2022.05.15.07.53
"THE COMPLETE RECORDINGS" by ROBERT JOHNSON

本作発表の情報がながれた当時、ある先輩がすさまじく動揺したのだ。
「だって、これしかないんだよ」と。
ぼくが本作を購入した動機のもっともおおきなモノがこの発言である。
音楽に関する趣味嗜好は、ぼくのそれとはかなり違う。おたがいがおなじモノを聴いていると謂う事はあまりない。仮に聴いたとしても、そこから受ける感銘はおろか、それぞれのむける関心の矛先が違う。比喩として妥当なのか否かは解らないけれども、例えば、ある美術作品の構図を評価するのか、色彩を評価するのか、と謂う様な観点の違い、それに近いモノが彼の音楽とぼくの音楽とにはある。
だから、殆どの場合、お互いに、個々の感興には関心を払わない。へぇ、そうなんだ、その一言で終わりである。
でも何故だか、本作に関しての彼のその動揺は無視出来ないモノがあったのだ。
そして、それはいまでも何故だか解らない。
本作に解説文を寄せた、エリック・クラプトン (Eric Clapton) やキース・リチャーズ (Keith Richards) の原点である事は解る。いや、もしかすると、彼等が自身の原典として演奏したマディ・ウォーターズ (Muddy Waters) やハウリン・ウルフ (Howlin' Wolf) [ここに例示する彼等2人が最適解かどうかは自信はない、もっと相応しい人物があると謂う気がする] にとっても原点なのかもしれない。
それが本作を聴こうとした理由のひとつなのかもしれない。
そして、勿論「これしかないんだよ」もそれに拍車をかけるモノのひとつなのだろう。何故ならば、仮に、本作が彼の歌唱と演奏の、その代表的なモノだけを収録した商品であるのならば、必ずしも本作に拘泥する理由はないのだから。
後に続々と発売されるであろう、オリジナル・フォーマットに基づいた諸作を待っていれば良いのである。
その総てを購入するも良し、その代表的な作品、画期的な作品だけを選んで購入しても良い事なのだ。
[あるアーティストのボックス作品と謂うのは、丁寧な編集と豪華な装丁と封入ブックレットで好事家の購入欲をそそるモノではあるが、所詮はベスト・アルバムでしかない。殆どのアーティストの場合、その後に丁寧な編集と当時のパッケージを忠実に復刻した作品群が発売されるのである。だから、そんな商法を前提にて入門篇とそれを位置付けられるや如何が、その商品の購入判断基準となるのである。]
だから、彼にまつわる幾つもの伝説には、ぼくは殆ど関心を払わなかったのだ。
何故って、そこに謳われている内容が神 (God) に関するモノでない限り、それは悪魔 (Devil) の囁きに過ぎないのだから。
悲劇 (Tragedy) と喜劇 (Comedy) と謂う分類がある。それは本来は、全く違う意味をもつモノである。前者は神々 (Gods) の物語であり、後者は人々の物語である。そこに涙のあるや否や、笑いのあるや否やは、関与しない。
それを前提にすれば、神 (God) への愛もしくは神 (God) からの愛を題材としない限りは、歌と謂うモノは総て悪魔 (Devil) のモノである筈なのである。アダム (Adam) とイヴ (Eva) が目交うのは、悪魔 (Lucifer) が変身した蛇 (Serpent) に唆されて禁忌を犯した事に端を発するのだから。
つまり、ロバート・ジョンソン (Robert Johnson) は、悲哀や悲運を主題とした歌曲の作者であり歌唱者である、それだけなのだ。
そして、想うのはいつも、こんな事だ。
彼が創り、そして歌唱した個々の楽曲の遍歴に関してなのである。
エリック・クラプトン (Eric Clapton) が在籍していたクリーム (Cream)が演奏した楽曲『クロスロード (Crossroads)』 [アルバム『クリームの素晴らしき世界 (Wheels Of Fire)』 [1968年発表] と彼によるオリジナルの楽曲『クロス・ロード・ブルース ( Cross Road Blues)』 [1936年収録] との差異、キース・リチャーズ (Keith Richards) が在籍しているザ・ローリング・ストーンズ (The Rolling Stones) が演奏した『むなしき愛 (Love In Vain)』 [アルバム『レット・イット・ブリード (Let It Bleed)』 [1969年発表] と彼のオリジナルの楽曲『むなしい恋 (Love In Vain)』 [1937年収録] との差異である [勿論、おなじひとつの楽曲なので、同質のモノがみうけられない訳ではないが、それ以上に異質のモノの方が解りやすい]。
例えば、セカンドハンドソングス (Secondhandsongs)と謂うサイトで掲載されている個々の楽曲のカヴァーのリストを眺めると、前者は128ヴァージョン、後者は55ヴァージョンが掲載されている。そして、これだけではないだろう。クリーム (Cream) 版とザ・ローリング・ストーンズ (The Rolling Stones) 版はかなり早い時季のカヴァーである様に見受けられるが、ここにはリスト・アップされていないモノは果たして、どれ程あるのだろう。
この2曲だけをみても、そこにはおおきなながれやうねりを看てとる事が出来る。
その源泉が彼なのだ。
と、偉そうな物謂いをしてみても実際、本作を聴いている際は、ある種のモードにひたすらひたっているだけだ。
そして、それをヒトはブルース (Blues) と呼ぶのかもしれない。
ああ、やだやだ [そして、この感情をずっとひきずっていきていく]。
ものづくし (click in the world!) 235. :"THE COMPLETE RECORDINGS" by ROBERT JOHNSON

"THE COMPLETE RECORDINGS" by ROBERT JOHNSON
Disc One
1. KINDHEARTED WOMAN BLUES (2:49)
2. KINDHEARTED WOMAN BLUES (2:31)
3. I BELEVE I'LL DUST MY BROWN (2:56)
4. SWEET HOME CHICAGO (2:59)
5. RAMBLING ON MY MIND (2:51)
6. RAMBLING ON MY MIND (2:49)
7. WHEN YOU GOT A GOOD FRIEND (2:37)
8. WHEN YOU GOT A GOOD FRIEND (2:50)
9. COME ON IN MY KITCHEN (2:47)
10. COME ON IN MY KITCHEN (2:35)
11. TERRAPLANE BLUES (3:00)
12. PHONOGRAPH BLUES (2:37)
13. PHONOGRAPH BLUES (2:32)
14. 32-20 BLUES (2:51)
15. THEY'RE RED HOT (2:56)
16. DEAD SHRIMP BLUES (2:56)
17. CROSS ROAD BLUES (2:30)
18. CROSS ROAD BLUES (2:29)
19. WALKING BLUES (2:28)
20. LAST FAIR DEAL GONE DOWN (2:39)
- R.L. Johnson -
Disc Two
1. PREACHING BLUES (UP JUMPED THE DEVIL) (2:50)
2. IF I HAD POSSESSION OVER JUDGEMENT DAY (2:34)
3. STONES IN MY PASSWAY (2:27)
4. I'M A STEADY ROLLIN' MAN (2:35)
5. FROM FOUR TILL LATE (2:23)
6. HELLHOUND ON MY TRAIL (2:35)
7. HELLHOUND ON MY TRAIL (2:11)
8. LITTLE QUEEN OF SPREADS (2:15)
9. MALTED MILK (2:17)
10. DRUNKEN HEARTED MAN (2:24)
11. DRUNKEN HEARTED MAN (2:19)
12. ME AND THE DEVIL BLUES (2:37)
13. ME AND THE DEVIL BLUES (2:29)
14. STOP BREAKIN' DOWN BLUES (2:16)
15. STOP BREAKIN' DOWN BLUES (2:47)
16. TRAVELING RIVERSIDE BLUES (2:47)
17. HONEYMOON BLUES (2:16)
18. LOVE IN VAIN (2:28)
19. LOVE IN VAIIN (2:19)
20. MILKCOW'S CALF BLUES (2:14)
21. MILKCOW'S CALF BLUES (2:20)
- R.L. Johnson -
(C) 1990 CBS Records Inc. / (P) 1990 CBS Records Inc. / Manufactured by Columbia Records
通常ならば、アルバムジャケット掲載のクレジットをそのまま引用するのだが、本作のクレジットの一切は、ブックレットに掲載されており、そのブックレットを現在、手許にするのが困難である(押入奥深くにあるのだ)。
よって、以下のクレジットはこちらに掲載されているモノからそのまま引用したモノである。
Coordinator – Amy Herot, Gary Pacheco, Mike Berniker, Steve Berkowitz
Coordinator [Package] – Rosemary Mulligan, Tony Tiller
Design – John Berg
Engineer [Digital Restoration & Engineering] – Frank Abbey
Guitar, Vocals, Written-By – Robert Johnson
Liner Notes [Discovering Robert Johnson] – Eric Clapton
Liner Notes [Well, This Is It] – Keith Richards
Mastered By [Lps Mastered By] – Vlado Meller
Producer – Don Law
Producer [Roots 'n' Blues] – Lawrence Cohn
Reissue Producer – Frank Driggs
Reissue Producer, Liner Notes – Stephen LaVere
Tracks 1-01 to 1-13 rec. 23/11/1936 San Antonio Texas.
Tracks 1-14, 1-15 rec. 26/11/1936 San Antonio, Texas.
Tracks 1-16 to 2-02 rec. 27/11/1936 San Antonio, Texas.
Tracks 2-03 to 2--05 rec. 19/6/1937 Dallas, Texas.
Tracks 2-06 to 2-21 rec. 20/6/1937 Dallas, Texas.
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