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2009.07.14.21.03

らっきーじょうちゃんのあたらしいしごと

この作品が単行本化されて出版された際の書評は、確か雑誌『宝島』[JICC出版局[当時]] あたりだと想ったのだけれども、"ドイツ表現主義 (Expressionismus) を想わせる光と影の演出"という様なキーワードが鏤められていた筈だ。
連載されていたのが、雑誌『プチフラワー』[小学館1986年11月号~1987年4月号] で、その単行本化は、連載終了後の同年だから、多少の記憶違いと過剰な自己欺瞞はあるかもしれないけれども、その様なキーワードがなければ、当時の僕は果たして、この作品を手に入れたのだろうか。

と、書いて、作品名をきちんとアナウンスメントしていない事に今更ながらに気づいたフリをする。

高野文子の初の[そしてもしかしたら唯一になるかもしれない?]長編マンガ『ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事』の事である。

主人公はラッキー・ランタンタン (Ms. Lucky Rin-Tin-Tin) という少女。富豪のメイドとして働くも、デパート (Grand magasin) が好きでオムライス (Rice In An Egg Wrapping) が好きでそれが嵩じて勤め先を馘首になる。新たな職場を求めて辿り着いた先が、己が馘首となった遠因の場、リッチ・デパート。運良くここに就職出来たものの、図らずも彼女はリッチ・デパートの存亡と某国の命運をかけた謀略に巻き込まれてゆくのであった...。

images
と、粗筋を書くと、また、もの凄い物語を想像してしまうかもしれないけれども、物語の骨格はあくまでもこれ。
上に掲載する画像[こちらのサイトで紹介されていました]は、主人公ラッキー・ランタンタン (Ms. Lucky Rin-Tin-Tin) が、自身の身に差し迫る魔手の正体を確信してしまった瞬間を見開き二頁で描ききってしまったシーン。これを観れば先に掲載した書評の言いたかった事が理解出来るのかもしれない。

すなわちこれが"ドイツ表現主義 (Expressionismus) を想わせる光と影の演出"なのだろう。

でも同じ殺人許可の証、ダブル・オー・ナンバー (00 Agent) を持っていても007[ジェームズ・ボンド (James Bond) ]と0011[ ナポレオン・ソロ (Napoleon Solo) ]では遥かな開きがある様に。
同じアルフレッド・ヒッチコック (Alfred Hitchcock) 監督作品であっても、『泥棒成金 (To Catch A Thief)』[1955年制作] と『引き裂かれたカーテン (Torn Curtain)』[1966年制作] とでは、全く異なるテイストである様に。
オードリー・ヘプバーン (Audrey Hepburn) を主役としたラヴ・サスペンスでも『シャレード (Charade)』 [1963年制作 スタンリー・ドーネン (Stanley Donen) 監督作品] と『おしゃれ泥棒 (How To Steal A Million)』 [1966年制作 ウィリアム・ワイラー (William Wyler) 監督作品] では彼女の立ち回る役が異なる様に[前者は追われ後者は追う]。

つまり、高野文子の手がけるそれは、そのどれでもある様だけれども、そのどれとも違う。
ひとつはミュージカルであるという事[マンガなのに]。ひとつはかつての東映アニメーションのテイストが忍ばれる事[マンガだから]。そして、ボーイ・ミーツ・ガール、かつての少女マンガの王道である事[高野文子なのに]。

ひとつひとつ観て行きます。

先ずは「ミュージカルである事」。
この作品には音楽が溢れ還っていて、しかも、物語の要所要所の導入やら展開に、その音楽が欠かせないのだ。
かつて『サルまん ―サルでも描けるまんが教室』[竹熊健太郎 & 相原コージ] でも指摘されていたけれども、マンガにとっての鬼門は音楽。「シーン」という音ならざる音までもヴィジュアルとして表現し得たマンガ[「シーン」という"無音の音"そのもの自体の"発明"はマンガによるものではない様] だけれども、音楽のマンガ化に至っては、まだまだだ。音楽家や音楽の現場を描いた作品は数多く登場しているけれども、作品そのものから音楽が聴こえるものは数少ない。
その少ない上に優れた音楽が聴こえる作品の代表がこの作品だ。

その音楽が聴こえる事の理由のひとつが、第二番目の「かつての東映アニメーションのテイストが忍ばれる事」である。
"東映アニメーション"といってもそれは現在のそれではなくて、1960年代1970年代に劇場公開されていた長編アニメ群の事である。『少年ジャックと魔法使い (Jack And The Witch) 』 [1967年制作 藪下泰次監督作品] や『長靴をはいた猫 (Puss 'n Boots) 』 [1969年制作 矢吹公郎監督作品] や『空飛ぶゆうれい船 (Flying Phantom Ship) 』 [1969年制作 池田宏監督作品] といった、かの宮崎駿 (Hayao Miyazaki) が下積みを積んでいた時代の作品でもある。
長編アニメの本家本元であるディズニー (Disney) を非常に意識しているのにも関わらずに、その無意識下の作劇術や表現手法で、いつのまにか本家本元を凌いでしまった作品である[と、無茶な断言をしてしまっていいのだろうか、否、これでいいのだ]。

そして最期が、高野文子らしからぬ「ボーイ・ミーツ・ガール、かつての少女マンガの王道である事」である。

と、いう夢の様な夢の三拍子が揃っている割りには、世評も低く、作品自体も現在では販売されていない。
高野文子と言えば、マンガ評論的に絶賛されているのが『田辺のつる』[単行本『絶対安全剃刀―高野文子作品集』]であり、最もポピュラリティを勝ち得ているのが『るきさん』なのだけれども。
ある意味では、それらの作品から最も遠い位置にいるのが、この『ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事』なのだからだろう。

つまり、それは...[以下伏せ字:まだ発表の段階ではない]。

次回は「」。
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