2022.09.18.08.20
『ハーストーリー (HERSTORY)』 by プリンセス・タイニーミート (PRINCESS TINYMEAT)

第一印象がすべて、である。
そして、それにひきずられたまま、本作がある。


ことの起こりは、彼等のデヴュー・シングル『スロブランズ (Sloblands)』 [1984年発表] にある。そのジャケット・デザインだ。
薄闇のなかにひとりの人物が、奇妙な格好でたっている。表情は曖昧な闇の中にある。しかも四肢と頭部、それを除く自身の身体がおおきなクッションで覆い隠されている。しかしその直下、覆い隠せない、覆い隠そうともされない、その一物 (Penis) が居心地の悪そうに存在を主張している [上掲左]。
そのジャケット・デザインの趣旨は、裏面の方があからさまである [同右]。
おなじ扮装をしたその人物の相貌も、一物 (Penis) もよりおおきく、そしてはっきりと顕れている。
胸部を隠す事で両性具有 (Androgynous) を表出したいのではあろう。もしかすると既に、実際に身体改造 (Body Modifications) も施されているのかもしれない。
でも、それ以上に、一物 (Penis) が奇妙な主張をしている。
何故だかぼくは嗤ってしまうのだ。
それが荒々しいわけでも、雄々しいわけでもない。むしろその逆。そこにいるのがすまなさそうにも、気恥ずかしそうにもみえるのだ。なさけない、そう謂ってもいいのだろう。
例えば、その筋のヴィジュアルをネット検索すればいくらでもでてくる同趣向の画像と、そのデザインは似ても似つかないモノなのである。
つまりポルノグラフィ (Pornography) ですら、ないのだ。
と、そこにある身体表現ばかりについて指摘してしまったが、考えるべきはそこだけではない。
本作がラフ・トレード (Rough Trade Recordings) [1978年創設] からの発売である事と、そこに写る人物、ビンティー (Binttii) が、かつてヴァージン・プルーンズ (Virgin Prunes) に在籍していたところこそ、議論すべきなのである。


ビンティー (Binttii) 在籍時の音源は、ヴァージン・プルーンズ (Virgin Prunes) の最初のふたつのシングル、第1作『トウェンティー・テンズ [オールナイト・スモーキング] (Twenty Tens {I've Been Smoking All Night])』 [1981年発表 日本盤も当時発売されていた] と第2作『モーメンツ・アンド・マイン [デスパイト・ストレイト・ラインズ] (Moments And Mine [Despite Straight Lines])」 [1981年発表] にしかない様だ。だから、そのバンドに於けるビンティー (Binttii) の音楽的貢献は、ごく僅かなモノなのかもしれない。つまり、プリンセス・タイニーミート (Princess Tinymeat) をヴァージン・プルーンズ (Virgin Prunes) 云々で語る意義と謂うモノはあまりおおきくはないのだろう。
本作が発表された1987年のラフ・トレード (Rough Trade Recordings) はザ・スミス (The Smiths) が在籍するレーベルとして認知されていた。極端な語句を起用すれば、それがためにのみ機能していた、とも謂える。
だが、そのレーベルが開始された当初はそれとは、まったく異なる機能と印象をもっていた様におもう。
そこに所属していたヴァージン・プルーンズ (Virgin Prunes) と謂うバンドは、その象徴の様な存在でもあった。
一言もってして謂えば、そこはオルタナティヴ・ミュージック (Alternative Music) [と謂っても、現在のそれではない] の巣窟であり、その代表的なバンドのひとつなのである。
だから、いわく因縁めいた言説を弄しようと思えば、プリンセス・タイニーミート (Princess Tinymeat) と謂うバンドに関しては幾らでも可能な代物なのである [その必要性が矮小でしかない事は上述の通りである]。
つまり、ラフ・トレード (Rough Trade Recordings) は回帰した、と [ぢゃあ、実際にはどうだったか。少なくともその年、ザ・スミス (The Smiths) は解散してしまうのだ]。


そんなレーベルからデヴュー・シングルを発表した彼等は、それに続くシングルを2作品、第2作『ア・バン・イン・ジ・オーブン (A Bun In The Oven)』 [1985年発表] と第3作『エンジェルズ・イン・ペイン (Angels In Pain)』 [1987年発表] をそこから発表している。
デヴュー作程、あからさまな性表現や性認識を露骨には主張してはいないが、そのイメージ戦略はソフィスケイドされて、そのまま継続される。
それを集約したのが本作である。3枚のシングル収録楽曲総てに加え、ふたつの未発表曲がある。
そして、このバンドの全楽曲がここにある。何故ならば、その後、彼等は忽然として存在を停止してしまうからだ。
数十年ぶりに、本作を聴いてみると、なんだか懐かしい様な気がしてくる。80年代当時、必死になって聴いていた幾つもの音楽が渾然となってそこにある様な気もしてくる。だけれども、そのどれもが、彼等自らが産み出したモノとは謂い難い。なにやらのエピゴーネン (Epigonen) である様な気ばかりしてくる。斬新なモノでは決してない。それらを忠実に自家薬籠中 (Completely Mastered) のモノとした、そう謂うべきか。それとも、遅れてやってきたオルタティヴ・ミュージック (Alternative Music) とでも謂うべきか。
と、考え出してみれば当時、性表現や性衝動をコンセプトに置いたバンドやアーティストと比較しても、彼等のデヴュー・シングルのヴィジュアルは隠微なモノだった様な気がしないでもない。第一に、あれは淫靡ですらない。滑稽なだけだ。
[拙稿を綴るにあたり、彼等のTV番組出演時での演奏に遭遇した。自身の楽曲『ア・バン・イン・ジ・オーブン (A Bun In The Oven)』がそこで演奏される。動くプリンセス・タイニーミート (Princess Tinymeat)、動くビンティー (Binttii) と謂うモノをそこで初めて観た。画面はどんどんと曖昧となっていき、ビンティー (Binttii) の姿や挙動をそこに認める事は出来なくなってしまう。実際にそこで彼、もしくは彼等はなにをしていたのだろうか。]
本作のジャケットでは、ビンティー (Binttii) の右半文の顔がおおきく写しだされていてその口許には花弁がある。なんとなくおもい出すのはポール・マッカートニー・アンド・ウィングス (Paul McCartney And Wings) のアルバム『レッド・ローズ・スピードウェイ (Red Rose Speedway)』 [1973年発表] だけれども、よく観てみると、その花弁を喰っているらしい。
蓮を食むモノ (Lotus-eaters) と謂えば、それを自身のバンド名に誂えたモノが居ないではないが、夢見心地の人物、乃至は、放蕩三昧の人物と謂う意味だ。
では、本作ではなにを象徴しようとしているのだろうか。
花は植物にとっての性器であり、それはそのまま人体のそれへと暗喩されるが、そこにあるのはそれだけのモノなのだろうか。
ものづくし (click in the world!) 239. :"『ハーストーリー (HERSTORY)』 by プリンセス・タイニーミート (PRINCESS TINYMEAT)

『ハーストーリー (HERSTORY)』 by プリンセス・タイニーミート (PRINCESS TINYMEAT)
「頽廃そして混沌 ... 世紀末は近い。
元バージン・プルーンズのドラマー、ビンティーのプロジェクト、プリンセス・タイニーミートが放つシングル・コンピレーション。世紀末には狂ったプリンセスこそがふさわしい。」
SIDE・1
1. LUCKY BAG 1:14 (Binttii / Rice)
ラッキー・バグ
2. ANGELS IN PAIN 3:59 (Binttii / Rice)
エンジェルズ・イン・ペイン
3. SLOBLANDS 5:44 (Binttii / Rice
スロブランズ
4. A BUN IN THE OVEN 2:06 (Binttii / Box / Rice)
ア・バン・イン・ジ・オーブン
5. JAY GONE BIMBO (Binttii / Rice)
ジェイ・ゴーン・ビンボウ
SIDE・2
1. PUT IT THERE 5:14 (Binttii / Box / Rice)
プット・イン・ゼア
2. THE FAIREST OF THEM ALL 2:29 (Binttii / Rice)
ザ・フェアリスト・オブ・ゼム・オール
3. WIGS ON THE GREEN 4:08 (Binttii / Rice)
ウィッグス・オン・ザ・グリーン
4. DEVILCOCK 5:14 (Binttii / Rice)
デビルコック
All tracks produced by Binttii, except "Lucky Bug" and "Jay Gone Bimbo" produced by Binttii and Tom Rice. Sleeve concept : Binttii. Pictures by Dave Keegan. Layout lettering : Blaise Smith. Make up by The Ash. Hair by Zymos. Models Nell Supreme and Blaise.
Lucky Bag → Binttii on tapes, voice. Tom Rice on guitar, tapes. Rec : Feb. '86 in Dublin.
Angels In Pain → Binttii: vocals, keyboards, harp. Tom Rice : lead guitar. Ian S. Box : bass with Pete Brown : Guitar. Recorded at The Power Plant, London, June '86. Engineered by Pete Brown. Executive Producer : Robin Millar.
Slowblands → Binttii : vocals. Tom Rice : Guitar. Ian S. Box : Bass with C. Zappa : Drums. The Outrageous Antoinette on percussion. backing tape conceived by Binttii and stuck together by Tom Rice, Recorded at Windmill Lane Studios in Dublin, 1984. engineered by Paul Thomas.
A Bun In The Oven →Binttii : vocals, tapes. Tom Rice introduces the song and plays the guitar. Ian S. Box : bass with C. Zappa : Drums. Recorded at Sts Dublin, Aug. ''85. engineered by Sean Devitt and Gary Murphy.
Jay Gone Bimbo → Binttii : tapes. Tom Rice : voice. Rec : Feb. '86, Dublin.
Put It There → Binttii : vocals. keyboards., 12- string guitar. Tom Rice : Lead Guitar. Ian S. Box : Bass with Pete Brown : Guitar. Rec. at The Power Plant, London, June '86. engineered by Pete Brown. executive producer : Robin Millar.
The Fairest Of Them All→ Binttii : vocal, tapes, drums. Tom Rice : guitar with C. Zappa : Drums. Sean Dall : Percussion. Recorded at Windmill Lane Studios, Dublin in 1984. Engineered by Paul Thomas.
Wigs On The Green → Binttii : vocals, tapes, drums. Tom Rice : guitar, tapes. Ian S. Box : bass with C. Zappa : drums. Recrded at Sts, Dublin, Aug ''85. engineered by Sean Devitt and Gary Murphy.
Devilcock → Binttii : vocals, keyboards, violin.Tom Rice : guitars. Ian S. Box : bass. recorded at the The Power Plant, London, June '86. engineered by Pete Brown. executive producer : Robin Millar.
original liner notes by D.G.Domdaniel '87
(P) 1987 ROUGH TRADE RECORDS, UK.
ぼくが所有している国内盤には、宮部友彦 (Tomohiko Miyabe) の解説が掲載されている。
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