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2022.08.23.08.06

えほんのありす

ウォルト・ディズニー・カンパニー (The Walt Disney Company) 制作のアニメ映画『ふしぎの国のアリス (Alice In Wonderland)』 [クライド・ジェロニミ (Clyde Geronimi)、ハミルトン・S・ラスケ (Hamilton S. Luske)、ウィルフレッド・ジャクソン (Wilfred Jackson) 1951年制作] の映像を基とした絵本『講談社ディズニー絵本 ふしぎの国のアリス (Walt Disney's Alice In Wonderland Of Disney In The Picture Books Series By Kodansha)』 [川崎大治 (Daiji Kawasaki) 文 1961年刊行] は、ものごころがついたときには、もう読んでいた / みていた。親が買い求めたのか、親戚の誰かがプレゼントしてくれたのか、はたまた、保育園 (Day nursery) で読んだのか、その辺りの事情は定かではない [つまり、おんなのこが主人公である点をもってぼく自身が欲しい / 読みたい / みたいという筈はないのだ]。ただ、その絵本と同じシリーズ『講談社ディズニー絵本 (Disney In The Picture Books Series By Kodansha)』の幾つかの絵本は同時期に体験していたのは確かである。そして、それらの1頁が、同シリーズの一覧となっていて、あれが欲しい、これが読みたい、どれもみたいといつも思っていた。それは何度も何度も同じ絵本を開き、その物語を体験するよりも遥かに愉しい行為ではあった。そうやって、ぼくはウォルト・ディズニー・カンパニー (The Walt Disney Company) と謂う世界を知ったのである [勿論、当時はTV番組『ディズニーランド (Disney Anthology Television Series)』 [19541958ウォルト・ディズニー・カンパニー (<The Walt Disney Company) 制作 1958〜1972日本テレビ系列放映] も放映されていてはいたのだけれども]。
ちなみにぼくが絵本ではない映画『ふしぎの国のアリス (Alice In Wonderland)』を観たのはずっと後、1979年のTV放映の際である。

しかしながら、拙稿の主題は、その絵本もしくはその映画ではない。
第一に、そこに登場するアリス (Alice) は水色のワンピース (Dressed In Sky Blue) を身につけているのだけれども、拙稿の主題には、黄色のワンピース (Dressed In Yellow) をまとったアリス (Alice) が登場するのだ。

アリス・リデル (Alice Liddell) と謂う少女をモデルとしたアリス (Alice) が活躍する [活躍する? 翻弄されるの間違いぢゃない!?]、 ルイス・キャロルことチャールズ・ラトウィッジ・ドジスン (Charles Lutwidge Dodgson aka Lewis Carroll) の文学作品は、みっつある。
ひとつは小説『不思議の国のアリス (Alice's Adventures In Wonderland)』 [1865年刊行]、これは誰でも知っている。ふたつめは小説『鏡の国のアリス (Through the Looking-Glass, And What Alice Found There)』 [1871年刊行]、ひとつめを体験したら、恐らく嫌でも知る事になる。そしてみっつめ、これが絵本『えほんのアリス (The Nursery "Alice")』 [1890年刊行 おおくぼゆう (Yu Okubo) 訳 2011青空文庫所蔵] であって、ひとつめを作者自らが絵本化したモノである。

ひとつめがみっつめになった、もしくは、ひとつめからみっつめをかいたのにはわけがある。
それを作者自身がみっつめの「まえがき [お母さまがたへ] (Preface [Addressed To Any Mother.])」で説明している。
それによれば、作者自身が、ひとつめの読者を5歳以上の子供達と想定していたからである。
だから今度は、0歳から5歳の子供達を読者と想定して書いたのがみっつめなのである。
それだから、作者は絵本ならではの使用法、もしくは絵本が幼児の為の書物である事から迎える絵本ならではの宿命をも想定して、その作品を執筆している。すなわち、「読む? いや、違う! むしろ、めくって、きゃっきゃ喜んで、端を折り曲げて、しわくちゃにして、キスしてほしいのです。 (To Be Read? Nay, Not So! Say Rather To Be Thumbed, To Be Cooed Over, To Be Dogs’-eared, To Be Rumpled, To Be Kissed)」と。
この辺りを考慮すれば、ウォルト・ディズニー・カンパニー (The Walt Disney Company) の映画『ふしぎの国のアリス (Alice In Wonderland)』本編とその翻案である絵本『講談社ディズニー絵本 ふしぎの国のアリス (Walt Disney's Alice In WonderlandOf Disney In The Picture Books Series By Kodansha)』の関係とも相同していると看做し得るのであろうか [だって、スクリーンの彼女にくちづけは出来ないからね]。

猶。
ふたつの物語に5歳と謂う節目の存在はあるが、子供とある以上、どこかに年齢の上限が規定されて然るべきだが、その上限はどこなのかと謂うと、決して定かとはなっていない。
良い言葉で謂えば、その読者が純粋な子供ごころを喪わない限り、悪い言葉で謂うと、いつまでたっても大人になりきれない限り、その人物は [ルイス・キャロルことチャールズ・ラトウィッジ・ドジスン (Charles Lutwidge Dodgson aka Lewis Carroll) にとっては] 子供なのであり、[自身の] その著作物の読者なのである。

ところが、作者自身が0歳から5歳までの子供、と自身の作品の読者を規定しておきながらも、その絵本は、必ずしも、その年齢の子供達だけのモノではない。
何故ならば、ひとつめとふたつめ、ふたつの作品を彩った、画家ジョン・テニエル (John Tenniel) による挿絵がそのみっつめに、着色されて掲載されているからだ。
だから、子供ごころを喪ってしまった、すなわち、とっくの昔に大人になってしまった人物にとっても、ジョン・テニエル (John Tenniel) の挿絵 [その表現力や技術力] に関心をもっていれば、充分にその物語の読者たり得ているのである。

そんな読者にとっては注目すべき箇所は例えば、ここだろう。
「でも しばらくしたら おちゃも バタートーストも ごじゆうに どうぞ ってことに なって。 ただ いったい どのせきで たべたんだろうね、 そもそも おさらじたいが ないし (However, After A Bit, She Helped Herself To Some Tea And Bread-and-butter : Only I Don’t Quite See Where She Got The Bread-and-butter : And She Had No Plate For It. ) 」[「10 おかしな おちゃかい。 (X. The Mad Tea-Party.)」より]
何故ならば、ジョン・テニエル (John Tenniel) が描くその叙景の挿絵には、「バタートースト (Bread-and-butter)」が描かれていないからだ。
つまり、0歳から5歳までの子供達の為に、と自身が綴っておきながら、同時に自身のひとつめの為に描かれた挿絵の評論としての機能をも孕んでいるのである。
[殆どの文学作品がそうである様に、文章が綴られた後に初めて挿絵が描かれる。作者からみれば、挿絵画家と謂うモノは彼に対し、永遠に後出しじゃんけん (Cheats At Rock-paper-scissors) を挑む事が許されている人物でもある。みっつめではその逆、挿絵画家に対して作家が後出しじゃんけん (Cheats At Rock-paper-scissors) を挑んでいる、そんな格好なのである。]

ところで、ぼくは、この作品は絵本『子供部屋のアリス (The Nursery "Alice")』 [高橋康也 (Yasunari Takahashi)、高橋迪 (Michi Takahashi) 訳 1987年刊行] として入手した。ここまでの論旨展開をみれば自ずと明らかな様に、ぼくがその絵本を購入した理由は、ジョン・テニエル (John Tenniel) の挿絵が欲しかったからである。
上にある「バタートースト (Bread-and-butter)」云々の指摘も、その絵本の翻訳家にる後書き「『ふしぎの国のアリス』のいもうとアリス (Alice, A Younger Sister Of Alice In Wonderland) 」での指摘に拠ったモノである。

その理由を綴れば長くなるが、かいつまんで説明すると、次の様なモノだ。
アリス (Alice) の物語は、冒頭に掲げたウォルト・ディズニー・カンパニー (The Walt Disney Company) による翻案等を通じて、何度となく体験してきた。だから、物語の骨子はうんざりする程、馴染んでいる。物語の構成が所謂夢オチ ("It Was All A Dream" -Ending) で、ある意味で陳腐でもある。と、同時にその物語を異なる視点で語る言説を幾つも読んできた。その結果、視点を変えれば、うんざりもする程陳腐なその物語が、これまでとは全く異なる輝きを放つ事になる。そして、そこにぼくは魅了される。
その結果、どう謂う事になるかと謂うと、実は肝腎要の原典がすっぽりと抜け落ちてしまうのだ。
本来ならば、その事実に気づいて仕舞えばその時点で、原文に当たれば良い。しかし、一見、童話と謂う体裁を持っているその物語が、実は凄まじく難解な書物である事も既に充分に知らされてしまってもいるのだ。
ぢゃあ、どうすればいい。

images
そんな問題のぼくなりの解決方法、そのひとつが、その作品のオリジナルに添えられた挿絵を入手すると謂う方法だった。すなわち絵本『子供部屋のアリス (The Nursery "Alice")』の購入なのである [上掲画像は絵本『えほんのアリス (The Nursery "Alice")』原書の初版表紙。E・ガートルード・トムソン (E. Gertrude Thomson) 画 こちらから] 。

次回は「」。

附記 1. :
初版表紙は何故、E・ガートルード・トムソン (E. Gertrude Thomson) の装画なのだろうか。その絵本の売りのひとつがジョン・テニエル (John Tenniel) による挿絵であるのならば、彼の描いた作品であっても良い筈だ。しかしながら、それらから選ばれなかった。それは何故か。考えられるのは、ジョン・テニエル (John Tenniel) が描いた挿絵のどれもが表紙画には相応しくないと謂う判断が何処かで誰かが行ったと謂う可能性、と同時に、E・ガートルード・トムソン (E. Gertrude Thomson) による実際の表紙画は夢みるアリス (Alice Dreaming Her Dream) であり、ジョン・テニエル (John Tenniel) はこの情景を描いてはいなかったと謂う事実、このふたつが絡み合って、上掲画像の表紙が成立したと考える事が出来よう。つまり、ジョン・テニエル (John Tenniel) が夢みるアリス (Alice Dreaming Her Dream) を既に描いていれば、なんの問題もなかった事なのかもしれない [でもこれでは表紙の時点でネタバレ (Spoiler) となってしまっているのだが]。

附記 2. :
絵本『子供部屋のアリス (The Nursery "Alice")』の表紙は「きちがいティー・パーティー (X. The Mad Tea-Party.)」を描いたジョン・テニエル (John Tenniel) の挿絵を中央に配置し、その下には同じくジョン・テニエル (John Tenniel) 描く、「チェシャ・ネコ (IX. The Cheshire-Cat.)」に登場するその猫の2態 [樹上のチェシャ猫 (A Cheshire Cat With Grins On A Tree) と樹上のにやにや笑い (Grins Without Cheshire Cat On A Tree)] が配置されている。
次いでに綴っておけば、冒頭に登場した絵本『講談社ディズニー絵本 ふしぎの国のアリス (Walt Disney's Alice In Wonderland Of Disney In The Picture Books Series By Kodansha)』の表紙も、「風変わりなお茶会 (Mad Tea Party)」の叙景からである。

附記 3. :
猶、僕が入手した絵本『子供部屋のアリス (The Nursery "Alice")』は、その10年前の1977年に刊行された絵本『子供部屋のアリス (The Nursery "Alice")』の改訂版である。
そして、その更なる新版 [2003年刊行] が現在、流通している様だ。

附記 4. :
ところで、ひとつめの絵本版が、絵本『えほんのアリス (The Nursery "Alice")』ならば、ふたつめの絵本版、すなわちよっつめは、一体、どこにあるのであろうか。
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