2023.05.21.07.32
"THE SHAPE OF JAZZ TO COME" by ORNETTE COLEMAN

なぁんだ、普通のジャズ (Jazz) だな。
おそるおそるこの作品をはじめて聴いたぼくはそうおもったのだ。
だけれどもすこしみょうなのである。もしかしたら、音程はくるっていないか。そんな気がしないでもない。と同時に、おとがなまめかしい。そして、くろい。
この不思議な感覚がぼくをひきつけるのだ。
オーネット・コールマン (Ornette Coleman) がフリー・ジャズ (Free Jazz) と謂う音楽の代名詞であるかの様に語られているのは既に知っていた。そして、この作品からその音楽が始まったと謂う言説も。
それがぼくに興味を抱かせる機運ではあるのだろうが、本作を何度となく聴き続ける理由はそこにはなさそうなのだ。
例えば、フリー・フォーム (Free Form) な音楽、即興演奏 (Improvisation) を謳い文句にしているある種の音楽に対して、ある特定の箇所を聴きたいが為に聴いている様な赴きがぼくにはある。それは意識的に、と謂うよりも無意識である様だ。ほんのおもいつきから聴き始めたその作品の、その箇所に辿り着くとぼくはようやくきづくのだ。ああ、ぼくが聴きたかったのはここなんだ、と。
本作はそれとはすこし違う。
全体に漂う雰囲気、ヒトによっては不遜とも不安とも不気味とも評するのかもしれないそれに、ただ身を任せたいだけなのだ。
ぼくにとっては、本作は環境音楽 (Ambient Music) の様な機能を果たしているのかもしれない。
そして、その様な感興に至るのはオーネット・コールマン (Ornette Coleman) の作品ではこれだけなのだ。
だからオーネット・コールマン (Ornette Coleman) の音楽、否、少なくとも本作は所謂フリー・ジャズ (Free Jazz) とは違うところにあるのではないかといつもおもう。
[あるライヴで彼の楽曲が演奏されるときがある。彼の楽曲と謂っても大概は、本作冒頭曲『ロンリー・ウーマン (Lonely Woman)』である。いい曲だよなぁ、どこで聴いたんだっけ、そんなかたちで本作をおもいだす事もあるのだ。]


それが理由なのだろうか、彼のもうひとつの代表作として掲げれているアルバム『ゴールデン・サークルのオーネット・コールマン第1集 (At The "Golden Circle" Vol. 1)』 [1966年発表] は滅多に聴かない。ちなみにその続編であるアルバム『ゴールデン・サークルのオーネット・コールマン第2集 (At The "Golden Circle" Vol. 2)』 [1966年発表] は入手してもいない。
この2作品は全然違う位置にある。

イー・エス・ピー・ディスク・レコード (ESP-Disk Records) [1964年設立] の国内盤が1993年にヴィーナスレコード株式会社 (Vinus Records Inc.) から発売された際に、そのカタログ中の1作品に、彼のアルバム『タウン・ホール 1962 (Town Hall, 1962)』 [1965年発表] があった。演奏する布陣はデビッド・アイゼンソン (David Izenzon) [b]、チャールス・モフェット (Charles Moffett) [dr]、アルバム『ゴールデン・サークルのオーネット・コールマン第1集 (At The "Golden Circle" Vol. 1)』とその続編であるアルバム『ゴールデン・サークルのオーネット・コールマン第2集 (At The "Golden Circle" Vol. 2)』と同じだ。
彼はその作品発表後、約3年間沈黙をし、その後にその布陣による作品を幾作品も発表していく。殆どが欧州公演での記録である。アルバム『ゴールデン・サークルのオーネット・コールマン第1集 (At The "Golden Circle" Vol. 1)』とその続編であるアルバム『ゴールデン・サークルのオーネット・コールマン第2集 (At The "Golden Circle" Vol. 2)』もそのひとつではあるのだ。どういう訳だか、その時季の記録をした作品群の、その国内盤が続々と発売されていった。レコード会社のその術中にそのままのっかってぼくは、そのいくつかを聴いていく。
おそらく、ぼくはどの作品を聴いても不完全燃焼だったのだろう。聴くたびに不平が起きる。でも、それは必ずしも完全否定な物謂いぢゃあないのだ。逆に謂えば、彼の演奏と楽曲に煽られ続けていると謂っても良いのだろう。だから殆どが聴き捨てに近い [そして忘れた頃にその時代の1作品を聴くと、立て続けにその前後作を聴いてしまう]。

ちなみにオーネット・コールマン (Ornette Coleman) の楽曲を純粋に格好いいなぁとおもったのは、ジョン・ゾーン (John Zorn) による彼の楽曲集であるアルバム『スパイVSスパイ -オーネット・コールマンの音楽 - (Spy Vs Spy : The Music Of Ornette Coleman)』 [1989年発表] であって、オーネット・コールマン (Ornette Coleman) と謂う存在の意義をきちんと把握出来た [これが彼だ、彼はこのままだ、それでいい] のが、映画『裸のランチ (Naked Lunch)』 [ウィリアム・S・バロウズ (William S. Burroughs) 原作 デヴィッド・クローネンバーグ (David Cronenberg) 監督作品 1991年制作] のサウンドトラック盤『裸のランチ (Naked Lunch)』 [ハワード・ショア (Howard Shore)、オーネット・コールマン (Ornette Coleman) 音楽 1991年発表] である。


と、ずっと個人的な体験ばかりを綴って来たが、ひとつだけ忘れてはいけない事を記載しておこうと思う。
彼は本作を発表する以前に2作品、アルバム『サムシング・エルス! (Something Else!!!!: The Music Of Ornette Coleman)』[1958年発表] とアルバム『明日が問題だ (Tomorrow Is The Question!)』 [1959年発表] とを制作している。本作よりもさらに普通のジャズ (Jazz) だ。
そしてその2作から本作へと飛躍する過程に於いてふたりのベーシスト (Bassist) が重要な役割を演じている。
レッド・ミッチェル (Red Mitchell) とパーシー・ヒース (Percy Heath) である。オーネット・コールマン (Ornette Coleman) とこのふたりとの交流 / 逸話は彼の第2作で聴く事が出来る。
前者はオーネット・コールマン (Ornette Coleman) の音楽を全く理解出来ずに、この作品の制作を途中降板してしまう。そこだけをみると、実績のある音楽家が自身とは全く異なる音楽に遭遇した際の素直な反応にみえる。つまり、レッド・ミッチェル (Red Mitchell) は旧世代でありオーネット・コールマン (Ornette Coleman) が新世代なのである、その齟齬が明確に顕れたのだ、と [そしてそれはそのままオーネット・コールマン (Ornette Coleman) の音楽の斬新さの証左となる]。
映画『バード (Bird)』 [クリント・イーストウッド (Clint Eastwood) 監督作品 1989年制作] でもお馴染み、若き日のチャーリー・パーカー (Charlie Parker) [as] の逸話のひとつ、いつまでもアドリブ・プレイをやめようとしない彼を遮ろうとシンバル (Cymbal) を投げ出したジョー・ジョーンズ (Jo Jones) [dr] をふとおもいだしてもしまうが、しかし、彼はその際大事な発言をしている。彼曰く、演奏家としては評価しないが作曲家としての可能性はあるのではないだろうか、と。
彼のその発言を裏付ける様な存在が、レッド・ミッチェル (Red Mitchell) の降板を受けて参加するパーシー・ヒース (Percy Heath) なのである。彼は自身が所属するモダン・ジャズ・カルテット (Modern Jazz Quartet) のリーダー、ジョン・ルイス (John Lewis) にオーネット・コールマン (Ornette Coleman) と彼の音楽を紹介する。そして、本作制作に至る道筋をつけていったのがジョン・ルイス (John Lewis) なのである。
彼がオーネット・コールマン (Ornette Coleman) との演奏のどこに魅了されたのか、それが大きな疑問だ。何故ならば、彼が擁するモダン・ジャズ・カルテット (Modern Jazz Quartet) はジャズ (Jazz) と謂う文脈に於いて、その典雅な演奏をもって極めてクラシック・ミュージック (Classical Music) の影響が濃厚だからだ。つまり、普通考えるに、フリー・フォーム (Free Form) と謂う奏法、即興演奏 (Improvisation) とは指向性が全然違うのだ。
にも関わらずにと考えると、ジョン・ルイス (John Lewis) もレッド・ミッチェル (Red Mitchell) 同様に、作曲家としてのオーネット・コールマン (Ornette Coleman) の可能性を評価し、それに賭けたのかもしれない。
そして、もしかしたら、クラシック・ミュージック (Classical Music) のなかに於ける即興演奏 (Improvisation) の位置付け自体を再検討する余地があるのだろうか。それはそのまま、ジャズ (Jazz) と謂う音楽そのものの認識に変更を加えるべきモノなのかもしれない。[ぼくがおもいだすのはモード (Mode) が、クラシック・ミュージック (Classical Music) の歴史の中で相当に旧い時代に成立した手法であると謂う事だ]。
本作の冒頭、第1曲目『ロンリー・ウーマン (Lonely Woman)』の厳かな始まりを聴くといつも、マイルス・デイヴィス (Miles Davis) のアルバム『ウォーキン (Walkin')』 [1954年発表] の冒頭やジョン・コルトレーン (John Coltrane) のアルバム『至上の愛 (A Love Supreme)』 [1964年発表] の冒頭をおもいだしてしまう。そしてそこに時代をきりひらかんとする強い意思も。
マイルス・デイヴィス (Miles Davis) のふたつのクインテット (The Quintet)、すなわち第1期クインテット (The Quintet I) [ジョン・コルトレーン (John Coltrane) [ts] レッド・ガーランド (Red Garland) [p]、ポール・チェンバース (Paul Chambers) [b] そしてフィリー・ジョー・ジョーンズ (Philly Joe Jones) [dr] : 1955~1956年活動] と第2期クインテット (The Quintet II) [ウェイン・ショーター (Wayne Shorter) [ts]、ハービー・ハンコック (Herbie Hancock) [p]、ロン・カーター (Ron Carter) [b] そしてトニー・ウィリアムス (Tony Williams) : 1965~1967年活動] やジョン・コルトレーン (John Coltrane) のカルテット (The Quartet) [マッコイ・タイナー (McCoy Tyner) [p]、ジミー・ギャリソン (Jimmy Garrison) [b] そしてエルヴィン・ジョーンズ (Elvin Jones) [dr] : 1962~1965年活動] 同様に、本作もオーネット・コールマン (Ornette Coleman) 単体での評価よりも彼を含む4人 [ドン・チェリー (Don Cherry) [tp]、チャーリー・ヘイデン (Charlie Haden) [b] そしてビリー・ヒギンズ (Billy Higgins) [dr] : 1959〜1960年活動] によるモノと看做すべき音楽なのだろう [それにしても何故、この4人によるライヴ盤はないんだろうか]。

附記:
エリック・ドルフィー (Eric Dolphy) に、オーネット・コールマン (Ornette Coleman) とジョン・コルトレーン (John Coltrane)、彼等ふたりを論評する発言がどこかに遺されていないだろうか。
彼はアルバム『フリー・ジャズ (Free Jazz : A Collective Improvisation)』 [1961年発表] に於いてオーネット・コールマン (Ornette Coleman) と、アルバム『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード ("Live" At The Village Vanguard)』[1962年発表] 等にジョン・コルトレーン (John Coltrane) とに共演記録がある。
ものづくし (click in the world!) 247. :"THE SHAPE OF JAZZ TO COME" by ORNETTE COLEMAN

"THE SHAPE OF JAZZ TO COME" by ORNETTE COLEMAN
1. LONELY WOMAN(4:59)
2. EVENTUALLY (4:20)
3. PEACE (9:04)
4. FOCUS ON SANITY (6:50)
5. CONGENIALITY (6:41)
6. CHRONOLOGY (6:05)
All the selections were composed by Ornette Coleman and published by MJQ Music, BMI.
Recorded on May 22, 1959 at Radio Records, Los Angeles, California
PERSONEL : Ornette Coleman, alto sx ; Don Cherry, Cornet ; Charlie Haden ; bass, Billy Higgins ; drums
Recording engineer : Bones Howe
Cover photo : William Claxton
Cover design : Marvin Israel
CD Mastering by Stephen Innocenzi, Atlantic Studios
PRODUCED BY NESUHI ERTEGUN
original liner notes by MARTIN WILLIAMS Co-Editor, The Jazz Review, taken from Atlantic 1317
The Music on Compact Disc was originally recorded on analog equipment. The sound of the original recording is reproduced here with almost actually. Because of its high resolution, however, the Compact Disc can reveal the limitations of the source tape.
(C) 1959 Atlantic Recording Corporation
All Rights Reserved.
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