2011.05.08.09.35
こんな夢をみた。

"Sad Song" from the album "DIS.
" by The Roosters
とはいうものの、どこからが夢のはじまりでどこまでが夢のつづきで、そして一体どこでその夢が途絶えたのか皆目、検討がつかない。
何故ならば、まだぼくはその夢の続きにあって、いつとも知れぬ時間をどこだか解らない場所で彷徨っているかもしれないからなのだ。
躯が重くてたまらない。
TVからはルースターズの『サッド・ソング』が流れている。まだ、大江慎也も在籍していた頃で、バンド名の英文表記も末尾が"S"の時代の映像だ。大江慎也のヴォーカルは既に虚ろのもぬけの殻となっていて、歌われている曲名以上に、その光景は哀しく、だからと言っても、その哀しみを共感し分かち合える様な脆弱な精神は、残念ながら誰も持ちえていない。
そんなライヴの光景を観るぼくを他所に、卓を囲む四人はさっきからそれぞれの立場で嬌声を挙げている。
「やっとナンニュー」
「それでも南入」
「誰だ、あともう半荘やろうっていいやがった奴は」
そんな声につられてふと、TV画面から眼をそらすと、後ろから腕を掴まれる。振り向き様に唇を奪われて、裸の両腕がぼくの裸身を抱きしめたが、あれは誰なのか。ぼくよりも頭ひとつおおきなその人物の肌は暖かくてやさしい。
大きな白いテーブルの上には、いくつものサンプル商品が積み上げられている。
特約店に納品するマーチャンダイズ品の品定めなのだ。勿論、考えなければならないのは予算と納期なのだけれども、それ以上に、ここで選ばなければならないグッズ次第で、本来の商品のイニシャル出荷数が左右されるから悩ましいのだ。
と同時に、非常に馬鹿らしい。
業者のYが持参したサンプルを、Nは次々と仕分けている。殆どのものがノンストップで行き先が決まっていって、次々と行くべき場所に積み上げられている。そのヤマはいつつもあるのだけれども、どれがイエスでどれがノーなのか。恐らくNにも解らないだろう。
だからYは、いつもの様に黙ってその作業を見守っている。
でも、凝視められているのは、ぼくの方だ。お互いが裸である事に今頃になってきづき、身を覆うモノを求めて、その人物の視線から逃れようとする。さっきから二の腕の片方を掴まれている。思うにまかせない腕の動きは、次第に痺れが来る。でも、それを口に出すのは何故だか躊躇われてしまう。
さめたマグカップのその残量を呑み干した頃合いを観はかるかの様に、背後から肩を叩かれる。
大きな荷物を幾つも抱えた母は機嫌が悪い。今抱えている荷物の、そのあと倍以上もあると言うのだ。あれもゴミ、これもごみ。いらないモノが多すぎる。それに辺り一面、ホコリだらけではないのか。
昨夜に店じまいしたその店の、引き渡し前の片付けを彼女につきあわされている。不動産屋は夕刻に来る。それまでには目処をつけて、さも原状復帰できた素振りを見せなければならない。昨夜までオーナーだった人物はまだ姿をみせていない。何故ならば、昨夜が最期だったから。しみじみと酌み交わし始めた酒も終りの頃に支離滅裂だったに決まっている。
あらかじめ鍵を預かっていて正解だったと、母が笑う。
笑えるのも所詮はヒトゴトだからと、ふと思ったけれども、それは黙っていた。
それよりも手が先。
彼女の口癖だ。
掴まれていた腕がようやく解放されて、その人物の片掌がぼくの髪をまさぐる。そうして、あいた方の指先がぼくの唇に触れる。まるで少女の様な、笑みが思わずこぼれてしまう。
ぼろぼろに疲れ果てて、ベッドに倒れ込む。部屋に差し込む朝陽は眩しいけれども、カーテンを閉める気力もない。その辺にある布団の中に潜り込んで、そのまま眠りこけてしまおう。そんな心算で、もうなにもしたくない。しかし、それでも、躯を落ち着ける場所を捜して、寝返りを何度もうってしまう。
鍵は閉めた筈なのに、誰かが部屋に入って来る気配がする。合鍵を持っている筈の人物からはとうの昔に巻き上げた筈だから、急に恐ろしくなる。部屋の扉が開けられる前に、死んだ様に眠ったフリをする。頭から被った布団で息苦しいが、そんな事はお構いなしだ。誰だか解らないのだから。
もしかしたら、眠ったフリが死んだフリになって、遂にはホントに死んでしまうのかもしれない。大きな冷たい鋭利な凶器でそのままか。侵入して来たヤツは、まっすぐにこちらにやって来て、ぼくの躯を揺さぶる。
ぼくは応えない。
眠ったフリ? それとも、死んだフリ?
揺さぶっても揺さぶっても、無反応なのを確かめて侵入者は、今度はぼくの躯の中に入って来る。大きな異物を呑込んだ様な息苦しさが一瞬、ぼくの躯をさし貫いて、大きく身悶えをしてしまう。
その違和感があまりに大きかったので、思わずベッドから飛び起きる。
そこに不審者がいるのかもしれないのに。
静かな朝。朝陽の向こうに子供達の声がする。
その日以来、体重が倍になった様な倦怠感にまとわりつかれている。
あの侵入者は未だにぼくの中にいる。
しかし、そいつが誰なのか、未だに解らないのだ。

"She Came In Through The Bathroom Window" from the album "Joe Cocker!
" by Joe Cocker

"Sad Song" from the album "DIS.
とはいうものの、どこからが夢のはじまりでどこまでが夢のつづきで、そして一体どこでその夢が途絶えたのか皆目、検討がつかない。
何故ならば、まだぼくはその夢の続きにあって、いつとも知れぬ時間をどこだか解らない場所で彷徨っているかもしれないからなのだ。
躯が重くてたまらない。
TVからはルースターズの『サッド・ソング』が流れている。まだ、大江慎也も在籍していた頃で、バンド名の英文表記も末尾が"S"の時代の映像だ。大江慎也のヴォーカルは既に虚ろのもぬけの殻となっていて、歌われている曲名以上に、その光景は哀しく、だからと言っても、その哀しみを共感し分かち合える様な脆弱な精神は、残念ながら誰も持ちえていない。
そんなライヴの光景を観るぼくを他所に、卓を囲む四人はさっきからそれぞれの立場で嬌声を挙げている。
「やっとナンニュー」
「それでも南入」
「誰だ、あともう半荘やろうっていいやがった奴は」
そんな声につられてふと、TV画面から眼をそらすと、後ろから腕を掴まれる。振り向き様に唇を奪われて、裸の両腕がぼくの裸身を抱きしめたが、あれは誰なのか。ぼくよりも頭ひとつおおきなその人物の肌は暖かくてやさしい。
大きな白いテーブルの上には、いくつものサンプル商品が積み上げられている。
特約店に納品するマーチャンダイズ品の品定めなのだ。勿論、考えなければならないのは予算と納期なのだけれども、それ以上に、ここで選ばなければならないグッズ次第で、本来の商品のイニシャル出荷数が左右されるから悩ましいのだ。
と同時に、非常に馬鹿らしい。
業者のYが持参したサンプルを、Nは次々と仕分けている。殆どのものがノンストップで行き先が決まっていって、次々と行くべき場所に積み上げられている。そのヤマはいつつもあるのだけれども、どれがイエスでどれがノーなのか。恐らくNにも解らないだろう。
だからYは、いつもの様に黙ってその作業を見守っている。
でも、凝視められているのは、ぼくの方だ。お互いが裸である事に今頃になってきづき、身を覆うモノを求めて、その人物の視線から逃れようとする。さっきから二の腕の片方を掴まれている。思うにまかせない腕の動きは、次第に痺れが来る。でも、それを口に出すのは何故だか躊躇われてしまう。
さめたマグカップのその残量を呑み干した頃合いを観はかるかの様に、背後から肩を叩かれる。
大きな荷物を幾つも抱えた母は機嫌が悪い。今抱えている荷物の、そのあと倍以上もあると言うのだ。あれもゴミ、これもごみ。いらないモノが多すぎる。それに辺り一面、ホコリだらけではないのか。
昨夜に店じまいしたその店の、引き渡し前の片付けを彼女につきあわされている。不動産屋は夕刻に来る。それまでには目処をつけて、さも原状復帰できた素振りを見せなければならない。昨夜までオーナーだった人物はまだ姿をみせていない。何故ならば、昨夜が最期だったから。しみじみと酌み交わし始めた酒も終りの頃に支離滅裂だったに決まっている。
あらかじめ鍵を預かっていて正解だったと、母が笑う。
笑えるのも所詮はヒトゴトだからと、ふと思ったけれども、それは黙っていた。
それよりも手が先。
彼女の口癖だ。
掴まれていた腕がようやく解放されて、その人物の片掌がぼくの髪をまさぐる。そうして、あいた方の指先がぼくの唇に触れる。まるで少女の様な、笑みが思わずこぼれてしまう。
ぼろぼろに疲れ果てて、ベッドに倒れ込む。部屋に差し込む朝陽は眩しいけれども、カーテンを閉める気力もない。その辺にある布団の中に潜り込んで、そのまま眠りこけてしまおう。そんな心算で、もうなにもしたくない。しかし、それでも、躯を落ち着ける場所を捜して、寝返りを何度もうってしまう。
鍵は閉めた筈なのに、誰かが部屋に入って来る気配がする。合鍵を持っている筈の人物からはとうの昔に巻き上げた筈だから、急に恐ろしくなる。部屋の扉が開けられる前に、死んだ様に眠ったフリをする。頭から被った布団で息苦しいが、そんな事はお構いなしだ。誰だか解らないのだから。
もしかしたら、眠ったフリが死んだフリになって、遂にはホントに死んでしまうのかもしれない。大きな冷たい鋭利な凶器でそのままか。侵入して来たヤツは、まっすぐにこちらにやって来て、ぼくの躯を揺さぶる。
ぼくは応えない。
眠ったフリ? それとも、死んだフリ?
揺さぶっても揺さぶっても、無反応なのを確かめて侵入者は、今度はぼくの躯の中に入って来る。大きな異物を呑込んだ様な息苦しさが一瞬、ぼくの躯をさし貫いて、大きく身悶えをしてしまう。
その違和感があまりに大きかったので、思わずベッドから飛び起きる。
そこに不審者がいるのかもしれないのに。
静かな朝。朝陽の向こうに子供達の声がする。
その日以来、体重が倍になった様な倦怠感にまとわりつかれている。
あの侵入者は未だにぼくの中にいる。
しかし、そいつが誰なのか、未だに解らないのだ。

"She Came In Through The Bathroom Window" from the album "Joe Cocker!
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