7人だと、映画『マタンゴ (Matango aka Curse Of The Mushroom People)』 [本多猪四郎 (Ishiro Honda) 監督作品 1963年制作] の様に人間関係に破綻を来して、彷徨い込んだ男女は皆、自滅への途を歩んでしまうに違いないのだ。
ところで、この6人のうちの二人を演じたのが、桜井浩子 (Hiroko Sakurai) と若林映子 (Akiko Wakabayashi)。
シリーズの主要レギュラー・トリオの一人である江戸川由利子 (Yuriko Edogawa) を演じてる桜井浩子 (Hiroko Sakurai) が登場するのは当然としても、ここに若林映子 (Akiko Wakabayashi) がキャスティングされた事が、よけいな妄想を思い起こさせる。
若林映子 (Akiko Wakabayashi) と言えば、万城目淳 (Jun Manjoume) でもある佐原健二 (Kenji Sahara) も出演した映画『キングコング対ゴジラ (King Kong vs. Godzilla)』 [本多猪四郎 (Ishiro Honda) 監督作品 1962年制作] では、佐原健二 (Kenji Sahara) 演じる藤田一雄の妹たみ江役。その一方で、藤田一雄の恋人である桜井ふみ子を演じたのが浜美枝 (Mie Hama)。そうしてこの作品の海外版で認められた若林映子 (Akiko Wakabayashi) と浜美枝 (Mie Hama) は、ボンド・ガール (Bond Girl) に抜擢されて映画『007は二度死ぬ (You Only Live Twice)』 [ルイス・ギルバート (Lewis Gilbert) 監督作品 1967年制作] に出演する。
だから、『ウルトラQ (Ultra Q)』 [TBS系列 1966年放映] シリーズ中の一篇という制約がなければ、桜井浩子 (Hiroko Sakurai) に代わって浜美枝 (Mie Hama) が出演したかもしれず、逆にまかり間違えれば、桜井浩子 (Hiroko Sakurai) のボンド・ガール (Bond Girl) も ...。なぁんてありえない事も、ふと頭を過るのである。

附記2:
主要レギュラー・トリオといいつつ一人だけ言及しないのも×××××なので、遺る一人は西條康彦演じる戸川一平 (Ippei Togawa) である、と書いておこう。

附記3:
物語は、次の様な石坂浩二 (Koji Ishizaka) のナレーションで閉じられる。
悪魔の使いとして恐れられている夜の蜘蛛にも人間が変身したという悲しい物語があります。ヒトを襲うのは人間にかえりたい一心だったかもしれません。あなたの庭先で蜘蛛に出会っても、どうかそっとしておいて下さい。
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