2010.03.28.19.46
『ほどかれて少女の髪に結ばれし葬儀の花の花言葉かな』
from the movie "田園に死す (Pastoral: To Die In The Country)
directed by 寺山修司 (Shuji Terayama)
こんな夢を観た。
気がつけば、叢の中に臥れていた。掌先や脚先の感覚はあるものの、全身が異様に重い。腕も腿も、まるでどこかに抛り飛ばされた様だ。空が観える。重い雲の上を軽やかに薄墨色の雲が駆け抜ける。もうすぐ降りだすなと、考えが及んだところで、ようやく、躯をどうにかしなければと思い浮かんだ。
さっきまでの事がフラッシュバックの様に想い出される。
いずことも知らぬ駅で降りてしまった事。その駅に見捨てられた支線があってそこに一台のトロッコがあった事。次の列車が来る迄には相当な時間が必要でその代わりに駅のまわりにはその時間をつぶす場所がひとつもなかった事。だから、ぼく達は冗談け半分に、そのトロッコに乗ってみた事。
ぼく達? そうだ、ぼく達だ。彼女はどうしたろう?
ぼくがその駅に降りてしまったのは、彼女のせいだ。彼女が微笑んで、彼女が手招きしたから、ぼくは彼女と連れ立って、そこで降りたのだ。
脳震盪でも喰らったのか、ふらふらする。そのふらふらを攪拌する様に、頭を振ってみる。そして、瞳を閉じて、頭のあちらこちらを触ってみる。
どうやら、血は流れてはいないらしい。外傷はないようだ。
どうにかして立ち上がったその先では、トロッコが横転していた。ぶざまにひっくり返って、機械油で黒々とした肚をみせたそれは、未だに車輪をくるくるくると回転させている。ぼくが意識を喪っていたのは、ほんのわずかな時間らしい。
そのトロッコの先には蛇行しているレールが錆びついた躯をうねうねとさせている。今は詳しく調べられないが、本来ならば並行して奔るそれが、次第にそれぞれの往きたい方向へ向かったのだろうか。ぼくが倒れた原因がそれなんだろうか。そう想った矢先に、なにげに踏みつけた枕木のひとつが、ぐらりと沈んだ。そうだろう、そうだろう。こいつが腐ってしまったのも、そのひとつの原因だ。
彼女は、ぼくが倒れた側の反対側に、そしてぼくよりもかなりの前方にいた。ずいぶん先へと放り出されてしまった様だ。くの字になった躯から、放物線を描く様に、四肢が投げ出されている。長い髪で表情は観えない。まるで、翅をむしり取られた昆虫の様だ。
彼女のそばに跪き、腕のひとつをとった。そして、ゆっくりと躯を仰向かせる。
.....。
そんな昔のことを想い返しながら、ぼくは薄暗いキッチンに立ちあぐねている。
隣の居間から、TVの物音が絶えず聴こえてくる。
笑い声笑い声笑い声。
めったに使う事のない刺身包丁の蒼白い肚がひかる。
氷をいれたグラスをふたつつかんで、笑い声のする方へと赴く。
"Drive-in Theater" Scene
from the movie "The Sugarland Express
directed by Steven Spielberg
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