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2010.10.17.20.11

『ジミー・ジュフリー 3, 1961 (Jimmy Giuffre 3, 1961)』 by ジミー・ジュフリー 3 (Jimmy Giuffre 3)

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不思議なアルバムである。
癒し系のヒーリング・ミュージック (Healing Music) として聴く事も出来るし、とってもアグレッシヴなフリー・フォームのジャズ (Free Jazz) として聴く事も出来る。
それは、クラリネット (Clarinet)、ピアノ (Piano)、ベース (Bass) という変則的な構成に所以するものかもしれないし、この作品に関わったミュージシャンの出自とこれ以降の活動に起因するものかもしれない。
それとも、この作品を発表 / 発売したレーベルの所作によるものなのだろうか?


本作品のリーダーであるジミー・ジュフリー (Jimmy Giuffre) というアーティストは、映画『真夏の夜のジャズ ( Jazz On A Summer's Day)』 [バート・スターン (Bert Stern) 監督作品] で知った。
映画冒頭、画面に乱反射するひかりとみずの戯れにかぶさる様に、茫洋とした二管のフレージングがかぶさって来る。
画面手前にテナー・サックス (Tenor Sax) を吹くジミー・ジュフリー (Jimmy Giuffre) の横顔、その向こうにバルブ・トロンボーン (Valve Trombone) のボブ・ブルックマイヤー (Bob Brookmeyer)。そしてもう一人の奏者、ギター (Guitar) のジム・ホール (Jim Hall) は遂に画面に登場しない。
音楽映画やドキュメンタリー映画の定型を破る、斬新な映像美をたたえた本映画の始まりとしては、完璧だ。
ここで奏でられる、ジミー・ジュフリー (Jimmy Giuffre) の代表曲『トレイン・アンド・リバー (The Train And The River)』の斬新さを明らかに呈示すると同時に、観る者に映像が孕む緊張感を否応なく魅せしめている。
だからと言って、演奏される曲そのものは、難解でもなんでもなく、楽曲のタイトルそのままに、川面に映える長閑な光を浴びて汽車が疾走する光景を描いた、ある種の標題音楽 (Programmmusik) だ。
映画を観るぼく達は、その汽車とせせらぎに誘われる様に、映画の舞台である、ニューポートのジャズ・フェスティバル (Newport Jazz Festival) に導かれるのだ。


基本的に、変な編成なのだ。
ジミー・ジュフリー (Jimmy Giuffre) ともう一人の管楽器奏者、そしてギター (Guitar)。リズム・セクションを支えるパートがない為に、彼らの演奏は、緩やかにも聴こえるし、穏やかにも聴こえる。しかし、よおく耳を澄ませば、恐ろしいくらいの緊張感がそこにある。そして、それはリズム・セクションがない為に生じる、ミュージシャン相互の交歓の結果だと看て取れる。
サウンド・オブ・ジャズ (The Sound Of Jazz)』で観る事の出来る、演奏する彼らの姿を観ると、それはよく解る。神経質というよりも、一見、無様にも観えるジミー・ジュフリー (Jimmy Giuffre) の小刻みに震動する身体は、ジャズという音楽の持っているリズム感やビート感とは無縁のものだ。
この不思議な身体反応から、『トレイン・アンド・リバー (The Train And The River)』というやすらかなほのぼのとしたテーマ・メロディが示されていると想うと、不思議な感覚に囚われてしまう。

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余談だけれども、ぼくがこのアーティストの存在を知った時期は、ちょうど、ジョン・ゾーン (John Zorn) が、彼らと同じ編成で、ニュース・フォー・ルル (News For Lulu) というプロジェクト [ジョン・ゾーン (John Zorn)、ジョージ・ルイス (George Lewis)、ビル・フリゼール (Bill Frisell)] 作品 [『ニュース・フォー・ルル (News For Lulu)』と続編の『モア・ニュース・フォー・ルル (More News For Lulu)』] を発表した時期にあたる。だけれども、ニューズ・フォー・ルルがジミー・ジュフリー (Jimmy Giuffre) の本歌取り (Honkadori) と気づいたのは、かなり後の事であった。
と、いうのも、ニュース・フォー・ルル (News For Lulu) の演奏する楽曲群に耳を奪われていたからである。彼らが演奏するのは、モダン・ジャズ (1950s Jazz) の全盛期に発表された隠れた名曲群。その再生装置として、このプロジェクトの存在意義があったかの様に、思わされてしまったからだ。

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さて、本作である。
この作品が制作された1961年は、ザ・ビートルズ (The Beatles) のデヴュー一年前にあたり...って書き出すと大仰になってしまうから、ジャズ・シーンの動向だけを抑えてみる。
この年に発表されたのが、エリック・ドルフィー (Eric Dolphy) の『アット・ザ・ファイブ・スポットVol.1 (At The Five Spot 1)』とビル・エヴァンス (Bill Evans) の『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード (Sunday At The Village Vanguard)』。ジョン・コルトレーン (John Coltrane) は『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード (Live At The Village Vanguard)』を発表している。と、偶然にジャズ・スポット名を冠したライヴ・アルバムが軒並み名を連ねたのだけれども、これは単なる偶然。あまり深い意味はないだろう。
むしろ、オーネット・コールマン (Ornette Coleman) のレギュラー・クァルテット (Ornette Coleman Quartet) の始動 [1959年] 辺りから始った"不穏な動き"が擡頭してきた時だと捉えるべきなのだろう。
そして、本作品は、その"不穏な動き"の中核を成す、若くて気鋭のふたりのミュージシャンを起用して制作される [勿論、ポール・ブレイ (Paul Bley) もスティーヴ・スワロウ (Steve Swallow) も今や押しも押されぬ一流ミュージシャンとなっているわけだけれども]。

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レコーディングは、アルバム・タイトルにある様に、1961年にヴァーヴ (Verve) によって行われる。そして、このレコーディングは『フュージョン (Fusion)』と『テーゼ (Thesis)』と二枚のアルバムに分割されて発表されるのだ。
この二枚を聴き比べると、穏やかな表情を魅せる『フュージョン (Fusion)』とスリリングな展開を謀る『テーゼ (Thesis)』と言う事も出来るのだけれども、そこはジミー・ジュフリー (Jimmy Giuffre)。そう簡単ではない。敢て言えば、前者を"静中動あり"と表現する事が出来るとしたら、後者は"動中静あり"。ふたつの対立する感性が、一方が表に顕われれば、他方は裏に廻る。そして、その逆もまた真であるのだ。

なお、本作品のプロデューサーは、クリード・テイラー (Creed Taylor)。
フュージョン (Fusion)』と『テーゼ (Thesis)』という二作品は現在では、ECMレコード (ECM Records)から、現行の形となって発売されている。
ECMレコード (ECM Records) 作品に親しんでいるモノが聴けば、この作品も紛う事なくECMレコード (ECM Records) の音になっているのを発見するだろうが、もともとこの音だったのか、ヴァーヴ (Verve) から移管される際のリマスタリング (Audio Remastering) の結果なのかは、ぼくは解らない。
そして、同様に、ヴァーヴ (Verve) からECMレコード (ECM Records) に移管された作品がどれくらいの数があって、その中で本作品がどの様な位置づけなのかも、ぼくは解らない。
但し、ビジネスの面を考慮すれば、無闇矢鱈に過去の作品を手放す程に、ヴァーヴ (Verve) もお人好しではないだろうから、ヴァーヴ (Verve) にとっての本作品と、ECMレコード (ECM Records) にとっての本作品の位置づけは、自ずと推測出来る。
少なくとも、本作品で試みられたいくつかの成果が、ECMレコード (ECM Records) とそのサウンドを産み出すきっかけには、なったのではないだろうか。

ものづくし(click in the world!)97. :
『ジミー・ジュフリー 3, 1961 (Jimmy Giuffre 3, 1961)』
by ジミー・ジュフリー 3 (Jimmy Giuffre 3)


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ジミー・ジュフリー 3, 1961 (Jimmy Giuffre 3, 1961)』 by ジミー・ジュフリー 3 (Jimmy Giuffre 3)

Disc I Fusion
01. ジーザス・マリア
  Jesus Maria (Carla Bley) 6:13
02. エンファシス
  Emphasis (Jimmy Giuffre) 4:12
03. イン・ザ・モーニング・アウト・ゼア
  In the Mornings Out There (Carla Bley) 6:50
04. スクーティン・アバウト
  Scootin' About (Jimmy Giuffre) 3:35
05. クライ、ウォント
  Cry, Want (Jimmy Giuffre) 5:08
06. ブリーフ・ヘジテーション
  Brief Hesitation (Jimmy Giuffre) 4:15
07. ヴェンチャー
  Venture (Jimmy Giuffre) 3:51
08. アフタヌーン(未発表曲)
  Afternoon [PREVIOUSLY UNRELEASED] (Jimmy Giuffre) 5:10
09. トラジン
  Trudgin' (Jimmy Giuffre) 4:33

Disc II Thesis
01. イクタス
  Ictus (Carla Bley) 2:44
02. カーラ
  Carla (Paul Bley) 4:35
03. ソニック
  Sonic (Jimmy Giuffre) 4:44
04. ヒュワー
  Whirrrr (Jimmy Giuffre) 4:54
05. ザッツ・トゥルー、ザッツ・トゥルー
  That's True, That's True (Jimmy Giuffre) 4:41
06. グッドバイ
  Goodbye (Gordon Jenkins) 4:56
07. フライト
  Flight (Jimmy Giuffre) 3:21
08, ザ・ギャマット
  The Gamut (Jimmy Giuffre) 4:37
09. ミー・トゥ(未発表曲)
  Me Too [PREVIOUSLY UNRELEASED] (Jimmy Giuffre) 5:03
10. テンポラリー(未発表曲)
  Temporarily [PREVIOUSLY UNRELEASED] (Carla Bley) 6:09
11. ハーブ&イクタス(未発表曲)
  Herb & Ictus [PREVIOUSLY UNRELEASED] 0:44

ジミー・ジュフリー Jimmy Giuffre clarinet
ポール・ブレイ Paul Bley piano
スティーヴ・スワロウ Steve Swallow double-bass

1961年3月、8月、NYにて録音。
1990年10月、オスロにてリミックス。

Fusion recorded, New York, 3. 3. 1961
Thesis recorded, New York, 4. 8. 1961

Originally produced by Creed Taylor for Verve
Engineer : Dick Olmstead

Reissue produced by Manfred Eicher, Jean-Philippe Allard

(C) (P) 1992 ECM Records GmbH

ECM Records Gieichmannstr. 10 8000 Munchen 60

originl liner-notes:
"Jimmy Giuffre 3, 1961" by Philippe Carles
"Giuffre's Gamut" by Steve Lake

ぼくの所有している国内盤CDには、オリジナル・ライナーノーツの対訳が掲載されている。フィリップ・カレル (Philippe Carles) の訳は大野修平が、スティーヴ・レイク (Steve Lake) の対訳は黒須千秋が、それぞれ担当している。
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