2022.04.17.08.04
『日本の笑顔 (Nihon No Egao : Japanese Smile)』 by ヒカシュー (Hikashu)

購入した理由は、はっきりしている。
戸川純 (Jun Togawa) が表題曲に参加しているからだ。作品自体には彼女の名前は一切ないが作品発表時、彼女の参加はどこでも謳われていた。
しかし、そうでなくとも、聴けば彼女の声だとすぐに解る。
解るが実際に彼女が登場するのはごく僅かなのである。
本作を購入した理由はもうひとつある。
彼等がレコード会社 (Major) の配給を離れ、活動の場を自主制作 (Independent) に移した事だ。
今後、どうするのだろう。そして、周囲はどうなるのだろう。そんな関心だ。
レコード会社 (Major) と自主制作 (Independent) という対立が、流動的になってきた、その象徴のひとつとして、本作をみていたと記憶している。
ちなみに、TV番組『三宅裕司のいかすバンド天国 (Yuji Miyake's The Heaven For The Coolest Bands)』 [1989〜1990年 TBS系列放映] とそれに引導を渡されるかたちで始まるバンド・ブーム (Bands Boom) によって、レコード会社 (Major) と自主制作 (Independent) と謂う2項の意義はさらに異なるモノとなる。


ヒカシュー (Hikashu) と謂う存在は、初登場時から知っている。
彼等のデヴュー曲『20世紀の終りに (At The End Of The 20th. Century)』 [1979年発表 アルバム『ヒカシュー / Hikashu』 [1980年発表] 収録] は、その語感からして奇妙に印象に遺る。当時の彼等の衣装がその印象に拍車をかける。東京オリンピック1964 (1964 Summer Olympics) 1964年開催] の開会式 (Opening Ceremony)、そこに登場した日本人選手団 (Japanese Team) の衣装そのままなのである。1979年に、1999年を主題とする楽曲を演奏する人物達が1964年の扮装をしているのだ。
デヴュー当時、彼等はテクノ御三家 (The Big Three In Techno Pop) と称され、その一翼を担っていた。遺りの2バンドは、プラスチックス (Plastics) とピー・モデル (P-Model) である。
だが、そのみっつのバンドのうち、彼等はテクノポップ (Techno Pop) から最も遠い位置にあるとおもう [当時もそうおもったし、今でもそうおもう]。
彼等がそう看做されていたのは単に、当時の楽器編成上の事だけの様におもう。ドラマー (Drummer) が不在、リズム・ボックス (Drum Machine) がそれに代わる、その上でキーボード (Keybords) 〜シンセサイザー (Synthesizer) 担当がふたりもいる。それ故に、テクノポップ (Techno Pop) とされていた。
デヴュー時の楽曲名と衣装から、コミカルな印象がぼくにはあった。
しかも、テクノポップ (Techno Pop) と看做されている。その定義は最先端と謂う心象よりもギャグ的な何かを抱かされてしまう。それは江口寿史 (Hisashi Eguchi) のせいかもしれない。彼は、マンガ『すすめ!! パイレーツ (Susume!! Pirates : Forward March! Pirates)』 [江口寿史 (Hisashi Eguchi) 作 1977~1980年 週刊少年ジャンプ連載] の後期に於いて、何度となくテクノポップ (Techno Pop) 的意匠をネタのひとつとして流用させていたのだ。だからこそ、より一般的に認知されていったのかもしれない。第一に、テクノ御三家 (The Big Three In Techno Pop) と謂う命名自体が、まさにギャグである。


そんなぼくの印象をひっくり返したのが、楽曲『パイク (Paik)』[1980年発表] アルバム『夏 (Summer)』 [1980年発表] 収録] だ。あるTV番組で演奏を観た。その曲を歌う巻上公一 (Koichi Makigami) はずっと正面をみすえ続け、その表情だけで既に怖い。そして、その楽曲の主題たる"パイク (Paik)"があまりに得体もしれない。しれないまま、それが都市を疾走する、その情景だけが歌われているのだ。
今のぼくならば、"パイク (Paik)"とは白南準 (Nam June Paik) の事だろう。そう、解ったふりをして解決させてしまうのだが。しかし、それでこの楽曲の正体不明さ、得体のしれなさが消失する訳ではない。


彼等のアルバムを購入したのは第3作『うわさの人類 (Uwasa No Jinrui : A Humankind In Getting Wind)』 [1981年発表] である。
専属のドラマーとして泉水敏郎 (Toshiro Sensui) が加入した。
作品の主題は映画『怪物團 (Freaks)』 [トッド・ブラウニング (Tod Browning) 監督作品 1932年制作]、すなわち畸型 (Freak) である。それを解りやすいかたちで描き出しているのが、太田螢一 (Keiichi Oota) によるジャケットワークである。
ちなみにその映画はこの作品を通じて、知った。
この作品発表を受けて、その映画を紹介、解説する単行本も発売されたと記憶している。
その結果だろうか、その映画の粗筋は勿論、登場人物達のスティル写真も何度となくめにした [ぼくが雑誌『夜想 (Yaso)』 [1978~1998年 ペヨトル工房 (Atelier Peyotl) 刊行] のバックナンバーである『怪物・奇形 (Monster And Freak)』 [1988年刊行] 号を購入したのは、少なくともこの作品の影響だ]。
だけれども、いまだにその映画自体は観ていない。素直に告白すれば、スティル写真等でみしったあの身体が蠢く、そうおもうだけで怖いのだ。


彼等のその作品を購入したのは、その作品と本作だけである。
ぼくの部屋には"20世紀の終りに (At The End Of The 20th. Century)"に発表された彼等の作品がいくつもあるが、これは友人等の提供によるモノである。
彼等自身の作品よりも、井上誠 (Makoto Inoue) の3部作『ゴジラ伝説 (Godzilla Legend)』 [1983~1984年発表] や、巻上公一 (Koichi Makigami) のソロ第2作『殺しのブルース (Blues To Kill)』 [1992年発表] ばかりを聴いている。ばかりを聴いていると綴ったが、後者はある人物に貸与したまんま、いつまでたっても返却されない。だから、早く返してください。
余談であった。話をもとに戻す。
そちら、そちらと謂うのは3部作やソロ第2作であるが、そのそちらの方が、ヒカシュー (Hikashu) 本体よりも安心して聴いていられる。やりたいこと、いいたいことが明確だからだ。
ヒカシュー (Hikashu) の、と謂うか、そこでの巻上公一 (Koichi Makigami) のむける視線のその指し示すモノが、おそらくぼくは怖いのだろう。楽曲『パイク (Paik)』の時と同じだ。
本作表題曲には、嗤うモノと嗤われるモノ、ふたつの視線がうたわれている。そしてそこでふたつの存在をきりむすぶものが「日本の笑顔 (Japanese Smiles) 」なのだ。それはもしかすると、アルバム『うわさの人類 (Uwasa No Jinrui : A Humankind In Getting Wind)』に通底するモノなのかもしれない。
井上誠 (Makoto Inoue) 作曲のその表題曲には、随所に伊福部昭 (Akira Ifukube) 的な旋律が登場する [後に平成ゴジラシリーズ (Godzilla In The Heisei Era) [1984~1995年 全7作] を誘導する事になる、ゴジラ・リヴァイヴァル (Godzilla Revival) は、彼とヒカシュー (Hikashu) の存在を抜きにして考える事は出来ない筈だ]。
その事は現在のぼくならば、あまりに明快な事象なのだが、作品購入時には決して見抜けなかった事だ。
おそらく、戸川純 (Jun Togawa) の声ばかりを聴いていたからであろう [ちなみに彼女は、井上誠 (Makoto Inoue) 3部作の第1作『ゴジラ伝説 (Godzilla Legend)』 1983年発表] の楽曲『聖なる泉〜モスラの旅立ち:From The Holy Spring〜The Departure Of Mothra』に於いて、小美人 (The Shobijin : Small Beauties) として歌唱している]。
とは謂うモノの、本作のヴィジュアルが海岸に佇む彼等である、その理由はいまだに解らない。収録曲に『波 (Wave)』がある、それだけの理由なのだろうか。
ものづくし (click in the world!) 234. :『日本の笑顔 (Nihon No Egao : Japanese Smile)』 by ヒカシュー (Hikashu)

『日本の笑顔 (Nihon No Egao : Japanese Smile)』 by ヒカシュー (Hikashu)
Spinoza LABEL 45 RPM. STEREO
Side A
1. 日本の笑顔 5'57"
巻上公一 作詞 / 井上誠 作曲
2. キリンという名のCafe 3'53"
巻上公一 作詞 / 海琳正道 作曲
Side B
1. 波 2'47"
巻上公一 作詞 / 海琳正道 作曲
2. 太陽と水すまし 3'32"
巻上公一 作詞 / 坂出雅海 作曲
《ヒカシュー》
巻上公一 MAKIGAMI Koichi / 海琳正道 MITAMA, Masamichi / 井上誠 INOUE, Makoto / 坂出雅海 SAKAIDE, Masami
問い合せ先 スピノザミュージック
ファンクラブ 劇団ワンダーランド内 ヒカシューFC
R-960038 (P) '84 SPINOZA LABEL / MADE IN JAPAN STEREO ¥1,600 SZ ホ8401
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