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2022.04.19.08.44

ゆいしょうせつ

と謂う人物は、TV時代劇『江戸を斬る 梓右近隠密帳 (Edo O Kiru Seasin1)』[19731974TBS系列放映] で知った。
成田三樹夫 (Mikio Narita) が演じている。と、同時に、成田三樹夫 (Mikio Narita) と謂う俳優の存在を知ったのもこの番組、そこでのこの配役からである。
その番組は、徳川家光 (Tokugawa Iemitsu) [演;長谷川哲夫 (Tetsuo Hasegawa)] の異母兄弟 (Half-sibling)、梓右近 (Ukon Azusa) [演;竹脇無我 (Muga Takewaki)] の活躍を描くモノで、その敵役として彼が登場する。
物語は、由井正雪 (Yui Shosetsu) が企み企て、そして未遂に終わった慶安の変 (Keian Uprising) [1651年] を題材とするモノなのだ。

その番組を観ているぼくは物語のなかに、久能山 (Kuno Mt.) と謂う語句が登場して吃驚してしまう。
当時のぼくは、通学の行き帰り、その山を遥かに観ていたのである。大通りに架かる歩道橋 (Pedestrian Bridge) を渡る、天気がよければそこで富士山 (Mt. Fuji) が望める。その姿を背の左に受けて小学校 (Primary School) に向かえば、左正面にその山がみえていた筈だ。
なだらかな丘陵の様な稜線が続き、その中腹に立ち並ぶ建物は、国立大学 (National University) のそれである。そんな長閑な光景が不意に斬り落とされて、海になる。その断崖絶壁の様にみえるのが、その山だ。
春ともなれば、遠足 (Excursion) と称してそこまで学年全体でその麓、海岸まで歩いて行く。そして毎夏の様に、山と海の間をはしる街道は、豪雨によって、破損されてしまう。ああ、そうだ、初日の出 (The First Sunrise) を手早く拝むには申し分のない場所でもある。一度、その日と謂うべきかその前夜というべきか、級友を誘って自転車で出向いた事もある。
ぼくの家族単位で考えれば、そこは毎年の春の初め、苺狩り (Strawberry Picking) に出向く場所でもある。いつもならば、それでその日の行楽行事は終わりとなるが、ある年、その山にある久能山東照宮 (Kuno-zan Toshogu) に参拝し、その結果、当然の如く、ほうほうの体となる。そこへ到達するには、全1159段の階段を登坂せねばならないからだ。その数を語呂合わせで"いちいちごくろうさん (For Yore Each Steps, Appreciate yYur Efforts)"と謂う。

そんな山がその番組の中に登場する。
由井正雪 (Yui Shosetsu) の策謀は、彼と彼の配下がそこを占拠しそこで武装蜂起する事によって江戸幕府 (Tokugawa Shogunate) の転覆を謀るのだと謂う。何故ならば、久能山東照宮 (Kuno-zan Toshogu)徳川家康 (Tokugawa Ieyasu) の霊廟 (Mausoleum) であるのだから、と。
そうして、その番組を通じて、ぼくはそこが日光東照宮 (Nikko Tosho-gu) と対等、もしくはそれ以上に重要な拠点だと知るのである。
と、同時に、由井正雪 (Yui Shosetsu) が江戸幕府 (Tokugawa Shogunate) 転覆を謀らねばならない理由、もしくはその口実が彼の配下達の主たるモノ達、浪人 (Ronin) と謂う存在にある事も知るのだ [尤もこれは、この番組を観た結果、彼と彼による謀反及びその未遂、慶安の変 (Keian Uprising) と謂うモノを知りたくなって、自宅にある児童用百科事典 (Encyclopedia For Kids) を繙いた結果である]。
当時、毎日どこかの局のどこかの時間に放映されていた時代劇 (Jidaigeki) のなかで、なんらかの形でその物語を彩る人物達、浪人 (Ronin) と謂う存在の実態、もしくは発祥の理由が、朧げながらみえてくるのである。

images
ところで、由井正雪 (Yui Shosetsu) はその姓に冠している由比 (Yui, Shizuoka) の出身だと謂う。彼の生家は健在で、正雪紺屋 (Shosetsu-Kouya : Shosetsu Dyer} と謂う [上掲画像はこちらから]。
そして、それ故に疑問におもうのは何故、当時の体制、江戸幕府 (Tokugawa Shogunate) の転覆を謀る人物の生家が健在で、しかも尚、それをそれを店舗として自ら謳っているのか [いられてきたのか]、と謂う点にある。
本来ならば、江戸幕府 (Tokugawa Shogunate) によって根絶やしになっていてもおかしくないし、そうでなくとも、それを秘匿して隠れて暮らさなければならなくても不思議ではない。

だから、どこかで、実態とは異なる虚像としての由井正雪 (Yui Shosetsu) が存在するのに違いない。
もしくは、反体制を掲げる、義賊の様な評価がいつの間にやら、成立したのかもしれない。
尤も、その逆も充分に考えられる。慶安の変 (Keian Uprising)、それは体制側、江戸幕府 (Tokugawa Shogunate) の視点にたったモノの認識だ。だから、江戸幕府 (Tokugawa Shogunate) の側からみた慶安の変 (Keian Uprising) とは全く異なるモノがその実態として存在したのかもしれないし、そしてそれ故に、民衆からは支持されていた、と謂う可能性がない訳でもない。
[ここの発想は単純に、石川五右衛門 (Ishikawa Goemon) や鼠小僧次郎吉 (Nezumi Kozo)、さもなければ赤穂浪士達 (Forty-seven Ronin)の、行動やそれに対するそれぞれの立場のモノの、対応と評価を前提としたモノである。]

そして、どうやらそれの裏付けとなるのが、『慶安太平記 (Keian taiheiki) 』と謂う書物であるらしい [歌舞伎 (Kabuki) の演目『樟紀流花見幕張 (Marubashi Chuya aka Keian Taiheiki』 [二代目河竹新七 (Kawatake Mokuami) 作 1870守田座 (Morita Theater) にて初演] はその翻案のひとつであるらしい] 、と謂うところまでが、現時点でのぼくの認識だ。
[もしかしたら、横山光輝 (Mitsuteru Yokoyama) 描く由井正雪 (Yui Shosetsu) と謂う存在を踏査すべきなのかもしれない。彼はその漫画家のふたつの作品、『伊賀の影丸 (Iga No Kagemaru - Yui Masayuki)』 [19611966週刊少年サンデー連載] とマンガ『時の行者 (Toki no Gyouja)』[19761979月刊少年マガジン連載] に登場しているのだ。]

ちなみに、そのTV番組放映時、一緒にその番組を観ていた父は、由井正雪 (Yui Shosetsu) の懐刀、丸橋忠弥 (Marubashi Chuya) [演:加東大介 (Daisuke Kato)] の行動にみいっていた様なのだ。もしかしたら、彼の中にある慶安の変 (Keian Uprising) に対する認識 [それは彼が少年時代にみたりきいたりした幾つもの物語によって育まれたモノであろう、そして、それはもしかすると『慶安太平記 (Keian taiheiki) 』の翻案なのかもしれない] では、由井正雪 (Yui Shosetsu) ではなくて丸橋忠弥 (Marubashi Chuya) の方が主役であるのかもしれない。
尚、そのTV番組では、やむにやまれぬ事情から、否応なく、由井正雪 (Yui Shosetsu) による謀反の片棒を担がざるを得ない様な人物として物語が紡がれている。
由井正雪 (Yui Shosetsu) が怜悧冷酷であり、おのれの野望の実現に一直線に向かっているのに対し、丸橋忠弥 (Marubashi Chuya) は温情派で常に紆余曲折ばかりしている。また、それぞれの役を演ずる2人の俳優の、容貌と体型もそれに応じている様にみえる。

成田三樹夫 (Mikio Narita) と謂う俳優が後に演ずる事になる烏丸少将文麿 (Ayamaro Karasumasu) [映画『柳生一族の陰謀 (Shogun's Samurai)』 [深作欣二 (Kinji Fukasaku) 監督作品 1978年制作] に登場] やロクセイア12世 (Rockseia XII) [宇宙からのメッセージ (Message From Space)』 [[深作欣二 (Kinji Fukasaku) 監督作品 1978年制作] に登場] も、ぼくの中では彼がその番組で演じた由井正雪 (Yui Shosetsu) の残照の様であるのに対し、加東大介 (Daisuke Kato) と謂う俳優が演じた丸橋忠弥 (Marubashi Chuya) は、後にぼくが観る事になる映画『七人の侍 ()』 [Seven Samurai』 [黒澤明 (Akira Kurosawa) 監督作品 1954年制作] で彼の演ずる七郎次 (Shichiroji) に直結している。丸橋忠弥 (Marubashi Chuya) が宝蔵院流槍術 (Hozoin-ryu) の達人である様に、七郎次 (Shichiroji) もまた槍術 (Sojutsu) の巧者なのであるから。

次回は「」。

附記:
TV時代劇『江戸を斬る 梓右近隠密帳 (Edo O Kiru Seasin1)』には、大久保彦左衛門 (Okubo Hikozaemon) [演:片岡千惠藏 (Chiezo Kataoka) と一心太助 (Isshin Tasuke) [演:松山省二 (Seiji Matsuyama)] が登場する。彼等2人は、その番組の数年前に放映されたTV時代劇『彦左と一心太助 (Hikoza And Isshin Tasuke)』 [19691970TBS系列放映] で、ぼくには御馴染である [とは謂え、番組の内容は殆ど憶えていない、僅かに番組冒頭のタイトルバックが朧げながら浮かぶばかりである]。その番組での2人は、前者を進藤英太郎 (Eitaro Shindo) が、後者を山田太郎 (Taro Yamada) が演じている。
また、ぼくがこれまでに体験した時代劇 (Jidaigeki) では、慶安 (Keian) [16481652年] と謂う時代を舞台とした作品は、この2作品だけであり、後者は、そこで彼を演じた2俳優でしか知り得ていない。
尚、前者である大久保彦左衛門 (Okubo Hikozaemon) は毎春開催される静岡まつり (Shizuoka Festival)の一環である大御所花見行列 (Hanami Parade) の中で、その行列の1行のひとりとして登場する。白髪の老武士が、盥 (Washtub) を駕籠 (Kago) にして担がれていくのである。
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