2023.09.17.08.09
『From the Broken World』 by トリスタン・ホンシンガー (TRISTAN HONSINGER)

忘れた頃、眺めていた棚にその作品がある事を認め、ひっぱりだして聴く。
本作とぼくとのつきあいはその様なモノ、その程度でしかない。
本作をプロデュース (Record Produce) したのは浅川マキ (Maki Asakawa)。彼女が主宰するレーベル、ゼロアワー・シリーズ (Zero Hour) から同時に発表された3作品のなかのひとつである。他の2作は、宮沢昭 (Akira Miyazawa)のアルバム『野百合 (Noyuri : Wild Lily)』 [1992年発表] と植松孝夫 (Takao Uematsu) アルバム『カム・フロム・ウィズ (Come From With)』 [1992年発表] だが、ぼくの手許にあるのはこれだけだ。他は聴いた事もなければ所有した事もない。
本作品を購入した理由は単純で、この作品の主人公、トリスタン・ホンシンガー (Tristan Honsinger) がポップ・グループ (The Pop Group) のシングル『ウィ・アー・オール・プロスティテューツ (We Are All Prostitutes)) c/ w アムネスティ・レポート (Amnesty International Report On British Army Torture Of Irish Prisoners)』 [1980年発表] に参加しているからだ。
それ以外に彼の参加作品を聴いた事もなければ所有した事もない。
尤も、彼の名前はその以前に見知ってはいた。
雑誌『フールズ・メイト (Fool's Mate)』 がユーロロックマガジン (Euro Rock Magazine) を標榜していた頃、近藤等則 (Toshinori Kondo) の共演者、そのひとりとして紹介されてあったのだ。もしかしたら、その際の雑誌に、近藤等則 (Toshinori Kondo) のインタヴューが掲載されていたのかもしれない。彼の名前もその雑誌で知ったのだ [彼の音楽に接するのはもっと後の事ではある]。
本作のブックレットに『ゼロアワー・シリーズ - 三作品に参加した - 男たち (Zero Hour Series : The Men Who Joined Three Works)』と題した、浅川マキ (Maki Asakawa) の文章が掲載されてある。そこには、レーベル開始に至る簡単な経緯 [それは本当に簡単なモノだ] と本作制作時の舞台裏が綴られてあるのだ。
それを咀嚼すると次の様な事が解る。
先ず解るのは、トリスタン・ホンシンガー (Tristan Honsinger) と渋谷毅 (Takeshi Shibuya) との共演は本作が初めてであろう事、そしてそれを設定したのは浅川マキ (Maki Asakawa) の意向によると謂う事、逆に近藤等則 (Toshinori Kondo) を召集したのはトリスタン・ホンシンガー (Tristan Honsinger) である事だ。
と、謂う事を前提に読んでしまうと、浅川マキ (Maki Asakawa) とトリスタン・ホンシンガー (Tristan Honsinger) が掌を繋ぎ、それぞれの空いたもう一方の掌で、渋谷毅 (Takeshi Shibuya) と近藤等則 (Toshinori Kondo) の掌と繋がれてある様な印象を抱いてしまう。つまり、渋谷毅 (Takeshi Shibuya) と近藤等則 (Toshinori Kondo) との関係、もしくは共演と謂うのはどうなのだろう、と謂う疑問である。
少なくとも浅川マキ (Maki Asakawa) のアルバム『スキャンダル 京大西部講堂 1982 (Scandal At Seibu-Kodo Hall In Kyoto University 1982)』 [2011年発表] に、この2人は参加していると謂うのは検索の結果で解ってはいるが、本作制作時にはその作品は世に顕れてはいない。
次に、即興演奏家であるトリスタン・ホンシンガー (Tristan Honsinger) が本作の為にあらかじめ作曲作品を用意したと浅川マキ (Maki Asakawa) に告げているが、それがどの曲だかは解らないし、もしかしたら、ここにはそれは収録さえされていないのかもしれない。尤も、収録に際し、事前に作品を用意する事が彼にとってどの様な意味があるのかさえ、ぼくには解らない。
そして本作の制作に関わる重要人物達は浅川マキ (Maki Asakawa) を含めての4人、と謂いたいところだがそこでの記述を読むともうひとり、吉野金次 (Kinji Yoshino) の存在が謳われている。本作のエンジニア (Recording Engineer) である。
果たして、彼が関与した作品をぼくがどれだけ聴き及んでいるのだろうか。
素直に綴れば、この5人の作品に関しては、本作以外では聴き馴染んではいない。
主人公であるトリスタン・ホンシンガー (Tristan Honsinger) が既に上に綴った様な状況であるのに加えて、実際の共演者達の他作品やプロデューサー (Record Producer) やエンジニア (Recording Engineer) の諸作も聴いた記憶がある、そんな程度でしかないだろう。
だから結果的に、本作の音だけに向かう事になる。
本来ならば、本作に至るべき諸作と併せて聴き、併せて綴るべきなのかもしれない。
緊張とは無縁の音だ。
シリアスに響く時は無論ある。あるけれども、それを越えた向こうにいる様に思える。
滑稽と謂っても良いかもしれず、飄々と謂う形容をおもいうかべるべきなのかもしれない。
どこかで聴いた事のある様な音が現出するが、それは本当にそうなのか、もしかしたら前回 [と謂っても少なくとも数ヶ月も前] の印象が表出しているだけなのか。それも解らない。深く考えるべきではないだろう。
破天荒な音、意表を突く音はそこにはなく、ただぼくはどうやったらこんな音をだせるのだろう、そんな程度の事しか考えない。
本来ならば、この音に至る経緯を見出すべきなのかもしれないが、それは今、掌にあまる。
なにか重要な事を何処かに放置したまま、流れる時間とその結果紡ぎ出される音に、ぼくは向かっている。
作品名から想起される荒涼とした光景とは逆の心地よささえ感ずる。否、ぼく自身がそんな光景にそんな感興をよみとっているだけなのだろうか。
ものづくし (click in the world!) 251. :『From the Broken World』 by トリスタン・ホンシンガー (TRISTAN HONSINGER)

『From the Broken World』 by トリスタン・ホンシンガー (TRISTAN HONSINGER)
「浅川マキ プロデュース zero hour シリーズ 002
フリーインプロバイザー・現代音楽、トリスタン・ホンシンガー、日本初リリース・アルバム。
演奏者 TRISTAN HONSINGER(チェロ) 渋谷毅 (ピアノ) 近藤等則 (トランペット)」
1. Green Yellow Blue 3'39"
2. Oh!!! ......SSSSS 9'41"
3. I want "TOKYOing" Instead 5'04"
4. Travels with Priscilla and Tish 14'20"
5. The Sneeze Cloud 3'33"
6. China, Snakes, Wind and Ghosts 18'12"
(全作曲:トリスタン・ホンシンガー)
TRISTAN HONSINGER - CELLO
渋谷毅 - PIANO & ORGAN
近藤等則 - TRUMPET
ライナーノート『ゼロアワー・シリーズ - 三作品に参加した - 男たち』浅川マキ 平成四年年五月三十日
MIXING & MASTERING ENGINEEER 吉野金次
MASTERING ENGINEER 相川洋一
RECORDING ENGINEER 飯田益三
ASSISTANT ENGINEER 杉原泰三
DESIGNER 金澤良樹 細川衡 泉谷くみ子
EDITOR 小島みどり
PHOTOGRAPHER 市川幸雄
画 野中ユリ
SPECIAL THANKS 澤和幸 大江久仁 鈴木教雄
企画制作・せなまる舎 柴田徹
PRODUCER 浅川マキ
DIRECTOR 近藤智洋
PRODUCER 熊井誠 濵田均 小林壮一 中曽根純也
EXECUTIVE PRODUCER 石阪敬一
RECORDING STUDIO 東芝EMI第3スタジオ
MIXING STUIDO GOLDRUSH STUDIO
MASTERING STUDIO STUDIO TERRA
RECORDING DATA 1991. 12. 13, 14
(P) 1992 TOSHIBA EMI
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