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2009.06.30.21.13

とぅばっど

1987年の事である。
ライオネル・リッチー (Lionel Richie) を始め数多くのセレブ・シンガーを動員したチャリティー・プロジェクト、USA・フォー・アフリカ (United Support Of Artists For Africa) の成功の翌年。
とはいうものの、ポール・マッカートニー (Paul McCartney) とがっぷり四つに組んだコラボ・シングル『セイ・セイ・セイ (Say Say Say)』からは4年。自身のリーダー作であるアルバム『スリラー (Thriller)』の発表から既に5年が経っていた。
マイケル・ジャクソン (Michael Jackson) の当時の新作『バッド (Bad)』は、そんな永いブランクの果てに発表された。
[勿論、その後にはさらにさらに永いブランクもあり、しかも彼の死によって、これから先は永遠にブランク=空白の筈だ。]

アルバムのタイトル・チューン『バッド (Bad)』を初めて観た時の印象は、いまでも憶えている。と、言うか、ずっと忘れていた筈なのに、今回の訃報で嫌が応うも無く、想い出させられてしまった。
映像作品としての前作『スリラー (Thriller)』[ジョン・ランディス (John Landis) 監督作品]のPVの圧倒的な評価の後に続く新作である。観る方もより多くのものを期待すると同時にそれ以上に、厳しいものともなっている。映像監督を引き受けたマーティン・スコセッシ (Martin Scorsese) も相当なプレッシャーだったのではなかろうか。
映像冒頭からどこかで観た様なシーンが続く群舞だし、日章旗 (Hinomaru : Flag Of Japan) を想わせる紅白に染め抜かれたバンダナを身につけているアジア系ダンサーが常に映像に映り込んでいるのは、ちょっと笑えてしまう[マイケル・ジャクソン (Michael Jackson) の初来日公演(Live In Japan) は本作を発表した同年9月]。
けれども、最期の最期に裏切られる。バック・ミュージックがなり終わった後に続くアカペラ・パートが無茶苦茶かっこ良いのだ。
今の耳で聴けば、唄われるべき歌詞としての体裁も整っているし、抑揚もあればメロディもある。だけれども、当時のぼくの耳には、単純に、趨勢を成してきていたラップ・ミュージックにも聴こえたのだ。

あぁ、彼も己のアイデンティティに忠実になったのだな、と単純にも信じ込んでしまったのだ。

例えば前作『スリラー (Thriller)』収録曲のひとつでこれもまた大ヒットした『今夜はビート・イット (Beat It)』では、エディ・ヴァンヘイレン (Edward Van Halen) のトリッキーなギター・プレイが聴ける。しかし、これは当時のマイケル・ジャクソン (Michael Jackson) にとってのグレー・ゾーン=白人層に向けて仕組まれたマーケティング戦略の成果でしかない。
ところが、『バッド (Bad)』発表前年である1986年に発表された、ランDMC (Run-D.M.C.) の大ヒット『ウォーク・ディス・ウェイ (Walk This Way) 』では、その楽曲の向いている方向が違う。曲は勿論、エアロスミス (Aerosmith) のカヴァーであり、しかもオリジネイターのスティーヴン・タイラー (Steven Tyler) とジョー・ペリー (Joe Perry) がレコーディングに参加している。しかし、ここにはマーケティング戦略以外の、音楽のマジックが働いている。
序でに書いとくと、アフリカ・バンバーター (Afrika Bambaataa) は『プラネット・ロック (Planet Rock)』でクラフトワーク (Kraftwerk) をサンプリングし[1982年]、パブリック・エナミー (Public Enemy) はアンスラックス (Anthrax) と『ブリング・ザ・ノイズ (Bring The Noise)』を共作している[1991年]。

そおゆう状況を踏まえれば、マイケル・ジャクソン (Michael Jackson) もこれまでの対白人戦略とは異なった行動が出来るのではないか、そして、その実戦がこの『バッド (Bad)』ぢゃあないのかなぁ~と想ったのだけれどもね。

バッド (Bad)』を発表した後のこれまた4年後に発表された新作『デンジャラス (Dangerous)』からのシングル『ブラック・オア・ホワイト (Black Or White)』では、かつての『今夜はビート・イット (Beat It)』同様に、スラッシュ (Slash) [当時ガンズ・アンド・ローゼズ (Guns N' Roses) 在籍]のギター・プレイがフィーチャーされていた。彼は個人的には好きなギタリストの一人だけれども、だからと言って、それ以上の相乗効果はない。前作『バッド (Bad)』は『スリラー (Thriller)』程のセールスを挙げられなかったと聴く。だからこそ、かつて辿った方法論へと軌道修正したとも読める。

しかし、『デンジャラス (Dangerous)』の発売と相前後してCD再発された彼の名盤『オフ・ザ・ウォール (Off The Wall)』[1978年発表作品]を観て、僕は吃驚したのである。
つまり、1978年の発表時のものの、表1[表表紙]と表4[裏表紙]が差し替えられていたからである。本来ならば、煉瓦塀を背にしたアフロ・ヘア (Afro-hair) のマイケル・ジャクソン (Michael Jackson) [当時20歳]の笑顔が表に据えられている筈がそこにはなく、華奢でしなやかな彼の脚が映っていたのである[こちらのサイトで両者を観比べられます]。

そのジャケットを観た僕は、ふと定向進化 (Orthogenesis) という言葉を想い出した。
つまり、既に歩み出してしまった方向から、元来た路へと後戻りしたり、これまでとは異なった途を選択する猶予は、既に喪われてしまっていたのではないか、と。

images
映画『ウィズ (The Wiz)』[1978年制作 シドニー・ルメット (Sidney Lumet) 監督作品]でマイケル・ジャクソン (Michael Jackson) が演じた案山子 (Scarecrow) は、魔法使い (The Wiz) に逢って智慧を得る為に黄色い煉瓦路 (Yellow Brick Road) を歩み始める。そこで彼が唄った歌は『イーズ・オン・ダウン・ザ・ロード (Ease On Down The Road)』であった。

次回は「」。
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