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2022.04.05.08.38

かば

そう、よばれていた女性をぼくはふたり、しっている。
当人達からみれば、傍迷惑かぎりないことをこれから綴るかもしれない。
それと同時に、ここに登場する女性とは、もしかするとわたしの事ぢゃないかしらと勘繰る人もいるかしれない。
まぁ、どっちでもいい。
今更になってこんなたわけた話をする必要もないぢゃないとか、こんなおもわせそぶりな文章を綴ってなにを考えていやがるんだとか、文句のひとつでもふたつの抗議でもいい、そんなものがあるのならば、ぼく宛に連絡をいれてくれ。
もう、随分とむかしの事ぢゃないか、おたがいのその後の事でも、暴きあおうぢゃないか。

ひとりは中学校 (Junior High School) 時代の同級生である。
彼女がそう呼ばれたのは、その容姿や顔貌よりも前に、苗字の方にあった。Kと謂う。だから、その呼び名は暗に彼女を指し示す符牒の様であり、かげでこそこそと [特に男子の間で] 交わされる言葉だった。とは謂っても、彼女自身に向けて、直接、その呼称が発せられるときがない訳ではない。つまり、悪態 (Abuse) 、罵詈雑言 (F-word) の類いと共に、悪様に彼女を非難、批判する際のモノで、それを発した途端に、ぼく達 {つまり男子達} は女性陣に難詰されるのである。「ちょっと男子ぃ、そんなひどいこといわなくてもいいぢゃない!」と。
だからと謂って、その彼女の呼び名が封印されるでもなく、なんとなく、流通してしまっているのは、その命名理由が彼女の容姿、顔貌に起因するのではない、そんな言い訳ぢみた理由があるからであった。

彼女とぼくとの間に、特に記するべき事件や出来事があった訳ではない。3年間の中学校 (Junior High School) 生活のうち、同じクラスだったのは1年だけだ。ただ、その1年の間に、同じ班に所属していた、つまり教室内での座席が近かったから、他の女性陣よりは、近しかったのかもしれない [だけれども、休み時間中にたわいもない無駄話をしていたのは他の女生徒達だ]。そして、それ故に、班単位での集まりの為に、彼女の自宅に他の数名と訪れた事がある程度だ。
つまり、拙稿の題名が上の通りでなかったら、決して憶い出す様な女性徒でもない。当時のぼくを知るモノならばきっと、こう謂うんだろう。もっと他にいるでしょう、綴るべき女は、と。

とは謂うモノの時折、彼女の容姿や顔貌が想起されない訳ではない。
と、謂うのは、当時の彼女の肌は浅黒く、そしてヴォリュームのある黒髪がゆったりとカーヴを描いていたからだ。そして、その下にあるのは切長の濃いまつ毛と厚みのある唇であって、人種と時代こそ違え、リズム・アンド・ブルース (Rhythm And Blues) の女性コーラス・グループ (Girl Group) の一員であっても不思議ではない様な雰囲気があったからだ。そして卒業後、中学生 (Junior High School Student) と謂う中途半端な時代相応の中途半端な肉体の時代を卒えた暁きには、おもいもよらない美しさを獲得しているかもなぁともおもえてしまうのである。
だが、それは今だからこそ謂える事であって、当時はそんな理想化した姿体を彼女の肉体に投影する筈もなかった。やはり、その点、そう彼女が呼ばれざるを得ない容姿であったのも否定出来ない事実なのである。
だからこそ、おもうのだ。すっげえ美人になっていたらどうしたらよいんだろうって。

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From the cover of the Illustration Book "Otomo Katsuhiro Art Work Kaba" 1989 by Katsuhiro Otomo

もうひとりは高校 (High School) 時代の同級生である。
ぼくが通っていた高校 (High School) の学習内容は、2年次 (Second Grader) から文系 (Humanities) と理系 (Sciences) に別れる。それ故に、1年次 (First Grader) から2年次 (Second Grader) にあがる際に、クラス替えが行われる。
そして同級となったのが彼女だ。Tと謂う。そして、その際に既に本名とは別に、その呼び名が流通しているのである。しかも、Kの場合と異なり、その呼び名は女生徒同士にも浸透していて、否、彼女達の方が率先して起用していて、しかも彼女達は彼女を直接その呼び名で呼ぶのだ [呼び捨てではなくて、"〜さん / - san"と謂う敬称 (Honorific) がつく]。だから、初めて同級となったぼくを含める男子達も遠慮なく、彼女を敬称 (Honorific) 付きのその名で呼ぶし、呼べるのである。
彼女自身がその呼び名をどの様に理解し、そしてどう克服していったのかは、ぼくには全く解らない。解る必要もない。現在と違って当時は、いじめ (Bullying) にもハラスメント (Harassment) にも寛容な時代だ。と、謂うかそんな認識すらない昔の話だ。
もしかしたら、その呼び名は、高校 (High School) 入学前に定着していたのかもしれない。つまり、それだけ、彼女の容姿や顔貌がそう呼ばしむる様なかおかたちをしていたと、謂う訳なのである。

高校 (High School) 生活時代での彼女に関しては、殆ど憶えていない。少なくとも、休み時間でふざけあう様な集団の一員ではなかったのだろう。
だけれども、高校 (High School) 卒業後、彼女に関しては次の様な逸話が、ぼくにはある。

卒業して数年後、ある年の夏休み (Summer Vacation) のある日の事だ。東京 (Tokyo) から帰省していたぼくはその日、Mと一緒にこの街 (Hometown) 唯一の繁華街 (Downtown) を歩いていた。Mは、高校時代の同級生だが、当時は殆ど、交流はなかった。それが、ぼくがひとより1年遅れて大学 (University) 入学が決定した3月のある日、街中で偶然に彼女と遭遇したのだ。そして、それ以来の仲なのである。
忘れた頃に彼女から手紙が来る。それにいそいそとぼくが返信する。そして、また ...、そんなつきあいだ。
学校が長期休暇になる度に、なんとなくあう。Mと謂う存在がなければ、ぼくは帰省しなかっただろう。だからといって、あってなにするでもない。手紙のやりとりをそのまま直接、発しあうだけの様な関係だ。それでもそんなかたちでつづいていたのは、たまにしかあわないからだろう、そして普段はとおくはなれているからだ。きのおけない、きをおく必要のない関係なのだ。
そんなMと一緒にあるいていたその日、ぼく達はTと再会するのだ。

ちなみに、当時は2人のいくところいくところ、だれかしらかつての同級生、さもなければかつての同窓生に出逢った。彼等の殆どが、地元の学校に通う [Mもそのひとりだ]。そして、そうでなくとも、年に何度かある長期休暇には、他地域にでていったモノ達が帰省する [ぼくもそのひとりなのだろうか]。そしてその上、ちいさな (Hometown) だ。行くべきところは限られているし、その行った先でアルバイトに勤しむモノ達がいないではない。買い物に入ったところのレジには、そんな彼等のだれかがいるし、暑さ寒ささもなければ飢えをのがれてはいったところではそんな彼等のだれかが給仕している。そして大概、驚かれる。なんでおまえがあいつと、さもなければ、なんであなたがあのひとと、と。双方もしくはその片方の高校 (High School) を知るモノ達からみれば、このふたりはとても奇妙な組み合わせなのだろう。
だから、まぁ、そんな訳で、ぼくとMがTとそんなところで再会したところで、ぼく達は驚く必要もない。

だけれども、ぼく達が驚いたのは別の理由があるからだ。
彼女曰く、恋人と待ち合わせだと謂う。その言葉にぼくとMはみあわす。お互いがお互いともTからそんな語句が登場するとはおもいもよらなかった、そんな風情である。
尤も、Tこそくちにはださないが、ぼく達ふたりが一緒にいる光景は不思議以外のなにものでもないのかもしれないが、そんなそぶりは決して顕さない。

そして、それ以上にぼく達が驚かされたのは、Tのくちぶりとそれにあわせてかもしだされる独特の雰囲気だ。
それは一言で謂えば、姐さん。とても同学年、同年齢とはおもえない。随分と大人びた口調だ。第一に自身の恋人の事を"あのひと"と謂う。
その上で彼女の着こなしもまた大人びたモノなのだ。実年齢よりも背伸びをしている、と謂うのではない。それがそのまま似合ってしまっている。つまりふけているのだ。
時代の流行、当時の風潮とは隔絶した感のある、ある種の普遍性、と謂えば褒めている事になるのだろうが、その実、謂い顕したいモノはもっと下卑たモノだ。
なんだか、場末 (Sketchy) のジャズ・シンガー (Jazz Singer) の様な佇まいなのである。
そんな感慨をもって彼女の話を聴いているうちに、警笛 (Vehicle Horn) が鳴る。
それが彼女の"あのひと"からの合図だった。Tは、ぼく達への挨拶もそこそこに、一目散にその音の方向へと駆け出す。

彼女の向かうその先、"あのひと"の乗る黒塗りのくるまを認めて、再びぼく達は互いにみあわせたのだ。
そして、こうつぶやくでもなくつぶやくのだった。

「おれたちって、まじめだよな」と。

次回は「」。
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