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2009.08.25.20.08

すどうへいちょうのなぞ

須藤兵長 (Corporal Sudou) とは、映画『電送人間 (The Secret Of The Telegian)』 [福田純 (Jun Fukuda) 監督作品 1960年制作] のタイトル・ロール、すなわち電送人間 (The Telegraphed Man)の正体である。中丸忠雄 (Tadao Nakamaru) が演じた。
彼に関しては、映画を離れた処に、いくつもの謎がある。

まずフルネームが解らない。
と、いうのはこの際どうでも宜しい(苦笑)。

兵長 (Corporal) というその階級の事である。兵長 (Corporal) というのは、その字面の通り、旧日本陸軍 (Imperial Japanese Army) においては (Trooper) のトップの階級に位置し、そこから一階級上がると伍長 (Corporal) 、つまり下士官 (Non-commissioned Officer) となる。
さて、問題は兵長 (Corporal) が物語の中で、重要な役回りを演じる作品を、僕が寡聞にも知らない事にある。最も兵長 (Corporal) という階級自身、それに相当する階級が、英米陸軍にないから、というのもある[兵長 (Corporal) としたのは、本作品の海外ヴァージョンで、須藤兵長 (Corporal Sudou) とされているからに他ならない。しかしながら本来は (Trooper) である階級を下士官 (Non-commissioned Officer) という位置づけに翻案したのでは、物語的に如何なものなのだろうか]。
戦場を舞台にした多くの物語は、叩き上げの下士官 (Non-commissioned Officer) と着任したばかりの青年将校 [士官] (Officer) の物語であり、そのふたりの世界観や戦争観や実戦経験の有無から生じる様々な軋轢が物語を牽引して行く事になる。例えば映画『戦争のはらわた (Cross Of Iron)』 [サム・ペキンパー (Sam Peckinpah) 監督作品 1976年制作] やTVシリーズ『コンバット! (Combat!)』 [1962年~1967年放映] 。ノン・キャリアとキャリアの対立と相克と言い換えても良いだろう。
つまり、兵長 (Corporal) を始めとする (Trooper) は、そのふたりの対立や提携によって右往左往させられるばかりなのである。
にも関わらずに、この映画では右往左往させられた兵長 (Corporal) の復讐譚として、物語が進められてゆく。
そして、この様な物語は後にTVシリーズ『怪奇大作戦 (Operation: Mystery)』[1968年~1969年放映] の主要プロットとなってゆく。

さて、その須藤兵長 (Corporal Sudou)を演じたのが冒頭に書いた様に中丸忠雄 (Tadao Nakamaru) である。
この映画の中での、インテリジェントでかつミステリアスな雰囲気が買われ、本作品のプロデューサー田中友幸 (Tomoyuki Tanaka) に次作の主演をオファーされるが、断ってしまう。その断ってしまった作品がかの名作『ガス人間第一号 (The Human Vapor)』 [本多猪四郎 (Ishiro Honda) 監督作品 1960年制作] である。
その中丸忠雄 (Tadao Nakamaru) が断ったタイトル・ロールの水野 (Mizuno, The Human Vapor) を演じたのが、本作品で岡崎捜査主任 (Okazaki, Detective Chief Investigatio))役を演じた土屋嘉男 (Yoshio Tsuchiya) であり、そのガス人間 (The Human Vapor)が彼自身のキャリアの中でも屈指の名演となったのだ。
ガス人間第一号 (The Human Vapor)』 [本多猪四郎 (Ishiro Honda) 監督作品 1960年制作] は、それこそ何度となく観たし[既にこんな文章も書いてしまっているし]、土屋嘉男 (Yoshio Tsuchiya) あっての本作品であるのを十分に承知した上で、「何故断ったんだ!!」と糾弾したくなる想いの僕もいる。
と、いうのは、中丸忠雄 (Tadao Nakamaru) が主要な役どころを演じる映画『私は貝になりたい (I Want To Be A Shellfish)』 [橋本忍 (Shinobu Hashimoto) 監督作品 1959年制作] を観たからだ。
この作品での中丸忠雄 (Tadao Nakamaru) 、己の不条理な死を肯定的に甘受する大西三郎という人物を観るにつけ、土屋嘉男 (Yoshio Tsuchiya) 版とは全く異なった解釈によるガス人間 (The Human Vapor) 像が誕生したかもしれないのだ、と思えてならないのだ。

そして最期に。
この『電送人間 (The Secret Of The Telegian)』 [福田純 (Jun Fukuda) 監督作品 1960年制作] という映画のプロットを支えているのが物質電送装置、つまり物体を電磁波に変容させて、ある地点から別の地点に移送する、あれである。藤子・F・不二雄 (Fujiko F. Fujio) 的に言えば、"どこでもドア"だ。
もちろんこの物質電送装置は映画『蝿男の恐怖 (The Fly)』 [カート・ニューマン (Kurt Neumann) 監督作品 1958年制作] からアイデアを借り受けたものだけれども、さて、ここで大きな問題がある。
映画『蝿男の恐怖 (The Fly)』 [カート・ニューマン (Kurt Neumann) 監督作品 1958年制作] のリメイク作品でありながら、全く異なる恐怖と感動を与えてくれる映画『ザ・フライ (The Fly)』 [デヴィッド・クローネンバーグ (David Cronenberg) 監督作品 1986年制作]。実は、このデヴィッド・クローネンバーグ (David Cronenberg) 作品は、映画『電送人間 (The Secret Of The Telegian)』 [福田純 (Jun Fukuda) 監督作品 1960年制作] にかなりのものを負うているのではないだろうか。

それぞれの映画のファンは、それぞれの立場で否定するだろう。

しかし、『ザ・フライ (The Fly)』 [デヴィッド・クローネンバーグ (David Cronenberg) 監督作品 1986年制作] の悲劇的な結末を観るが良い。
そして『電送人間 (The Secret Of The Telegian)』 [福田純 (Jun Fukuda) 監督作品 1960年制作] の中での、鶴田浩二 (Koji Tsuruta) 演じる桐岡勝 (Masaru Kirioka, Journalist)の次の台詞を想い出すが良い。
彼は電送人間 (The Telegraphed Man) の事をこう悪し様に罵っているのである。

images
人間の形はしているが血管の代わりに電線が通り、血液の代わりに電流が流れている悪魔です」と。

まさにその様な怪異な生命体が、デヴィッド・クローネンバーグ (David Cronenberg) 作品では、物質電送装置から現れるのである。

次回は「」。
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