2009.05.10.01.40
『天国への扉 もしくは ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア (Knockin' On Heaven's Door)』 前編
「幾度も幾度も天国への扉を叩く (Knock, Knock,Knockin' On Heaven's Door)」というリフレインが響くこの曲は、映画『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯
つまり、銃に撃たれ、意識が朦朧とし白濁してゆく中で、己の眼に映るモノを唄った曲である。
歌の主人公は、恐らく死ぬであろう、否、間違いなく死ぬであろう。
映像作品の劇中に登場するモノ達の心理描写としては、ごく普通の描写である。と、いうよりも常套句 (Cliche) でありクリシェ (Cliche) であり、吹飯ものの表現であるとも言える。
それを、この映画全編の音楽を担当したボブ・ディラン (Bob Dylan) が、サウンド・トラック盤『ビリー・ザ・キッド (Pat Garrett And Billy The Kid)
そしてまもなく、映画を離れて、ボブ・ディラン (Bob Dylan) の代表曲のひとつになってゆく。
上に掲載したのは、左上から、ザ・バンド (The Band) を伴った『偉大なる復活 (Before The Flood)
ボブ・ディラン (Bob Dylan) 自身の中で、その時その時に応じて、この楽曲に委ねるものが、どう変わっていったのか。歌詞そのものも変え、時にはメロディそのものも変えて唄う。だからそのアレンジが変わるのは当然なことだ。
それらを採り上げて、ひとつひとつ検証するには、あまりに英語力が乏しく、それ以上に、ボブ・ディラン (Bob Dylan) を知らなさすぎる。
だから、ここでは有名なカヴァー・ヴァージョンを採り上げて、この楽曲の変遷を聴いてみたいと想う。
ひとりの人間の死をモノローグとして唄う、その手法は、歌そのものを歌唱する人物が生者である限り、それは大袈裟な表現をすれば「死を想え / メメント・モリ (Memento mori) 」となる。
だから、この楽曲のアプローチは、唄う己自身の死[と生]に向かうか、他者のそれに向かうのか、いずれかにならざるを得ない。
死者は死を唄えないし、唄う必要すらないだろう。
多分、僕がこの楽曲を意識した最初のヴァージョンがガンズ・アンド・ローゼズ (Guns N' Roses) によるカヴァー。1991年発表の『ユーズ・ユア・イリュージョン II (Use Your Illusion II)
蛇足を承知で書けば、同時代にシーンに登場し、多大な評価と過大な絶賛を受け止められずに逝ってしまったカート・コバーン (Kurt Cobain) には、この曲は相応しくないのだ。
だから、多分にここで唄われる死は、リアリズム (Realism) よりもロマンティシズム (Romanticism) の方が要求されるのかも知れない。
となるとこの人。
と言えば、誤解を招くかも知れないけれども、ゴッズ・オヴ・ゴス (The Gods Of Goth) ことシスターズ・オブ・マーシー (The Sisters of Mercy) によるカヴァー。
「死を想え / メメント・モリ (Memento mori) 」というよりも死と戯れろとでも言いたげな不適なカヴァーが個人的には好みだったりする。
そして、ウォーレン・ジヴォン (Warren Zevon) の場合は、あまりに哀しい。己が中皮腫 (Mesothelioma)を罹病している事が発覚、その後に制作に入るアルバム『ザ・ウインド (The Wind)
上に掲載した画像は、その彼の制作時の模様がわかるものである。
ところで、いくつか楽曲を調べてゆくと、少なからぬレゲエ (Reggae) 調のカヴァーが眼を引く。オリジナル・ヴァージョンがアコースティック弾語りなだけに、いぢりやすいと言えばそれまでだけれども、それには理由がある。
ボブ・マーリー (Bob Marley) が採り上げているからなのだ。恐らくこの楽曲のアンサー・ソングとして書かれたのが、撃った側の視点で書かれた「アイ・ショット・ザ・シェリフ (I Shot The Sheriff)」なのだろう。
ここでは、ボブ・マーリー (Bob Marley) へのトリビュート・カヴァーと同時に、エリック・クラプトン (Eric Clapton) によるカヴァー[彼は「アイ・ショット・ザ・シェリフ (I Shot The Sheriff) 」もカヴァーしている]と、ブライアン・フェリー (Bryan Ferry) のカヴァーを掲載する。
以後、後編に続く。
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