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2022.03.20.08.03

『ソングス (SONGS)』 by ジョン・グリーヴス (JOHN GREAVES)

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かつて発表した自作曲を、その歌詞並びに旋律に重きを置いて、再構築した作品。
だからこその作品名。
それ故に、収録楽曲の自身を除く4名の歌唱者名 [ロバート・ワイアット (Robert Wyatt)、サンジュ (S'Ange)、カロリーヌ・ローブ (Caroline Loeb)、クリストファー・ブレグヴァド (Kristoffer Blegvad)] をおおきく表示してある。
勿論、ジョン・グリーヴス (John Greaves) 自身も歌唱する。
また、本作の主人公ジョン・グリーヴス (John Greaves) には、ピーター・ブレグヴァド (Peter Blegvad) との共同名義の作品も多く、結果的に、本作収録楽曲には彼が作詞を手掛けた楽曲が多くなる。さながら、彼のソング・ブック (Song Book) と謂う趣きも濃厚だ [しかしながら、ピーター・ブレグヴァド (Peter Blegvad) 自身は、本作未参加である]。

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作品名から想い起こされるのは、ヘンリー・カウ (Henry Cow) とスラップ・ハッピー (Slapp Happy) が共同名義で発表した2作品 [アルバム『悲しみのヨーロッパ (Desperate Straights)』 [1975年発表] とアルバム『傾向賛美 (In Praise Of Learning)』 [1975年発表]] と、その後に起こったこの2組の解体と拡散の歴史である。
尤も、本作を体験する以前に、ぼく自身がジョン・グリーヴス (John Greaves) と謂う音楽家を知ったのが、その2作品からなのだ。それを理由に本作について綴り出すのは、半ば自明、そして半ば怠慢な手法である。
しかしながら、この2者が連合した原因も、この2者が崩壊した結果も、言葉 / 歌詞 / 歌唱とその表現主体である歌唱者にある。それを前提に彼等の歴程をみると、本作名『ソングス (Songs)』と謂う語句に、多くの意味を込めて解読したくもなるのである。

ヘンリー・カウ (Henry Cow) とスラップ・ハッピー (Slapp Happy) が共同名義作品を制作しようとした本当の動機、そしてそれを誘導したモノはなんなのか、ぼくには解らない。当時は同じレーベル、ヴァージン・レコード (Virgin Records) に属していたから、と謂うそれだけの理由なのかもしれない。
否、それよりもなによりも、音楽に於ける言葉 / 歌詞 / 歌唱を人体の頭部になぞらえる事ができれば、それに付随する演奏は、それ以外の身体であると看做す事が出来る。
ヘンリー・カウ (Henry Cow) には身体があるモノの頭部がなく、スラップ・ハッピー (Slapp Happy) には頭部はあるモノの身体がなかった。それ故の相思相愛、それ故の蜜月と謂えなくもないだろう。

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前者に属する個々の音楽家は誰も優れた演奏力と秀でた表現力を兼ね備えていた。既に、2作品 [第1作『伝説 (Legend)』 [1973年発表] と第2作『不安 (Unrest)』 [1974年発表]] を発表している。それだけではない。音楽上の、そして音楽以外の主張や主義も、技術以上に [もしくは技術以前に] 備えていたのである。それらをより明確に具体的に呈示するに為に、言葉 / 歌詞 / 歌唱と謂う手法をより強度にする必定があったと看做すのも、無理な視点ではないだろう。

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後者にも、高度にしてかつ時に難解にも思える理念や発想がある。しかし、それを具現化する為の存在は、謂ってしまえばダグマー・クラウゼ (Dagmar Krause) と謂う女声とピーター・ブレグヴァド (Peter Blegvad) と謂う男声しかない。彼等には既に、言葉 / 歌詞 / 歌唱はあるモノの、それに実体を与えるモノが欠けていたのだ。ヘンリー・カウ (Henry Cow) との融合以前に制作された3作品 [第1作『ソート・オヴ (Sort Of)』 [1974年発表] と当時は未発表になった第2作『スラップハッピィ・オア・スラップハッピィ [アクナルバサック・ヌーン] (Acnalbasac Noom)』 [1980年発表] はファウスト (Faust) が参加し、その未発表作を"解りやすく"翻案した第3作『カサブランカ・ムーン (Casablanca Moon)』 [1975年発表 本作に関しては大昔にこちらで記述している] はスタジオ・ミュージシャンを起用している] は外部の人材を起用したモノである。仮にその後も、自身の単独名義作を制作し続けるには、同様の方法論が必要だったのだ。

その結果としての2作品なのである。
しかし、それが為に、この両者に所属する個々人に於いての、言葉 / 歌詞 / 歌唱に関する見解の相違が明瞭になってしまう。
それぞれが欲したモノ、そしてそれを獲得出来た事それ自体が、その終焉の理由となってしまったのだ。

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最初に離脱したのは、アンソニー・ムーア (Anthony Moore) だ。何故なのだろう、とぼくは考える。彼こそ最も、音楽に於ける身体を必要としていた筈なのに、と考えるからだ。彼にとっては、頭部でしかないスラップ・ハッピー (Slapp Happy) 自身も肉体であった筈だ。彼からみれば、それに属する2人、ダグマー・クラウゼ (Dagmar Krause) もピーター・ブレグヴァド (Peter Blegvad) も、言葉 / 歌詞 / 歌唱に実体を与える歌唱者であるのだから。
と、同時に、彼がスラップ・ハッピー (Slapp Happy) 結成以前に発表した、彼名義の3作品 [第1作『『ピーシズ・フロム・ザ・クラウドランド・ボールルーム (Pieces From The Cloudland Ballroom)』 [1971年発表] と第2作『リード・ウィッスル・アンド・スティックス (Reed Whistle And Sticks)』 [1972年発表] そして第3作『シークレッツ・オヴ・ザ・ブルー・バグ (Secrets Of The Blue Bag)』 [1972年発表]] について考える。そしてこう思う。彼にとって必要なのは、既存の音楽の存立基盤を危うくさせる事なのではないだろうか、と。そして、その成果は聴者であるぼく達にとっては、音楽の解体と同時に再構築にみえるのではないだろうか、と。
スラップ・ハッピー (Slapp Happy) は、ポップ・ミュージック (Pop Music) が基盤とするモノに疑義を主張し、そうではないポップ・ミュージック [オルタナティヴ・ポップ・ミュージック (Alternative Pop Music) ?] を呈示する為のモノではなかったのだろうか、と。
そして、それと同様の操作は、ヘンリー・カウ (Henry Cow) に於いては困難なモノではなかったのだろうか、と。何故ならば、ヘンリー・カウ (Henry Cow) 自身からみれば、スラップ・ハッピー (Slapp Happy) こそが異端の存在であり、それを咀嚼する事自体が難儀であった筈だ。恐らくアンソニー・ムーア (Anthony Moore) 自身にとってはそこからこそ始まるべき事が、ヘンリー・カウ (Henry Cow) にとってはそこで終るべきモノだったのではないだろうか。一言をもってして謂えば、ヘンリー・カウ (Henry Cow) はポップ・ミュージック (Pop Music) ですらなかったのだから。

アンソニー・ムーア (Anthony Moore) の離脱によって、遺されたモノ達には、さらに明確に言葉 / 歌詞 / 歌唱に関するその相違の存在が大きくなる。中でも、クリス・カトラー (Chris Cutler) とティム・ホジキンソン (Tim Hodgkinson) の対立となってそれは顕れる。そして、その矢面に立たされたのがピーター・ブレグヴァド (Peter Blegvad) だ。彼の存在が問題視されたのである。
ピーター・ブレグヴァド (Peter Blegvad) は、スラップ・ハッピー (Slapp Happy) に於いても異端の様な印象を受ける。スラップ・ハッピー (Slapp Happy) に於いては殆どの楽曲の歌唱はダグマー・クラウゼ (Dagmar Krause) が担当するモノの、彼が歌唱する楽曲がない訳でもない。その彼の歌唱楽曲が、変なのだ。世間一般の聴者からみれば、スラップ・ハッピー (Slapp Happy) も相当に変なのだろうが、その変にさらに拍車が加わる。それが彼の歌唱なのである [しかしある種の音楽に彼の歌唱をそのまま移行すれば、それが最も平凡にしてかつ通常のモノに聴こえるのかもしれない]。
そんな存在の彼の歌唱をそのままヘンリー・カウ (Henry Cow) に移行させるとどうなるのか、そう考えてみればいい。
彼の歌唱、ただそれだけで、その音楽的基盤が揺るがされている様にも思える。ポップ・ミュージック (Pop Music) ではないヘンリー・カウ (Henry Cow) がよって立つその場所が、だ。
そして、それが故に、彼はそこから放擲されてしまうのである。

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結果、その後のヘンリー・カウ (Henry Cow) の言葉 / 歌詞 / 歌唱は、遺ったただひとり、ダグマー・クラウゼ (Dagmar Krause) が担う事となる。だがそれもほんの僅かな時間だ。彼女のいるヘンリー・カウ (Henry Cow) は、ライヴ・アルバム『コンサーツ (Concerts)』 [1976年発表] だけにしかない。

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その後、彼女による言葉 / 歌詞 / 歌唱を抽出する様な形で、アート・ベアーズ (Art Bears) [クリス・カトラー (Chris Cutler)、フレッド・フリス (Fred Frith) そしてダグマー・クラウゼ (Dagmar Krause) 在籍] は結成されて3作品 [第1作『ホープス・アンド・フィアーズ (Hopes And Fears)』 [1978年発表]、第2作『ウィンター・ソングス (Winter Songs)』 [1979年発表] そして第3作『ザ・ワールド・アズ・イット・イズ・トゥデイ (The World As It Is Today)』 [1981年発表]] を遺す。
興味深いのは、ダグマー・クラウゼ (Dagmar Krause) を除いた、クリス・カトラー (Chris Cutler) とフレッド・フリス (Fred Frith) の編成になると、ライヴ・アルバム『ライヴ・イン・プラグ・アンド・ワシントン (Live In Prague And Washington)』 [1983年発表] の様に完全な即興演奏になる点だ 。

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一方のヘンリー・カウ (Henry Cow) は器楽演奏のみで構築されたアルバム『ウェスタン・カルチャー (Western Culture)』 [1979年発表] の発表をもって終焉を迎える。
[余談ながら、ここまでの文面を粗雑に読むと、クリス・カトラー (Chris Cutler) とティム・ホジキンソン (Tim Hodgkinson) の対立軸の存在をもって、ここまでの事態を出来したと読めてもしまうが、両者はその後何度となく共演、共作を果たしている。後者のヘンリー・カウ (Henry Cow) 以降の最初のバンド、ザ・ワーク (The Work) の初来日公演 [1982年] には、その直前に脱退したドラマー、リック・ウィルソン (Rick Wilson) に代わり、前者が帯同していた。つまり、実際の内実はそんな簡単明瞭な物語ではない様だ。]

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そんな離合離散の物語の中に於いて、ジョン・グリーヴス (John Greaves) は、放逐されたピーター・ブレグヴァド (Peter Blegvad) と行動を共にする。彼等2名の共同名義作『キュー・ローン (Kew. Rhone)』は1977年発表に発表される。

その作品は、彼等がかつて所属したヘンリー・カウ (Henry Cow) 同様に、緻密に構成された楽曲だが、そこにある緊張感は適度なモノであるが故に、とても聴きやすい。スラップ・ハッピー (Slapp Happy) とヘンリー・カウ (Henry Cow) の融合と解離を経た後に発表された、それに参加した個々人の作品群の中では、最も聴きやすい作品なのかもしれない。しかも、その2者が試みた様々な方法論がそのまま援用されている様にも思える。敢えて謂えば、かつての残照が最も高密度な作品が、その作品であるのかもしれない。
[アルバムのヴィジュアルや、収録曲の言葉 / 歌詞 / 歌唱には、幾つもの謎が遺されていると謂われているが、その解読の機運は一向に訪れてくれない。とは謂え、それを等閑してもなんら問題は派生しない。]

本作には、その作品に収録された楽曲も再演されているが、そこでの編曲よりもさらに典雅な編曲がなされている様に思える。
そこで聴いた時よりも、ひとつの独立した楽曲としての存在感、印象がとても強いのだ。単純に嗚呼、いい曲だなぁとも思う。
ある意味に於いて、これはレイド・バック (Laid-back) である [だが、本作でもって初めてこの楽曲に接するモノにはとても厳格で緻密な構成ばかりがみえてしまうのかもしれない]。
と、同時に、すこし懐かしい。

だから、ヘンリー・カウ (Henry Cow) 云々、スラップ・ハッピー (Slapp Happy) 云々とは、隔絶したところで聴きたい作品なのである [でもそれがなければ、先ず絶対に本作には出逢えなかった筈なのだ]。

尚、序でに綴っておけば、拙稿の為に、ジョン・グリーヴス (John Greaves) の諸作ばかりを立て続けに聴いていたら、無性にアート・ベアーズ (Art Bears) を聴きたくなってしまった。もしかしたらぼくの中では言葉 / 歌詞 / 歌唱と謂う点に於いて、ジョン・グリーヴス (John Greaves) の音楽の対局にあるのが、アート・ベアーズ (Art Bears) なのかもしれない。

ものづくし (click in the world!) 233. :『ソングス (SONGS)』 by ジョン・グリーヴス (JOHN GREAVES)


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ソングス (SONGS)』 by ジョン・グリーヴス (JOHN GREAVES)

1. オールド・キンダーフック
 OLD KINDERHOOK
2. ザ・ソング
 THE SONG
3. スウェリング・ヴァレー
 SWELLING VALLEY
4. ザ・グリーン・ヒューズ
 THE GREEN FUSE
5. キュー・ローヌ
 KEW. RHONE.
6. エキセントリック・ウォーターズ
 ECCENTRIC WATERS
7. サイレンス
 SILENCE
8. ザ・プライス・ウィ・ペイ
 THE PRICE WE PAY
9. レーゾー・エクセン・トリーク
 L'AISE AUX EX-SANS-TRIQUE
10. バック・ホェア・ウィ・ビガン
 BACK WHERE WE BEGAN
11. ギーゲンスタンド
 GEGENSTAND
*日本盤ボーナス・トラック
12. ホワットエヴァー・ザット・イズ
 WHATEVER THAT IS

ヴォーカル:
ロバート・ワイアット
サンジュ、
キャロライン・ローブ
クリストファー・ブレグヴァド、
ジョン・グリーヴス

ぼくが所有している日本盤CDには、ジョン・グリーヴス (John Greaves) 、竹村のぶかず (Nobukazu Takemura) {チルズ・ヴュー (Child's View)] そして赤岩和美 (Kaz Akaiwa) による解説とアキヤマ・シスターズ・インク (Akiyama Sisters Inc.) による訳詞が封入されている。

Old Kinderhook (instrumental)
Music by John Greaves

The song
Music by John Greaves, words by Peter Blegvad.

Swelling valley
Music by John Greaves, words by Peter Blegvad.

The Green Fuse
Music by John Greaves words by Dylan Thomas.

Kew. Rhone.
Music by John Greaves, words by Peter Blegvad.

Eccentric waters
An opera in 3acts and 2 minutes
Music and words by John Greaves.

Silence
Music by John Greaves, words by Peter Blegvad.

The Price we pay
Music and words by John Greaves.

L'aise aux ex-sans-trique
Music and words by John Greaves.

Back where we began
Music by Sophia Domancich, Words by John Greaves.

Gargenstand
Music by John Greaves, words by Peter Blegvad.

Whatever that is
Music by John Greaves
Thank You Anthony Burgess

John Greaves SONGS
with
Robert Wyatt
S'Ange
Caroline Loeb
Kristoffer Blegvad
And
Sophia Domancich piano
Paul Rogers double bass
Francois Ovide acoustic guitars

Produced by John Greaves and Alain Cluzeau

And also
Elton Dean saxello
Mireille Bauer vibraphone
David Cunningham electric guitar
Peter Kimberley backing vocals
Benoit Blue Boy harmonica
John Greaves bass Guitar, accordion, piano
Robert Wyatt percussion

Recorded intermittently 1993 / 94 at Studio Acousti, Paris

Engineered by Alain Cluzeau, Emmanuel Payett.
Additional recording : Jean-marc Pinaud.
Mixed by Alain Cluzeau, John Greaves, Emmanuel Payet.
Robert Wyatt's vocals and percussion recorded by Alain Cluzeau, assisted by Ewan Davies at Chapel Studios, South Thoresby, England.

Thanks to Kika Nitschke, Manu, Axel, Reine at Acousti. Andy and Louise at Chapel. Laurent Le Diberder
, Karel Beer, Alain Queguiner, Sophie-Anne Delhomme and Christophe Brunnquell.


Interior photographs :
Mary Averty. Liz Findlayson. Stephanie Blegvad. Denis DarZacq. Alain Cluzeau.

Artwork : Saida Nait-Bouda, cover phoitography : Marie Averty

(P) & (C) Label Acousti
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