2010.04.06.18.40
脚本:佐々木守 (Mamoru Sasaki)、[本編] 監督:実相寺昭雄 (Akio Jissoji)、特殊技術 [監督]:高野宏一 (Kouichi Takano)。
そしてテレスドン (Telesdon) は、デザイン:成田亨 (Toru Narita) 、造形:高山良策 (Ryosaku Takayama) による。
[クレジットでは、上記の通り。実際の制作行程では脚本の殆ども実相寺昭雄 (Akio Jissoji) の手によるものらしいのだけれども、論の展開上、このクレジットに従って進めてゆく。]
さて、佐々木守 (Mamoru Sasaki) と実相寺昭雄 (Akio Jissoji) のコンビと言えば、正義の超人対怪獣という枠組みの中で、常に変化球を投げ続け、その結果、『ウルトラマン (Ultraman)』の世界観を拡大すると同時に、その世界をより豊穣なものにしてしまったバッテリーである。
それを疑うのであるならば、第15話『恐怖の宇宙線』 (The Terrifying Cosmic Rays) の幻想美や、第23話『故郷は地球』 (My Home Is Earth) の虚無感を味わってみればいい。
そこには、子供番組というエクスキューズ抜きの、ファンタジーやサイエンス・フィクションが潜んでいる。
そんな佐々木守 (Mamoru Sasaki) と実相寺昭雄 (Akio Jissoji) の作品は、『ウルトラマン (Ultraman)』では6作品あるが、その中で唯一、地球侵略をテーマにしたもので、ある意味『ウルトラマン (Ultraman)』の王道を歩もうとした作品である。
しかし、歩もうとしたが故に、よりこのバッテリーならではの特異な采配が観えてくる。
先ず、侵略者が宇宙人ではなくて、地底人 (The Underground People)。
地球外の侵略者ではなくて、地球内からの侵略者という設定は、後に『ウルトラセブン (Ultra Seven)』の第42話『ノンマルトの使者』 (Messenger Of Nonmaruto) においてより活かされてくる。つまり、この地上の覇者たる人類を襲う"侵略者"は、絶対的な悪ではないという意味において。
但し、この作品では、必ずしもそれは強調されていないのだけれども [むしろ、その愚かさは、いしいひさいち (Hisaichi Ishii) の快作地底人シリーズ
それよりも観るべきものは、ウルトラマン (Ultraman) とテレスドン (Telesdon) の戦いである。
それは、闇に沈む都会で行われる。そして、その光量は最低限のものだったので、当時のTVの解像力では、闇に浮かぶテレスドン (Telesdon) の眼孔の輝きとその反射でほの暗く浮かび上がるウルトラマン (Ultraman) の白銀の皮膚だけだったようだ。
そして、ウルトラマン (Ultraman) の必殺技、スペシウム光線 (Specium Beam) で総てが解決されるという、番組の常道を嫌った結果、その闇の中で超人と地底怪獣 (Underground Monster) の肉弾戦が行われるのである。
その為にウルトラマン (Ultraman) 登場前に、圧倒的な破壊力を誇っていたテレスドン (Telesdon) の溶岩熱線 (The Stream Of Deadly Flames) すらも、肉弾戦での使用は観られなかった程だ。
だから当時のぼく達は、あぁあ、テレスドン (Telesdon) ってスペシウム光線 (Specium Beam) なしでやられちゃったじゃんかぁ、よわっちいの、という様な認識を抱いてしまったのである。
しかしながらも、後年になってようやく気がつくのだが、このバッテリーによる作品に登場するいずれの怪獣も、スペシウム光線 (Specium Beam) 以外の解決法を採っていたのであった。

その一方で、テレスドン (Telesdon) に関しては、その造形にも着目しなければならない。
大きく裂けた口顎とその上に乗る鋭い眼孔の美しさは言うまでもない。その美しい口顎と眼孔が、闇にほの暗く灯るのである。そして、その口顎と眼孔を支える体躯は、幾重にも穿たれた体節によって分断されて、それがまごう事なく、彼が生物である事を窺わせる。
しかし、このシンプルなテレスドン (Telesdon) の美しさは、円谷プロダクション (Tsuburaya Productions) 作品にあっては、異質である。特に、地底怪獣 (Underground Monster) という系統においては。
円谷プロダクション (Tsuburaya Productions) 作品に登場する地底怪獣 (Underground Monster) には、バラゴン (Baragon) ~パゴス (Pagos) ~ネロンガ (Neronga) ~マグラ (Magular) ~ガボラ (Gabora) という系譜がある。つまり、この五匹の地底怪獣 (Underground Monster) は総て、一体の着ぐるみを使い回して創造されたものなのだけれども。
『フランケンシュタイン対地底怪獣 ( Frankenstein Conquers The World)』 [本多猪四郎 (Ishiro Honda)監督作品 1965制作] に登場したバラゴン (Baragon) の着ぐるみは、胴体のみが東宝 (Toho) から円谷プロダクション (Tsuburaya Productions) に貸し出され、『ウルトラQ (Ultra Q)』『ウルトラマン (Ultraman)』の造形を担当する高山良策 (Ryosaku Takayama) によって、文字通りの新たな生命として、この世に顕われるのだ。
その結果、この二作品に登場する地底怪獣 (Underground Monster) はいずれも、二足歩行も四足歩行も可能であり、四肢の結合部には重々しい肉襞が縦往し、背部には荒々しくも険しい段状の突起物を負うのである。
それはあたかも、『ウルトラQ (Ultra Q)』に登場したゴルゴス (Gorgos) が生命を得た岩石の結合体である様に、彼らは生物というよりも、地底に潜む恐るべきエネルギーの象徴であるかの様だ。
しかし、テレスドン (Telesdon) はそれとは異なる。
『ウルトラQ (Ultra Q)』に登場したモングラー (Mongular) が巨大化した土竜 (Mole) である様に、『ウルトラマン (Ultraman)』に登場したアントラー (Antlar) が蟻地獄 (Antlion Larvae) の怪獣化である様に、テレスドン (Telesdon) は、己の出自が生物である事を主張してやまない 。
あの体節は、第29話『地底への挑戦』 (The Challenge Into Subterra) に登場したゴルドン (Goldon) にも通底するものだけれども、個人的には、蚯蚓 (Earthworm) のそれをふと想い出させてしまう。何故ならば、地中深くを自在に行動する為には、荒々しくも険しい段状の突起物よりも、柔らかで滑らかに蠢く皮膚の方が、より相応しく観えるからだ。
そして、それ故に、テレスドン (Telesdon) には不幸が待っている。
バラゴン (Baragon) ~パゴス (Pagos) ~ネロンガ (Neronga) ~マグラ (Magular) ~ガボラ (Gabora) と使い回された着ぐるみは、使い回されたが故に、再び元のバラゴン (Baragon) へと還って、『怪獣総進撃 (Destroy All Monsters)』 [本多猪四郎 (Ishiro Honda)監督作品 1968制作] に出演出来た。何故ならば、使い回すだけでなく、後にはそれをそのまま東宝 (Toho) へ返却する事が前提となっていたが為に、高山良策 (Ryosaku Takayama) は、本体の劣化を防ぐ為に、丁寧な改造を施していたのだ。
その一方でテレスドン (Telesdon) は、長期保管に適さないラテックス (Latex) 製だった為に、次第に劣化してゆく。『ウルトラファイト (Ultra Fight)』に登場した時点で、もはやその鋭角的な口顎と眼孔は喪われ、『帰ってきたウルトラマン (The Return Of Ultraman)』では、テレスドン (Telesdon) の弟怪獣デットン (Detton) として、兄とは似ても似つかぬ鈍重なその姿を現すのである。
だから、デパートの屋上で行われる怪獣アトラクションを観る度に、彼らには永遠にブラウン管の中でしか逢えないのだなぁと、ぼくは痛感させられたのだった。
何故ならば、そのアトラクションに出演している怪獣のどれもが、角が歪み、突起物は総て凶暴性を喪われ、そして彼らの眼孔のどれもが暗く濁っていたのだから。
その象徴が、『ウルトラファイト (Ultra Fight)』のテレスドン (Telesdon) であり『帰ってきたウルトラマン (The Return Of Ultraman)』でのデットン (Detton) だったのである。
次回は「つ」。
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