fc2ブログ

2022.11.29.08.40

こどものゆうぎのふたりのおとな

「ヴァンデン・ブランデンは総数で246人の子供たちが描かれ、その中、男の子が168人、女の子が78人と数えている」

冒頭の引用文は美術評論『ブリューゲルの「子供の遊戯」 - 遊びの図像学 ("Children's Games" By Pieter Bruegel de Oude : Iconography Of Play)』 [森洋子 (Yoko Mori)1989 未來社 (Mirai-sha Publishers) 刊行] からである。
その書籍は、絵画『子供の遊戯 (Kinderspiele)』 [ピーテル・ブリューゲル (Pieter Bruegel de Oude) 画 1560年作 美術史美術館 (Kunsthistorisches Museum Wien) 所蔵] に描かれている遊戯をひとつひとつ分析してあるばかりではなく、そこに描かれれている遊戯の来歴や、他の創作作品 [文学作品もあれば美術作品もある] に於ける描写との比較等がなされているのだ。
ちなみにその美術評論に於いては、描かれてある遊戯を91項目に分類している。
しかもその為に、記述されたモノに関する幾つもの画像があますところなく紹介、掲載されているのだ。ぼくにとっては寧ろ、そちらの方が重宝している。

ところで、「男の子が168人、女の子が78人」ではあるのだが、その例外と謂っていいだろう、その絵画には大人がふたり描かれているのである。
猶、拙稿に登場する引用文や、その絵画に描写されている遊戯の名称は総て、先の美術評論にあるモノである [だから、後者に関してはネット上で流通している記述とは齟齬があるかもしれない]。

大人のひとりは「44 花嫁行列ごっこ Bruidsstoet」の中で描かれている。その遊戯はこの絵画に於いて「画面のほぼ中央で、二つの対角線の交差する位置」にある。
その背後に女性がひとり、その遊戯で戯れている少女達を保護する様なかたちで立っている。
美術評論には「おそらく花嫁役の女の子の母親かしれない」とある。

images
もうひとりの大人は「75 取っ組み合い Vechten」の「すぐ前の入り口」にある [上掲画像はこちらから]。
その遊戯に戯れている子供達を向き、掌には水の入ったバケツがある。
美術評論には「一人の婦人が汚水の入ったバケツを二人にかけ、やめさせようとしている<後略>」とある。

さて、このふたりの大人だけに注目すると、不思議な感興が沸き起こってくる。
何故、ここには彼等ふたりしかいないのか。
何故、彼等ふたりだけがここにいる事を許されているのだろうか。
ふたつの疑問は、たったのひとつの謎を異なる2方向から眺めている様だが、そんな認識で良いのだろうか。

この絵画が子供達と、彼等の遊戯が中心として描かれていたとしても、仮に、彼等の外縁に大人達の存在、もしくは大人達の視線があるのならば、このふたりがそこに描かれていたとしても然程、疑問視はされないだろう。子供達と大人達 [そして勿論かつての彼等もまた子供達であったのだから] との関係を前者にとっての遊戯を介在させて描いた作品となるのに違いないのだから。

そして、勿論、この絵画にこのふたりが不在であったとしたら、逆にぼく達は悩む必要もない。何故ならばそれは、純粋に子供達の世界、彼等の宇宙がそこにあるだけで、ぼく達はそれを追憶や憧憬や羨望のまなざしで眺めれば良いだけなのだから。

そんな両極端な描写の可能性を考えながら、この絵画にあるふたりを観てみると、このふたりだけが子供達の領域に侵犯しうるのだとか、このふたりだけが例外的に子供達の領域に存在する事が許されているのだとか、はおもう。
だけれどもぼくは、より積極的な意味、すなわち、彼等も子供達の世界、子供達の遊戯にとって必要不可欠の存在ではないか、そうおもえてもくるのだ。

「44 花嫁行列ごっこ Bruidsstoet」に於ける大人の意味は単純に解る。「44 花嫁行列ごっこ Bruidsstoet」の保護であり、「44 花嫁行列ごっこ Bruidsstoet」の介助である。そして、もしかしたらその遊戯を指導している立場にあるのかもしれない。つまり、結婚式 (Wedding) とは、こういうもの、そして、その為にこういう事をしなければならない、と。

「75 取っ組み合い Vechten」に於けおとなの意味も単純に解る、実は。「75 取っ組み合い Vechten」の禁止、もしくは中断である。

それを前提にして、「44 花嫁行列ごっこ Bruidsstoet」の大人と比較すれば、それぞれの遊戯に対する肯定と否定である。大人はある遊戯に対しては肯定し、ある遊戯に対しては否定する。だから、ここからある種の寓話を誕生せしめられるのかもしれない。

また、こうも考える事が出来る。
「44 花嫁行列ごっこ Bruidsstoet」を戯れているのは少女達であり、「75 取っ組み合い Vechten」を戯れているのは少年達だ。そして、そのどちらの遊戯に関与する大人は女性である。だから、成人女性の、少女達の遊戯に対する態度と少年達の遊戯に対する態度、その対比とみてとる事も出来る。

また、そこから視点を少しずらせば、ふたりの大人の年齢の差異に着目する事も出来る。「44 花嫁行列ごっこ Bruidsstoet」に関与する女性は若く、「75 取っ組み合い Vechten」に関与する女性は老いている。その年齢の違いが、遊戯に対する態度の差異と看做す事も出来る筈だ。

だけれども「75 取っ組み合い Vechten」に於けるおとなの意味を禁止や中断から少し離れて眺めてみよう。離れると謂うよりも、それは深くと謂う方が良いのかもしれない。と、謂うのは、彼女が禁止もしくは中断を試みる理由は一体なんだろうか、と謂う事である。
単純に考えれば、五月蝿い、危ない、埃がたつであろう。しかし、それ以上に、事故や怪我、その心配や警戒があるやも知れない。また、それらを回避出来たとしても、ふたりの心象に恨みや妬み、禍根や復讐心が生じないとは限らない。そんな精神面に於ける事故や怪我の回避をも意図した行為と考えられなくもない。
そして、もしそうであるのならば、「75 取っ組み合い Vechten」に於ける大人も、「44 花嫁行列ごっこ Bruidsstoet」に於ける大人と同様、遊戯に於ける [広義に於ける] 保護もしくは介助を目的としている事になる。

つまり、大人が子供の遊戯に関与する目的は、ふたつもしくはひとつ、なのだ。それしかない。
そして、このかずのちがいは、それらの行為に関する理解の差異による。

と、ここまでは良しとする。こんな大雑把なモノで良いのかと謂う気もするが、良しと仮にしてみる。

問題がひとつ、少なくともあるからだ。
ここまで子供と大人と謂うふたつの呼称によって対比せしめてきたのではあるが、厳密に謂えば、この絵画にある大人はふたりとも成人女性であり、成人男性は一切登場していない。
だから、子供対大人と謂う構図で語りきってしまっても良いのだろうか、とはおもう。

そして、仮にそれでなんら問題がないとしても次の事は考えなければならないだろう。

大人と子供の関係性がこの絵画にあるとして、その象徴として「44 花嫁行列ごっこ Bruidsstoet」と「75 取っ組み合い Vechten」とに描かれているとして、ぢゃあ、それを以てそれを描いた画家の意図はなんなのだろうか、と謂う事である。
つまり、現実を描いたのか、理想を描いたのか、それとも、寓意もしくは風刺なのだろうかと謂う事だ。

と、謂うのは、この絵画が描かれた意図を巡って諸説があるからだ。そして、そこにある説のひとつひとつによって、このふたりの大人の評価が異なってみえてくるのだ。
だから、このふたりの大人の評価が決定すれば、諸説に関してあるべき態度がとれるのかもしれない、そんな気さえする。

もしかしたら、その謎を解くのは、絵画『謝肉祭と四旬節の喧嘩 (Kampf zwischen Fasching und Fasten)』[ピーテル・ブリューゲル (Pieter Bruegel de Oude) 1559年作 美術史美術館 (Kunsthistorisches Museum Wien) 所蔵] なのかもしれない。その絵画に描かれているのは大人達の騒動、極端な表現をすれば絵画『子供の遊戯 (Kinderspiele)』の大人版である。
そこにあるありとあらゆる蛮行や乱行の中に、子供達は参加しているのだろうか、もし、参加しているのならば、そんな大人達とどの様な関係を築いているのだろうか。それらをつぶさに検証していけば、絵画『子供の遊戯 (Kinderspiele)』に於けるふたりの大人についても、もう少し理解が深まる様な気がするのだ。

次回は「」。
関連記事

theme : ふと感じること - genre :

i know it and take it | comments : 0 | trackbacks : 0 | pagetop

<<previous entry | <home> | next entry>>

comments for this entry

only can see the webmaster :

tackbacks for this entry

trackback url

https://tai4oyo.blog.fc2.com/tb.php/3661-897fec92

for fc2 blog users

trackback url for fc2 blog users is here