2009.06.21.22.28
debut records presents; the Quintet' jazz at massey hall

アルバム・ジャケットのほぼ半分を占める扱いながら、その表情がよく見えないアルト・サックス (Alto Saxphone) ・プレイヤーの名前はチャーリー・チャン (Charlie Chan) とクレジットされている。
チャーリー・チャン (Charlie Chan) とは、本作品がレコーディングされた1953年当時、アール・デア・ビガーズ (Earl Derr Biggers) 創造の、中国系の名探偵の名前に他ならない。彼はアール・デア・ビガーズ (Earl Derr Biggers) の小説から始って、映画やラジオで活躍していた[TVへと進出するのは本作品がレコーディングされた5年後のこと]。
つまり、どういう事かと言うと、本作品にクレジットされているのは真っ赤な偽名であり、その正体はチャーリー・パーカー (Charlie Parker) という。
契約の関係上、名前も顔も伏せなければならなかったからだ。
ちょっと大仰な始め方をしてしまったが、本作品は、バップ (Bebop) 時代の黄金期を成した五人が一同に勢揃いした作品である。その五人とは、チャーリー・パーカー (Charlie Parker) 、ディジー・ガレスピー (Dizzy Gillespie)、バド・パウエル (Bud Powell) 、マックス・ローチ (Max Roach) 、チャーリー・ミンガス (Charlie Mingus) である。
バップ (Bebop) の全盛期は1940年代半ばとされており、そして本作品が制作されたのが1953年。この五人が邂逅を重ねる機会は何度もあった筈のなのに、この五人が勢揃いした作品はこの一作品しかない。
もうこれ一回こっきりだかんね~ (Very Special One-time Performance) という意味のV.S.O.P The Quintetでさえ、何枚ものアルバムを遺しているのに。
単なる偶然の産物か、気まぐれ神様の采配か、それとも"船頭多くして船山を登る (Too Many Cooks Spoil The Broth.) "のを恐れたのか、それとも1942年~1944年のレコーディング・ストライキ (Musicians Recording Ban) が原因なのかは解らないが、とにかくこの五人による演奏はこれしかない。
にも関わらず、というか、それだからこそ、というべきか。
先ず、バド・パウエル (Bud Powell) は退院直後のことだから全盛時の輝きがない。チャーリー・パーカー (Charlie Parker) は手ぶらで現れて現地の楽器屋からプラスチック製のアルト・サックス (Alto Saxphone) で演奏する始末。
そして、当日[1953年 5月15日]は、ロッキー・マルシアノ (Rocky Marciano) 対ジャーシー・ジョー・ウォルコット ("Jersey" Joe Walcott)という、ボクシングはヘヴィー級タイトル・マッチが行われる日であって、コンサート会場であるマッセイ・ホール (Massey Hall) のキャパシティ2,500を遥かに下回る700人そこそこというお寒い状況なのである。
しかも、そのお寒い状況に便乗したのか弾けてしまったのか、ディジー・ガレスピー (Dizzy Gillespie) はこころここにあらずでタイトル・マッチの行方が気になって仕方ない[ロッキー・マルシアノ (Rocky Marciano) の1ラウンドKO勝ち]。
マトモなのはリズム・セクションの二人だけれども、結果的な事を書けば、彼らはバップ (Bebop) の次のムーヴメントを担う事となったのも当然である、と然り顔で頷いてみたくもなる。
音楽が始る前からこんなネガティヴな情報が右往左往するから、この作品を聴く耳を誰しも曇らせ濁らせる事になる。
「~にも関わらず」とか「だからこそ~」という常套句を連発して、この作品を神棚に挙げてしまって神格化させてしまうか、もしくは、[普通の]棚に挙げてなかった事にしてしまうか、いずれかを選んでしまう。
しかも、レコーディングした後に、本作品を自身が運営するレーベル、デヴュー (Debut Records) で発売するチャーリー・ミンガス (Charlie Mingus) が、俺の音がよく聴こえないからと、ベースをダヴィングするから、ややこしい事になる。
その演奏に良くも悪くもフィルターをかけ、更なるヴァイアスをかける事となったのだ。
ところで、僕は思う。この時代のこの音楽シーンを覆っていた麻薬禍を前提に考えれば、メンバーの誰かが本調子でなかったり、逆に異様な乱反射をしていたのは当然の事。また、メンバーの誰かが借金やのっぴきならない理由で手元に己の愛器がないというのも自明の事。
つまり、いつもの夜のいつもの出来事ではないのだろうか?という事なのだ。
だから、五人による唯一の演奏という記録に惑溺するのではなくて、こんな筈ではないもっと凄い筈だと記録されていない記憶に想いを馳せるのではなくて、あるがままを聴けば良いのだ。
いきなり本題に入ってしまっている『パーディド (Perdido) 』から『チュニジアの夜 (A NightI In Tunisia) 』までの6曲を聴けば、事態が尋常ならざる事はよく解る。ピークを過ぎてしまったミュージシャンの同窓会ではないのだ。火花が飛び散っている。
チャーリー・ミンガス (Charlie Mingus) は自身の音が小さかったから演奏をダヴィングしたのではない。その演奏に逆に火をつけられて煽られてしまったが為の、勇み足だと僕は解釈している。

今では、当夜の模様を完全収録した『Complete Jazz At Massey Hall
ものづくし(click in the world!)81.:
debut records presents; the Quintet' jazz at massey hall

debut records presents; the Quintet' jazz at massey hall
1. PERDIDO 7:53
(Tizol - Lengfelder - Drake) Tempo Music - ASCAP
2. SALT PEANUTS 7:30
(Gillespie - Clarke) MCA,INC. - ASCAP
3. ALL THE THINGS YOU ARE 7:55
(Hammerstein - Kern) T.B.Harms,Inc. - ASCAP
4. WEE 6:45
(Dizzy Gillespie) publisher unknown
5.HOT HOUSE 9:18
(Tadd Dameron) Warner Bros. Music - ASCAP
6. A NIGHT IN TUNISIA 7:33
(Gillespie - Paparelli) MCA,INC. - ASCAP
TOTAL TIME 47:09
DIZZY GILLESPIE, trumpet
MAX ROACH, drums
BUD POWELL, piano
CHARLIE MINGUS, bass
featuring
"CHARLIE CHAN" on alto
Recorded in performance at Massey Hall (Toronto, Canada) ; May 15, 1953
Original recordings produced by Charlie Mingus
Remastered by BOB GUY, Audiosonic
Cover photo by Bob Parent
Original Liner - Notes by BILL COSS, Editor, Jazz Today
Debut Records (C) 1989, Fantasy,Inc. All rights Reserved.
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