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2010.08.24.20.54

はんすはにやりとほほえんだ

ハンス (Hans) という人物についてぼくにこっそりと耳打ちしてくれたのは、ヒカシュー (Hikashu) だった。1981年発表の彼らの三枚目のアルバム『うわさの人類 (Uwasa No Jinrui)』に収録された『小人のハンス (Koibito)』 [作詞:巻上公一 (Makigami Koichi) 作曲:井上誠 (Inoue Makoto)] という曲だった。タイトルに付したのはその曲の冒頭「ハンスはにやりと微笑んだ」からの引用である。
太田螢一 (Oota Keiichi) 描くぐにょぐにょとした人物が妖しく闇に浮かぶそのアルバムは、"テクノポップ (Technopop or Techno Pop)"のふりをして音楽シーンに登場して来た彼らの、化けの皮が剥がれた (Give Oneself Away) ...、いやいやいや、己の本性を曝け出し (Reveal The True Character) 始めた最初の作品である。
もっともヒカシュー (Hikashu) というバンド自体、デヴュー当時から"テクノポップ (Technopop or Techno Pop)"という範疇から遠い位置にあったし、それ以前に当時、"テクノポップ (Technopop or Techno Pop)"と表象されていた殆どのバンドやアーティストは、"テクノポップ (Technopop or Techno Pop)"ではさらさらなくて、世の中を欺き世の中に己らを浸透させる為の方便として、便宜上"テクノポップ (Technopop or Techno Pop)"を名乗っていた筈だ。
ピー・モデル (P-Model) 然り、イエロー・マジック・オーケストラ (Yellow Magic Orchestra) 然り。
そういう意味では、真の意味での"テクノポップ (Technopop or Techno Pop)"は、プラスチックス (Plastics) になるのだけれども、それを書き出すと、語るべきハンス(Hans) の事が語りきれなくなってしまうから、ここではそおゆうもんだと思って頂きたい。

ヒカシュー (Hikashu) の『うわさの人類 (Uwasa No Jinrui)』は、トッド・ブラウニング (Tod Browning) 監督の映画『フリークス (Freaks)』 [1932年制作] にインスパイアされたコンセプト・アルバムであり、ハンス (Hans) とはその映画の主人公の名称。ハリー・アールズ (Harry Earles) が演じた。
[『うわさの人類 (Uwasa No Jinrui)』から照射してハンス (Hans) を語るには、この映画の日本公開時のタイトル『怪物團』の方が相応しい気がするけれども、そういう訳にもいかない。何故ならば、現代の倫理観から観れば、『怪物團』では、やはり不穏当な響きを得てしまっているからなのだ。]

物語の粗筋は次の様なものである。
みよりのない筈の若者に、ある日、莫大な遺産が転がり込んで、若者はあっという間にセレヴの仲間入り。しかし、その遺産に眼を付けたある人物が、己の恋人を巻き込んで、若者を亡き者にしようと色仕掛けで迫って来る。それに気づいた若者は、"仲間"と協力して、彼らに復讐を誓う。

白雪姫 (Schneewittchen)』に似ている様でもあり、『猿蟹合戦 (Battle Of The Monkey & The Crab)』に似ている様でもあり、しかし、それらの先行の物語とは、完全に逆転した舞台設定が設けられ、逆転した物語が展開される。
あえて指摘すれば、この物語は現代版『跳び蛙 (Hop-Frog)』 [エドガー・アラン・ポオ (Edgar Allan Poe) 著] とも言えるが、これだって、エドガー・アラン・ポオ (Edgar Allan Poe) 独自の視点で、メルヒェン (Marchen) を転倒させた作品だ。

莫大な遺産を相続するみよりのない筈の若者は、通常ならば、薄幸の美少女もしくは美少年だけれども、この物語ではハンス (Hans)。小人 (Midget) である。
舞台は、数多くのメルヒェン (Marchen) を産み出すゲルマンの森 (German Mythology) でも、我が国の農村風景 (Village In Edo Period) でもなくて、サーカス (Circus) のサイド・ショウ (Sideshow)。
所謂、健常者は殆どが登場しない。
外見が健常者に観えるモノは、こころの中が健常者から逸脱している。だからこそ、ハンス (Hans) の遺産も狙うし、ハンス (Hans) の純情を利してそれを踏みにじろうとする。
そしてその一方で、ハンス (Hans) の物語とは別のところで、このサイド・ショウ (Sideshow) を舞台とした様々なエピソードが綴られてゆく。その殆どが、ブラック・ユーモア (Black Humor) の領域さえも越境した、無垢で純粋なヒトビト (Freaks) のつつましやかな生活から産まれる素朴な笑いとして、提供されてゆく。
あえて言えば、この物語は復讐譚のふりをした、ハンス (Hans) も含めてのサイド・ショウ (Sideshow) の住人達を主人公とするドキュメンタリーなのである。
つまり一方でサイド・ショウ (Sideshow) の住人達の"日常"が描写され、その他方でハンス (Hans) が得た遺産を巡る陰謀の画策と、その陰謀を覆す復讐劇が綴られていくのである。
[常にもまして、もって廻った言い方をしているのは、ぼくが書こうとしている文章の端々に浮かぶある言葉を、言い淀んでいるからである。お察し願いたい。]

ヒカシュー (Hikashu) のアルバム『うわさの人類 (Uwasa No Jinrui)』は、この映画の中で起きている事件と、それを映画として観ているボク達とを、絶えず往きつ戻りつしながら、それぞれが感じる違和感を描写し続ける。それはつまり、何故ボクはボクでないヒトビトと違うのか、ボクでないヒトビトは何故ボクではないのかという様な問いかけである。
多分。

さて、この『フリークス (Freaks)』という映画を敷衍して、そこからさらに物語を逆転させた作品がある。
丸尾末広 (Suehiro Maruo) のマンガ『少女椿 (Mr. Arashi's Amazing Freak Show)』 [1984年発表] である。1992年には、『地下幻燈劇画 少女椿 (Midori)』としてアニメ映画化 [絵津久秋 (Hisaaki Ezu) 監督作品] もされている様だが、残念ながらこれは観ていない。
物語を日本に移し、あるサイド・ショウ (Sideshow) ...否、この言い方ではまずいな...、見世物小屋 (Japanese Freak Show) を舞台として繰り広げられる。時代設定は恐らく昭和初期 (1930s In Japan) であろうし、その見世物小屋 (Japanese Freak Show) は東北辺りを巡演しているに違いない。そこは多分に、寺山修司 (Shuji Terayama) 的な世界であるし、その印象をより強くする小道具や大道具が散見される。
主人公は、身寄りのないみどり (Midori)、所謂、薄幸の美少女である。見世物小屋 (Japanese Freak Show) の住人達の世話係の様な役割を与えられた彼女は、見世物小屋 (Japanese Freak Show) の住人達から虐げられた日々を送っているが、映画『フリークス (Freaks)』と異なるのは、彼女は正真正銘のみよりのない、天涯孤独であって、しかもその見世物小屋 (Japanese Freak Show) の中の、数少ない健常者の一人である。勿論、遺産相続なんて事件は起こりえない。ただただ、迫害と被虐の日々が綴られるのである。そんな風に、彼女には毎日毎日、そして次から次へと、不幸やら災難が訪れるのだが、この作品を読むぼく達は、彼女に同情するよりもむしろ、その不幸が延長されてさらに大きな災厄が顕われる事を願ってしまう。
そんな彼女の許に、ハンス (Hans) [的な存在である人物] は、ワンダー正光 (Wonder Masamitsu)という名前で、彼女の救い主 (?) となって登場するのだ。

images
上に掲載するのは、ダイアン・アーバス (Diane Arbus) 撮影の『1OO番街のあるリヴィング・ルームに集まったロシア系の小人仲間、 ニューヨーク市 (Russian Midget Friends In A Living Room On 100th St, NYC 1963)』。画面左の老人が、ハンス (Hans) を演じたハリー・アールズ (Harry Earles) の老いた姿だと言う。
一緒に写っているふたりの女性は、彼と共に、ダンシング・ドールズ [アール・ファミリー] (The Doll Family) として活動を共にした、彼の姉妹なのかもしれない。

次回は「」。
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>ugg bootsさんもしくはuggさん

本稿より引用抜粋という形でコメントをお寄せ頂きありがとうございました。
なお、同一内容のコメントが複数受信されていたので、勝手ながら、コメント欄には、一コメントのみの掲載とさせて頂きました。

ご了承願います。

2011.02.24.21.50. |from たいとしはる feat. =OyO=| URL


>abercrombie & fitchさん

本稿の記事より抜粋でのご紹介ありがとうございます。

2011.02.24.21.44. |from たいとしはる feat. =OyO=| URL


そんな彼女の許に、ハンス (Hans) [的な存在である人物] は、ワンダー正光 [url=http://www.economiciuggsvendita.com/ugg-stivali-vendita.html]ugg boots[/url] (Wonder Masamitsu)という名前で、彼女の救い主 (?) となって登場するのだ。

2011.02.24.16.48. |from ugg boots| URL [edit]


の老いた姿だと言う。
一緒に写っているふたりの女性は、彼と共に、ダンシング・ドールズ [アール・ファミリー] (The Doll Family) として活動を共にした、彼の姉妹なのかもしれない。
http://www.economiciuggsvendita.com/economico-ugg-stivali.html

2011.02.24.16.41. |from abercrombie & fitch| URL [edit]

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