FC2ブログ

2010.07.27.12.36

しょうりのめがみ

腕も頸もない痛々しい姿でありながらも、雄々しく拡げられた翼と大きく踏み込んだ右脚によって、強い意志の在処を予感させる。それが勝利の女神ことサモトラケのニケ像 (Victoire de Samothrace) だ。

images
確かこの作品を初めて観たのは、ある学習百科事典 (Children's Encyclopedia) の歴史 (History) の頁、その扉絵にあったと記憶している。
そんな幼少時に初めて観た時の第一印象の正否や正邪はともかくとして、今、想い出せば、頸がない不思議や腕がない不都合を少しも疑わなかった事だ。
つまり、当時の僕は、制作者が意図的に、この様な、欠損のある女神像 (Goddess) を創ったのであると、毫も疑わなかったのである。そればかりか、腕がない事、頸がない事に感心もし、感動もしたのである。

つまりは、
痛みを伴わぬ勝利なぞない (pas de douleur, pas de gain / No Pain, No Gain)
と、言う様な。

いや、これは違うな。
こんな抹香臭い説教説話 (Setsuwa) の様な感慨ぢゃあないんだ。

後に清岡卓行 (Takayuki Kiyooka) の『手の変幻』という、これも両腕が欠けたミロのヴィーナス像 (Venus de Milo) を批評した論述に出逢うのだけれども、そこで主張されている事とは、少し違う様な気もする。
読んだ高校生の当時は、随分と感心させられた様な気もしたが、今、改めて読み直してみると、何故、トルソ (Torso) をヒトは創るのかという口実の為の様にしか思われない。
それに第一、ミロのヴィーナス像 (Venus de Milo)勝利の女神ことサモトラケのニケ像 (Victoire de Samothrace) では美しさの質が違う。
前者は、そこに美しさを凍結しえたかの様な永遠が存在するが、後者は永遠のものではないだろう。むしろその逆の、瞬間の美しさだ。

その証左...と、言えるかどうか解らないけれども、実は右腕 (Le bras droit) は1950年に発見されて、彼女が収められているルーヴル美術館 (musee du Louvre) に収蔵されているのだ。
ついでに記しておくと、彼女が初めて発見されたのは、1863年。サモトラキ島 (Samothraki) にて仏領事シャルル・シャンポワゾ(Charles Champoiseau) によって胴体が見出される。
そして、118片にも砕かれた翼部分が発見されて、現在の姿に復元。1884年以降、彼女はルーヴル美術館 (musee du Louvre)ダリュの階段踊り場 (Galerie Daru) にある。
つまり、誰でもが思う様に、頭部と両腕を喪った現在の彼女が完成された姿であって、後に顕われた右腕を復活させる必要は一切ない。
そおゆう事だ。

だからやっぱり、これなのだろうか。
永井豪 (Go Nagai) 『デビルマン (Devilman)』に登場する妖鳥シレーヌ (Sirene) ではないのか。

瀕死の彼女を救援に来たデーモン (Demons) の一人、カイム (Kaim) は「シレーヌ、血まみれでもきみは美しい」と謂う。
さらに、未だ己の正体を知らざる飛鳥了 (Ryo Asuka) は、デーモン (Demons) と敵対している立場であるのにも関わらず、不動明 (Akira Fudo) に次の様に謂うのだ。
「会って来たまえ。きみの素晴らしい敵だ!」

そして、彼の指差す先には、己の勝利を確信したまま絶命した彼女の姿がある。
朝陽を浴びた彼女の肢体は、デーモンハンター (Demon Hunter) である飛鳥了 (Ryo Asuka) やデビルマン (Devilman) =不動明 (Akira Fudo) にばかりでなく、この作品を読み耽ったぼくにも、神々しいばかりなのだった。

いつしか、ぼくは勝利の女神ことサモトラケのニケ像 (Victoire de Samothrace) の、腕も頸もない姿の美しさと同じものを、妖鳥シレーヌ (Sirene) の立ち往生 (The Last Stand Of) に見出してしまった様なのだ。

次回は「」。

嗚呼、勿論、いずれ「サモトラケのニケよりも美しい (Un automobile in corsa e piu bella della Nike di Samotracia)」という言説に、ぼくは出逢うだろう。しかしそれは、フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ (Filippo Tommaso Marinetti) によって『未来主義創立宣言 (Manifesto del Futurismo)』で謳われた「機銃掃射をも圧倒するかのように咆哮する自動車」に捧げられるべき献辞では、既にない。
H.R.ギーガー (H.R. Giger) の創出したバイオメカノイド (Biomechanoid) 達、かの映画『エイリアン (Alien)』 [リドリー・スコット (Ridley Scott) 監督作品] でタイトルロールを演じた (Giger's Alien) に捧げるべきなのではないか。
関連記事

theme : ふと感じること - genre :

i know it and take it | comments : 0 | trackbacks : 0 | pagetop

<<previous entry | <home> | next entry>>

comments for this entry

only can see the webmaster :

tackbacks for this entry

trackback url

https://tai4oyo.blog.fc2.com/tb.php/532-aa10c218

for fc2 blog users

trackback url for fc2 blog users is here