2022.12.27.08.50
特撮TV番組『怪奇大作戦 (Operation : Mystery!)』 [1968~1969年 TBS系列放映] 全26話のなかで、この逸話はすこしかわったところにある様におもえる。
その特撮TV番組は、異常な事件や怪奇現象を科学的な捜査方法をもって、謎の解明や事件の解決を描く物語である。その任に、科学捜査研究所:エスアールアイ (Science Research Institute : SRI) と謂う組織があたる。
だけれども、そこにある謎や事件の異常さよりも、観ているぼく達に強く印象が遺るのは、事件の動機や現象が生じる背景となったものだ。つまり、その発端にある人間の、心理や精神なのである。そして、だからこそ怖い。放送当時に小学生だったぼくは、震えながら観ていた。
勿論、怖い番組や怖い映像は、ぼく達の日常、その殆どはメディアを介して登場するモノではあったけれど、決して少なくはない。しかし、その特撮TV番組に顕現するのは、それらとは極めて異質なモノなのだ。
例えば、その番組と同じ放送局、同じ放送時間帯、そして同じ番組提供者 [武田薬品工業 (Takeda Pharmaceutical Company Limited) 提供のタケダアワー (Takeda Hour)] であった特撮TV番組『ウルトラQ (Ultra Q)』 [1966年 TBS系列放映] の幾つかの逸話には怖いモノは幾つもある。幼児期にそれを観たぼくは、何度か夢に観て、うなされ、おびえ、泣き出していた。だが、その番組にある怖さは、画面に顕れるモノを観る事に生じる。つまり、映像技術やその表現力がなせるわざではある。
ところが、この特撮TV番組にある怖さは、映像としては直接登場しない。映像やそれをもって語られる物語の奥底にそれは潜んでいるのだ。
例えば、逸話の幾つかには戦争、すなわち太平洋戦争 (Pacific War) [1941~1945年] を題材としたモノがある。だけれども、その番組が語るのは、そのひどさでもそのむごさでもそのくるしみやかなしみでもない。それが産み育んだ情念もしくはそれを醸造した時間そのものなのである。
ここまで綴ってきた事を前提にして、特撮TV番組『怪奇大作戦 (Operation : Mystery!)』の第11話『ジャガーの眼は赤い (Jaguar Has The Red Eyes)』 [高橋辰雄 脚本 小林恒夫 監督 大木淳 特殊技術] を観ると、肩透かしを喰らった (To Suffer A Disappointment) 様な趣きにさえぼく達はなってしまう。
勿論、番組前提の設定はきちんとそこにある。この逸話ではホログラフィ立体映像装置 (Holography) を使用した、未成年者略取誘拐事件 (Kidnapping Of Minors) である。そして、その犯人である青木 (Aoki [演:清川新吾 (Shingo Kiyokawa)] が犯罪に関与する動機も、自身の研究開発したその技術の悪用 [その結果としての今後の開発費の調達と自身の技術力の誇示にある] なのだから、少なくとも番組成立の為の要件は総て揃ってはいる。
否、それよりもこの逸話で実質的な主演であるふたりの兄弟 [内藤太郎 (Taro Naito) [演:高桑勉 (Tsutomu Takakuwa)] と内藤健二 (Kenji Naito) [演:盛永裕一 (Yuichi Morinaga]] は、この作品を当時観てきたぼくと同世代だ。それが為に、あたかもぼく自身が事件の渦中に遭遇している様な迫真を体験しても不思議ではない構成なのである。
ではあるのだが ... 。
物語の展開は、まるで江戸川乱歩 (Edogawa Ranpo) の、少年探偵団シリーズ (The Boy Detectives Club Series) の1篇であるかの様な佇まいなのである。
冒頭、少年に不審な人物が接触をはかる。その結果、少年は事件の渦中に投棄される事になる。少年本人もしくは彼の友人達のひとりが少年探偵団 (The Boy Detectives Club) に所属している。その結果、事件はその団長である小林芳雄 (Yoshio Kobayashi) 少年や探偵団を率いる探偵明智小五郎 (Kogoro Akechi) が知る事となり、彼らが捜査へと乗り出すのだ。
それと同趣向の冒頭がその逸話にあるのだ。ただ、ひとつ違うのは、上に綴った不審な人物に該当するのがウルトラセブン (Ultraseven) [の着ぐるみを装着した人物] である事だ。彼はそこで、物語の主人公達である兄弟に、販促物である紙製の眼鏡を手渡す。この兄弟の失踪〜誘拐 (From Disappearance To Kidnapping) 事件は、そこから始まるのだ。
だからもし、この逸話を江戸川乱歩 (Edogawa Ranpo) が創作したとしたら、文章の中には恐らく"超人対名探偵 (The Super Hero Vesus The Great Detective)"という様な惹句が躍る事となっただろう。
と、謂う事はさておき。
何故、少年探偵団シリーズ (The Boy Detectives Club Series) に於ける"不審な人物"の役回りをウルトラセブン (Ultraseven) がかってでる事となったのかと謂うと、幾つかの理由を考える事が出来る。
ひとつはその特撮TV番組の前番組が特撮TV番組『ウルトラセブン (Ultraseven)』[1967~1968年 TBS系列放映] であったと謂う事。それのみに着目すれば、前番組では正義の味方であったヒーローが、この番組では悪事に加担する役を演じていると謂う事になる。と、同時に、当時、ウルトラセブン (Ultraseven) [の着ぐるみ] が、この逸話の中の設定であるサンドイッチマン (Sandwich Man) として実際に街中に頻繁に登場していた、そんな背景もあるのかもしれない [ぼくの記憶をまさぐれば、この前後数年間に、子供会 (Children's Group Meeting) 主宰でウルトラセブン (Ultraseven) を含む怪獣撮影会があった]。
だが、大事なのはべつの理由、サンドイッチマン (Sandwich Man) としてのウルトラセブン (Ultraseven) が携えていたのが紙製の眼鏡である事だ。御存知の様に、モロボシ・ダン (Dan Moroboshi) [演:森次晃嗣 (Kohji Moritsugu)] がウルトラセブン (Ultraseven) に変身する為には、自身の両眼にウルトラアイ (Ultra Eye) を装着する必要がある、その類推であろう。
と、同時に、彼が兄弟に手渡す紙製の眼鏡は、単なる販促物ではなく、犯人によってホログラフィ立体映像装置 (Holography) が装着されている事にも着目しても良いのかもしれない。ウルトラアイ (Ultra Eye) を装着する事によってモロボシ・ダン (Dan Moroboshi) がウルトラセブン (Ultraseven) の能力を獲得した様に、その兄弟も紙製の眼鏡を装着する事によって常態とは異なる視覚、視野を得てしまうのだから。
逸話の前半は、兄弟の失踪〜誘拐 (From Disappearance To Kidnapping) とその解決にあたる科学捜査研究所:エスアールアイ (Science Research Institute : SRI) の捜査である。彼等は犯人の逮捕こそ失敗してしまうが、彼等の失踪~誘拐 (From Disappearance To Kidnapping) の謎は解明には成功する。つまり、物語の冒頭から何度となく登場する謎の光景や不思議な視覚、視野の原因がホログラフィ立体映像装置 (Holography) にある事実には到着できたのだ。
そして、物語の後半は、兄弟の脱出行が主題となる。
そこでの犯人と兄弟とのやりとりや、科学捜査研究所:エスアールアイ (Science Research Institute : SRI) による犯人逮捕に至るまでの経緯もまた、江戸川乱歩 (Edogawa Ranpo) の少年探偵団シリーズ (The Boy Detectives Club Series) を彷彿とさせるのだ。犯人が自慢げに兄弟に自身の技術力を披露する際の態度、そして自らの術作を科学捜査研究所:エスアールアイ (Science Research Institute : SRI) に逆に活用されて破滅してしまう結末等、ぼくにとっては怪人二十面相 (The Fiend With Twenty Faces) と、小林芳雄 (Yoshio Kobayashi) 少年や明智小五郎 (Kogoro Akechi) のそれとそっくりおなじものを発見できてしまう。
ところで、第11話の題名はどこから来たのだろうか。
その物語内だけに拘泥すると、ホログラフィ立体映像装置 (Holography) を装着した紙製の眼鏡によってもたらされた視覚、視野の一つがそれだ。そこに顕れる亜米利加豹 (Jaguar) の瞳は確かに赤い。そして、それはそのまま事件解決後に、ささやかな動機として登場する。物語冒頭での内藤健二 (Kenji Naito) がつく"嘘"をも反映させたモノだ。穿ったみかたをすれば、そこに嘘から出た誠 (An Incorrect Statement May Turn Out To Be Correct In The End.) と謂う成句を形成させる事すら可能だ。
だが、それだけではないだろう。
小説『豹の眼 (Eye Of The Jaguar)』[高垣眸 (Hitomi Takagaki) 作 1927年 少年倶楽部連載] がある。この小説にある題名こそが、そこに登場する謎のもっともおおきなモノであり、その秘密は、眼球を模したモノの中に隠されている。
と、綴れば、第11話で利用される新技術、ホログラフィ立体映像装置 (Holography) が紙製の眼鏡に装着されている事と照応しそうだ。つまり、ここでも眼球の代替物たるモノにこそ、謎を解明する秘密が隠されているのである。
と、謂うよりも単純に、こうも謂ってしまっても良いのかもしれない。
その小説には幾つもの翻案作があり、その最新のモノは特撮TV番組『豹の眼 (Eye Of The Jaguar)』[1959~1960年 ラジオ東京テレビ系列放映] である。特撮TV番組『怪奇大作戦 (Operation : Mystery!)』に先立つ事丁度10年前、同じ放送局、同じ放送時間帯、そして同じ番組提供者 [武田薬品工業 (Takeda Pharmaceutical Company Limited) 提供のタケダアワー (Takeda Hour)] で放映された。つまり、第11話は、その特撮TV番組へのオマージュなのである。
そう断言するのが可能と思われる。
だけれども、ぼくにはもうひとつの可能性が示唆出来るのだ。
映画『ジャガーの眼 (Marie-Chantal Contre Dr. Kah)』 [クロード・シャブロル (Claude Chabrol) 監督作品 1965年制作] である。そこには狂言廻しとして、亜米利加豹 (Jaguar) の顔を模した象嵌 (Damascening) が登場するのだ。原題とは全く無関係の邦題がこの映画に充てられているのはそれが為であろう。
そして拙稿に於いて何によりも大切な事は、その亜米利加豹 (Jaguar) の両眼には紅玉 (Ruby) が装着されている事、この1点なのである。

上掲画像はこちらから。
次回は「い」。
附記 1. :
第11話が少年探偵団シリーズ (The Boy Detectives Club Series) の1逸話となる為には、大事な要素がひとつ足りない。それは、プラモデル屋の主人 (The Master Of Model Shop) [演:稲垣昭三 (Shozo Inagaki)] と謂う人物に関してである。彼の営業する店舗に於いて、ウルトラセブン (Ultraseven) に扮した犯人が紙製の眼鏡を配布していたのである。と、謂う事は少なくとも、ウルトラセブン (Ultraseven) の中に入っている人物を認識している事になる [例えその際に犯人が別の人物に変装していたとしても最低限の情報は入手していた筈だ]。しかも、そんな人物が、身代金受け渡しの現場に登場しているのである。つまり、本来ならばもっと重視されねばならない人物のひとりなのである [少年探偵団シリーズ (The Boy Detectives Club Series) の幾つかにもその様な人物は登場するばかりではなく、その後に語られる物語に於いても重大な役割を演じる事がある。さらに謂えば、その様な人物の実態、すなわち正体が物語におおきな影響を及ぼす場合がない訳ではない]。にも関わらずに、第11話に於いては、彼の役割はそこで終焉してしまう。その物語に於いて彼が演じた役割は、犯人でも科学捜査研究所:エスアールアイ )(Science Research Institute : SRI) でもない、現場を客観的な存在としてそこでおこった出来事を目撃する事のみなのだ。
附記 2. :
唐十郎 (Juro Kara) 作の舞台『ジャガーの眼 (Eye Of The Jaguar)』 は1985年初演である。
その特撮TV番組は、異常な事件や怪奇現象を科学的な捜査方法をもって、謎の解明や事件の解決を描く物語である。その任に、科学捜査研究所:エスアールアイ (Science Research Institute : SRI) と謂う組織があたる。
だけれども、そこにある謎や事件の異常さよりも、観ているぼく達に強く印象が遺るのは、事件の動機や現象が生じる背景となったものだ。つまり、その発端にある人間の、心理や精神なのである。そして、だからこそ怖い。放送当時に小学生だったぼくは、震えながら観ていた。
勿論、怖い番組や怖い映像は、ぼく達の日常、その殆どはメディアを介して登場するモノではあったけれど、決して少なくはない。しかし、その特撮TV番組に顕現するのは、それらとは極めて異質なモノなのだ。
例えば、その番組と同じ放送局、同じ放送時間帯、そして同じ番組提供者 [武田薬品工業 (Takeda Pharmaceutical Company Limited) 提供のタケダアワー (Takeda Hour)] であった特撮TV番組『ウルトラQ (Ultra Q)』 [1966年 TBS系列放映] の幾つかの逸話には怖いモノは幾つもある。幼児期にそれを観たぼくは、何度か夢に観て、うなされ、おびえ、泣き出していた。だが、その番組にある怖さは、画面に顕れるモノを観る事に生じる。つまり、映像技術やその表現力がなせるわざではある。
ところが、この特撮TV番組にある怖さは、映像としては直接登場しない。映像やそれをもって語られる物語の奥底にそれは潜んでいるのだ。
例えば、逸話の幾つかには戦争、すなわち太平洋戦争 (Pacific War) [1941~1945年] を題材としたモノがある。だけれども、その番組が語るのは、そのひどさでもそのむごさでもそのくるしみやかなしみでもない。それが産み育んだ情念もしくはそれを醸造した時間そのものなのである。
ここまで綴ってきた事を前提にして、特撮TV番組『怪奇大作戦 (Operation : Mystery!)』の第11話『ジャガーの眼は赤い (Jaguar Has The Red Eyes)』 [高橋辰雄 脚本 小林恒夫 監督 大木淳 特殊技術] を観ると、肩透かしを喰らった (To Suffer A Disappointment) 様な趣きにさえぼく達はなってしまう。
勿論、番組前提の設定はきちんとそこにある。この逸話ではホログラフィ立体映像装置 (Holography) を使用した、未成年者略取誘拐事件 (Kidnapping Of Minors) である。そして、その犯人である青木 (Aoki [演:清川新吾 (Shingo Kiyokawa)] が犯罪に関与する動機も、自身の研究開発したその技術の悪用 [その結果としての今後の開発費の調達と自身の技術力の誇示にある] なのだから、少なくとも番組成立の為の要件は総て揃ってはいる。
否、それよりもこの逸話で実質的な主演であるふたりの兄弟 [内藤太郎 (Taro Naito) [演:高桑勉 (Tsutomu Takakuwa)] と内藤健二 (Kenji Naito) [演:盛永裕一 (Yuichi Morinaga]] は、この作品を当時観てきたぼくと同世代だ。それが為に、あたかもぼく自身が事件の渦中に遭遇している様な迫真を体験しても不思議ではない構成なのである。
ではあるのだが ... 。
物語の展開は、まるで江戸川乱歩 (Edogawa Ranpo) の、少年探偵団シリーズ (The Boy Detectives Club Series) の1篇であるかの様な佇まいなのである。
冒頭、少年に不審な人物が接触をはかる。その結果、少年は事件の渦中に投棄される事になる。少年本人もしくは彼の友人達のひとりが少年探偵団 (The Boy Detectives Club) に所属している。その結果、事件はその団長である小林芳雄 (Yoshio Kobayashi) 少年や探偵団を率いる探偵明智小五郎 (Kogoro Akechi) が知る事となり、彼らが捜査へと乗り出すのだ。
それと同趣向の冒頭がその逸話にあるのだ。ただ、ひとつ違うのは、上に綴った不審な人物に該当するのがウルトラセブン (Ultraseven) [の着ぐるみを装着した人物] である事だ。彼はそこで、物語の主人公達である兄弟に、販促物である紙製の眼鏡を手渡す。この兄弟の失踪〜誘拐 (From Disappearance To Kidnapping) 事件は、そこから始まるのだ。
だからもし、この逸話を江戸川乱歩 (Edogawa Ranpo) が創作したとしたら、文章の中には恐らく"超人対名探偵 (The Super Hero Vesus The Great Detective)"という様な惹句が躍る事となっただろう。
と、謂う事はさておき。
何故、少年探偵団シリーズ (The Boy Detectives Club Series) に於ける"不審な人物"の役回りをウルトラセブン (Ultraseven) がかってでる事となったのかと謂うと、幾つかの理由を考える事が出来る。
ひとつはその特撮TV番組の前番組が特撮TV番組『ウルトラセブン (Ultraseven)』[1967~1968年 TBS系列放映] であったと謂う事。それのみに着目すれば、前番組では正義の味方であったヒーローが、この番組では悪事に加担する役を演じていると謂う事になる。と、同時に、当時、ウルトラセブン (Ultraseven) [の着ぐるみ] が、この逸話の中の設定であるサンドイッチマン (Sandwich Man) として実際に街中に頻繁に登場していた、そんな背景もあるのかもしれない [ぼくの記憶をまさぐれば、この前後数年間に、子供会 (Children's Group Meeting) 主宰でウルトラセブン (Ultraseven) を含む怪獣撮影会があった]。
だが、大事なのはべつの理由、サンドイッチマン (Sandwich Man) としてのウルトラセブン (Ultraseven) が携えていたのが紙製の眼鏡である事だ。御存知の様に、モロボシ・ダン (Dan Moroboshi) [演:森次晃嗣 (Kohji Moritsugu)] がウルトラセブン (Ultraseven) に変身する為には、自身の両眼にウルトラアイ (Ultra Eye) を装着する必要がある、その類推であろう。
と、同時に、彼が兄弟に手渡す紙製の眼鏡は、単なる販促物ではなく、犯人によってホログラフィ立体映像装置 (Holography) が装着されている事にも着目しても良いのかもしれない。ウルトラアイ (Ultra Eye) を装着する事によってモロボシ・ダン (Dan Moroboshi) がウルトラセブン (Ultraseven) の能力を獲得した様に、その兄弟も紙製の眼鏡を装着する事によって常態とは異なる視覚、視野を得てしまうのだから。
逸話の前半は、兄弟の失踪〜誘拐 (From Disappearance To Kidnapping) とその解決にあたる科学捜査研究所:エスアールアイ (Science Research Institute : SRI) の捜査である。彼等は犯人の逮捕こそ失敗してしまうが、彼等の失踪~誘拐 (From Disappearance To Kidnapping) の謎は解明には成功する。つまり、物語の冒頭から何度となく登場する謎の光景や不思議な視覚、視野の原因がホログラフィ立体映像装置 (Holography) にある事実には到着できたのだ。
そして、物語の後半は、兄弟の脱出行が主題となる。
そこでの犯人と兄弟とのやりとりや、科学捜査研究所:エスアールアイ (Science Research Institute : SRI) による犯人逮捕に至るまでの経緯もまた、江戸川乱歩 (Edogawa Ranpo) の少年探偵団シリーズ (The Boy Detectives Club Series) を彷彿とさせるのだ。犯人が自慢げに兄弟に自身の技術力を披露する際の態度、そして自らの術作を科学捜査研究所:エスアールアイ (Science Research Institute : SRI) に逆に活用されて破滅してしまう結末等、ぼくにとっては怪人二十面相 (The Fiend With Twenty Faces) と、小林芳雄 (Yoshio Kobayashi) 少年や明智小五郎 (Kogoro Akechi) のそれとそっくりおなじものを発見できてしまう。
ところで、第11話の題名はどこから来たのだろうか。
その物語内だけに拘泥すると、ホログラフィ立体映像装置 (Holography) を装着した紙製の眼鏡によってもたらされた視覚、視野の一つがそれだ。そこに顕れる亜米利加豹 (Jaguar) の瞳は確かに赤い。そして、それはそのまま事件解決後に、ささやかな動機として登場する。物語冒頭での内藤健二 (Kenji Naito) がつく"嘘"をも反映させたモノだ。穿ったみかたをすれば、そこに嘘から出た誠 (An Incorrect Statement May Turn Out To Be Correct In The End.) と謂う成句を形成させる事すら可能だ。
だが、それだけではないだろう。
小説『豹の眼 (Eye Of The Jaguar)』[高垣眸 (Hitomi Takagaki) 作 1927年 少年倶楽部連載] がある。この小説にある題名こそが、そこに登場する謎のもっともおおきなモノであり、その秘密は、眼球を模したモノの中に隠されている。
と、綴れば、第11話で利用される新技術、ホログラフィ立体映像装置 (Holography) が紙製の眼鏡に装着されている事と照応しそうだ。つまり、ここでも眼球の代替物たるモノにこそ、謎を解明する秘密が隠されているのである。
と、謂うよりも単純に、こうも謂ってしまっても良いのかもしれない。
その小説には幾つもの翻案作があり、その最新のモノは特撮TV番組『豹の眼 (Eye Of The Jaguar)』[1959~1960年 ラジオ東京テレビ系列放映] である。特撮TV番組『怪奇大作戦 (Operation : Mystery!)』に先立つ事丁度10年前、同じ放送局、同じ放送時間帯、そして同じ番組提供者 [武田薬品工業 (Takeda Pharmaceutical Company Limited) 提供のタケダアワー (Takeda Hour)] で放映された。つまり、第11話は、その特撮TV番組へのオマージュなのである。
そう断言するのが可能と思われる。
だけれども、ぼくにはもうひとつの可能性が示唆出来るのだ。
映画『ジャガーの眼 (Marie-Chantal Contre Dr. Kah)』 [クロード・シャブロル (Claude Chabrol) 監督作品 1965年制作] である。そこには狂言廻しとして、亜米利加豹 (Jaguar) の顔を模した象嵌 (Damascening) が登場するのだ。原題とは全く無関係の邦題がこの映画に充てられているのはそれが為であろう。
そして拙稿に於いて何によりも大切な事は、その亜米利加豹 (Jaguar) の両眼には紅玉 (Ruby) が装着されている事、この1点なのである。

上掲画像はこちらから。
次回は「い」。
附記 1. :
第11話が少年探偵団シリーズ (The Boy Detectives Club Series) の1逸話となる為には、大事な要素がひとつ足りない。それは、プラモデル屋の主人 (The Master Of Model Shop) [演:稲垣昭三 (Shozo Inagaki)] と謂う人物に関してである。彼の営業する店舗に於いて、ウルトラセブン (Ultraseven) に扮した犯人が紙製の眼鏡を配布していたのである。と、謂う事は少なくとも、ウルトラセブン (Ultraseven) の中に入っている人物を認識している事になる [例えその際に犯人が別の人物に変装していたとしても最低限の情報は入手していた筈だ]。しかも、そんな人物が、身代金受け渡しの現場に登場しているのである。つまり、本来ならばもっと重視されねばならない人物のひとりなのである [少年探偵団シリーズ (The Boy Detectives Club Series) の幾つかにもその様な人物は登場するばかりではなく、その後に語られる物語に於いても重大な役割を演じる事がある。さらに謂えば、その様な人物の実態、すなわち正体が物語におおきな影響を及ぼす場合がない訳ではない]。にも関わらずに、第11話に於いては、彼の役割はそこで終焉してしまう。その物語に於いて彼が演じた役割は、犯人でも科学捜査研究所:エスアールアイ )(Science Research Institute : SRI) でもない、現場を客観的な存在としてそこでおこった出来事を目撃する事のみなのだ。
附記 2. :
唐十郎 (Juro Kara) 作の舞台『ジャガーの眼 (Eye Of The Jaguar)』 は1985年初演である。
- 関連記事
-
- ぼう (2023/01/10)
- いだいなるとぼー (2023/01/03)
- じゃがーのめはあかい (2022/12/27)
- おおえやましゅてんどうじ (2022/12/20)
- きいろいかお (2022/12/13)