2022.07.17.08.46
『ルグラン・ジャズ・アルファ・プラス (Legrand Jazz Alpha Plus)』 by ミシェル・ルグラン (Michel Legrand)

ジャズ (Jazz) という音楽を聴き始めた頃、へぇ、こんなのがあるんだと吃驚した。
当時のぼくでさえも聴いた事がある、そんな人物達の名前がそこに連なっている。
すこしづつ、その音楽に親みだし、彼等名義の作品等に触れるにつけ、この作品が眼に飛び込んでくる。
その度に、当時感じた吃驚と謂う感覚が揺らいでくる。そして思う。大丈夫なんだろうか、と。
なんだか、そこに溜まっているのはみずとあぶら (As Incompatible As Oil And Water) の様な気がしないでもないからだ。
そんな一抹の不安をのりこえて、本作に掌を出したのは、結局のところ、編曲者兼指揮者への興味だった。
ミシェル・ルグラン (Michel Legrand)、映画音楽家としての彼の方である。
彼が手掛けた音楽は、幾つかの映像と共に体験はしている。でも、単独の音楽作品としてはどれが良いのだろう、どれからが良いのだろう。そんな思案の結果なのである。
[と、綴ると熟考の末に、と謂う印象を与えてしまうが、その実際は幾つかの店舗を巡り歩いて、幾つかのCD棚を除いた結果でしかない。勿論、そこには財布の中身と謂う重大な要素もある。]
吃驚した理由は、冒頭に綴った様に、マイルス・デイヴィス (Miles Davis)、ジョン・コルトレーン (John Coltrane)、ビル・エヴァンス (Bill Evans) と謂う名前がそこにあったからだ。
危惧を抱いたのも、やはりおなじ理由だ。
彼等の音楽性と編曲者兼指揮者の音楽性は、全然違うのではないか、そんな理由だ。
例えば、彼等の音楽活動の端緒、経歴の冒頭にある作品ならば、それはそれで別の心配が働く。そんな駆け出し時代の作品を聴いても、そこに彼等自身や彼等独自の音楽性をみいだせるのだろうか、と。
でも、そうではないらしい。
少なくとも、マイルス・デイヴィス (Miles Davis) に関しては、もう一家を成した時代の作品なのである。
マイルス・デイヴィス (Miles Davis) は、ギル・エヴァンス (Gil Evans) 編曲並びに指揮による諸作を収録始めた時季であり、彼の発案であるモード奏法 (Mode) を導入し始めた頃である。
ジョン・コルトレーン (John Coltrane) は、マイルス・デイヴィス (Miles Davis) 傘下から独立してセロニアス・モンク (Thelonious Monk) との帯同を経て、モード奏法 (Mode) を自身なりに咀嚼し始めている。それは後にシーツ・オヴ・サウンド (Sheets Of Sound) [アイラ・ギトラー (Ira Gitler) 命名 1958年] と命名される。
ビル・エヴァンス (Bill Evans) は、ポール・モチアン (Paul Motian)、スコット・ラファロ (Scott LaFaro) と、もうまもなく自身のトリオを結成する時季である。
マイルス・デイヴィス (Miles Davis) とギル・エヴァンス (Gil Evans) のイニシアィヴにより、ジョン・コルトレーン (John Coltrane) とビル・エヴァンス (Bill Evans) 参加の、マイルス・デイヴィス (Miles Davis) 名義のアルバム『カインド・オブ・ブルー (Kind Of Blue)』 [1959年発表] が制作されるのは、もうまもなくである。そして、この4人がいなければ、モード奏法 (Mode) と謂う手法は、少なくともジャズ (Jazz) に於いては、あり得なかったのかもしれない。
本作が制作された舞台裏はこの様なモノだった。
そして、モード奏法 (Mode) とは離れた場所に本作はある。
だから、どうしてもぼくは、ひとつの楽曲がふたつの作品に収録された際のふたつの編曲、すなわち楽曲『ラウンド・ミッドナイト (Round Midnight)』と楽曲『ラウンド・アバウト・ミッドナイト (Round About Midnight)』について、考えてしまう。つまり、本作でのその楽曲とアルバム『ラウンド・アバウト・ミッドナイト ('Round About Midnight)』 [1957年発表] に収録された楽曲である 。
猶、誰が聴いても解るこの2ヴァージョンの差異、ギル・エヴァンス (Gil Evans) 編曲によって発生した「"アレ" ("That")」 [(C) 中山康樹 (Yasuki Nakayama)] の有無に関しては既にこちらに綴ってある。
だから、すこし違う事を綴ってみよう。
一聴すれば解るが、受ける印象は全然違う。一方が華やかなのに対し、一方は沈鬱である。
だけれども、その異なる世界観の中で、マイルス・デイヴィス (Miles Davis) の何が変わったのかと謂うと、実はなにも変わっていないのではないか。つまり、彼自身の世界観を支える背景が違うだけなのではないだろうか。
例えば、彼が描こうとする世界を単純に"孤独"と命名してみよう。
その"孤独"はどこに派生するのか、どこにあればそれが印象づけられるのだろうか、その差異があるのだ。
前者を不夜城の様な繁華街を流離う光景と看做してしまえば、後者は無灯の一室なのである。
周囲が華やかであればある程、"孤独"は弥増しに強烈に感ずる場合もあれば、ただ只管に漆黒の闇に塗り込めるからこそ感ずる"孤独" もある。
その差異なのではないだろうか。
そして、そんな事ばかり考えさせてしまうのが、本作の弱さなのである。
単純に、編曲者兼指揮者の世界に堪能してしまえば、聴き心地は申し分ない。
だけれどもそれを阻害するのが、その世界を演出するのに起用された演奏者の顔ぶれと経歴なのだ。
[ジャズ (Jazz) でなければそこまで拘泥しないのかもしれない、だけれども、どうしてもその聴き方に引きずられてしまう。]
しかも、達の悪い事に、演奏収録された楽曲は、既存の名曲群なのである。これをミシェル・ルグラン (Michel Legrand) が如何に料理するのか、と謂う聴き方を要請しているのであろうが、逆に彼自身の音楽性の主張を弱めさせもする。
1曲でも良いから、彼自身の作編曲作を、この面子で聴ければなぁと、おもってもしまうのだ。


猶、本作のオリジナルジャッケットは上掲左のモノで、ぼくの手許にある本作のそれは、誰にこの作品を届けたいのか、と謂うのが如実に明らかになっている。まるで、ここに写る2人の音楽家の共同作業でもあるかの様な印象だ [しかし実際はマイルス・デイヴィス (Miles Davis) 参加曲は4曲である]。
CD化に際し、追加収録されたのは、後に制作されたミシェル・ルグラン・ビッグ・バンド (Michel Legrand Big Band) 名義のアルバム『ビッグ・バンド・プレイズ・リチャード・ロジャース (BIg Band Plays Richard Rodgers)』 [1963年発表:上掲右] に収録された3曲であり、この作品は、ニューヨーク (New York City) で収録されたリチャード・ロジャース (Richard Rodgers)・アンド・ロレンツ・ハート (Lorenz Hart ) 作品集で、ミシェル・ルグラン (Michel Legrand) は編曲のみを手掛け [ビリー・バイヤーズ (Billy Byers) 指揮]、マイルス・デイヴィス (Miles Davis) はそこにはいない。
敢えて指摘すれば、3曲の追加で、マイルス・デイヴィス (Miles Davis) は愚かミシェル・ルグラン (Michel Legrand) でさえも存在感が希釈されているのである。
ものづくし (click in the world!) 237. :『ルグラン・ジャズ・アルファ・プラス (Legrand Jazz Alpha Plus)』 by ミシェル・ルグラン (Michel Legrand)

『ルグラン・ジャズ・アルファ・プラス (Legrand Jazz Alpha Plus)』 by ミシェル・ルグラン (Michel Legrand)
「鬼才ルグランがスター・プレイヤーを擁したオーケストラを指揮した史上不滅の傑作。
マイルス・デイビス (tp)、ビル・エヴァンス (p)、ジョン・コルトレーン (ts)、ハンク・ジョーンズ (p)、フィル・ウッズ (as)、ミシェル・ルグラン(編曲)他
チュニジアの夜/ラウンド・ミッドナイト/レディ・イズ・ア・トランプ他」
「フランス音楽界の生んだ天才児ミシェル・ルグランが渡米。マイルス、コルトレーン、ビル・エヴァンスら、ジャズの一流プレイヤーを擁したオーケストラを指揮した異色盤。ルグランが鬼才ぶりを発揮したアレンジと超一流のソロ・プレイが聴きものの豪華アルバム。
DIGITAL MASTERING 解説:瀬川昌久」
01 ザ・ジッターバグ・ワルツ 5'15"
THE JITTERBUG WALTZ (Thomas Waller)
02 雲 2'22"
NUAGES (Django Reinhardt)
03 チュニジアの夜 5'49"
NIGHT IN TUNISIA (John Gillespie / Frank Paperelli)
04 ブルー・アンド・センチメンタル 3'21"
BLUE AND SENTIMENTAL (Mack David / Jerry Livingston / William Count Basie)
05 サヴォイでストンプ 3'44"
STOMPIN' AT THE SAVOY (Benny Goodman / Chick Webb / Edgar M. Sampson)
06 ジャンゴ 4'12"
DJANGO (John Lewis)
07 ワイルド・マン・ブルース 3'21"
WILD MAN BLUES (Louis Armstrong / Jelly Roll Morton)
08 ロゼッタ 7' 15"
ROSETTA (William Henry Woods / Earl Hines)
09 ラウンド・ミッドナイト 2'57"
'Round Midnight (Cootie Williams / Thelonius Monk)
10 ドント・ゲット・アラウンド・マッチ・エニモア 2'32"
DON'T GET AROUND MUCH ANYMORE (Sidney Keith Russell / Duke Ellington)
11 イン・ア・ミスト 3'17"
IN A MIST (Bix Beiderbecke)
12 ミス・ジョーンズに会ったかい 2'25"
HAVE YOU MET MKISS JONES? (R. Rodgers & L. Hart)
13 これは恋ではない 2'41"
THIS CAN'T BE LOVEE (R. Rodgers & L. Hart
14 気まぐれレディー 5'09"
THE LADY IS A TRAMP (R. Rodgers & L. Hart)
Total time : 55'12"
This Compilation (P) 1987
Recorded June 25, 1958 (New York City) :
7
9
1
6
Personnel :
MICHEL LEGRAND conductor - arranger
HERBIE MANN flute
BETTY GLAMANN harp
BARRY GALBRAITH guitar
MILES DAVIS trumpet
JOHN COLTRANE tenor sax
PHIL WOODS alto sax
JEROME RICHARDSON baritone sax, bass clarinet
EDDIE COSTA vibes
BILL EVANS piano
PAUL CHAMBERS bass
KENNY DENNIS drums
7, 9, 1, 6 :
1958年6月25日 ニューヨーク
ミシェル・ルグラン (con, arr)
ハービー・マン (fl)
ベティ・グラマン (harp)
バリー・ガルブレイス (g)
マイルス・デイヴィス (tp)
ジョン・コルトレーン (ts)
フィル・ウッズ (as)
ジェローム・リチャードソン (bs, bc)
エディ・コスタ (vib)
ビル・エヴァンス (p)
ポール・チェンバース (b)
ケニー・デニス (ds)
Recorded June 27, 1958 (New York City) :
2
8
10
4
Personnel :
MICHEL LEGRAND conductor - arranger
BEN WEBSTER tenor sax
HERBIE MANN flute
FRANK REHAK trombone
BILLY BYERS trombone
JIMMY CLEVELAND trombone
EDDIE BERT trombone
MAJOR HOLLEY bass, tuba
DON LAMOND drums
HANK JONES piano
GEORGE DUVIVIER bass
2, 8, 10, 4 :
1958年6月27日 ニューヨーク
ミシェル・ルグラン (con, arr)
ベン・ウェブスター (ts)
ハービー・マン (fl)
フランク・リハーク (tb)
ビリー・バイヤーズ (tb)
ジミー・クリーヴランド (tb)
エディ・バード (tb)
メイジャー・ホリー (b, tuba)
ドン・ラモンド (ds)
ハンク・ジョーンズ (p)
ジョージ・デュヴィヴィエ (b)
Recorded June 30, 1958 (New York City) :
5
3
11
Personnel :
MICHEL LEGRAND conductor - arrneger
ERNIE ROYAL trumpet
ART FARMER trumpet
DONALD BYRD trumpet
JOE WILDER trumpet
FRANK REHAK trombone
JIMMY CLEVELAND trombone
GENE QUILL alto sax
PHIL WOODS alto sax
SELDON POWELL tenor sax
TEO MACERO baritone sax
JAMES BUFFINGTON french horn
DON ELLIOTT vibes
MILT HINTON bass
OSIE JOHNSON drums
NAT PIERCE piano
5, 3, 11 :
1958年6月30日 ニューヨーク
ミシェル・ルグラン (ccon, arr)
アーニー・ロイヤル (tp)
アート・ファーマー (tp)
ドナルド・バード (tp)
ジョー・ワイルダー (tp)
フランク・リハーク (tb)
ジミー・クリーヴランド (tb)
ジーン・クイル (as)
フィル・ウッズ (as)
セルダン・パウエル (ts)
テオ・マセロ (bs)
ジェームズ・バフィントン (frh)
ドン・エリオット (vib)
ミルト・ヒントン (b)
オシー・ジョンソン (ds)
ナット・ピアース (p)
Recorded December 6, 1962 (New York City) :
12
13
14
Personnel :
MICHEL LEGRAND arranger
BILLY BYERS conductor
CLARK TERRY trumpet
SNOOKY YOUNG trumpet
ERNIE ROYAL trumpet
AL DERISI trumpet
BOB BROOKMEYER trombone
WAYNE ANDRE trombone
BILL ELTON trombone
URBIE GREEN trombone
TOM MITCHELL trombone
JULIUS WATKINS French horn
JERRY DODGION alto sax
PHIL WOODS alto sax, flute, clarinet
PAUL GONSALVES tenor sax
two others tenor sax
TOMMY FLANAGAN piano
MILT HINTON bass
SOL GUBIN drums
12, 13, 14 :
1962年12月6日 ニューヨーク
ミシェル・ルグラン (arr)
ビリー・バイヤーズ (con)
クラーク・テリー (tp)
スヌーキー・ヤング (tp)
アニー・ロイヤル (tp)
アル・デリジー (tp)
ボブ・ブルックマイヤー (tb)
ウェイン・アンドレ (tb)
ビル・エルトン (tb)
アービー・グリーン (tb)
トム・ミッチェル (tb)
ジュリアス・ワトキンス (frh)
ジェリー・ドジオン (as)
フィル・ウッズ (as, fl, cl)
ポール・ゴンザルヴェス (ts)
他に2人のプレイヤー (ts)
トミー・フラナガン (p)
ミルト・ヒントン (b)
ソル・グビン (ds)
(注)ソロイスト
12 CLARK TERRY (tp)
13 CLARK TERRY (tp) BOB BROOKMEYER (tb)
14 PAUL GONSALVES (ts) CLARK TERRY (tp)
liner notes by Max Harrison (C) 1986
ぼくが所有している国内盤には瀬川昌久 (Masahisa Segawa) [1987 - 1 - 15 記] の解説が掲載されている。
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