2011.03.20.15.10

出逢ったのは10代の頃だけれども、未だ数える程しか聴いていない。
駄作やら愚作やら失敗作ならば、当たり前の事象だけれども、この作品はそうではない。
大好きなのだ。傑作なのだ。そして、だからこそ、日常的に聴ける作品ではないのだ。
この作品を聴くには、覚悟もいるし決意もいる。
ぼくの言いたい事が解るだろうか。
世評的には、この作品で聴くべき楽曲は、『母 (Mother)』『愛 (Love)』『神 (God)』の三曲。
それに、ある時代をあるかたちで生き延びてきたヒトビトは、『労働者階級の英雄 (Working Class Hero)』をこの三曲に加わえて数えるかも知れない。
また、『母 (Mother)』の悲痛に饗応するかたちで、呆然自失の『母の死 (My Mummy's Dead)』を数え上げる事も可能だろう。
だが、むしろ聴くべきはそれ以外の楽曲である。上に数え上げた数曲を聴いて築き上げられるパブリック・イメージの向こうへと、向かう必要があるのだ。
ひとことひとことの言葉は抽出されて、それ以外の言葉に置換する事は出来ない。編まれたメロディも演奏も、そしてそれらを支える音響の処理も、他のナニモノにも代え難い。
この三曲プラス・アルファに、ジョン・レノン (John Lennon) の各時代の代表曲を選びあげてそれを聴けば、恐らく彼自身の生涯を理解出来るだろう。逆に言えば、この数曲を除くかたちで、ジョン・レノン (John Lennon) を聴く事も語る事も出来ないのである。
そんなことは勿論、承知している。
だからこそ、選外に洩れた楽曲群を聴くべきなのである。
そうすれば、これだけの事は理解出来る。少なくとも、それはふたつある。
ひとつには、この作品がプライヴェートな形で制作されたデモ・テープでしかない事。
1968年に発表されたザ・ビートルズ (The Beatles) の『ザ・ビートルズ[通称:ホワイト・アルバム] ("The Beatles" aka & "The White Album")
『ジョンの魂 (John Lennon / Plastic Ono Band)
本作品のプロデューサーである、フィル・スペクター (Phil Spector) は、なにかをしたのではない。なにもしない事を選んだのである。もしも、その結果に産まれたマジックの正体をジョン・レノン (John Lennon) もフィル・スペクター (Phil Spector) も知る事が出来ていれば、この後に続くふたりの共同制作作品群 [『イマジン (Imagine)
また、デモ・テープである以上、演奏は粗い。そして素材であるが故に、最低限のことしかしていない。
本作品にプラスティック・オノ・バンド (Plastic Ono Band) として参加したメンバー、リンゴ・スター (Ringo Starr)、クラウス・フォアマン (Klaus Voormann)、ビリー・プレストン (Billy Preston)、フィル・スペクター (Phil Spector)、そしてヨーコ・オノ (Yoko Ono)、さらに付け加えるならばマル・エヴァンス (Mal Evans) も。彼らはただ、ジョン・レノン (John Lennon) が提出した素材に、ビート (Beat) を与えただけなのである。
そしてもうひとつは、ロックンロール (Rock 'n' Roll)。
ジョン・レノン (John Lennon) の演奏を聴くといい。荒く、揺れて、しかも、もどかしい。ミス・トーンもあればミス・タッチもある。しかし、そのオトが、プラスティック・オノ・バンド (Plastic Ono Band) の確実で的確なビート (Beat) と響きあった途端に、なにかが産まれる。
まるで、伝えるべき事や伝えたい事があるのにも関わらずに、思わず言い淀んでしまったことばのいくつかが、そのビート (Beat) に後押しされて、振り絞りだされているかの様だ。
きみは、アイ・ラヴ・ユー (I Love You) って目の前のヒトに面と向かって言えたかい!?
その僅かなメッセージを伝える為に、なにかのちからに頼ったりすがったりしなかったかい。
もしかしたら、それはロックンロール (Rock 'n' Roll) と呼ばれるべきモノではなかったかい!?
『しっかりジョン (Hold On)』のクッキーモンスター (Cookie Monster) や『悟り (I Found Out)』の断定や『孤独 (Isolation)』の叫びや『思い出すんだ (Remember)』の切迫感や『ウェル・ウェル・ウェル (Well Well Well)』の鼓動や『ぼくを見て (Look At Me)』の孤独は、総ては、そこから始っていると、ぼくは思う。
附記:
歌詞については、様々なヒトが様々な形で語っているから触れないつもりでいたけれども、ひとつだけ書いておく。
ジョン・レノン (John Lennon) がそれまでに関わったひとつひとつの事象を断罪するが如くに、別れを告げるが如くに「ぼくは信じない (I Don't Believe In)」と唄い上げる『神 (God)』について。
その『ぼくは信じない (I Don't Believe In)』リストの果てに告げられる「夢は終わった (The dream Is Over)」という句が、永遠な謎として、ぼくに遺っている。
もしかしたら、この『夢は終わった (The dream Is Over)』は、マーティン・ルーサー・キング (Martin Luther King, Jr.) の演説『私には夢がある (I Have A Dream)』に呼応しているのではないだろうか。
と、いうのは、マーティン・ルーサー・キング (Martin Luther King, Jr.) が暗殺された1968年からジョン・レノン (John Lennon) とヨーコ・オノ (Yoko Ono) の共同作業が実質的に始るのだ。
マーティン・ルーサー・キング (Martin Luther King, Jr.) の潰えた『夢 / Dream』の終りを引き受ける形で、ジョン・レノン (John Lennon) とヨーコ・オノ (Yoko Ono) のリアルな人生が始ると解釈出来るのならば。
『神 (God)』という唐突感が否めないタイトルも、もう少し身近な響きを得る様な気がするのです。
ものづくし(click in the world!)102. :
『ジョンの魂 (John Lennon / Plastic Ono Band)』
by ジョン・レノン / プラスティック・オノ・バンド (John Lennon / Plastic Ono Band)

『ジョンの魂 (John Lennon / Plastic Ono Band)
SIDE 1
母 MOTHER (5'33")
しっかりジョン HOLD ON (1'50")
悟り I FOUND OUT (3'44")
労働者階級の英雄 WORKING CLASS HERO (3'47")
孤独 ISOLATION (2'51")
SIDE 2
思い出すんだ REMEMBER (4'32")
愛 LOVE (3'21")
ウェル・ウェル・ウェル WELL WELL WELL (5'56")
ぼくを見て LOOK AT ME (2'52")
神 GOD (4'10")
母の死 MY MUMMY'S DEAD (0'49")
JOHN LENNON: GUITAR PIANO* VOCALS
YOKO ONO: WIND
RINGO STARR: DRUMS
KLAUS VOORMANN: BASS
PRODUCED: JOHN AND YOKO AND PHIL SPECTOR
ENGINNERS: PHIL MACDONALD, RICHARD LUSH, JOHN LICKIE, ANDY STEVENS AND EDDIE
COVER PHOTOGRAPH: DAN RICHTER
SLEEVE DESIGN: JOHN AND YOKO
TEA AND SYMPATHY: MAL EVANS
* BILLY PRESTON ON 'GOD' AND PHIL SPECTOR ON 'LOVE'
All songs written by John Lennon
Reproduced by permission of Northern Songs Ltd.,†
†Reproduction rights also claimed by Maclen (Music) Ltd.,
An Apple Records
An EMI recordings
ぼくのもっている日本盤LPには、内田裕也 (Yuya Uchida) と立川直樹の解説、そして今野雄二 (Yuji Konno)による歌詞対訳が添付されている。
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