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2023.01.15.08.02

『羊ヶ丘デパートメントストア』 by ヴァージンVS

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実はそのむかし、彼等のライブは体験しているのであった。
だけれども、その内容はほとんど憶えていない。

それはある大学学園祭オールナイト興行だったからかもしれないし、その結果、数多くの出演バンドのひとつでしかなかったからかもしれないし、出演時間がかなり遅い時間だったからかもしれないし、その為に当初の演奏予定時間が削られた [とバンド側からアナウンスされた] からかもしれない。
彼等の体験は30分にも満たないモノだった様な気がする。
第一にそれ自体の体験は、半世紀近くもの昔の事なのである。
でも、それとは全く違う理由があるのではあった。

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このバンドが解散して数年後、ぼくはある人物経由で、当時のあがた森魚 (Morio Agata) の新作を聴かせてもらった。アルバム『バンドネオンの豹 (Bando Neon No Jaga : El Jaguar Del Bandneon)』[1987年発表] とその続編作『バンドネオンの豹と青猫 (Bando Neon No Jaga To Aoneko : El Jaguar y el Gato Azul)』 [1987年発表] だ。
作品名に顕れるている楽器、バンドネオン (Bandoneon) をフィーチャーしたその作品は、ぼくの耳には新鮮なモノに響いていた。そして、その旨をその人物にも告げてもいたのだろう、新たに彼がぼくの前に示したのが本作だった。

拒否感、抵抗感が最初、試聴前にはあった。
と、謂うのは、そのバンドの結成当初の、音楽雑誌等からの情報が、あまり良い印象をぼくに与えてくれなかったからだ。
あがた森魚 (Morio Agata) がA児 (A-ji) と改名し、新たにテクノ・ポップ・バンド (Techno Pop Band) を結成する。
ぼくが得たモノがそれだった。

当時、テクノ・ポップ・バンド (Techno Pop Band) はあたかも時代の寵児 (Hero Of The Times) であるかの様にもてはやされていた。
稀代の装いを纏った女性ヴォーカルをフィーチャーした新人バンドは毎月の様に、そのデヴューが謳われていた。所謂、不思議ちゃん (Fushigi-chan : The Peculiar Girl) と呼ばれる女性達の萌芽がこの時季だ。
また、実績のあるアーティスト達がその築いた音楽性から転向 (Tenko : Changing Direction) していくのも、よくある事例だった。土屋昌巳 (Masami Tsuchiya) 率いる一風堂 (Ippu-Do) はそのかなりはやい時季のモノである。
これらの現象が良い悪いと謂うモノではない。スネークマンショー (Snakeman Show) の言辞を借用すれば、『良い物もある 悪い物もある (There Are Good Things And Bad Things)』 [イエロー・マジック・オーケストラ (YMO : Yellow Magic Orchestra) のアルバム『増殖 (X∞ Multiplies)』 [1980年発表] 収録] である。
そして、これがこの時季特有の現象でもない。一昔前ならば、映画『サタデー・ナイト・フィーバー (Saturday Night Fever)』 [ジョン・バダム (John Badham) 監督作品 1977年制作] とその音楽を担当したビージーズ (Bee Gees) の余波を受けた、ディスコ (Disco) がそれに該当する。その大ヒット以降、どこもどいつも老いも若きも馬鹿も阿呆も、四つ打ち (Four On The Floor) しか鳴らさない。

そんな認識がある上で、あがた森魚 (Morio Agata) 改称A児 (A-ji) 率いるヴァージンVS (Virgin VS) に、ぼくの抵抗感が否めなかったのは、今更でもあったし、遅きに失していたからだ。つまり何故、今、この時季に敢えてそんな音楽性を追求するのだろうかと謂うモノだ。

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そして更に、あがた森魚 (Morio Agata) と謂うアーティストにまとわりつくモノと、テクノ・ポップ・バンド (Techno Pop Band) と謂う装いとのあいだに、齟齬を強く感じたからだ。
当時、彼に関する認識は、彼の代表曲『赤色エレジー (Red Colored Elegy)』 [アルバム『乙女の儚夢 (Romance For A Maiden)』 [1972年発表] 収録] にしかない。その時代錯誤 (Anachronism) な曲調と、それを歌唱する彼の扮装 [下駄履きのジーンズ (Putting On Jeans Pants With Getas)]、それらとヴァージンVS (Virgin VS) の指向とのあまりの落差に、ぼくは適応出来なかったからなのである。
冒頭に綴った記憶はそれを追認するモノでもある。

[ぢゃあ何故、時代を下っての1987年当時の彼の作品群をぼくが面白がったかと謂うと、そこにあるバンドネオン (Bandoneon) から奏でられる時代錯誤感 (Anachronism) が、ぼくの中にあるあがた森魚 (Morio Agata) 観を素直に肯定させてくれたからだろう。]

と、謂う様な事を踏まえた上での本作である。

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制作は1983年、彼等の第5作として、書き忘れていたのだが彼等の活動期間は、1981年から1984年の4年間だ。だが、当時本作は発表を見送られてしまう。映画『Radio City Fantasy 街角のメルヘン (Machikado No Meruhen : Radio City Fantasy)』 [西久保瑞穂 (Mizuho Nishikubo) 監督作品 1984年制作] の音楽を彼等が担当し、その成果としてのサウンドトラック盤『レディオ・シティ・ファンタジー (Radio City Fantasy)』 [1984年発表] が発売されるからだ。
と、謂う情報は、本作を入手した時点で既に知っていた。だけれども、では何故、4年後に本作が陽の目をみたのか、その説明は誰もしてくれない。
下衆の勘ぐり (A Petty-minded Suspicion) としてぼくにあるのは、当時のあがた森魚 (Morio Agata) の活況だけだ。

プロデュースを鈴木慶一 (Keiichi Suzuki) が担当している。だからだろうか普遍的なポップ・ミュージック (Pop Music) としての佇まいがそこにある。ヴァージンVS (Virgin VS) と謂う名称に付随するテクノ・ポップ・バンド (Techno Pop Band) と謂う呼称はあまり相応しくない。
居心地が良い一方で、ぼくは少し気恥ずかしくなる。
それは、本作が制作した当時のぼくをも、憶い起こさせるからだろうか。
本作の随所にふりまかれ、まぶされている語句は、ある意味でその時代ならではのモノだ。と、同時に当時のぼくの生活に密着していたモノでもある。
例えば、作品名にもあるデパートメントストア (Department Store) は、当時を雄弁に語る語句、そのひとつである [別の表現をすれば、当時のサブカルチャー (Subculture) を語る上での重要なワン・アイテムである]。しかし、それ以上にそこは、ぼく達にとっての実際の、なくてはならないあそびばでもあったのだ。

拙稿の執筆を機に、本作を含めてのヴァージンVS (Virgin VS) の諸作品を聴いてみる。
そこに横溢する雰囲気のどれにも、上に綴った様な気恥ずかしさを随所に感ずる。
ある意味で、懐古と新鮮、本来ならあい対立する概念が同時にそこにあるのだ。その両端を、ぼくが往復、巡回させられている様な気がする。
そして、それをもうひとつの異なる次元に止揚させたのが、本作だ [一番、わかりやすい]。

もしかしたら、あがた森魚 (Morio Agata) と謂うアーティストの独自性を、最もポップなかたちでコーティングしたのがヴァージンVS (Virgin VS) であるのかもしれないし、その音楽性を更にポップに呈示したのが本作なのかもしれない。

猶、本作唯一のカヴァー曲である楽曲『恋のダイヤモンド・リング (This Diamond Ring)』 は、ゲイリー・ルイス・アンド・ザ・プレイボーイズ (Gary Lewis And The Playboys) が 1964年に発表した楽曲『恋のダイヤモンド・リング (This Diamond Ring)』[ゲイリー・ルイス・アンド・ザ・プレイボーイズ (Gary Lewis And The Playboys) のアルバム『恋のダイヤモンド・リング (This Diamond Ring))』 [1965年発表] 収録] である。その作家陣はアル・クーパー (Al Kooper)、ボブ・ブラス (Bob Brass) そしてアーウィン・レヴィン (Irwin Levine) であり、アル・クーパー (Al Kooper)の実質的デヴュー作 [彼は1976年に自身の第7作『倒錯の世界 (Act Like Nothing's Wrong)』でセルフ・カヴァー『恋のダイヤモンド・リング (This Diamond Ring)』を発表している] である。
原曲にある初々しさに、あがた森魚 (Morio Agata) が提供した日本語詞によって、奇妙な懐古趣味が充填されている様だ。

ものづくし (click in the world!) 243. :『羊ヶ丘デパートメントストア』 by ヴァージンVS


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羊ヶ丘デパートメントストア』 by ヴァージンVS

「あがた森魚率いるヴァージンVS このアルバムは、鈴木慶一のプロデュースによって制作された秘蔵版です。」

「社告『わたしの歴史の中で、遠足、霧の8マイル、デパートの大食堂、タルホティシズム、秋葉原、ニューロック、屋敷町、ヴァージン街のデパートミュージック、ブレード・ランナー、東京湾、中期ビートルズ、あがた森魚、ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー、は大事だ。』
羊ヶ丘デパートメントストア 取締役 鈴木慶一」

side 1 (踊る帝都)
1. デパートメントストア
作詞 あがた森魚
作曲 ライオン・メリー & あがた森魚
編曲 鈴木慶一 & ヴァージンVS

2. 恋のダイヤモンド・リング
作詞 あがた森魚
作曲 ボブ・ブラス、アル・クーパー & アーウィン・レビン
編曲 鈴木慶一 & ヴァージンVS

3. ピカピカ・タクシー・ボーイ
作詞 あがた森魚
作曲 あがた森魚
編曲 鈴木慶一 & ヴァージンVS

4. 秋晴れ秋葉原
作詞 あがた森魚、土田弥之助 & 久保田さちを
作曲 土田弥之助 & 久保田さちを
編曲 鈴木慶一 & ヴァージンVS

5. 羊は眠る
作詞 ひかる
作曲 リッツ & ひかる
編曲 鈴木慶一 & ヴァージンVS

side 2. (光る農村)
1. カタビラ辻に異星人を待つ
作詞 あがた森魚
作曲 あがた森魚
編曲 鈴木慶一 & ヴァージンVS

2. 百合コレクション
作詞 あがた森魚
作曲 あがた森魚
編曲 鈴木慶一 & ヴァージンVS

3. ピクニック・パニック
作詞 あがた森魚
作曲 あがた森魚
編曲 鈴木慶一 & ヴァージンVS

4. 月夜の尖端り
作詞 あがた森魚
作曲 あがた森魚
編曲 鈴木慶一 & ヴァージンVS

ヴァージンVS
あがた森魚 - VOCAL
土田弥之助 - BASS
三科勝 - DRUMS
久保田さちを - GUITAR, MANDOLIN, CHOIRS
ライオン・メリー - KEYBOARD
ひかる - CHOIRS, SAXPHONE, CLARINET, RECORDER
リッツ - CHOIRS, GUITAR, ACCORDION, PERCUSSIONS
(guest)
貫田顕勇 - MC202 & DX7, CHIOR
山崎進 - VIOLIN

PRODUCER - 鈴木慶一
Director - 貫田顕勇
Recording Engineer - 山崎進 平昌弘
Assistant Engineer - 桧山栄治 鈴木啓右 丸山光晴
Recorded at - KRSレコーディングスタジオ(東京) ポリドール伊豆スタジオ(静岡) 1983年7月~11日

Art Direction - 戸田正寿
Design - 水島正則
Photography - 杉山浩
Coordination - 加藤庸一

Public Relation - 宗像和男
Production Management - キティアーティスト 丸山好信
Special Thanks - ムーンライダース・オフィス 徳間ジャパン

EXECUTIVE PRODUCER - 多賀英典

(P) 1987 KITTY RECORDS
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