2010.08.15.19.35
"HERE COME THE WARM JETS" by ENO

あらためて書くまでもないことだけれども、今年の夏は猛暑日 (Heat Wave) が続いていて、しかも今日は終戦記念日 (Victory Over Japan Day)。65年前の今日も相当暑かったと聴いている。
映画『日本のいちばん長い日
だから嗚呼、今日の東京の風は、ウォーム・ジェット (Warm Jets)どころの騒ぎぢゃあない、これはホット・ジェット (Hot Jets)、もしくはヒート・ジェット (Heat Jets)と呼ぶべきものだ、とくだを巻 (Ramble On) きたくなるが、気にしないでくれ。
これは本題なんかぢゃあない。単なる導入部なんだ。
ぼくが意識的に音楽を聴き始めた頃、ブライアン・イーノ (Brian Eno) は先ずは、プロデューサーとしてぼくの前に登場した。ディーボ (Devo) やトーキング・ヘッズ (Talking Heads) やウルトラヴォックス (Ultravox)...。既にセンセーショナルな話題とともに、ぼく達の前に登場したバンドもあったけれども、むしろ、ブライアン・イーノ (Brian Eno) が手掛ける事によって話題を呼んだバンドも多かった。なにせ、ここで例示した三バンドも、今でこそきちんとした実績と評価を挙げているけれども、彼が手掛けた頃は、シーンに登場してきたばかりの新人バンド。海のモノとも山のモノとも知れない (Too Early To Predict) 存在だったのだ。
だから、逆に言えば音楽初心者のぼくから観れば、ブライアン・イーノ (Brian Eno) というブランド [あえてブランドとここでは呼ぶけれども] は、その正体が知れぬ得体のしれないものだったのだ。これまでの彼のキャリアを学べば、彼の"実績と評価"を知る事が出来たのかもしれないけれども、そんなところまで、意識は及ばない。ただ只管、新しい音楽と新しいアーティストと新しい試みだけを追っかけていたのだ。1970年代後半 (New Wave Era) は、それで充分だったし、そんないくつもの"新しい"に次から次へと関わり続けているプロデューサーという位置づけだけで、ブライアン・イーノ (Brian Eno) という"ブランド"は、ぼくには充分すぎる程だった。
そんな認識を揺らがせたのが、彼がミュージシャンとしてぼくの前に顕われた時だった。"ブライアン・イーノ (Brian Eno) が手掛ける事によって話題を呼"ぶにせよ、その結果として、"ブライアン・イーノ (Brian Eno) というブランド"が成立するにせよ、それはあくまでもスタッフ・ワークだし、音楽の現場にあっては裏方なのだ。その彼が、アーティストとして、ミュージシャンとして作品を発表するというのだ。しかし、彼のその作品は、これまでいくつも手掛けて来た"新しい"とは、異なっていた。
後にアンビエント (Ambient) と呼称されるそれは当時、環境音楽 (Musique d'ameublement) と呼ばれていた。今でも呼ばれているかもしれない。ちょっと気の利いた個人経営の開業医なんかに診察に行くと、リラクシゼーションの名のもとに診察室全体に、鳴り響いている。あれだ。否、あれはニューエイジ (New Age) と言うのか。ブライアン・イーノ (Brian Eno) が手掛けたそれは、その診察室に流れているものとは、似て非なるものだけれども、それは今聴けばの話。一聴、茫洋としてつかみどころのなく、緩慢な時間が流れているその様は、彼が手掛けていた"新しい"とは、全く異なるモノに聴こえた。
ぼくは混乱していた。混乱していたけれども、ブライアン・イーノ (Brian Eno) の提唱する音楽が、彼の作品だけにとどまらない事を次第に知るに及んで、次第に納得してゆく。しかも、彼自身が己の作品を発表するに留まらず、オブスキュア・レーベル (Obscure Records) を立ち上げて、より積極的にそれらの音楽に関わり出したからだ。
個人的には、彼の落としどころがようやく出来て安心した時に、再び、"混乱して"しまうのだ。1984年の事だ。ブライアン・イーノ (Brian Eno) が、ユー・ツー (U2) のアルバムをプロデュースするという情報が入って来たのだ。ユー・ツー (U2) は、古典的とも言えるバンド・スタイルだから、彼らとブライアン・イーノ (Brian Eno) の嗜好は、水と油ぢゃあないかしらん、と思えて仕方がなかった。しかし、その結果は、彼らの二枚のアルバム『焔 (Unforgettable Fire)
さて本作。
ブライアン・イーノ (Brian Eno) のリアル・タイムに出逢う作品には戸惑いながらも、少しづつ少しづつ、彼の歴史を遡って、聴いて来た。例えば、キング・クリムゾン (King Crimson) 解散後、隠棲生活を続けていたロバート・フィリップ (Robert Fripp) が『ドライヴ・トゥ・1981 (Drive To 1981)』の名の元にソロ活動を開始した結果として再発された二枚のフィリップ・アンド・イーノ (Fripp And Eno) の作品 [『ノー・プッシー・フッティング (No Pussyfooting)
素っ頓狂なニューウェイヴ (New Wave) 調の曲もあれば、リリカルで非常に美しい旋律が奏でられる曲もある。一曲一曲、時には、一瞬一瞬で、異なる表情を魅せるので、それに目眩もするし、唖然ともする。その様は、おもちゃ箱をひっくら返すとも言えるし、万華鏡 (Kaleidoscope) を覗き込んだとも言える。それにも関わらず、作品全体をひとつのモノが支配している。それはメロディでもリズムでもない。音だ。響きだ。それが作品全体をひとつのモノとし、それと同時にやさしく聴くモノの耳を捕らえて離さない。
そんな音の光景に眼を開いていると、いつのまにやら最終楽曲を迎えてしまう。その前の曲『サム・オブ・ゼム・アー・オールド (Some Of Them Are Old)』で唄われるメランコリックなコーラス「ぼくのことをおぼえていてくれ (Remember Me, Remember Me)」に続いて、金属片が響き合っている様な硬質の音色の向こうから、なにかがやってくる。『ヒア・カム・ザ・ウォーム・ジェッツ (Here Comes The Warm Jets)』。確かに、"ウォーム・ジェット (The Warm Jets)"は、やってくる。
ある部屋の一角を撮影したそのアルバム・ジャケットを観る。様々なガジェットがひしめき合っている中に、ひとつひとつのオブジェを見定めようとすると、必ず観誤ってしまう。画面中央にそそり立つ蒼を、かつて彼の両肩を彩った"蒼い羽飾り"にも思えてしまうし、スペードの8 (Spades #8) のカードを覗き込めば、エロティックな妄執にそそられてしまう。そこで本作品の主人公はどこにいるかと捜してみれば、モノクロのポートレートが一葉。シリアスな表情でこちらをねめつける彼はしかし、写真。ホンモノではない。ふと思って視線を上げると、画面右隅に、ふぅっと緊張が解かれた表情の彼がいる。しかし、その彼も実は鏡の中の彼。ふたつの表情をした彼を観出す事は出来るけれども、実は彼はそこにはいない。手の込んだ騙し絵の様なジャケットだけれども、その手法は『ラス・メニーナス (Las Meninas)』と同じだ。旧くて新しく新しくて旧い。
ものづくし(click in the world!)95. :
"HERE COME THE WARM JETS" by ENO

"HERE COME THE WARM JETS
1. Needles in the Camel's Eye (3:10)
Eno / Manzanera
2. The Paw Paw Negro Blowtorch (3:05)
Eno
3. Baby's on Fire (5:18)
Eno
4. Cindy tells me (3:25)
Eno / Manzanera
5. Driving me backwards (5:11)
Eno
6. On Some Faraway Beach (4:36)
Eno
7. Blank Frank (3:35)
Eno / Fripp
8. Dead Finks don't Talk (4:20)
Eno (arr. Thompson / Jones / Judd / Eno)
9. Some of Them are Old (5:11)
Eno
10. Here Comes the Warm Jets (4:02)
Eno
Recorded at Majestic Studios, London, September 1973
Recording Engineer : Derek Chandler
Mixed at Air and Olympic Studios by Eno and Chris Thomas
Mixing Engineers : Denny Bridges, Phil Chapman, Paul Hardiman
Tape Mastering : Arun Chakraverty
Cover Photography : Lorenz Zatecky
Design Supervision : Carol McNicoll
Artwork : C.C.S. Associates
Produced by Eno for E.G. Records Ltd.
Keyboards : NIck Kool and the Koolaids (7) NIck Judd (4, 8) Andy Mackay (6, 9)
Guitars : Robert Fripp (3, 5, 7) Phil Manzanera (1, 2,4) Paul Rudolph (3, 10) Chris 'Ace' Spedding (1,2)
Bass Guitars : Busta Cherry Jones (2,4, 6, 8) Bill MacCormick (1, 7) Paul Rudolph (3, 10) John Wetton (3, 5)
Percussion: Simon King (1,3, 5, 6, 7, 10) Marty Simon (2,3, 4) Paul Thompson (8)
Saxophone septet on 9 : Andy Mackay
Slide guitars on 9 : Lloyd Watson
Backing vocals on 6 and 7 : Sweetfeed
Extra Bass on 2 : Chris Thomas
Eno sings all other vocals and (occasionally) plays simplistic keyboards, Snake guitar, electric larynx and synthesiser, and treats the instruments.
All songs copyright (C) EG Music Ltd.
(P) 1973 E.G. Records Ltd.
(C) 1973 E.G. Records Ltd.
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