2023.09.19.07.57
蝲蛄 (Crayfish) は海老 (Shrimp) なのだろうか、蟹 (Crab) なのだろうか。そんな疑問、否、論争がある。勿論、科学的に生物学 (Biology) 的にはきちんと結論はついている [こちらを参照の事]。だけれども、ぼく達が産まれ育った地域ではその生物は海老蟹 (Ebi-Gani : Shrimp-Crab) とも呼ばれている。だから忘れた頃に、この謎は蒸し返される。
そこで当時のぼくこう答える。
海老 (Shrimp) に決まっているぢゃんか、だって巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) は海老 (Shrimp) の怪獣 (Kaiju) だろう、と。
そしてそこに失笑が産まれる。
大人達が蝲蛄 (Crayfish) もしくは海老蟹 (Ebi-Gani : Shrimp-Crab) に疑問を抱くのは、外見は海老 (Shrimp) のくせに、1対の第一歩脚 (Chelipeds) が鉗脚 (Chela)、すなわちはさみ (Claw) であるからだ。彼等が馴染んでいる海老 (Shrimp) にはそんな形状の第一歩脚 (Chelipeds) を持ったモノがない。恐らく、ロブスター (Lobster) と謂う食材を知らないのか喰った事がないからであろう。少なくとも当時、ぼく達が半ば遊び場としていた市場にある魚屋にそれが並んだ試しはない。
その一方で、ぼく達が一番親しんでいる海老 (Shrimp) は、巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) なのだ。だから、その怪獣の存在と形状を基に海老 (Shrimp) と謂う生物を類推する。
ぼくの保育園 (Nursery School) 時代、海の生物を幾つも幾つも描いてモビール (Mobile) を作る授業があった。保育園児 (Nursery School Pupil) が描いたそれらをひとつの立体作品として展示するのだ。無論、その中には海老 (Shrimp) もいる。しかもその海老 (Shrimp) の第一歩脚 (Chelipeds) は鉗脚 (Chela) である。
先生が蝲蛄 (Crayfish) は海にはいませんと謂う。
だけれども、ぼく達はこう反論するのだ。
先生、巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) は海の怪獣 (Kaiju From The Ocean) だよ、と。
巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster)、もとい蝲蛄 (Crayfish) もしくは海老蟹 (Ebi-Gani : Shrimp-Crab) はぼく達が親しんでいた生物だった。
ぼく達、保育園 (Nursery School) の仲の良い同級生達は、捨てるばかりの古ぼけたカーテンレール (Curtain Track) を人数分と凧糸 (Kite String)、そして先程登場した魚屋から分けてもらった魚の腑をバケツ (Bucket) に入れて、近所のお堀にいく。そこは昔の城址 (Castle Ruins) の一角であってその証拠に石垣の上に白壁の建物が建っている。そこからもう少し先、本丸 (Honmaru : The Keep Of A Castle) が建っていた筈のところはぼく達の遊び場のひとつ、公園 (Park) となっている。
ぼく達はカーテンレール (Curtain Track) の先に凧糸 (Kite String) を結びつけ、その先に魚の腑を縛りつける。これで蝲蛄 (Crayfish) もしくは海老蟹 (Ebi-Gani : Shrimp-Crab) を釣るのだ。うんざりする程釣れる時もあれば、坊主 (Get Skunked) の時もある。水面を覗き込めばすぐそこに1匹いるのは解っているが、ぼく達の掌が届くところではない。下手すればそこに真っ直ぐ落ちて溺れてしまう。
そしてそこは釣堀 (Fishing Pond) でもなんでもないただの歩道だから、道ゆく大人達は皆、ぼく達を覗き込み、そして微笑む様にして通り過ぎていく。ちっちゃな児達が真面目な顔をして、壊れたカーテンレール (Curtain Track) を水面に向かって差し出していて、その脇には蝲蛄 (Crayfish) もしくは海老蟹 (Ebi-Gani : Shrimp-Crab) が数匹入っているバケツ (Bucket) があるからだ。
そうそう、ところで、なんのはなしだっけ。
巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) が登場する映画『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘 (Ebirah, Horror Of The Deep)』 [福田純 (Jun Fukuda) 監督作品 1966年制作] は、ぼくにとっては初めて観る、怪獣王ゴジラ (Godzilla, The King Of Monsters) が登場する映画だ。
尤も、東宝 (Toho) の怪獣映画 (Kaiju Movies) は、それ以前に幾作品も体験済みだ。映画『フランケンシュタイン対地底怪獣 (Frankenstein vs. Baragon) [本多猪四郎 (Ishiro Honda) 監督作品 1965年制作] や映画『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ (The War Of The Gargantuas)』[本多猪四郎 (Ishiro Honda) 1966年制作] である。勿論どれも封切作品として、である。
そしてふと、思う。時系列から謂えば、映画『怪獣大戦争 (Invasion Of Astro-Monster)』 [本多猪四郎 (Ishiro Honda) 監督作品 1965年制作] で怪獣王ゴジラ (Godzilla, The King Of Monsters) を初体験と謂う事になる筈だ。だけれども、この作品は封切よりも数年後、蝲蛄 (Crayfish) もしくは海老蟹 (Ebi-Gani : Shrimp-Crab) を釣る事になるお堀の向かいにあるナショナルショールーム (National Showroom) で観たのである。今憶えば家電 (Home Appliance) の最新作が並んでいるだけだがここもぼく達にとっての遊び場のひとつだ。小遣いに余裕があればそこにある自販機 (Vending Machine) でミリンダ (Mirinda) も呑める。そして2階には小さな上映設備がある。そこでその映画を観た。しかも無料で、だ。
親の財布が硬かったからだろうか。そんな事はない。映画館は当時棲んでいた自宅から数分、お堀よりもナショナルショールーム (National Showroom) よりも、そして保育園 (Nursery School) よりも近い。行きたいと謂えばすぐに連れて行ってもらえる場所にある。入場料も今よりもずっとやすい。
ぢゃあ、何故、映画『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘 (Ebirah, Horror Of The Deep)』がぼくにとっての怪獣王ゴジラ (Godzilla, The King Of Monsters) 初体験なのだろう。
解答は単純だ。
丁度、その同時季に公開された映画『大怪獣ガメラ (Gamera, The Giant Monster)』 [湯浅憲明 (Noriaki Yuasa) 監督作品 1965年制作] を観たからだ。

その映画での巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) の初登場シーンを観たぼくは、まるで『西遊記 (Journey To The West)』 [丘処機 (Qiu Chuji) 作 1592年刊行] みたいだなぁと思う。そこに登場する孫悟空 (Monkey King aka Sun Wukong) と釈迦如来 (Shakyamuni Tathagata)との逸話 (Episode)、すなわち釈迦如来 (Shakyamuni Tathagata) の掌をぼくが想い出していたからだ [上掲画像はこちらから]。
今なら結界 (Bai sema) 云々ともっともらしい事を宣えてしまえるのだろうが、そんな言説が登場する以前にぼくの脳裏には、紋別市 (Monbetsu City) の、ある巨大オブジェが浮かぶ。
カニの爪 (Crab Claw Statue) である。
映画のあのシーンとそっくりだ。
そして、拙稿冒頭にあった海老 (Shrimp) なのか蟹 (Crab) なのかと謂う問題が頭を擡げるのである。しかもそれは蝲蛄 (Crayfish) でも海老蟹 (Ebi-gani : Shrimp-Crab) でもない。巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) と謂う存在に対してである。
次回は「ら」。
附記 1.
映画『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘 (Ebirah, Horror Of The Deep)』 はある意味で [しかも決していい意味ではない] 画期的な作品である。
ひとつは本多猪四郎 (Ishiro Honda) に代わって福田純 (Jun Fukuda) が監督する怪獣王ゴジラ (Godzilla, The King Of Monsters) の映画の初作品である事。
ひとつは幾作かの東宝 (Toho) の怪獣映画 [Kaiju Movies] に於いて宿命の女 (Femme fatale) [女性主人公 (Heroine) と呼ぶよりもこの方が似つかわしい] として登場してきた水野久美 (Kumi MIzuno) の最後の出演作である事、しかも彼女が演じる女性ダヨ (Dayo) は決してこの映画に登場する誰ひとりに対しても宿命の女 (Femme fatale) ではない事 [21世紀 (21st Ceturies) になって2作品出演しているがそこでも同様だ]。
だけれどもそれ以上にもっと重要な相違点がひとつある。
それは、本作に登場する怪獣 (Kaiju) のどれ1匹も南洋の孤島から離脱しない点にある。敢えて謂えば、インファント島 (Infant Island) と本作の主要舞台、レッチ島 (Letchi Island) を往復する巨大蛾怪獣モスラ (Mothra, The Thing) だけが例外だ。
日本 (Japan) のどこかに上陸し、都市を破壊し人々の生活を蹂躙する、そんな展開はここにはないのだ。そして、こんな舞台設定と物語展開はこの後の数作にまで及ぶ。映画『怪獣総進撃 (Destroy All Monsters)』 [本多猪四郎 (Ishiro Honda) 監督作品 1968年制作] でキラアク星人 (Kilaak) に操縦された怪獣達 (Kaijus) が彼等がそれまで囚われていた怪獣ランド (Monsterland) を脱出し全世界に攻撃に向かうのをひとつの例外として、映画『怪獣島の決戦 ゴジラの息子 (Son Of Godzilla)』』 [福田純 (Jun Fukuda) 監督作品 1967年制作] も映画『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃 (All Monsters Attack)』 [本多猪四郎 (Ishiro Honda) 監督作品 1968年制作] も南洋の孤島 [前者はゾルゲル島 (Solgell Island) 、後者は怪獣島 (Monster Island) と謂う] を舞台とした物語なのである [しかも後者は少年が観る夢の中の出来事でしかない。その少年、三木一郎 (Ichiro Miki) [演:矢崎知紀 (Tomonori Yazaki)] が夢をそんな観るのも、そんな設定の映画ばかりが制作されたからだ。彼はぼく達と同様、単に怪獣達 (Kaijyus) に逢いたいだけなのだから]。
まるで特撮TV番組『ウルトラQ (Ultra_Q)』 [1966年 TBS系列放映] 第2話『五郎とゴロー (Goro And Goroh)』 [金城哲夫 (Tetsuo Kinjo) 脚本 円谷一 (Hajime Tsuburaya) 監督 有川貞昌 (Sadamasa Arikawa) 特技監督] の結末を受けて、そこに登場する巨大猿ゴロー (Goro, Giant Monkey) ばかりか他の総ての怪獣達 (Kaijus) が孤島に送致されてしまったかの様な趣きなのである
何故、こうなってしまったかは解っている。幾らでも挙げられるだろう。だけれども、ここではたったのひとつだけを指摘する事にする。
本作が当初、大怪力怪獣キングコング (King Kong, Giant Ape) が登場する映画『ロビンソン・クルーソー作戦 キングコング対エビラ (Operation Robinson Carusoe : King Kong vs. Ebirah)』として構想されていた事だ。きっと映画『キング・コング (King Kong)』 [メリアン・C・クーパー (Merian C. Cooper)、アーネスト・B・シュードサック (Ernest B. Schoedsack) 監督作品 1933年制作] での主舞台、髑髏島 (Skull Island) でのキング・コング (King Kong) と恐竜達 (Dinoaurs) の死闘からその構想が出来したのであろう。そして原典との差異を謳わんが為に、巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) を創案し、大怪力怪獣キングコング (King Kong, Giant Ape) にとっての初の海上での死闘を演出しようと試みたのだろう。
だが、この構想はキング・コング (King Kong) の版権を保持する米国 ()United States) 側から一蹴されてしまう。その結果、大怪力怪獣キングコング (King Kong, Giant Ape) から怪獣王ゴジラ (Godzilla, The King Of Monsters) への首の挿げ替えが行われ現在の作品、映画『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘 (Ebirah, Horror Of The Deep)』が制作され、と同時に大怪力怪獣キングコング (King Kong, Giant Ape) が登場する映画『キングコングの逆襲 (King Kong Escapes)』 [本多猪四郎 (Ishiro Honda) 監督作品 1967年制作] が制作される事になったのである。
附記 2. :
だから仮に映画『ロビンソン・クルーソー作戦 キングコング対エビラ (Operation Robinson Carusoe : King Kong vs. Ebirah)』が実際に制作された場合の事を妄想すると凄く愉しい。
その映画『ロビンソン・クルーソー作戦 キングコング対エビラ (Operation Robinson Carusoe : King Kong vs. Ebirah)』の監督は誰が担うのか。本多猪四郎 (Ishiro Honda) だろうか、福田純 (Jun Fukuda) だろうか。
と、同時に映画『キングコングの逆襲 (King Kong Escapes)』は制作されない事になりその結果としてその設定をそのまま盛り込んだ怪獣王ゴジラ (Godzilla, The King Of Monsters) の映画が制作されるのであろうか。仮にそうだとすると、その映画の監督は本多猪四郎 (Ishiro Honda) なのだろうか、福田純 (Jun Fukuda) だろうか。いやそれ以上に重要な問題がある。映画『キングコングの逆襲 (King Kong Escapes)』に登場した電子怪獣メカニコング (Mechani-Kong, Electronic Monster) に成り代わって、その映画には機龍メカゴジラ (Mechagodzilla, Robot Monster) が登場するのだろうか、と。
附記 3. :
それとも単に映画『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣 (Space Amoeba)』 [本多猪四郎 (Ishiro Honda) 監督作品 1970年制作] の登場を早めるだけの事になってしまうのだろうか? ちなみにそこに登場するのは、海老 (Shrimp) ならぬ蟹 (Crab) が巨大化した大蟹怪獣ガニメ (Ganimes, Giant Crab Monster) である。
附記 4. :
巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) は、レッチ島 (Letchi Island) に建設された秘密結社赤イ竹 (The Red Bamboo) の工場から流れ出た放射能 (Radioactive Decay) 汚染の廃液が原因で巨大化したとされていて、彼の1対ある第一歩脚 (Chelipeds) のひとつだけが巨大な鉗脚 (Chela) であるのはそれが理由だとされている [第一歩脚 (Chelipeds) の大きさの差異は宿借 (Hermit Crab) のそれを彷彿とさせられる。となると巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) は海老 (Shrimp) なのか宿借 (Hermit Crab) なのかと謂う議論が出来する]。
そして巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) のそんな出自は映画『ゴジラの逆襲 (Godzilla Raids Again)』 [小田基義 (Motoyoshi Oda) 監督作品 1955年制作] に登場する暴龍アンギラス (Anguirus, Fierce Dragon) を想起させるのだ。この怪獣 (Kaiju) も放射能 (Radioactive Decay) が原因であると謳われているからだ。そしてそんな点に注意が赴けば、そう謂えば怪獣王ゴジラ (Godzilla, The King Of Monsters) 自身だって同様なのである。だから本来ならば、彼等は互いに争う理由はない筈なのだ。攻撃対象を人間に向けて、共闘しても決して不思議ではない。映画『怪獣大戦争 (Invasion Of Astro-Monster)』や映画『怪獣総進撃 (Destroy All Monsters)』の様に共謀して侵略者達に攻撃の刃を向ける事が出来るのならば、決して不可能事ではない筈なのである。
いっその事、映画『ゴジラ対ヘドラ (Godzilla vs. Hedorah)』 [坂野義光 (Yoshimitsu Banno) 監督作品 1971年制作] に登場した公害怪獣ヘドラ (Hedorah, The Smog Monster) をも抱き込んでしまっても良い筈なのだが。
そこで当時のぼくこう答える。
海老 (Shrimp) に決まっているぢゃんか、だって巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) は海老 (Shrimp) の怪獣 (Kaiju) だろう、と。
そしてそこに失笑が産まれる。
大人達が蝲蛄 (Crayfish) もしくは海老蟹 (Ebi-Gani : Shrimp-Crab) に疑問を抱くのは、外見は海老 (Shrimp) のくせに、1対の第一歩脚 (Chelipeds) が鉗脚 (Chela)、すなわちはさみ (Claw) であるからだ。彼等が馴染んでいる海老 (Shrimp) にはそんな形状の第一歩脚 (Chelipeds) を持ったモノがない。恐らく、ロブスター (Lobster) と謂う食材を知らないのか喰った事がないからであろう。少なくとも当時、ぼく達が半ば遊び場としていた市場にある魚屋にそれが並んだ試しはない。
その一方で、ぼく達が一番親しんでいる海老 (Shrimp) は、巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) なのだ。だから、その怪獣の存在と形状を基に海老 (Shrimp) と謂う生物を類推する。
ぼくの保育園 (Nursery School) 時代、海の生物を幾つも幾つも描いてモビール (Mobile) を作る授業があった。保育園児 (Nursery School Pupil) が描いたそれらをひとつの立体作品として展示するのだ。無論、その中には海老 (Shrimp) もいる。しかもその海老 (Shrimp) の第一歩脚 (Chelipeds) は鉗脚 (Chela) である。
先生が蝲蛄 (Crayfish) は海にはいませんと謂う。
だけれども、ぼく達はこう反論するのだ。
先生、巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) は海の怪獣 (Kaiju From The Ocean) だよ、と。
巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster)、もとい蝲蛄 (Crayfish) もしくは海老蟹 (Ebi-Gani : Shrimp-Crab) はぼく達が親しんでいた生物だった。
ぼく達、保育園 (Nursery School) の仲の良い同級生達は、捨てるばかりの古ぼけたカーテンレール (Curtain Track) を人数分と凧糸 (Kite String)、そして先程登場した魚屋から分けてもらった魚の腑をバケツ (Bucket) に入れて、近所のお堀にいく。そこは昔の城址 (Castle Ruins) の一角であってその証拠に石垣の上に白壁の建物が建っている。そこからもう少し先、本丸 (Honmaru : The Keep Of A Castle) が建っていた筈のところはぼく達の遊び場のひとつ、公園 (Park) となっている。
ぼく達はカーテンレール (Curtain Track) の先に凧糸 (Kite String) を結びつけ、その先に魚の腑を縛りつける。これで蝲蛄 (Crayfish) もしくは海老蟹 (Ebi-Gani : Shrimp-Crab) を釣るのだ。うんざりする程釣れる時もあれば、坊主 (Get Skunked) の時もある。水面を覗き込めばすぐそこに1匹いるのは解っているが、ぼく達の掌が届くところではない。下手すればそこに真っ直ぐ落ちて溺れてしまう。
そしてそこは釣堀 (Fishing Pond) でもなんでもないただの歩道だから、道ゆく大人達は皆、ぼく達を覗き込み、そして微笑む様にして通り過ぎていく。ちっちゃな児達が真面目な顔をして、壊れたカーテンレール (Curtain Track) を水面に向かって差し出していて、その脇には蝲蛄 (Crayfish) もしくは海老蟹 (Ebi-Gani : Shrimp-Crab) が数匹入っているバケツ (Bucket) があるからだ。
そうそう、ところで、なんのはなしだっけ。
巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) が登場する映画『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘 (Ebirah, Horror Of The Deep)』 [福田純 (Jun Fukuda) 監督作品 1966年制作] は、ぼくにとっては初めて観る、怪獣王ゴジラ (Godzilla, The King Of Monsters) が登場する映画だ。
尤も、東宝 (Toho) の怪獣映画 (Kaiju Movies) は、それ以前に幾作品も体験済みだ。映画『フランケンシュタイン対地底怪獣 (Frankenstein vs. Baragon) [本多猪四郎 (Ishiro Honda) 監督作品 1965年制作] や映画『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ (The War Of The Gargantuas)』[本多猪四郎 (Ishiro Honda) 1966年制作] である。勿論どれも封切作品として、である。
そしてふと、思う。時系列から謂えば、映画『怪獣大戦争 (Invasion Of Astro-Monster)』 [本多猪四郎 (Ishiro Honda) 監督作品 1965年制作] で怪獣王ゴジラ (Godzilla, The King Of Monsters) を初体験と謂う事になる筈だ。だけれども、この作品は封切よりも数年後、蝲蛄 (Crayfish) もしくは海老蟹 (Ebi-Gani : Shrimp-Crab) を釣る事になるお堀の向かいにあるナショナルショールーム (National Showroom) で観たのである。今憶えば家電 (Home Appliance) の最新作が並んでいるだけだがここもぼく達にとっての遊び場のひとつだ。小遣いに余裕があればそこにある自販機 (Vending Machine) でミリンダ (Mirinda) も呑める。そして2階には小さな上映設備がある。そこでその映画を観た。しかも無料で、だ。
親の財布が硬かったからだろうか。そんな事はない。映画館は当時棲んでいた自宅から数分、お堀よりもナショナルショールーム (National Showroom) よりも、そして保育園 (Nursery School) よりも近い。行きたいと謂えばすぐに連れて行ってもらえる場所にある。入場料も今よりもずっとやすい。
ぢゃあ、何故、映画『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘 (Ebirah, Horror Of The Deep)』がぼくにとっての怪獣王ゴジラ (Godzilla, The King Of Monsters) 初体験なのだろう。
解答は単純だ。
丁度、その同時季に公開された映画『大怪獣ガメラ (Gamera, The Giant Monster)』 [湯浅憲明 (Noriaki Yuasa) 監督作品 1965年制作] を観たからだ。

その映画での巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) の初登場シーンを観たぼくは、まるで『西遊記 (Journey To The West)』 [丘処機 (Qiu Chuji) 作 1592年刊行] みたいだなぁと思う。そこに登場する孫悟空 (Monkey King aka Sun Wukong) と釈迦如来 (Shakyamuni Tathagata)との逸話 (Episode)、すなわち釈迦如来 (Shakyamuni Tathagata) の掌をぼくが想い出していたからだ [上掲画像はこちらから]。
今なら結界 (Bai sema) 云々ともっともらしい事を宣えてしまえるのだろうが、そんな言説が登場する以前にぼくの脳裏には、紋別市 (Monbetsu City) の、ある巨大オブジェが浮かぶ。
カニの爪 (Crab Claw Statue) である。
映画のあのシーンとそっくりだ。
そして、拙稿冒頭にあった海老 (Shrimp) なのか蟹 (Crab) なのかと謂う問題が頭を擡げるのである。しかもそれは蝲蛄 (Crayfish) でも海老蟹 (Ebi-gani : Shrimp-Crab) でもない。巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) と謂う存在に対してである。
次回は「ら」。
附記 1.
映画『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘 (Ebirah, Horror Of The Deep)』 はある意味で [しかも決していい意味ではない] 画期的な作品である。
ひとつは本多猪四郎 (Ishiro Honda) に代わって福田純 (Jun Fukuda) が監督する怪獣王ゴジラ (Godzilla, The King Of Monsters) の映画の初作品である事。
ひとつは幾作かの東宝 (Toho) の怪獣映画 [Kaiju Movies] に於いて宿命の女 (Femme fatale) [女性主人公 (Heroine) と呼ぶよりもこの方が似つかわしい] として登場してきた水野久美 (Kumi MIzuno) の最後の出演作である事、しかも彼女が演じる女性ダヨ (Dayo) は決してこの映画に登場する誰ひとりに対しても宿命の女 (Femme fatale) ではない事 [21世紀 (21st Ceturies) になって2作品出演しているがそこでも同様だ]。
だけれどもそれ以上にもっと重要な相違点がひとつある。
それは、本作に登場する怪獣 (Kaiju) のどれ1匹も南洋の孤島から離脱しない点にある。敢えて謂えば、インファント島 (Infant Island) と本作の主要舞台、レッチ島 (Letchi Island) を往復する巨大蛾怪獣モスラ (Mothra, The Thing) だけが例外だ。
日本 (Japan) のどこかに上陸し、都市を破壊し人々の生活を蹂躙する、そんな展開はここにはないのだ。そして、こんな舞台設定と物語展開はこの後の数作にまで及ぶ。映画『怪獣総進撃 (Destroy All Monsters)』 [本多猪四郎 (Ishiro Honda) 監督作品 1968年制作] でキラアク星人 (Kilaak) に操縦された怪獣達 (Kaijus) が彼等がそれまで囚われていた怪獣ランド (Monsterland) を脱出し全世界に攻撃に向かうのをひとつの例外として、映画『怪獣島の決戦 ゴジラの息子 (Son Of Godzilla)』』 [福田純 (Jun Fukuda) 監督作品 1967年制作] も映画『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃 (All Monsters Attack)』 [本多猪四郎 (Ishiro Honda) 監督作品 1968年制作] も南洋の孤島 [前者はゾルゲル島 (Solgell Island) 、後者は怪獣島 (Monster Island) と謂う] を舞台とした物語なのである [しかも後者は少年が観る夢の中の出来事でしかない。その少年、三木一郎 (Ichiro Miki) [演:矢崎知紀 (Tomonori Yazaki)] が夢をそんな観るのも、そんな設定の映画ばかりが制作されたからだ。彼はぼく達と同様、単に怪獣達 (Kaijyus) に逢いたいだけなのだから]。
まるで特撮TV番組『ウルトラQ (Ultra_Q)』 [1966年 TBS系列放映] 第2話『五郎とゴロー (Goro And Goroh)』 [金城哲夫 (Tetsuo Kinjo) 脚本 円谷一 (Hajime Tsuburaya) 監督 有川貞昌 (Sadamasa Arikawa) 特技監督] の結末を受けて、そこに登場する巨大猿ゴロー (Goro, Giant Monkey) ばかりか他の総ての怪獣達 (Kaijus) が孤島に送致されてしまったかの様な趣きなのである
何故、こうなってしまったかは解っている。幾らでも挙げられるだろう。だけれども、ここではたったのひとつだけを指摘する事にする。
本作が当初、大怪力怪獣キングコング (King Kong, Giant Ape) が登場する映画『ロビンソン・クルーソー作戦 キングコング対エビラ (Operation Robinson Carusoe : King Kong vs. Ebirah)』として構想されていた事だ。きっと映画『キング・コング (King Kong)』 [メリアン・C・クーパー (Merian C. Cooper)、アーネスト・B・シュードサック (Ernest B. Schoedsack) 監督作品 1933年制作] での主舞台、髑髏島 (Skull Island) でのキング・コング (King Kong) と恐竜達 (Dinoaurs) の死闘からその構想が出来したのであろう。そして原典との差異を謳わんが為に、巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) を創案し、大怪力怪獣キングコング (King Kong, Giant Ape) にとっての初の海上での死闘を演出しようと試みたのだろう。
だが、この構想はキング・コング (King Kong) の版権を保持する米国 ()United States) 側から一蹴されてしまう。その結果、大怪力怪獣キングコング (King Kong, Giant Ape) から怪獣王ゴジラ (Godzilla, The King Of Monsters) への首の挿げ替えが行われ現在の作品、映画『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘 (Ebirah, Horror Of The Deep)』が制作され、と同時に大怪力怪獣キングコング (King Kong, Giant Ape) が登場する映画『キングコングの逆襲 (King Kong Escapes)』 [本多猪四郎 (Ishiro Honda) 監督作品 1967年制作] が制作される事になったのである。
附記 2. :
だから仮に映画『ロビンソン・クルーソー作戦 キングコング対エビラ (Operation Robinson Carusoe : King Kong vs. Ebirah)』が実際に制作された場合の事を妄想すると凄く愉しい。
その映画『ロビンソン・クルーソー作戦 キングコング対エビラ (Operation Robinson Carusoe : King Kong vs. Ebirah)』の監督は誰が担うのか。本多猪四郎 (Ishiro Honda) だろうか、福田純 (Jun Fukuda) だろうか。
と、同時に映画『キングコングの逆襲 (King Kong Escapes)』は制作されない事になりその結果としてその設定をそのまま盛り込んだ怪獣王ゴジラ (Godzilla, The King Of Monsters) の映画が制作されるのであろうか。仮にそうだとすると、その映画の監督は本多猪四郎 (Ishiro Honda) なのだろうか、福田純 (Jun Fukuda) だろうか。いやそれ以上に重要な問題がある。映画『キングコングの逆襲 (King Kong Escapes)』に登場した電子怪獣メカニコング (Mechani-Kong, Electronic Monster) に成り代わって、その映画には機龍メカゴジラ (Mechagodzilla, Robot Monster) が登場するのだろうか、と。
附記 3. :
それとも単に映画『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣 (Space Amoeba)』 [本多猪四郎 (Ishiro Honda) 監督作品 1970年制作] の登場を早めるだけの事になってしまうのだろうか? ちなみにそこに登場するのは、海老 (Shrimp) ならぬ蟹 (Crab) が巨大化した大蟹怪獣ガニメ (Ganimes, Giant Crab Monster) である。
附記 4. :
巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) は、レッチ島 (Letchi Island) に建設された秘密結社赤イ竹 (The Red Bamboo) の工場から流れ出た放射能 (Radioactive Decay) 汚染の廃液が原因で巨大化したとされていて、彼の1対ある第一歩脚 (Chelipeds) のひとつだけが巨大な鉗脚 (Chela) であるのはそれが理由だとされている [第一歩脚 (Chelipeds) の大きさの差異は宿借 (Hermit Crab) のそれを彷彿とさせられる。となると巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) は海老 (Shrimp) なのか宿借 (Hermit Crab) なのかと謂う議論が出来する]。
そして巨大蝦怪獣エビラ (Ebirah, The Sea Monster) のそんな出自は映画『ゴジラの逆襲 (Godzilla Raids Again)』 [小田基義 (Motoyoshi Oda) 監督作品 1955年制作] に登場する暴龍アンギラス (Anguirus, Fierce Dragon) を想起させるのだ。この怪獣 (Kaiju) も放射能 (Radioactive Decay) が原因であると謳われているからだ。そしてそんな点に注意が赴けば、そう謂えば怪獣王ゴジラ (Godzilla, The King Of Monsters) 自身だって同様なのである。だから本来ならば、彼等は互いに争う理由はない筈なのだ。攻撃対象を人間に向けて、共闘しても決して不思議ではない。映画『怪獣大戦争 (Invasion Of Astro-Monster)』や映画『怪獣総進撃 (Destroy All Monsters)』の様に共謀して侵略者達に攻撃の刃を向ける事が出来るのならば、決して不可能事ではない筈なのである。
いっその事、映画『ゴジラ対ヘドラ (Godzilla vs. Hedorah)』 [坂野義光 (Yoshimitsu Banno) 監督作品 1971年制作] に登場した公害怪獣ヘドラ (Hedorah, The Smog Monster) をも抱き込んでしまっても良い筈なのだが。
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