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2023.07.25.07.36

こどもいす

絵画『子供の遊戯 (Kinderspiele)』 [ピーテル・ブリューゲル (Pieter Bruegel de Oude) 画 1560年作 美術史美術館 (Kunsthistorisches Museum Wien) 所蔵] の中央部下端、こちらに背を向けて棒馬 (Hobby Horse) に跨っている児童のうしろに、中央部に大きな穴の空いた函 (Box) がひとつ置かれている。
その穴を真横になる様に据えて、樹木に縛りつければ巣箱 (Nest Box) になりそうな気がしないではないが、その函 (Box) の用途はそうではないらしい。

美術評論『ブリューゲルの「子供の遊戯」 - 遊びの図像学 ("Children's Games" By Pieter Bruegel de Oude : Iconography Of Play)』 [森洋子 (Yoko Mori)1989 未來社 (Mirai-sha Publishers) 刊行] によれば、本絵画には91項目にも及ぶ遊戯が描かれていると謂う。そして、この函 (Box) もそのひとつであるとし、「16 子供椅子 Kinderstoel」と分類されている。ちなみに、棒馬 (Hobby Horse) に跨った少年の行為は「18 棒馬 Het Stokpaardje」として分類されている。
[以降、拙稿に登場する本絵画に描かれた遊戯の名称は、こちらと同様に総てこの美術評論での記述による。その結果、ネット上等で言及されている名称とは異なる可能性もある。]

著者は、その函 (Box) を「16 子供椅子 Kinderstoel」とはしたモノの、これまでの本絵画に関する書物に於いて、その函 (Box) に言及している記述が少なく、僅かにヴィクトル・ド・メイヤー (Victor De Meyere) によるモノがあるだけだと謂う。
そして彼の言及を以下の様に紹介している。

「この『子供椅子』は戦前ではフランドルの農民でまだみかけたが、実際には使用されず、子供の遊び道具であったという。とくにようやく歩けるようになった幼児がその中に入り、厩舎、乾草の納屋、中庭などを座ったまま、動きまわったという。」

その引用文を読む限りに於いては、現在で謂う歩行器 (Baby Walker) の様な用途である様な気がしないでもない。
そして歩行器 (Baby Walker) を遊戯乃至は遊具と看做して良いのだろうか、と謂う気がしないでもない。

だけれども、子供椅子 (Child Chair) が児童にとっての遊戯に起用される、もしくは児童にとっての遊具であると謂う認識は、ぼくにとってさして不思議でも奇妙でもない様に思える。
と、謂うのは、ぼくの幼少時の経験があるからである。

ぼくにも1脚、ぼく専用の子供椅子 (Child Chair) があてがわれていた。その背凭 (Backrest) は、黄色く塗られた (Frog) の顔だった。ネット上で検索するとケロヨン (Keroyon) の椅子 (Chair) と謂うモノが幾つも登場し、確かにそれらの背凭 (Backrest) に描かれている (Frog) には見覚えがある。TV番組『木馬座アワー (Mokubaza Theatre Hour)』 [19661969日本テレビ系列放映] での人気者、ケロヨン (Keroyon) である。と、謂う事ではなくて、ぼくの子供椅子 (Child Chair) の背凭 (Backrest) と同じ表情をしている様だ。だけれども残念ながら、ネット上に登場するそれらとは配色が異なるのである。
だから、ぼくの子供椅子 (Child Chair) もケロヨン (Keroyon) の椅子 (Chair) や否やは、解らない。

当時、その子供椅子 (Child Chair) がどの様にしてぼくにあてがわれたのかは解らない。父母がぼくの為に購入したのか、親戚の誰かの贈物なのか、そして、ぼくがねだったのかそれともぼくの意思とは無関係に誰かの恣意的な判断によって選ばれたのか、今となってはなにもは解らないのだ。
ただ、その椅子 (Chair) がかつてあった、それだけの事でしかない。

その子供椅子 (Child Chair) を椅子 (Chair) として使った記憶はひとつしかない。当時のぼくは病弱で月に1度の割合で発熱していた。夜間もしくは深夜に発症し、翌朝かかりつけの医者に連れていかれ、投薬が試みられる。注射もされたかもしれない。その効用なのか、午後には平熱 (Normal Body Temperature) となる [しかしそこでそのままおとなしくしていなければならない、夜間に再度、ぶり返す事が多々あるからだ]、これが月1のローテーションだ。
だけれども、時にはそれが酷い場合がある。2~3日、体温が下がらない。そんな時に若干、体調の良い時、しかも好天の際に、日向ぼっこ (Basking In The SUn) と称して、そとへ連れ出され、その椅子に座らせられるのだ。普段のぼくならば決して素直に座っている筈はないが、発熱している。母親のなすがまま、おとなしくそこにいるのだ。そしてその間、ぼくが寝込んでいる間出来なかった家事、掃除に彼女は勤しむのだ。

だけれども、上に記述した様に子供椅子 (Child Chair) が子供椅子 (Child Chair) として機能した事は寧ろ、希少なのである。
その椅子 (Chair) は、ぼくがおもちゃ箱をひっくり返してひとり、遊びに耽っている際に、様々な役割を演じるのだ。
おもちゃ達が活躍する舞台、例えば、秘密基地 (Secret Base) の様な、戦場 (Battle Field) の様な、そんな役割である。
だからこそ、本絵画に描かれてあるあの函が「16 子供椅子 Kinderstoel」と分類されても、実は意外な気はしないのだ。

だけれどもぼくのそんな幼少時の追憶とは別のところへ美術評論の著者は促すのである。

この函は子供椅子 (Child Chair) ではなくておまる用椅子 (Kakestoel) ではないだろうか、と。
当時のおまる用椅子 (Kakestoel) は「木製でできていて、底部はなく、穴のある座部の下に金属でできた便器 pispot を置いて子供に用便をさせたのである。」とそこでは記述されている。さらに、絵画作品に顕れたおまる用椅子 (Kakestoel) の一例として、ヒエロニムス・ボス (Hieronymus Bosch) の絵画『七つの大罪と四終 (Mesa de los Pecados Capitales)』 [15051510年頃の作 プラド美術館 (Museo Nacional del Prado) 所蔵] を挙げている。円形を成して描かれている七つの大罪 (Septem peccata mortalia)の最上部は貧欲 (Gula) であってその1角に背凭 (Backrest) のあるおまる用椅子 (Kakestoel) が描かれてあるのだ。

そして、「16 子供椅子 Kinderstoel」がおまる用椅子 (Kakestoel) であると謂う記述を前提にするとこんな事が解る。

「16 子供椅子 Kinderstoel」から真っ直ぐ上方に視線を動かすと、画面上部を占めている白い家屋の柱の向こうの壁際で、こちらに自身の下半身を丸出しにしてしゃがんでいる少女がいる。美術書では「69 おしっこ 't Pissertje」と分類されている。
そして、本絵画を描いた画家の作品、絵画『ネーデルランドの諺 (Nederlandse Spreekwoorden)』 [1559年作 ベルリン美術館 (Staatliche Museen zu Berlin) 所蔵] にも「排尿や排便行為をごく日常的な情景として画面に登場させている」としている。著者のもうひとつの美術評論『ブリューゲルの諺の世界 民衆文化を語る ("Nederlandse Spreekwoorden" by Pieter Bruegel de Oude : Talking About Popular Culture)』 [1992年 株式会社白鳳社 (Hakuho-sha) 刊行] に於いて、「28 火に小便をかけるのは健康だ Het is gezond in 't vuur te pisssen」と「74 同じ穴から二人一緒に糞をする Zij schijten alle twee door een gat」に分類されている諺を指しているのだろう。

それを踏まえて実は、こう思っているのだ。「16 子供椅子 Kinderstoel」と「69 おしっこ 't Pissertje」とは関連させてみるべきではないだろうか、と。
だからこその画面上下の配置なのだ [まさか、その場所から「16 子供椅子 Kinderstoel」めがけて「69 おしっこ 't Pissertje」をしている訳ではないだろうが、児童と謂うモノは時にそんな妄想に耽るモノでもあるし、実際にそんな無謀を犯すモノでもある]。
そうではなくとも「69 おしっこ 't Pissertje」をしている少女は本来ならば、おまる用椅子 (Kakestoel) であるところの「16 子供椅子 Kinderstoel」に座ってなさなければならない筈なのだ。だが、彼女はそうしていない。なすべきところでなすべき事を放棄し、本来ならば決してなしてはならない場所でなす事、それはすなわち遊戯と看做すべきではないだろうか、と。

images
上掲画像は絵画『著名人が訪れる農家の食堂 (Bauernstube mit vornehmen Besuchern)』 [マルテン・ファン・クリーフ (Maerten Van Cleve) 作 1566年作 美術史美術館 (Kunsthistorisches Museum) 所蔵}、本絵画とは同時代の作である。画面右隅に、おそらく父親であろう人物に着衣を掴まれて、無理矢理、おまる用椅子 (Kakestoel) に座らされ様としている幼児が描かれている。謂わば、 (Discipline) の光景のひとつではあるが、その幼児の視点に立てば、本絵画で「69 おしっこ 't Pissertje」をしている少女の行為の意味と謂うモノが解る様な気がするし、上に綴った様なぼくの認識も補強される様な気もする。

次回は「」。

附記:
子供椅子 (Child Chair) にはもうひとつの種類がある。
飲食店等で起用される幼児専用の椅子 (Chair) である。
かつてのぼくがこれに座った、もしくは座らされた記憶はない。もう憶えている事も不可能な頃の時季にお世話になったのだろう。だから、ぼくの憶えているその椅子は、大概、3歳下の弟をはじめとする年下の親類達が座る / 座らせられる際ばかりのモノである。むずかったり嫌がったり、そしてそれとは逆にひとり悦に入っていたり、誇らしげだったり、千差万別の彼等の表情や動作だ。それをみて、ああ、まだまだ子供なんだなぁとおもったり、逆に少し羨ましく思ったりもするのだ。その際のぼくは自身がかつてそれに何度となくお世話になった事はおろか、今、めのまえにいる彼等と同様の子供ぢみた振る舞いをしていた事をすっかり看過しているのである。ぼく達の保護者である"大人"達のめからみれば、どうみたって"子供"でしかない、このぼくが。
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