this night wounds time, 『20 ジャズ・ファンク・グレイツ』 by スロッビング・グリッスル("THROBBING GRISTLE bring you 20 Jazz Funk Greats" by Throbbing Gristle)
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2009.09.20.22.32

『20 ジャズ・ファンク・グレイツ』 by スロッビング・グリッスル("THROBBING GRISTLE bring you 20 Jazz Funk Greats" by Throbbing Gristle)

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可能性の音楽。この作品を聴く度に、音楽に不可能はないし、音楽というメディアで表現できないものはなにもない、そう想えてならない。
にも、関わらずに、その音楽そのものを語る術があまりに乏しく、不自由極りない、そんな徒労にも似た絶望感に打ちのめされるのも、この作品だ。

1979年発表作品、そして国内盤として僕が手に入れるのがその三年後の1981年。
このタイムラグだけが、その遠因であるとは決して言えないと、想う。

最初は『ハンバーガー・レディ (Hamburger Lady)』 [1978年発表 『D.O.A: The Third and Final Report of Throbbing Gristle』収録作品]だった。全身火傷でケロイド状にただれた肌を持つある女性をテーマにしたもの、そうアナウンスされていた。真皮がめくりあがり、じくじくと膿と血小板とリンパ液とが蠢き、腺という腺から滲み出る体液。そしてそれを凝視する己の視線と、未だ脈打つ事を止めぬ鼓動の響きが、そこにあった。
そして当時(1980年)発表されたばかりの『Heathen Earth』。彼らが所有するプライヴェート・スタジオに招待されたごく僅かの聴衆を前にして行われたスタジオ・ライヴだ。延々と打ち鳴らされるリズム・マシーン(Rhythm Machine) の反復音の影に、非常に強い感情が煮えたぎっている様に感じられた。その感情は一瞬の煌めきにも似て、それがどこから来ているのかは解らない。何故ならば、常時、抑圧され遮蔽されていたあるものが迸っている、そんな響きをその"感情"が持っているからだ。
そして、その"感情"の行方を追い求めているうちに、演奏が突如断ち切られ、DJの肉声が飛び込んでくる。
この二曲はFMラジオで紹介されているものだったからだ。

その様にして、ぼくはスロッビング・グリッスル (Throbbing Gristle) と遭遇し、程なくして、この作品を入手する。

インダストリアル・ミュージック・フォー・インダストリアル・ピープル (Industrial Music For Industrial People)」に、「ミュージック・フロム・ザ・デス・ファクトリー (Music From The Death Factory)」。

彼らの音楽を語る言葉は、あまりに饒舌で、そしてまた妖しい甘美な魅力を放っていた。だから、この作品をターンテーブルに乗せるのには、躊躇いも生じ、身を強張らせていたのも事実。まるで、新しい地獄がやてくるかの様な、己のもうひとつの性を犯される様な、脅迫感にも似た感情が、過ったのも事実です[大袈裟ではなくて]。

そんな先入観を軽く一蹴するかの様に、この作品は"自由"だった。
歪んだファンク (Funk) も、早すぎたテクノ (Techno) も、何れ知る事になるエキゾティック・サウンド (Exotica) の片鱗も、喪われた10年 (1960s) の御詠歌も、ありとあらゆる要素がごった煮 (Porridge) になっていた[ないものと言えばロック・ミュージック (Rock Music) のステロ・タイプ (Stereotype) な表象 (Vorstellung) くらいかもしれない]。

だから、彼らの音楽を語るものその殆どが、言葉から発して言葉で閉じてしまっている、それが不自由でいたたまれないのだ。
そして、一切の事前情報なしで、彼らを知り彼らの音楽に接っする事が可能だったのならば、と悔やまれて仕方がないのです。

余談として、誰でもが触れるジャケットの話。
本作品が制作された1979年当時のファッション・センスの視点から見ても、相当にアウト・オヴ・デイト (Out Of Date) な装いをした男女のスナップ・ショット (Snapshot) [愛しき コージー・ファンニ・トゥッティ (Cosey Fanni Tutti) ですら白のソックスだし]。
見晴らしのよいその場所は、ビーチー・ヘッド (Beachy Head) と呼ばれる、自殺の名所。撮影日前日にも、あるカップルがクルマごと崖へと顛落した[だから、ご丁寧にもジャケット写真の片隅に一台のヴァンが映り込んでいる]。
そんな挿話を思い浮かべながら、本作品収録曲『ビーチー・ヘッド (Beachy Head)』を聴いてみよう。鯨の嘶きにも似た頽廃的な雰囲気漂うこの楽曲に身を委ねながら、海水の中でゆったりと腐乱してゆく恋人達に、キミは想いを馳せるかもしれない。
さぁ、もう一度、ジャケットを手に取って。
そこにある四人の笑顔は、さっきと同じ笑顔かな?

ものづくし(click in the world!)84.:
『20 ジャズ・ファンク・グレイツ』 by スロッビング・グリッスル
("THROBBING GRISTLE bring you 20 Jazz Funk Greats" by Throbbing Gristle)


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THROBBING GRISTLE bring you 20 Jazz Funk Greats

Side One : 20 Jazz Funk Greats, Beachy Head, Still Walking, Tanith, Convincing People, Exotica.

Side Two : Hot on the Heels of Love, Persuasion, Walkabout, What a Day, Six Six Sixties.

Recorded at the Studios of Industrial Records in the weeks ending September 3rd, 1979.

A Sinclair / Brooks Production.

All songs composed and played by Throbbing Gristle :
Chris Carter : Roland Synthesisers, Sequencers, Rhythms, and Vocals.
Peter Christopherson : Tape, Vibes, Cornet and Vocals.
Genesis P-Orridge : Bass Guitars, Violin, Vibes, Synthesisers and Vocals.
Cosey Fanni Tutti : Satellite Lead Guitar, Gizmo Guitar, Synthesisers, Cornet and Vocals.

Original Liner Notes "TWENTY JAZZ FUNK GREATS" by T. G. London 1981

Photo : Clay Horden

(P) and (C) 1979 Industrial Records
Industrial Records

以下に掲載するのは、国内発売されたアナログ盤のクレジットです。

20 ジャズ・ファンク・グレイツ』 by スロッビング・グリッスル

Side A
1. 20 ジャズ・ファンク・グレイツ
2. ビーチー・ヘッド
3. まだ歩きつづけて
4. タニス
5. 説得術指南
6. エクゾティカ

Side B
1. 愛の追跡
2. 口説き方指南
3. 放浪
4. 今日はマイッタよ
5. ろっろくっ六〇年代
[訳詞=竹田賢一 + ピーター・バラカン]

クリス・カーターシンセサイザーシーケンサーリズム、ヴォーカル
ピーター・クリストファーソン/テープ、ヴァイヴコルネット、ヴォーカル
ジェネシス・ポオリッジベースヴァイオリンヴァイヴシンセサイザー、ヴォーカル
コージー・ファンニ・トゥッティギターシンセサイザーコルネット、ヴォーカル

制作:スロッビング・グリッスル/インダストリアル・レコード
日本盤制作/PASSレコード
ライナー・ノーツ制作―同時代音楽編集委員会

そして以下の記事が掲載されています。
『充血した脳細胞(スロッビング・グリッスル)が贈るインダストリアル・エイジの偉大な思想20選』 written by 竹田賢一同時代音楽編集委員会

PASS RECORDS PAS-1001
MARKETED BY TRIO-KENWOOD CORP.
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