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2009.12.01.18.08

くもむげんしんしかいきへんより

それはたしか、こんな物語だった。

名前はさやか。十二歳の少女である。

彼女は父親とふたりでその洋館に暮していた。知らないものが彼らふたりを観たら、睦まじいふたり、祖父と孫とに観誤るかもしれない。それほど、歳の離れた父娘である。
つまりは、晩婚だったのか、それとも齢を重ねてようやくもうけたのか、それとも孤閨を紛らわす為の養女だったのか。
そのいずれかではあろう。

そのふたりの許に、あらたな人物が登場する。その人物は若いおんなで、凍りつく様な美貌と豊かな黒髪をもっていた。
父は娘に若いおんなを紹介する。あたらしいおかあさんだ、と。

その洋館に棲まうふたりは、その日からさんにんとなった。

ところがある日、父はふたりを遺し何処とも知れぬ、突然に出奔してしまう。
さんにんはふたたびふたりとなる。
そして、父と娘がこれまで暮していたその洋館で、若い継母とさやかの新しい暮らしが始るのだ。

と、いうのが高橋葉介 (Yousuke Takahashi) 描く『夢幻紳士 怪奇篇』の一編『蜘蛛』の、ほんのさわりである。

作者である高橋葉介 (Yousuke Takahashi) は本作のモチーフ (Motiv) に『ウルトラQ (Ultra Q)』第九話『クモ男爵 (The Spider Baron)』がある事を示唆している。が、それはあくまでも洋館蜘蛛 (Spider) という、その素材の組み合せだけである。

これはひとりの少女の物語である。

蜘蛛 (Spider) は常に待つものである事。
そして、蜘蛛 (Spider) は蛹化 (Pupa) しない事。

少女はその洋館に囚われの身でありながらも、何かを待っている。
それは己自身はおろか、継母もまた気づかない。
少女はゆっくりとそだつ。娘であることをいつしか辞めて、おんなと化す。

だから、少女をこの洋館から救出しに来た、本編の主人公である [筈の] 夢幻魔実也も少女の許から這々の体で、彼女をそこに遺したまま逃げ出さざるを得なかったのだ。

images
夜の闇は私の古い友人でしてね 何も恐れるものではありません
そんな名台詞を吐いて、オンナを煙に巻く。あの夢幻魔実也が、だ。
少女さやかに潜むその魔性の恐ろしさは、いかばかりだったのであろうか。そして、それを導きだした継母とは...。

夢幻魔実也が現れて、その日からふたりがひとりとなる。
さやかはたったひとりで待っている。

次回は「」。
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