2007.08.21.21.21
『I know it and take it』という連載企画では、「う」が語頭となる単語は今回で二度目です。
そこで今回は、前回が梅雨寒という理由で見送った「うじきんとき」すなわち宇治金時について書く事に致しましょう。東京では、ここ数日の猛暑を引継いでの、今日もとても暑い日でしたから。
幼い頃に住んでいた自宅から数分のところに、児童公園がありました。ブランコに砂場にジャングルジムに滑り台。未就学児童が、日がな一日、夏の茹だる様な暑さを忘れて駆けずりまわってもまわり飽きないくらいの広さは充分にありました。
そして、その児童公園に接する様に、小山がありましたから、捕虫網と虫籠を抱えて、その決して高くはない小山の頂上を目指せば、髪切虫や黄金虫や天道虫くらいの一匹や二匹は捕まえられたでしょう。もちろん、BGMはその小山に生い茂る樹々に集う蝉々の鳴き声です。

自宅とその児童公園 with 小山の中間地点に、一軒の駄菓子屋がありました。夏は、ひろひらと朱色の文字でくっきりと「氷」と書かれた小旗が、駄菓子屋のその軒先きを彩っていました。
立て付けの決して良くない引き戸は開けっ放しになっていて、薄暗い店内にはおもちゃやらお菓子やらが、雑然と並んでいます。店の奥には、シーズンオフとなってしまったおでん鍋と、お好み焼きとか焼そばとかをその場で調理する為の鉄板が放置されています。
夏場なので、店内はかすかにお酢の匂いがします。ところてんの匂いです。そして、僕はその頃からところてんが好きではありません。
店の隅に、4人がけくらいのテーブルがあって、いつもべたべたとひっつくビニール製のテーブルクロスがかけてありました。僕達は、いつもそこに腰掛けて、思い思いの冷たいオーダーをします。イチゴ、メロン、ピーチ、レモン、オレンジ、グレープ...。注文を終えてから、各々のかき氷が出来上がるまでの至福の時。しゃしゃしゃしゃしゃっと、氷かき機の音が、とても涼やかに響き渡ります。
そして、恐らく誰しもが経験する様に、ヒトクチほうばった途端にキィーンとこめかみが痛くなってしまったり、最初の一掬いに失敗して、氷いちごの頭頂部をごそっとテーブルの上に落としてしまったり、食べるのが遅くて最後には完全に溶けてになってしまったシロップをすすったり、そんなエピソードには事欠きません。
それでも、かき氷のメニューのまん中あたりにある宇治金時だけは、誰も食指を伸ばしませんでした。その駄菓子屋を卒業して、詰襟の制服を着る様になるまでは、ちょっと得体のしれない不思議な食べ物でしたから。そのちょっと得体のしれない不思議な食べ物に、手を染めるきっかけは、繁華街の甘味所に僕らを誘い出した、同じクラスの女子達が与えてくれました。
今想えば、彼女達自身が、当時の僕らにとっては、ちょっと得体のしれないイキモノでした。
次回は「き」。
そこで今回は、前回が梅雨寒という理由で見送った「うじきんとき」すなわち宇治金時について書く事に致しましょう。東京では、ここ数日の猛暑を引継いでの、今日もとても暑い日でしたから。
幼い頃に住んでいた自宅から数分のところに、児童公園がありました。ブランコに砂場にジャングルジムに滑り台。未就学児童が、日がな一日、夏の茹だる様な暑さを忘れて駆けずりまわってもまわり飽きないくらいの広さは充分にありました。
そして、その児童公園に接する様に、小山がありましたから、捕虫網と虫籠を抱えて、その決して高くはない小山の頂上を目指せば、髪切虫や黄金虫や天道虫くらいの一匹や二匹は捕まえられたでしょう。もちろん、BGMはその小山に生い茂る樹々に集う蝉々の鳴き声です。

自宅とその児童公園 with 小山の中間地点に、一軒の駄菓子屋がありました。夏は、ひろひらと朱色の文字でくっきりと「氷」と書かれた小旗が、駄菓子屋のその軒先きを彩っていました。
立て付けの決して良くない引き戸は開けっ放しになっていて、薄暗い店内にはおもちゃやらお菓子やらが、雑然と並んでいます。店の奥には、シーズンオフとなってしまったおでん鍋と、お好み焼きとか焼そばとかをその場で調理する為の鉄板が放置されています。
夏場なので、店内はかすかにお酢の匂いがします。ところてんの匂いです。そして、僕はその頃からところてんが好きではありません。
店の隅に、4人がけくらいのテーブルがあって、いつもべたべたとひっつくビニール製のテーブルクロスがかけてありました。僕達は、いつもそこに腰掛けて、思い思いの冷たいオーダーをします。イチゴ、メロン、ピーチ、レモン、オレンジ、グレープ...。注文を終えてから、各々のかき氷が出来上がるまでの至福の時。しゃしゃしゃしゃしゃっと、氷かき機の音が、とても涼やかに響き渡ります。
そして、恐らく誰しもが経験する様に、ヒトクチほうばった途端にキィーンとこめかみが痛くなってしまったり、最初の一掬いに失敗して、氷いちごの頭頂部をごそっとテーブルの上に落としてしまったり、食べるのが遅くて最後には完全に溶けてになってしまったシロップをすすったり、そんなエピソードには事欠きません。
それでも、かき氷のメニューのまん中あたりにある宇治金時だけは、誰も食指を伸ばしませんでした。その駄菓子屋を卒業して、詰襟の制服を着る様になるまでは、ちょっと得体のしれない不思議な食べ物でしたから。そのちょっと得体のしれない不思議な食べ物に、手を染めるきっかけは、繁華街の甘味所に僕らを誘い出した、同じクラスの女子達が与えてくれました。
今想えば、彼女達自身が、当時の僕らにとっては、ちょっと得体のしれないイキモノでした。
次回は「き」。
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