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2010.10.10.15.07

『ほぼ日刊イトイ新聞』で大沢在昌『絆回廊 新宿鮫X』を読む:その二

ほぼ日刊イトイ新聞 - 目次』のページに掲載される『絆回廊 新宿鮫X 大沢在昌』のリンク・バーに次の様な告知が掲載されたのが、ほぼ一ヶ月前。

"10月15日からの「後半」開始に伴い、今回更新分までが読めなくなります"

勿論、それとほぼ同じ主旨の告知文は、『絆回廊 新宿鮫X 大沢在昌』のトップ頁にもきちんと掲載されている。
そして、「後半開始」まであと数日 [そして「後半開始」以降、その告知文は姿を消してしまう筈]。

ここでは"それまでの「前半」はアーカイブから削除され読めなくなってしま"う [引用部はトップ頁での告知部分から] 、その意味を考えてみたいと思う。

本稿とは地続きの文章ではありませんが"『ほぼ日刊イトイ新聞』で大沢在昌『絆回廊 新宿鮫X』を読む:その一"は、こちらで読む事が出来ます。

現時点での掲載頁数は、418頁。つまり、この418頁が「前半」にあたり、10月15日 (15th November) 更新時では、これが"削除され読めなくなってしま"うのだ。

すっかり余談だけれども、『ほぼ日刊イトイ新聞 (Hobonichi)』的には、10月15日 (15th November) は、日本特用林産振興会によって「きのこの日」と定められています。

余談は余談として、それはともかく、取り急ぎ、物語の進行状況を整理してみる。

ここから小説の中身に触れるので、未読の方は、これから書く部分を読みとばした方が、いいかもしれない。
勿論、連載途中の小説にネタバレ (Spoiler) という可能性はないと思うのだけれども、削除されてしまう「前半」を読了したモノと未読のモノでは、それを読んだ / 読んでいないという事が、重要なものになってしまう可能性もある。もしも、重要な伏線 (Foreshadowing) が削除された部分に書かれていたとしたら、尚更だ。

*======と、いう訳で。ここから小説の進行状況を確認します。======*

現時点でこの物語は、主人公である新宿鮫こと鮫島も含め、三人の人物の視点で語られている。そのうちの一人の人物(仮に人物Bとする)の真意は、その視点からでも語られていない。
しかし、そのみっつの視点は、それぞれがある人物の所在を捜していて、しかも、そのある人物とは、同一人物(仮に人物Xとする)らしい、という事。
鮫島ともうひとつの視点(仮に人物Cとする)は、人物Xが犯罪を犯す可能性を確信している。

人物Bと人物C、そして鮫島が、いつどの様なタイミングで人物Xと遭遇するのか、それによって、物語の方向は、どちらへも転ぶ。
また、人物Bと鮫島,人物Cと鮫島、人物Bと人物C、それぞれがいつどの様なタイミングで遭遇するのかによっても、物語はどうにでもなる。
彼ら三人の思惑が合致するのか、敵対するのか、そして人物Xが犯すであろう犯罪にどの様な形で関わるか、という事である。

警部 (Inspector) である鮫島だけは、その犯罪への関わり方は捜査という形でしかないだろう。著しく限定されている訳だ。

だから、人物Xと彼の行方を追う三人の人物達が、一堂に邂逅したその時が、物語のクライマックスとなるだろう。

[蛇足でしかも邪推だけれども、人物Xの犯罪の矛先は、鮫島のごく親しい人物へと向けられている様だ。]

その一方で、『新宿鮫』シリーズを貫いている、青木晶と鮫島との物語も、同時に進行している。

物語冒頭、青木晶の所属するロックバンド「Who's Honey」に生じたある疑惑が語られる。そして、その疑惑が犯罪という可能性を孕み、その結果として、青木晶と鮫島との関係も、終止符を打たざるを得なくなる。そんな疑念が、主人公である鮫島の内心に絶えず、まとわりついている。
しかし、その疑念を読者は一瞬、忘れ去ってしまう。何故ならば、その延長線上に、疑惑の媒介者が登場するからだ。クスリの売人である。人物Xの存在とその情報は、彼からもたらせられて、彼と共に、読者は鮫島の捜査の行方を追う。そうして、読者は「Who's Honey」の疑惑と、青木晶への鮫島の感情を忘れ去ってしまう。

下手なサスペンス劇場で、刑事 (Un maledetto imbroglio) とその恋人の語らいがプロローグとエンディングに登場すれば、誰もが安心する様なものである。事件がなければ安閑とした日常が続き、例え、陰惨な事件が起きたとしてもそれが解決すれば、また安閑とした日常に還る事が出来るのだ。

青木晶と鮫島も、その様な世界の住人ならば良いのだけれども、このシリーズはそれを許さない [だろう]。
現時点での鮫島の唯一の捜査の手綱であるクスリの売人の行方が不明となった時点で、「Who's Honey」の疑惑がさらに深い犯罪性を帯びたものとなって、再び登場する。
そして、まさにここで、「前半」が終了している。

きっと恐らく、青木晶も人物Xの行方を追うこの物語に翻弄される事になるのだろう。そして、この物語が終わったその時点で、青木晶と鮫島は、どうなってしまうのだろうか?
読者の興味と関心は、その様な形で引き延ばされてゆく。

以上が、「前半」で描かれて来た物語である。恐らく、登場すべき主要人物達は総て、この時点で登場し尽くしているに違いない 。

[もし新たな登場人物があるとしたら、青木晶と鮫島の関係を追う人物達であろう。それは、スキャンダラスな視点でアプローチするマスコミ関係か、「Who's Honey」を廻る犯罪に加担した犯罪者群か、その犯罪によってビジネス・チャンスを喪ってしまう音楽関係者か。]

*======と、いう訳で。小説の進行状況の確認を終了します。======*

こうやって、これまでの物語の展開を整理してみると、ここで「前半」と「後半」と分けるのが、最適だろうと思えて来る。連載途中である小説を論じるというのは、暴挙なのだろうけれども [苦笑]。この時点では、物語は、ある一点に向けて収斂しようとしている。
だから、物語の構成上、それをふたつに分断しなければならないとしたら、読者の興味を一心に集めるには、ここなのだろうなぁと、思えて仕方がない。

では逆に、なぜ、「前半」と「後半」に分けねばならないのだろうか。
アーカイヴやサイトのキャパシティの問題か? それとも、書籍化する際の二分冊での刊行の為か?
前者ならば、負荷を軽減する為の方法はいくらでもあるだろうし、後者ならば、現時点で「前半」の書籍販売はアナウンスされていなければならない。少なくとも、これまでの『新宿鮫』シリーズが二分冊以上の大著になった事はないし、現時点でのヴォリューム感では、書籍としては、薄すぎる。

だから、別の意図があるのだろう、と考える。

雑誌などの印刷物での連載ならば、こういう事態はあり得ない。その気になれば、リアルタイムでバックナンバーを保管しておけばいいし、場合によっては出版社からバックナンバーを入手する事も出来る。昔ならば、自室が古雑誌まみれになってしまたりする怖れもあるけれども、今ならば"自炊"すればいいのだ。
いずれにしろ、個人レベルでの過去のアーカイヴを所有する事は、出来る。それ以前に、読者の欠乏感を見計らったかの様に、「前半」は書籍化されて出版される筈なのである。

これが、映画やTV番組でも同じ事である。連作やシリーズ作品の最新版が公開される頃には、異なるメディアで過去作品が公開される筈なのである。旧作がDVD化されたり、地上波で放映されたりするのも、ざらなのである。そうして、最新作への関心と興味を煽る訳だ。

と、なるとどういう事なのだろうか、とあらためて考えてみたくなる。

現在の読者を煽り、新たなる読者を獲得する為には、過去の情報により接しやすくする必要がある筈なのだ。それは、今回の措置とは全く逆の方法論である。

例えば、次の様な場合を考えてみる。
ネット上で掲載されているある連載企画があるとする。それは、サイトの都合上なのか企画の趣旨によるのかは解らないけれども、常にネット上で公開されているのは、最新の記事だけである。しかし、ある時期に、読者層の新規開拓と掘り起こしを謀って、過去の記事を、アーカイヴとして一挙に公開する。

今、現在に行われているモノに耳目を集めさせるには、過去のものを集大成すればいい。
それは、ネット企画に限らず、メディアを舞台にして行われる企画の殆どがそれだ。「祝○○○デヴュー何周年企画」から始って「×××総集編」や「△△△秘蔵映像一挙大公開」や「未発表音源◇◇収録」まで、ありとあらゆる形で行われている。
そんな戦略ならば、解りやすい。

しかし、この『絆回廊 新宿鮫X 大沢在昌』では、全く逆のアプローチをしているのだ。
と言う事は、これまで無償で読む事が出来た作品が、[書籍化される等、メディアを移して] 課金されるという事なのだろうか。
ただし、そうなると、最初の問題に戻ってしまう。

もし、そうならば、遅くとも"「後半」開始に伴い、今回更新分までが読めなくな"る10月15日 (15th November) までに、なんらかのアナウンスメントがあるべきなのだ。

10月15日 (15th November) になると、ナニかが動くのだろうか。映画化発表とか? まさか。

『ほぼ日刊イトイ新聞』で大沢在昌『絆回廊 新宿鮫X』を読む:その一
『ほぼ日刊イトイ新聞』で大沢在昌『絆回廊 新宿鮫X』を読む:その二
『ほぼ日刊イトイ新聞』で大沢在昌『絆回廊 新宿鮫X』を読む:その三
『ほぼ日刊イトイ新聞』で大沢在昌『絆回廊 新宿鮫X』を読む:その四
なお、それぞれの記事は地続きであったり、連動したりはしていません。

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